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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
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#130 残る者、進む者 Ⅰ

 魔王城の中に足を踏み入れた私――火野 明日架――たちを待ち構えていたのは、騎士種と呼ばれる人型のルイナー達。

 幸いにも入ってすぐの場所は巨大なホールのようになっていて充分に戦えるスペースもあるけれど、左右、前方、そして前方の階段と、あちこちから増援のような形でやってくる騎士種の数はかなり多く、こちらを待ち受けるように身構えていた。


 警戒しながら立ち止まった私たちと、待ち構えるルイナー。

 奇妙な膠着状態が生まれ、動き出したらすぐに戦いが始まりそうだ。


「ここまでは前哨戦だった、というところでしょうか」


「そうですわね。ただ、これらがここに留まっているのなら僥倖というものではなくて? 騎士種のルイナーは、自惚れている訳ではありませんがわたくし達以外の魔法少女には荷が重い相手ですもの。地上にこれだけの数を放たれる前にわたくし達が辿り着いたと考えれば、悪い話ではありませんわよ」


 オウカさんが呟けば、それに対してフィーリスさんが余裕を見せるように答えた。


 私は騎士種のルイナーがどれだけの力を持っているかは分からないけれど、エルフィンさんが腕を斬り飛ばされ、苦戦したという話は聞いている。

 みんなも苦戦した相手で、これまでのルイナーとは違って戦い方がしっかりと確立している知恵のようなものがある、という話だっけ。


 それでも。

 華仙での戦いからまだ二週間しか経っていないというのに凄い余裕があるように見える。


 私もまた、この二週間を過ごしたからこそなんだか余裕があるというか……。


「ぶっちゃけ、フルールの方が怖かったし強かったからなー……」


「……それな」


 エレインちゃんがこの二週間を思い出すかのように呟けば、エルフィンさんが遠い目をしながら同意を示し、私たちの誰がと言わず、誰もが頷いた。


 ……この二週間に比べれば、騎士種のルイナーなんて、という気分にもなるのだろう。

 ぶっちゃけ私も、ルーミアさんに鍛えられている中でこれ以上はないってぐらいの修羅場をかいくぐってきたつもりだけど、この二週間は……すっごく大変だった。


 魔法少女フルールさんこと、『絶対』さん。

 一時期は『活動不明』となっていたけれど、葛之葉にルオくんと共に姿を現して以来、ルイナーを次々と倒していった人。

 凛とした佇まいと誰も寄せ付けないような孤高さを感じさせる空気というか、近寄り難い空気を放っていたけれど、そんな彼女が今回、私たちに【精霊同化】という方法を教えてくれた。


 あの人が教えてくれた【精霊同化】は、分かりやすく言えば精霊を一時的に身体に取り込んで一体化する事で魔力を一気に引き上げるし、魔力に対する感覚も凄まじく強化されて、ただの身体能力の強化とは比べ物にならない程の力を得る事になる。


 ただ、これだけを聞くと「凄く便利な能力」なんだけど、そうじゃないんだよね。


 まず大きな問題として、急激に強化されるし自分で強化の段階を調整できない。

 要するにゼロか十か、みたいな状態になってしまう。

 その状態でしっかりと調整して、普通の動きと戦いの動きの緩急をつけられるようにならないと使い物にならないとフルールさんに言われて、戦いでも緩急をつけたり、同化したり外したり、同化したまま手加減したり、できなければ同化したまま一定のスピードでマラソンさせられて、戻ってきたら模擬戦に放り込まれて…………ふ、ふふ……。


「正直、序列第一位なんて呼ばれ方は私も返上したい……。フルールさん、私よりどう見ても強いからね……」


「……私も、まだまだなんだってすっごく思い知りました……」


 リリスさんの気持ち、分かっちゃうんだよなぁ……。

 私も今はなんだか凛央魔法少女訓練校の中でもトップクラスの戦闘能力を誇っていると評価してもらっているし、ルーミアさんにも鍛えてもらっているのに、フルールさんと模擬戦したら三十秒ぐらいで負けたし……。


 リリスさんも模擬戦してたけど、どんな魔法も空中で予備動作もなく切り飛ばされて消されてしまうものだから、珍しく目を丸くして口も空いたまま固まってたもんね……。

 その後にランニングさせられて涙目になりながらリベンジしようとして、更にダメ出しされて膝を抱えていた姿を私も見てしまったもの。


 ――いつか絶対倒してやるランキング一位。

 それが今の私たちにとってのフルールさんだったりする。


 そして私たちも、リリスさんでさえも知らない魔法で天使型ルイナーを一掃した魔法少女。


「しかしあれだけの数となると、消耗が激しくなりそうですね。魔王が控えている以上、あまり消耗したくないところですし……」


「魔王の位置さえ分かれば……――ッ!?」


 オウカさんに続いてフィーリスさんが口を開いた、その瞬間だった。


 激しい重圧を感じさせるような、何か(・・)が私たちを、空間を軋ませる。

 何か、これ以上それが大きくなってしまってはいけないと、本能が叫ぶような気がした。

 絶対に良くないモノがそこにはあるのだと。


 ほんの僅かな時間のものではあったけれど、全員が同じ何か(・・)を感じていた事を確認するように、お互いに顔を向けて頷き合う。


「――おそらく、魔王はこの城の最上階あたり。急がなくてはならなそうですね……。一点突破と足止めで、最短距離で向かうしかなさそうです」


「だったら、アタシがここもらっていいかー?」


「エレインさん、大丈夫ですの?」


「おう! アタシの【精霊同化】はケーセーノーリョク? とやらが高いらしいし。一発の威力とかは低いけど、騎士種はアタシの得意なタイプだしなー」


「それを言うなら継戦能力だろ、ったく。あぁ、オレも残るよ。ここじゃエレインも見逃しとか出てきそうだし」


 あ、継戦能力、ね。

 何かと思って一瞬考えちゃった。

 エレインちゃんが新たな能力に目覚めたのかと。


 でも、確かにオウカさんの言う通り急がなきゃいけないなら、ここで全部倒して次、なんて進み方は難しい。

 必然的に誰かが残って足止めしつつ、他のメンバーが先に進むしかないっていう考えは理解できる。


 エレインちゃんは騎士種のルイナーを相手に完封して勝利したっていうのも聞いていたし、確かに彼女の【精霊同化】は長期戦向きだってフルールさんも認めていた。

 ただ、「元々十で戦ってばかりいたでしょ。手加減やり直し」と言われて珍しく涙目になっていたけれど……。


 それはともかく、残していくなんて本当はしたくない。

 したくないけど、それをしないと前に進めない、辿り着けないんだろうなって事が分かっている。

 だから、私は信じるよ。

 きっと二人ならあっさりと倒して追いついてくれるって。


「ここはアタシとエルフィンで全部やっつけるから、早く行けー!」


「……それちょっと死亡フラグ掠ってるんだよなぁ」


「大丈夫! 全部やっつけるんだから!」


「はいはい。って事だから、オレとエレインでどうにかするし、早く行けって。オレもここで前回の雪辱戦って事にしとくからさ」


「……分かりました。では、私たちは最短最速で魔王の元へ向かいましょう。エレインさん、エルフィンさん。ここは任せますので、後で追いついてくださいね」


「おー、よゆー」


「皆さん、行きましょう。……ご武運を」


 オウカさんが駆け出すと同時に、エレインちゃんとエルフィンさんを残す形で私たちもまた真っ直ぐ正面、階段の上にいる騎士種のルイナーに向かって突進するように駆け出した。


 残して行く事が不安じゃないと言えば嘘になるけれど、私たちは知っているから。

 エレインちゃんの強さと、エルフィンさんの強さを。

 ここで虚勢を張って時間稼ぎをする為に残る訳じゃなくて、かならず倒して追いついてくるのだと。


「雷華、いくぞー! ――【精霊同化】!」


 パシン、と音を立てて一足飛びに私たちが進む先、階段の上で身構えた騎士種のルイナーの後方に、エレインちゃんが放電するかのように黄色い光を走らせながら現れて、その首を刈り取った。


 ……やっぱり、早いなあ。

 転移魔法でも使っているのかと思うぐらい早いけど、エレインちゃん曰く、「ただ早くビュンっとなってたのが、今はピンってなった感じ!」だそうだ。なるほど、分からない。


 ともあれ、わざわざ私たちが進む先にいたルイナーから片付けてくれたらしく、駆けていく私たちの為に消耗を抑えさせるように気を配ってくれたらしい。


 頼んだとばかりに頷く私たちに向かってエレインちゃんはにっこり笑ってサムズアップをして、再び消える。

 後方で戦いが始まったみたいだけれど、振り返らずに前へ前へと私達は階段を駆け登っていった。


「――ロージアさん、リリスさん。あなた達二人は必ず魔王の元へ。次、今のような場面があれば、その時は私たちが残ります。なので絶対に、魔王を倒してください」


「……はいッ!」

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