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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
179/220

#126 目的と理由と

「ただいま戻りました、我が主様」


「おかえり、ジル。あぁ、アレイアも戻って来たんだね」


「はい、掃除が終わりましたので」


 邪神ダンジョンの大掃除はどうやら終わったらしい。

 ある意味そちらも見てみたかった気がするけれど、うん、まあ聞き流しておこう。

 心なしかスッキリとした表情を浮かべているようにも思えるし、触れない方が良さそう。


「ルーミアは?」


「ふふ、ただいま、ルオ」


「……うん、おかえり。というか、なんで抱き着いたの?」


 真後ろに魔力の反応が現れたと思ったら、ルーミアがソファーに胡座をかいている僕に背もたれから身体を投げ出すように抱き着いてきた。

 頭が重い。乗せないでほしい、その大きなものを。


「いいじゃない、頑張ってきたんだから。私にご褒美を与えてると思ってちょうだい」


「ご褒美、ねぇ……」


 どちらかというと男の子的な感覚で言えば僕の方がご褒美に思われそうな光景である。

 けれどルーミアにとってみればルーミアのご褒美に当たるらしい。

 男として見られていない可能性が高いけどね。


 ……いや、むしろ僕がとことん子供として見られているのだろうか……。


 やめよう、この考えはよろしくない。

 主に僕の精神的なダメージが大きい。


「それで、魔王もどきはどう?」


「今は玉座の間で玉座に座らせているわ」


 うん……うん?

 玉座の間にいる、じゃなくて座らせてるの?


「え、ルイナーって椅子とかにちゃんと座るの?」


「いいえ? 魔法で強引に縛り付けてあるだけよ?」


「……それ、どんな魔王……?」


 というか玉座に縛り付けられているって、あれだね。

 まるでどこかの国が攻め込んできて、臣下に降伏するように言われているのにいつまで経っても降伏しないせいで犠牲が出すぎた結果、裏切られて臣下に縛り上げられた、みたいな。

 物悲しい感じが漂うよ、それ。


「しょうがないじゃない、下手に動かれたら魔王感なくなっちゃうし、うろうろしてる魔王なんて格好つかないでしょう?」


「縛られてるのも格好はつかないと思うけど」


「大丈夫よ、魔法少女たちが来たら拘束を見えないようにするし、ちゃんと待ち構えていたかのように立てるよう細工するわ」


「……うん、是非そうしてあげて」


 さすがに魔法少女も縛られた魔王とか見たくないだろうと思うよ。

 コレジャナイ感が凄いだろうし。

 というよりそもそも、明らかに第三者の手が入っているなんて見られる訳にはいかないし。


「我が主様」


「なんだい、アレイア?」


「魔法少女と呼ばれるあの少女たちが魔王もどきを倒す必要があるのでしょうか?」


「あー、そっか。その辺りの細かい説明って省いてたもんね。僕とルーミアは割と勝手に行動してたし、だいぶ端折って説明してたんだっけ……」


 僕も毎回説明するのが面倒……げふん、忙しかったので、割と説明が端的だった自覚はあった。

 元々ジルとアレイア、それにリュリュって十を説明するように求めたりしないのだ。

 せいぜいが三から五を説明されて、十を予測してそれに対応するという、能力が高いだけあって全てを求めて来ない。


 その結果、僕は僕で邪神の力を研究して一人でうろうろしている事も多かったし、ルーミアはルーミアでロージアの育成に熱を入れて楽しんでいた、というのがこの二年間近く続いていた。


 もちろん、なるべく説明するように意識はしていたんだけど……うん、足りていなかったらしい。


「こうして全員集まるっていうのも、私にとっても珍しい気がするわね」


「言われてみればそうだね。まあ、せっかくだから一度改めて説明しておこうか。……ルーミア、説明聞くなら隣なり空いてるところに座ったら?」


「あら、ご褒美はおしまい?」


「いや、別に僕はどっちでもいいけど……」


「じゃあこのまま聞くわね」


「ア、ハイ」


 何が楽しいのか分からないけれど、まぁ本人が納得しているなら好きにすればいいか。


「えーっと、何から説明するかなんだけど……僕がこの世界にやってきたこと、それにキミ達を召喚して契約した当初の目的は世界のルールに則って『この世界の人間が、邪神に対応できるようになり、この世界の人間によって問題を解決させることを裏から手伝う』というものだったっていうのは、みんな分かっているよね」


「それは理解しております。実際、裏から手を回してきたのですから」


「『暁星(スティラ)』もその一環であり、ダンジョンもまた我が主様がこの世界の神と協力したもの、ですな」


「うん、アレイアとジルには積極的にそちらに携わってもらったからね。リュリュはルーミアの手伝いで色々と動いていたと思うし、この辺りについては今更言う訳でもなかったとは思うけど、まあおさらいだと思っておいて」


 さすがに当初の目的を忘れる、なんて事は有り得ないので、三人も頷いてくれた。

 ルーミアが何故か上機嫌な様子でソファーの背もたれと僕に体重をかけているのか、妙に揺れながら小さく鼻歌を口ずさんでいる。

 ちょっと視界が揺れるんだけど。


 まぁそれはともかく。


「この世界の問題とかに色々と遭遇して動いてきた訳だけれど、結局のところ、僕らが取れるのは対症療法的な対応しかできなかった訳だね。しかもこの世界では魔力というものが馴染みきっていなかったせいもあって、邪神を完全に退けるという手が取れるようになるまで成長するのに数十年単位の時間がかかるだろう、というのが目算だった」


「そうね。実際この世界の魔法技術なんて一切確立していなかったもの。魔法もろくな威力もないし、正直、私たちのいた世界の子供でももうちょっと魔法は使えるんじゃないかしらね」


「さすがに一概にそうとは言えませんが、魔法に馴染みのある貴族子息、令嬢ならば間違いありませんな」


 うん、実際それはそうだと思う。

 向こうの世界の貴族はイコールして『民を守る為に戦う為政者』だ。

 当然ながら貴族家に生まれれば戦いの技術を磨かなくては生きていけないし、それを疎かにすればあっさりと爵位を失う事にもなりかねないだろうね。


「まあそんな訳で、あくまでも対症療法的に魔力に馴染ませる方向にシフトしてダンジョンを生み出したりって事をしていたんだけど、その調査も含めて動いている間に、この世界が邪神の標的になった原因――つまり、この世界の管理者であった下級神がやろうとしていた事が発覚した。下級神は世界と世界の境界をこじ開け、この世界に邪神の力を呼び寄せようとしていた、という事が判明したんだね」


「あなたが見つけた、過去の研究所ね」


「そういうこと。そこで僕という存在――つまり、神々の中でも最上位に位置するイシュトアによって力を注がれながら、かつ魔王の封印を行う事で邪神の力と溶け合い、いわば邪神力とでも呼ぶような代物に適正を持っている事も分かった。おかげで『待ち』しかできなかった僕らが、むしろ邪神に対して踏み出せるような状況になったっていうところまではみんなも理解してると思う」


 頷くみんなに向けて、僕はこの二年間での事を改めて説明していった。


 邪神は世界と世界の境界上にいて、現状僕はなんとなくでしか居場所が掴めていない。

 そのせいで、下手に僕が近づいていく、或いは僕という存在を気取られた場合、邪神そのものが逃げてしまう可能性がある。

 そうなってしまうと次にどの世界に手を出すかが分からないため、逃さずにしっかりと一歩で追い詰める必要がある、という訳だ。


 この二年間、僕は邪神力とでも呼ぶべきものを扱える事が分かったため、境界から邪神力を吸い上げ、集め、消失させて、戻して、といった具合に色々な事を試してきた。


 その結果、邪神の核はどうも自分の力に干渉されている事に気付いてこそいないらしいものの、干渉された力の範囲が大きくなると、なんだかもがいて逃げ出そうとするように妙に暴れ出すという事が判っている。

 そのため、あまり大きく干渉してしまうと邪神に感知されるというのは間違いない。


 けれど一方で、徐々に力を吸い上げてこちらで切り取ってしまうことに対しては、一切頓着していないようなのだ。これは実のところ、邪神の眷属――ルイナーが生み出される際に、全くそれと同じ現象が起こっているせいであるらしい。

 要するに、『力が千切れてルイナーが生まれているため、力が千切れることは当たり前のことだ』と感じている、と言えばいいだろうか。


 そうして邪神はルイナーと呼ばれる存在を生み出しているのだけれど、どうも力を集めて強くなったルイナーを倒した場合、霧状となって消えていた力を僅かながらに回収していることが判った。

 僕が邪神の力に干渉できる事が分かり、僕の手で邪神の力を切り取って集めたルイナーを生み出して倒してみたところ、僅かな邪神の力の動きが見えたのだ。

 どうやら邪神の力を吸い上げた結果、僕という器の性質に邪神力が明確に混ざったおかげか、そういう細かな動きを感じ取れるようになっていたらしい。


 そこからはまさにトライアンドエラーというか、試しては失敗して、の繰り返しだったけどね。


「邪神は常に自らの力の残滓を拾い上げ、おそらく核の中に蓄えていくんだ。そうして改めて力を生み出す。ある意味、自己修復と自己繁殖を繰り返しているような非常に厄介な存在だとも言える。けれど、その特性のおかげで邪神の核の位置を割り出せる。でも、それができるのは本当に一瞬だ。僕としても神としての力を本気で集中させて、かつかなり大きな力じゃなきゃ追いきれない」


「その大きな力というのが……?」


「うん、魔法少女たちが戦う予定となっている魔王もどき、だね」


 邪神の力を集めて作った魔王もどきは、半ば強引に僕が邪神の力を吸い上げて生み出した存在。


「ぶっちゃけた話だけど、倒すだけならここにいる誰かが僕の代わりに倒せばいい。でも、僕らが倒しても結局世界のルール――『この世界の問題はこの世界の住人が解決しなくてはならない』という世界のルールをクリアできなくなってしまう。でも、邪神が消えてくれないと、そもそもこの戦いは終われない。だから、『この世界はこの世界の問題である魔王を倒してハッピーエンド』を迎えて、そのすぐ後に僕らが邪神を討滅して全て解決になれば、両方ともルールに則って綺麗に片付く、という訳だよ」


「……神々が世界に干渉できるルールに干渉しない為には、この世界の住人にも動いてもらうシナリオが必要だった、ということですかな?」


「ま、そういう事だね。本来なら僕が魔王を生み出している時点でルール的にはかなりグレーではあるんだけど、今回の件は下級神――というか、元管理者がやらかした尻拭いとも言えるから、神々(僕ら)の干渉していい範囲が広がっているとも言えるね。そもそもルールを違反してしまったせいで、世界そのものがメチャクチャなんだよ」


 本来、管理者が世界に外患を招くみたいな真似をするなんて普通は有り得ない。

 そのために管理者であった下級神が世界をメチャクチャにしてしまっているせいで、この世界は色々とちぐはぐで、不安定とも言える。


「だからある程度は世界のルールも無視できるし、僕が積極的に介入しても問題ないとされている。だから、こういう形を取って『この世界にとっての明確な解決』も演出して、元々の世界の形――つまり、『世界に生きる者が作る世界』にしっかりと軌道修正も図るという目的もあるんだよ」


 実際この世界は、僕らがやって来る前までは元管理者である元下級神が世界を箱庭にしてしまい、歴史の進む方向を定めて誘導していた世界だと言える。それは世界としては正しい姿であるとは言えない。

 そこで、完全にそちらに軌道を修正させるために『ルイナー問題が解決したと分かる結果』をこの世界に提示しておかなきゃいけない。


「ふふ、それにちゃあんとドラマチックにならないと、視聴者の皆様もガッカリしちゃうものね」


「……まあ、それはそうだろうね」


 イシュトアにも釘を差されているからね。

 この世界の物語を動画配信していて、そのクライマックスが近づいてきているおかげで視聴者数も増えているのだし、ちゃんと考えて、と。


 ……世界の命運と視聴者への配慮が同等というあたり、神という存在もなかなかにアレな存在であった。

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