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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
172/220

#119 一点突破 Ⅰ

 朝焼けが空を明るく染め始め、朝陽がゆっくりと東の地平線上に顔を覗かせると僅か数十分前。

 凛央魔法少女訓練校のある連邦軍の敷地内にて、多くの軍人らが作戦開始に向けた最終チェックに慌ただしく動き回っていた。

 その中にはジュリーの姿もあり、夜通し調整を行って疲れ果てたのか、ぐったりとした様子で作業用の机に突っ伏している姿も見えた。


 作戦開始までもう間もなくというところ。

 凛央魔法少女訓練校の生徒たち、並びに防衛に参加する魔法少女たちについては教室で待機していても構わないとの通達があったが、しかしさすがに今回の作戦を前に悠長に構えているというのも些か無理があったようで、全員が戦闘機の格納庫に集まり、その作業を見守っていた。


 そこへ、奏が半ば呆れた様子で歩み寄っていく。


「今回の作戦に同行する魔法少女はオウカさん、それにアルテさんの二人と、転移が可能なフルールさんだけだったはずだけれど?」


 大量に魔法少女をヘリで運ぶ、というのはなかなかにリスクが大きい。

 天使型ルイナーの猛攻が激しくなれば、最悪の場合は墜落する危険性もあるため、魔法少女は『転移座標陣』を突き立ててから転移で移動する予定になっている。

 そのため、防衛能力に特化している結界魔法を得意とするオウカと、そのオウカを守れる転移魔法持ちのアルテ、そして転移も攻撃も卒なくこなし、今回の作戦に同行する事になっているフルールといった面々のみがヘリに乗り込み、正面から突破する役割を担う予定となっている。


 これまでに軍部が何度か魔王城のある浮遊大陸へと突入しようと試みてきたが、戦闘機の数が多ければ多いほど天使型ルイナーの数も多く出ている。そのため、頭打ちとなるであろう数というものが判然としていない状態だ。

 犠牲を覚悟した上で機数を増やす、あるいは単独で近づくといった実験を繰り返してきたが、戦闘機の数によってルイナーの数は変動するようで、距離が近づいたからと言ってルイナーが増える、という事さえない。


 そのため、今回は戦闘機三機とヘリでルイナーを分散させ『ルイナーの防衛網に穴を開ける』事を優先し、ただただ突破する事に重きを置いている。


 魔法少女がヘリに乗って下手に攻撃を行っていくという実験は一切行っていないため、天使型ルイナーの集中攻撃を受けたり、或いは大量に天使型ルイナーが出現するなどのイレギュラーが起こりかねないリスクもある。

 ジュリーから提供された魔導砲弾も、囮として移動する戦闘機に搭載された奥の手としての意味合いが強く、さらに奥の手として『絶対』、『最強』の呼び声が高く、実際にクラリス、明日架よりも実力的に上であると思われるフルールが同行するのだ。


 そういった背景から今更ヘリに追加人員として魔法少女を乗せるという選択肢は有り得ないのだと言下に慌ただしさと本番を前にした緊張から冷たく告げる奏に、律花が苦笑した。


「こんな状況ですから、落ち着かないのですわ。わたくし達が同行しないというのは既に納得しております。が、せめて危険な任務に向かうオウカさんやアルテさん、それに協力してくれているフルールさんを見送る事ぐらいは、と」


「……そういう事ね。ごめんなさい、さすがに私も気が立っていたみたいね」


「無理もありませんわ。わたくしとて、昨日はなかなか寝付けませんでしたもの」


 同意を示すように他の魔法少女たちも頷く姿を見て――もっとも、伽音だけは首を傾げていたのでそういう緊張はなかったらしいが――、奏も苦笑した。


「あの協力者――ルーミアさん、といったかしら。彼女の言葉通りなら、魔王となった存在を討つ事さえできれば、ルイナーの親玉である邪神とやらに打撃が届き、この世界からルイナーを完全に排除する事ができるかもしれない。そうだったわね?」


「はい、そう聞いてます。ルーミアさんも自分たちの世界で同時刻に戦いを仕掛け、邪神の軍勢がこちらに派遣されないよう対策を打ってくれるそうなので」


「そう……。敵か味方かも分からないような存在だったし、どちらかと言えば味方だと言えたあの少年が敵となり、敵だと思われていたあの女性が味方になるなんて、世の中何がどう転ぶか分かったものじゃないわね」


 ルーミアとルオ。

 二人の立ち位置に関する認識が逆だったのは、そんな言葉を口にした奏だけではない。

 明日架も同じように考えており、ルオがいてくれるのであればルイナーをどうにかするというのも可能なのではないかとさえ思っていた。


 しかし、現実は違った――と思っている――。

 ルオは最初から敵であり、自分たちを利用して、この世界を利用して自らが邪神の力を手に入れるという選択を選び取り、完全に敵対する事になってしまった――という事になっている――。


 明日架たち凛央の魔法少女や奏から見れば、この状況は完全に予想だにしていなかった状況だ。


 ルオが魔王の力に呑み込まれ、あわや凛央の魔法少女が全滅しかねない状況で現れたルーミアが全員を前線拠点へと連れ帰り、状況を説明する事となった。しかし、奏にはルーミアの事など到底信用できなかったのだ。

 実際、魔法少女の味方をしていたルオと敵対していた事もあり、潜在的に敵であると想定していた相手であったのだから、それも当然である。


 しかし、その状況を上役として以前から動いている大野に報告したところ、大野はルーミアの言を素直に信じ、その助言を受け入れてみせた。

 過去に知り合っていた、というような話なども一切なかったというのに、あっさりと信じてみせた大野の態度に奏は困惑した程だ。


 何か、何処かで繋がりでもあったのではないか。

 そんな可能性が脳裏を過ったが、しかしルーミアに明日架が鍛えてもらっていたという話まで飛び出したものだから、敵ではないという所については一応の納得をする事にしている。


 正直に言えばルーミアの方がルオよりも幾分かは信用しやすい、というのが奏の見解でもあった。

 事実としてルーミアは徹頭徹尾己のメリットを明確にして立ち位置を決めており、今回の件に関してはルオを犠牲にしてでも邪神に打撃を与える事を優先しており、それこそが延いては彼女たちのいた世界にとってもプラスになるという、協力する為の明確な根拠があるように思えた。


 要するに、ルーミアは動機というものがハッキリとしている。

 だからこそ利害関係が一致している限りは仲間であると言えるからだ。


 そういう意味で、ルオはあまり近づき過ぎなかったため信用どころか、その目的の不透明さからどうしても信用しきれない不気味さがあったのだ。


 何故魔法少女を助けるのか。

 そもそも魔法少女の味方をするというのなら、何故最初から力を貸そうとはしなかったのか。

 裏があって最低限、最小限の接触に控えているように思える相手というのは、そうそう信用しようとは思えず、可能であれば協力はしてほしいが、その話を持ちかける相手としては二の足を踏んでしまう、そんな相手だと奏は思っていた。


 一方で、魔法少女らと少し離れたところにいたフルールは、そんな奏の発言であったルーミアが仲間になったという事や、ルオがまるで悪の親玉のように取られている今の状況は面白くないらしく、無表情ながらに僅かに苛立っていたりもするのだが、それに気付く者は幸いにもいない。

 寒気がしたような気がしてアルテがそっとオウカに近づき、風除けにしたぐらいの被害で済んでいた。


 ともあれ、そんなフルールとオウカ、アルテに奏は顔を向けた。


「今聞いた通り、今回の作戦はこの世界に蔓延るルイナーを取り除く為の最後の戦いになるかもしれないわ。でも、何も今日中に全てを終わらせなければ世界が滅ぶという程、切迫している訳でもないわ。だから、まずは無事を最優先とすること。未来を掴み取るための一歩に過ぎないのだから」 


「分かっています。作戦を無理に成功させるのではなく、無事に行うこと。それが私たちに課せられたミッション、という事ですね」


「その通りよ。アルテさん、オウカさんをお願いね」


「ん、任せて。フルールもいるし、余裕」


 相変わらずの短い回答ではあるが、特に気負った様子もなく答えてみせるあたり、気持ちにも余裕がある事が窺える。


「フルールさん。あなたの実力は耳にしています。あなたならばやれる事も他の人よりも多いかもしれない。でも、あなたも決して無理はしないで」


「心配は無用です。私も無理をするつもりはないので」


「心強い味方がいてくれて助かるわ」


 水を向けられる形となったフルールが淡々と素っ気なく告げてみせても、奏は特に苛立つ様子も見せずに素直に感謝の言葉を口にする。


 魔法少女の中でも最強と呼ばれ、かつてはルオと共に葛之葉に姿を見せたフルールの力は凄まじい。

 しかしどこか人嫌いとでも云うべきか、他人に対して距離を置くように突き放すような物言いをする彼女が何故今回助力するのかと聞いたところ、彼女もまたルオを止めて正気に戻すためと言い切っている。


 かつてはルオと行動していたため、ともすればルオに味方をする可能性も考えられたはずではあったが、それを問う奏に対してフルールも「あれは我が主様が望んだ力ではない」と言い放っている。

 どうやらルオ自身、邪神の力を最初から利用して己のものにし、この世界をどうにかしようとは考えていなかったらしい事が窺えた。

 いずれにせよ、利害は一致しており、この二週間足らずの間に訓練場で見せてくれていた実力も他の魔法少女に比べれば頭が二つ三つは飛び出ているような実力を有している事が窺える相手であるだけに、奏は素直にフルールの参加、延いては他の魔法少女たちの安全の比重が増した事に喜んでいた。


「――鳴宮大佐殿、間もなく時間です!」


「了解。では、オウカさん、アルテさん。それにフルールさん。どうか無事に」


 奏に言われ、オウカが代表して応えるように頷き、アルテがサムズアップする。そんな二人の横で何も応えずにさっさと背を向けて歩き始めるフルールに気が付いて慌てて追いかけるようにオウカとアルテがヘリへと向かっていく姿を、魔法少女たちは無事を祈るように見送った。


 僅か数分後、戦闘機三機が滑走路を駆けて空へと飛び立つと同時に、三人の乗り込んだヘリが空へと飛び立った。

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