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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
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#137 オルベールの血筋

「……さて、久方ぶりの本格的な戦いとは。いやはや、年甲斐もなく胸の内が熱くなってまいりますなぁ。――フ……実に愉快」


「唯希、()りますよ。目についたものから全てを屠りなさい」


「――ッ、はい!」


 ジルがほっほっと楽しげに好々爺然として笑っていたかと思えば、好戦的に微笑みを浮かべ、普段は一番感情豊かなリュリュが冷たく冷徹な眼でルイナーを見下ろして淡々と呟き、僕以外にはあまり素直にならない唯希がそんなリュリュの言葉に背筋を伸ばして返事をする。


 ……なんかこう、色々思ってたのと違うね。

 てっきり僕はジルが冷静に状況を見つめてリュリュを落ち着かせて、リュリュが背筋を伸ばして答えて、唯希が殺意に目覚めると思ってたよ。

 なんだろうね、この入れ替わったかのような変化っぷりは。


 もしかしてオルベール家って戦いになると性格が変わる一族だったりするのだろうか、なんて思いながらルーミアに視線を送ると、ルーミアは静かに頷いた。


 ……アレイアも本気で戦うとなると性格変わったりするのか。

 ……そっか。

 どんな風に変わるのか見てみたいような、見るのが怖いような……。


 そんな事を僕が考えている内に、ジルとリュリュが影に潜り込んで先行し、二人に追いつくために唯希も向こうに向かって転移した。


 三人の魔力が現れたのは、ルイナーの上空。

 隠れるつもりなどないと、打ち砕いてやろうと言わんばかりに上空に現れた三人が頭を下にして自由落下に身を任せる中、ジルが先行するかのように膝を曲げ、結界を生み出し、それを蹴って速度を上げて先行する。


 それに追従したリュリュも同じように速度をあげて、唯希だけが上空からジルとリュリュが着地する地点に穴を空けるように上空から魔法を放ってルイナーを吹き飛ばしていった。

 殺すには足りないけれど、空間を生み出す事は充分にできたようだ。


 そうしてジルとリュリュが着地した、その瞬間。

 二人から放射状にぐんと影が地面を一瞬で黒く染め上げていくかと思えば、およそ高さにして五メートル程、幅は直系で三メートルはあろうかという円錐状の棘があちこちに向かって斜めに飛び出し、ルイナーを吹き飛ばし、突き刺し、蹂躙していく。


「……えぐいね」


「あの二人は特にそうよ。正直、アレイアの方がスマートだわ」


「スマート?」


「えぇ。アレイアの方が静かに殺すもの」


 はて、スマートとはなんだったかな。

 殺し屋としてのスマートさみたいなものじゃないかな、それ。

 それは静か過ぎて気付かれない暗殺者的な、そういうものでは? 気がつけば死んでいる、みたいな。


 アレイアが僕の中で一瞬にして凄腕暗殺者メイドというイメージに変わったところで、ルーミアがくすりと笑う。


「ジルってば、ずいぶんと張り切ってるみたいね」


「張り切ってるというか、ハッスルしてるね」


「あら、むしろあの姿こそジルらしいのよ?」


「ふーん……うん? 今なんて?」


「だから、ああやって破壊している時の方がいっそジルらしいのよ。あぁ、でもルオが知っているジルはそうでもないかもしれないわね」


「……うん、そだね」


 ジルの戦い方は簡単に言えば徒手空拳。

 発剄のように内部に衝撃を浸透させるような掌底と投げ技、関節破壊といった対人戦闘に特化したような戦い方で、足を踏み締めて手を当てただけだといのに何かが爆発したような音が鳴ってルイナーが吹き飛び、ぐしゃぐしゃに潰れているのが見える。


 迫るルイナーの腕を取り、その瞬間に関節を砕いて投げ飛ばし、他のルイナーにぶつける。ぶつかったルイナーとほぼ同速で間合いを詰めて、ぶつかったルイナー諸共あの発剄というか爆発みたいな一撃で破壊する。

 アグレッシブに突っ込んでいくものだから、ジルが突っ込んでは暴れてとやっている内にその周辺のルイナーが屠られ、また次の場所でも同じ事が起こる、というよな繰り返しになっている。


 そっかー、アレが素なんだー。

 ……知らないままで良かったかな。


 ただ、むしろ僕としてはあのジルよりもリュリュの方が印象が。

 というか、こう、名状し難いものがあるんだよね。


「ジルのあのハッスルぶりにも驚いたけれど、僕としてはむしろ、リュリュのアレの方が衝撃的かな……」


「……ねえ、ルオ」


「うん?」


「私の築いた国、ローンベルクがどうして大国だったのかって、あなたがいた時代に伝わっていたのかしら?」


「いや、知らないけど」


「……やっぱり(・・・・)、そうなのね」


 ルメリアみたいにローンベルクに興味があったり、そういう研究をしていた人ならば知っていたのかもしれないけれど、生憎、僕にはそういう興味はなかったんだよね。

 なので素直に知らないと告げてみたのだけれど、なんで急にそんな話になったんだろうか。


 疑問に思ってルーミアに視線を向けると、ルーミアは頭が痛いとでも言いたげにこめかみに指を当てて眉間に皺を寄せていた。


「どうしたの?」


「……あの子よ」


「ん? 何が?」


「ローンベルクが大国になった理由は大体が戦争の勝利だわ。でも、だいたい戦争の発端となった原因(・・)を作っていたのはあの子よ」


「……は?」


 戦争の発端となった原因を作っていた? リュリュが?


 向こうの世界で僕が生きていた時代より数十年程前に、国の王女様だとかが傾国の美姫とかで、その姫を望んで戦争を仕掛けてきて返り討ちになった、なんて話とかは師匠の家に転がり込んでいた頃に読んだ本に書いてあったりもしたけど。


 確かにリュリュは世間一般から見ても相当に顔もスタイルもいい女性ではある。

 普通に見た目的にもモテるだろうし、性格も普段は感情豊かで親しみやすい性格をしている事からも、なかなかにモテそうな要素が揃っている気もする。


 けど、あんまりピンとはこないんだけど。

 姫でもないし。


「あの子、私のためにって他国の特産品を直接狩りに行ったり、他国の守護獣が好物にしている食べ物を採取するために他国の神獣と殺し合ってきたり、私を馬鹿にした他国の貴族を晒し首にしたり、色々やり過ぎてあちこちに火種を放り込んでいたのよね」


「え、なにそれ」


「まあ、当時は国と呼ぶのも烏滸がましい程の小さな国とかも乱立していたし、そのせいであちこちの特権階級がやりたい放題やっている時代だったから、私たちとしても潰すつもりではあったのだけれど」


「……リュリュ、よくクビにしなかったね」


 普通に考えたら、他国に喧嘩を吹っ掛けるなんて厳罰ものだと思うんだけど。


「あの子は有能よ。ただちょっと倫理観というか、価値観が私と家族だけが大事で、それ以外は全てどうでもいい、というタイプなだけで。なら、私やジルが手綱を握ればいいだけの事だもの」


 なにそれこわい。

 というか、それって俗に言う狂信者というヤツではなかろうか。

 でも、そういう狂信者的なリュリュの行動理念が理解できているのならば、それはある意味予測が立つとも言える。

 それに、手綱を握ればいいって言ってるって事は、それらをコントロールしていた、とも考えられるよね。


「という事は、周辺の国との戦争の口実としてはちょうどいいと言えばちょうど良かったから、やりたいようにやらせていた、って事でもあるだろうし、なんなら「アレが食べたい」と言ってリュリュに行かせて、その結果どういう事が起こるのかを予測した上で送り出していた、なんて事もあったりする?」


「……えぇ、そうよ」


「やっぱり」


「とは言っても、そのせいでリュリュは一時、【破滅の予兆を齎す乙女】なんて呼ばれ方をして周辺国では怖がられていたわ。後世にまで伝わっていないなら、リュリュのあのおもし……んんっ、不名誉な呼び名は伝わっていないのね」


 今絶対面白いって言おうとしたよね、ルーミア。

 まあ……うん、その呼び方はなかなかに他人である僕らにとってみれば面白い。

 本人にとっては勘弁してほしいものだと思うけどね、中二病感が凄まじくて。


「ま、まあ、そういう訳だからあの子、基本的に戦う機会が多かったのよね」


「……だからあんなに瞬殺に特化してるんだね。早く帰りたかったから、とかだろうけど」


 さっきからリュリュはひたすら即殺に特化した戦いを繰り広げているのだ。

 騎士種は人型だからという理由で戦いやすいジルとはまた違った意味で、リュリュはただただ余計な攻撃、動作を含まず即座に首を斬り飛ばしている。

 どこから、どう襲われてもリュリュが攻撃するのはたったの一回。

 そのたったの一回で首を確実に斬り飛ばす、そんな戦い方を実現しているのである。


 ……唯希がリュリュに戦い方を教わるようにしたのは、失敗だったかもしれない。

 その光景を見て僕が抱いたのは、そんな感想であった。

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