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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
最終章 邪神の最期
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#115 決行前夜 Ⅰ

 下級神の分体を処分して魔王城に戻ったのは、陽が傾き始めた頃だった。

 今日も今日とて城にいるのはいつものメンバーである。


 夜魔の民の真祖、ルーミア。

 それに彼女の眷属であったアレイアとリュリュ。彼女たちも今では僕の眷属となっていて、そのトップにルーミアがいて、その下にジルとアレイア、リュリュが横並びになっている。


 一方で、僕の眷属になりたがっている唯希は今頃、凛央魔法少女訓練校で捨て去ってしまった青春を取り戻したりしているのだろう。多分そう。


 ちなみに僕は別に学生生活に夢も希望もなかったから、今更学生やれなんて言われたりしたら「それなんて罰ゲーム?」という気分になると思う。

 正直、生きていく上で学校の勉強が何の役に立つのかと本気で考えてしまって、どうしても勉強なんてものに身が入らなかったタイプです、ハイ。


 浮遊した大陸の上に建つ魔王城の最上階にある椅子に身体を預けて窓の向こう側に沈んでいく夕陽をぼんやりと眺めつつ、学生時代の記憶なんてほぼほぼ思い出せないなぁ、なんて考えていると、背後にジルの気配が現れた。


「ジル、何か用事かい?」


「『暁星(スティラ)』の動きに関する報告になりますので、そのままお寛ぎいただいていて問題ございません」


「ん、続けて」


「は。『暁星(スティラ)』はすでに完全に独立し、リグレッド様主導のもと、しっかりと裏社会に根付いております。大和連邦国外においても最早彼らの名前を知らぬ()の人間はいないと言える状態となりました」


 裏社会で暗躍する最強の組織。

 字面にするとなんだか酷く中二心が擽られる組織になっているような気がしないでもないけど、『暁星(スティラ)』はそういう組織としてしっかりとこの世界に根付いている。


 棄民街の治安統制を行うための制圧、()側との連携を行う棄民街の代表のバックにいる組織として名前は有名になったけれど、各国の政府関係者にもその存在は知られつつあるらしい。

 もっとも、もしも『暁星(スティラ)』に対しておかしな真似をしようものなら、その時は手痛い反撃を受ける事になるだろうけれど。

 彼らは元棄民街の人間であって、国の政府だとかに対して敵視する事はあっても親身になる事はないだろうし。


「ゆくゆくは探索者として名を売る方向にシフトしていく事になるだろうね。この世界で裏社会で生き続けるというのはなかなかに苦しい生き方になるだろうし」


 この世界の裏社会というか、光の届かない場所での暮らしというのはなかなかに苦しいものになってしまう。

 それに彼らは弱者の救済の為に非合法な力を振るう組織だ。

 そうした力が不要になる時に生きる道として、探索者という生き方は決して悪くない選択になるだろう。


 一応、天照には『暁星(スティラ)』の事を話してある。

 探索者ギルドが暗部――つまり【覚醒者】となってその力を使った犯罪者に対する戦力を欲しがっているのだ。今は各国の神使と呼ばれるようになった人型妖怪なんかが動いてくれていたりもするけれど、圧倒的に数も足りていないみたいだし。


 『暁星(スティラ)』で保護してる女性陣や子供たちの身の振り方を考えれば、探索者ギルドが拾ってくれるのが一番いいような気もする。


「――以上になります」


「うん、ありがとう。じゃあ、僕らが姿を消したとしても道に迷うような人たちはいなさそうだね」


 魔法少女たちが僕が生み出した邪神の力の大ボスとも言える魔王もどき――但し、魔法少女から見ると変質した僕――を倒せば、僕もそのタイミングで邪神の核へと一気に近づき、邪神を消滅させる事ができる。


 ジルから報告をもらった通り、『暁星(スティラ)』の初期メンバーとして僕が関わったメンバーがしっかりと生き残れるなら、後は特に心配する必要はない。

 その後を引き継いだリグレッドが拾ってきたメンバーについては、しっかりとリグレッドが、導いていけばいい。

 亜神たちもこの世界とはしっかりと関わり合うようになったし、僕が居座っている状態になっている管理者代理の状態については僕が去った後で他の神が就く予定だ。


 そうなれば、僕らはこの世界に残る必要はない。


 常に僕がいなくても全てが機能するように意識はしてきたのだ。

 投げっぱなしにして最初から頼られていなかったとも言う。


 明日、魔法少女たちはこの魔王城に攻め込んでくる。

 彼女たちにとっては長い戦いだっただろうし、世界的に見てもかなり大きな転換期を迎える事になった時間の終わりとなるだろう。


 改めて思い返してみれば、色々な事があったものだ。

 この世界にやって来て、魔法少女という謎の少女たちに遭遇して、世界の危うさになんとも言えない気分になりながら、世界を変えていく方向に誘導してきた。


 正直に言えば十年以上は時間をかけていくつもりだっただけに、あっという間というか、色々とやる事をやっている内に時間が流れてしまって、出かけたり遊んだり、なんて時間をそんなに取らずに動いてきてしまった。


 ……もしかしてブラック体質まっしぐらだったのではないだろうか。


「ジル」


「はっ」


「僕、もしかしてダメ上司だった?」


 たとえば非合法な組織であってもお金は必要だ。

 向こうの世界なら多少の犯罪は見えて来なかったけれど、この世界じゃあっという間に情報があちこちに行き渡ってしまう訳だし、単純に悪い事だけやっていてどうにかできる、というものでもないだろう。

 表向きの会社経営なんかもあるだろうし。多分。知らないけど。


「……は?」


「いや、よくよく考えてみたら、僕って休暇とかあまり取らせるように言ったりしてなかったなって。出社時間とか出勤時間とか給料とか、そういうのあんまり僕って決めてなかったなって」


 いくら組織が非合法な存在であるとは言っても、我ながらさすがにこの状況はないんじゃないだろうか、なんて思ってしまった。


 年中無休、給与、賞与なし、たまに人をアレしちゃいます。

 うーん、アウトだ。

 どう考えてもブラック。というかもう黒以上の何かだ。


「……なるほど。しかし、そもそも定時に働くような仕事ではありませんし、我々は特段時間に追われるような暮らしはしておりません。給料や諸経費につきましても、基本的にアレイアとジュリー女史によってしっかりと賄われておりますので、特段問題にはならないかと」


「……そっか」


 ……僕、給料とか払ったことなかったね。

 最初に資金を手に入れたのは連邦軍の不正横領による隠し金をちょろまかしたルーミアだし、その後はそのお金を元手にジュリーの会社が動いて一気に、というところだった。


 上司失格過ぎじゃないかな、これ。

 いや、会社っていうのは何も社長だけで稼ぐものではないって事ぐらいは理解しているし、社員や従業員が稼ぐっていうのも分かっているけれど。

 でもだからって、いくらなんでも僕が稼がなすぎる上にあまり動いていないっていうのは、うん、ちょっとね。


 密かに次の世界では自分で稼ぐ方法を確立する事を決意した。


「……我が主様」


「うん?」


「我が主様は、言うなれば王の立場にあります」


「ほう」


「王は民の血税によって生き、責任を持ち、代わりに民を導く存在です。故に、我が主様がお金を稼ぐ必要はないのではないかと愚考いたします」


「……ふむ」


「『暁星(スティラ)』もジュリー女史も、我が主様の麾下にある存在。始まりを、きっかけを与え、環境を与え、知識を与えたのは我が主様でありましょう。私どもを召喚なさったのもまた我が主様であり、そんな私どもが与えたものとはつまり、我が主様が与えたものであると同義です」


「…………ふむ?」


「コホン。要するに、我が主様は目的に集中なさりつつも、多くを動かしております。お金がどうの等という雑事に集中されてしまわれるのは、延いては全体にとっての損となります」


「………………なる、ほど?」


「詰まるところ、そのような心配はご無用にございます」


「わかった!」


 知能が低下したレベルで返事をしておいた。

 いや、なんかもう、「下手な真似すんじゃねぇ、すっこんでろ」っていうのを超絶分厚いオブラートに包みまくったって感じだったからね。もう中身も何もないオブラートしかないんじゃないかって分厚さで。もはやただのでん粉かな?


 ジルも好々爺然として微笑んでみせているけれど、それは僕が聞き分けのいい子供っぽい感じで返事をしたのか、それとも「あぁ、コイツ分かってないんだろーなー」みたいな意味での微笑ましさなのか。

 ……うん、考えないでおこう。


 そんな、緊張感の欠片どころか粉末すら見えない決戦前夜を、僕らは特に何も変わらずに過ごしていた。

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