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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
大和連邦国編
15/220

閑話 動き出す時代 Ⅲ

 ――大和連邦国軍上層部の怠慢。

 ――魔法少女は利用されるだけ利用され、厚遇されていなかった。

 ――生まれ変わる連邦軍。粛清の波は何処まで広がるのか。


 連日そんなニュースばかりが世間を賑わせる中、連邦軍は、魔法少女の育成と保護、フォローアップ体制の強化計画を公表し、事実計画通り迅速に行動を開始した。


 これまで魔法少女に頼り切りとなっていたルイナー対策強化プログラムの公開実施。

 汚職に手を染めていた上層部関係者への粛清。

 従来の軍備の縮小と、新たな魔法少女のフォロー体制の構築のため、魔法庁との連携部署の設立など、その動きは多岐に亘る。


 そして、それらの動きの中でも最も世間の関心を集めていたのが、凛央魔法学園の設立計画であった。


 もちろん市井の声は何も賛成ばかりではなかった。 

 しかし軍部はこれに真摯に答えた。


 鯨型のルイナーのように、今後結界が通用しない場合、民間人の避難行動を誘導するための軍部との連携、また魔法少女同士が必要である事。

 また、市井に混じるが故に学校の授業のような横並びの教育では、必然的に進捗に遅れが生じてしまう事からも、専用の教育プログラムを策定し、徹底したフォローアップを公言した。


 現状ルイナーに対抗できるのは魔法少女だけだ。

 そんな彼女たちが厚遇される事になるのであればと、市井による反対の声はぐっと減少している。

 一方で魔法少女側としても正体が知られてしまう事などの懸念もあったが、しかし家族や親しい友人に伝えてしまっているケースは多く、安全性が向上するのであればと協力的な声は増えつつあった。


 凛央魔法学園は、軍事基地を流用する。

 関係者以外を徹底的に排し、魔法庁と連邦軍の共同基地という扱いとなる。


 実のところ、軍事基地の流用は海外でも実施されているポピュラーな対応であった。

 大和連邦国では初の試みではあるものの、先進国ではむしろ対応に出遅れているというのが実状であった。


 ともあれ、凛央魔法学園は、大和連邦国で最初の魔法少女育成機関としてカリキュラムの制定、訓練内容及び教育レベルの維持という課題をどのようにこなしていくかを含め、今後の国内展開を目標としている魔法少女育成機関としての先駆けとしてモデルケースも務める予定だ。





 ◆







 凛央魔法学園に入学する事となったのは、七人の魔法少女であった。


 炎を操り、正義感の強い魔法少女ロージア――火野 明日架。

 雷を操り、天真爛漫と言うべきか、あるいは猪突猛進というような真っ直ぐな性格をしている魔法少女エレイン――凪 伽音。

 衝撃を操り、大和連邦国内でも有数の大企業である『未埜瀬グループ』の社長令嬢でもある魔法少女フィーリス――未埜瀬(みのせ) 律花(りっか)


 この三人は魔法少女として精霊と契約を行った際に攻撃能力に特化した能力に目覚めており、この凛央において中心的なルイナー討伐を行う主翼を担う事となっている。

 そうした彼女らのような戦闘能力に秀でた魔法少女をサポートするのが、補助、回復系統と呼ばれる能力を得た魔法少女だ。


 外傷に対する治癒能力を持った、少しおどおどとした印象の強い魔法少女カレス――月ノ宮(つきのみや) (ゆず)

 天眼の能力を持ち、伽音とはまた違った意味でさっぱりとした男の子のような性格の魔法少女エルフィン――(さつき) 弓歌(ゆみか)


 彼女ら二人はロージアと鯨型ルイナーとの戦いが行われた際、フィーリスと共に現れた魔法少女であり、前線でのバックアップを担当していた。


 そして今回、凛央魔法学園の設立にあたり招集された二人の魔法少女がいた。


 魔法庁に直接所属し、転移能力を持った魔法少女アルテ――祠堂(しどう) (かえで)

 同じく魔法庁所属、対上級ルイナー戦のために今回招集された強固な結界を張れる魔法少女オウカ――東雲(しののめ) 桜花(オウカ)

 桜花は実名を魔法少女名として登録している少女であるが、その実、大和連邦内に名の知れた【結界師】と言う、ルイナーや魔力といったものが現れる前より特異能力を有していた一族の娘である。

 偏に、実名を登録しているのは東雲の一族による意思であった。


 そんな魔法少女ら七人の前に立っていたのは、大和連邦軍中佐となった鳴宮であった。


「――本日付けでこの凛央魔法学園の教導官としてあなた達の指導役を賜った、鳴宮 奏よ。経歴はあなた達の持つ端末に送ってあるから見てもらえれば判るでしょうから割愛するわ」


 余計な会話は不要といった様子で淡々と少女らの前で告げてみせる鳴宮の印象は、十代前半の少女達にとってみれば「少し恐そうな人」といったものに映りやすい。

 特に怒っている訳でも不機嫌な訳でもないが、ピシャリと言い放つような物言いをしてしまう軍人気質の強い言い方をしてしまった事に気が付き、奏は僅かに後悔したものの――しかし少女らの表情を見て「余計な気遣いであった」と確信する。


 この場にいるのは魔法少女としてルイナーとの戦いにも参加してきた魔法少女や、そもそも軍人に囲まれる後方部隊に所属しており、こうした喋り方も充分に聞き慣れている者だ。

 奏の冷たいと思わせがちな物言いにも特に動じる事もなく、まっすぐ自分を見つめている七人の表情にふっと口角をあげた。


「さて、先に言っておきましょう。正直に言って、私にはただの兵隊同様にあなた達を鍛える事はできないわ。あなた達が契約によって使えるようになった魔法というものは、それこそ十人十色、それぞれに特徴を持っている。だから私たちが教えるのは、戦闘に対する作戦の組み立て方、対応方針の指示、軍部との連携に必要な手順といった点がメインになってきます。特に、あなた達は魔法少女育成機関の先駆けとなり、今後多くの魔法少女の育成におけるモデルケースとなります。我々も試行錯誤の中で様々な提案を行いますが、忌憚なく積極的な意見を出してくれる事を期待しているわ」


 教え導く側が「教導できない」など、口にするべき言葉ではない内容ではあったが、しかしそれは紛れもない事実であった。


 魔法少女はそれぞれに特徴を持ち、特性を活かして戦う事になる。

 まして、これまで対人を想定としており、兵器による陣形や作戦といったセオリーというものが、ルイナーには存在していない以上、型に嵌めるような教え方はできるはずはないのだ。


 用意できるのは、あくまでもリスク軽減を目的としたチーム編成と対応力に対する強化がメインとなっており、その他には攻撃バリエーションを増やす実験協力といったものが主体となる。

 それに加えて、対魔法攻撃――つまりはルオやルーミアに対し、万が一敵対した場合の対応力を鍛える事もまた目的の一つとしているが、表向きは対ルイナー戦の強化と実戦慣れというものがメインとなる。

 もちろん、ルイナー対策のために授業を途中で抜け出す事の多かった魔法少女らに、義務教育レベルの勉強を含めた年齢相応の教育、さらに軍事行動を基にした教育が施される事を奏が説明していく。


 一通り説明を終えたところで、魔法庁の直属であるアルテが静かに挙手をした。


「何かしら、祠堂さん」


「魔力の活用研究。私はそれもある」


「あぁ、そうだったわね。祠堂さんは直接現地で戦闘に参加する訳ではないし、戦闘訓練は他の子に比べて少ないはず。おそらくは他の魔法少女が戦闘訓練を行っている時間が割り当てられると思うわ」


「ん、了解」


「今後の流れ、それぞれのスケジュールは常に端末のスケジュールアプリを通して確認できるようにしておくから、必ず各自確認するように。学校の時間割のように定形通りとはいかないから、前もって確認していても必ず毎朝チェックするように。変更は割り当てられたメールで確認できるようにしてあるわ」


 ルイナーがいつ、どこに現れるか不明である以上、必然的に対応は即応体制が求められてしまう。そのためスケジュールは常に変動してしまい、その都度それぞれに求められる役割も変わってくる。


 十代の、それもまだまだ子供である少女たちに求めるには酷な事だ、と奏は心苦しいものを呑み込んだ。

 しかし、魔法少女として元々ルイナーへの対応を優先していた彼女らにとっては、即応する事も当たり前と言えば当たり前の事だ。特に気にした様子は見られなかった。


 そんな少女たちの姿に罪悪感を押し殺し、気持ちを切り替えて奏は改めて少女たちに向けて今後の活動における学園の体制等について説明を続けた。






 魔法少女らが奏から説明を受けている、一方その頃。

 凛央魔法学園として割り当てられた建物の屋上には、魔法少女と契約を交わした精霊たちが集まっていた。


 もっとも、その光景をもしもルオが見たとしたら、「妖怪に化かされたかな」とでも呟きたくなるような光景ではある。

 そもそも精霊はルオのいた異世界であれば、人型、妖精型、動物型と、あとは実体を持てない力の集合体であり、光る球体というものであった。


 しかしこの世界における精霊は、確かに精霊と同質の存在であり精霊と名乗ってもいるが、力の集合体であった精霊とは本質が異なる。


 付喪神、妖怪、空想の生き物。

 そうした人々の念が力を持ち、ルイナーの発現によって明確な自我を得て、人と寄り添う事を選んだ存在だ。象る姿は動物、あるいは空想上の生き物、はたまた付喪神の宿ったモノであったりと千差万別である。

 もちろん、呼吸の必要もなければ声帯もない以上、声を発する事はできないモノも多いが、しかしそんな精霊であっても思念を飛ばすような念話は可能である。


 そんな不思議なモノの中心。

 周囲の精霊から念話を通した報告を受けていた夕蘭は、少々難しい表情を浮かべながら嘆息した。


「――ふむ。手がかりはないか……」


《申し訳ありません、夕蘭様》


「いや、良いのじゃ。あの少年が協力してくれるのであれば一番ではあったのじゃが、神出鬼没な存在であった故な。もともと、そう簡単に見つかってくれるとは思っておらぬ」


 夕蘭が精霊たちと情報を共有しつつ捜していた存在は、ルオの事であった。

 これまでの邂逅から決して味方であるとは言えないが、しかし説得すれば多少なりとも力を借りる事もできたのではないかと考え、接触を試みようとしていたのだ。


 あの鯨型ルイナーとの戦いで己の無力さを知って以来、夕蘭はただ漠然と自分と共にある魔力を扱えるよう鍛錬を繰り返してきた。

 結果としてルオに言われた密度という点についてはかなり改善できたと言えるが、しかし異世界でルオが学んだ魔法等については圧倒的にこちらの世界の方が遅れているというのが実状だ。


 この世界は元々、魔力というものが非常に薄い世界だ。

 ルイナーの登場により魔力そのものが以前に比べて明確に強まったおかげで、精霊は自らの具現化や実体化に成功し、魔法少女と契約する事ができるようになった。

 しかし、それ以上に更に力を強化し、成長するといった向上心という意味では皆無に等しかった。


 当然そんな世界と、魔法が日常に密着し、研鑽され、研究され続けてきた世界とでは比較にならない。

 言うなれば、ルオとルーミアが見せた技術は研鑽されてきた技術の結晶だ。

 ルオのように魔力を魔法として確立させ、自在に操るという技術はもちろん、魔力を操作するという意識さえもなかったこの世界のそれなど、赤子が無自覚に魔法を発動させてしまうような代物でしかない。


 故に、どのようにして強くなれば良いのかと試行錯誤を繰り返しつつ、ルオに接触し、可能であれば教えを請おうと考えていたのだ。


 そうした背景はともかくとして、夕蘭としても迷いに迷いながらも辿り着いた結論であった部分は否めない。

 くどいようだが、ルオは必ずしも味方であるとは言い切れない。

 魔法少女に危険を近づけるという危惧も、確かに今も拭いきれてはいなかった。


 そういう意味では、発見できなかったと聞いてどこか胸を撫で下ろすような感覚もあった。


《あの動画なら私も見ました。あの幾何学的な模様を浮かべて魔力を変換した魔法は、まず間違いなく魔法少女たちが使うそれを体系化し、解析し、技術として成り立たせている代物です。しかも聞いた事のない言語で発動させています。あれはまるで……――》


「――まるでルイナーのように別の世界からやって来た存在のようだ、と。そう言いたいのであろう、(しずく)よ」


 東雲桜花の契約精霊であり、まるで水が妖精の形を象ったような姿をしている雫の言葉を引き継いだかのように、夕蘭は自らも抱いていた一つの推測を口にした。

 雫と同様に、その場にいた他の精霊もまた似たような感想を抱いていたのか、同調するように頷いた。


「妾も同じじゃ。彼奴らがルイナー共と同じ世界から渡ってきた存在であると考えておる」


《もしや、ルイナーを連れてきたのは彼らなのでは?》


「まぁ落ち着くのじゃ。否定できるだけの確証はないのじゃが、その線は薄いと感じておる。まったく別の目的を抱いている、という印象の方が強いの。少なくとも、あのルオという少年はルイナーを酷く毛嫌いしているような素振りを見せておったからの。ルーミアと呼ばれておった女はともかく、ルイナーについては、存在は知っておっても味方ではなかろう」


 夕蘭から見たルオとルーミアは、何かしらの協力関係にあったが、ルオがその協力を裏切る方向で動き、ルーミアが制裁のためにルオを捜していた、という情報のみだ。

 その向こう側に一体どのような動きがあるのか、その真相に辿り着くにはあまりにも情報が少なすぎる。

 しかし、初めて邂逅した夜にルイナーの仲間かと告げた際に見せた怒りから、ルイナーの味方ではないと判断できた。


「ただ、妾たちよりも多くを知っているという事は間違いなかろう。あの力、そして魔法。目的はともかく、あの者らから少しでも情報を得られれば、ルイナー対策に役立つ情報もあるやもしれぬ」


《――私は、あれが怖い》


 沈黙を貫いていたアルテ(祠堂楓)の契約精霊であり、メビウスの輪を思わせる濃い灰色をした精霊、(ジン)が静かに告げる。


《特にあの映像の最後に見せた鎖による束縛、そして捕食とでも言うべき何かの光景。あんなものを扱えるなど、人の領域を超えている。まして魔力の塊とでも呼ぶべき存在……つまり、私たちに近い存在を召喚したあの女も異常だが、それさえも一飲みで喰らうような何かだった。あれは確実に私たちを殺す事のできる一撃であり、同時に私たちにその事実を告げるための一撃だと、私は考える》


 ルオにとってみれば「いいえ誤解です」と言い放つような推測である。

 むしろ夕蘭を助ける形で登場し、ルーミアからも守ってみせたのだから、味方であるとアピールできている、というのがルオの現状に対する推察であった。


 しかし――


「それは……否定できんな。あの少年は妾たちを助けてはくれているものの、何かのきっかけに妾たちに牙を剥く危険性もまた孕んでおる。あの一撃が「邪魔をするな」という想いを言下に秘めていると言われると納得できる」


 ――ルオが考えている以上に、ルオの力とルーミアの力というものは脅威であった。


 もしもルオがこのやり取りを耳にしていれば、「もう少しぐらい対応を柔らかくしようか」と調整する事も可能ではあった。

 ルオではなくとも、ルーミアが聞いてさえいれば、ルオに助言する事もできただろう。


 だが、生憎この場に二人はいない。

 軌道修正をするような調整役がいない以上、ルオとルーミアは彼女らにとってみれば、会話が通じるとは言えルイナー以上の脅威でしかなかった。


「だが――否。だからこそ、妾たちは強くならねばならぬ。故にロージアら魔法少女たちが訓練している間に、妾もこの数ヶ月で学び、得た力をおぬしらにも伝えていこうと決めたのじゃ」


 新たな脅威、それも自分たちを消滅させる事すら容易い相手。

 そんな相手にタダでは負けていられないと、そう言わんばかりに夕蘭は告げる。


 図らずもルオとルーミアの狙い通り、魔法少女と精霊の強化には繋がってはいるものの、どうにもアンチヒーロー以上にただの危険人物扱いから脱しきれていないルオであった。

むしろサブタイトルは「加速する勘違い」の方がしっくり来てる件。

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