表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
幕間 2年の軌跡
130/220

幕間 【覚醒者】たち

 神々によって生み出されたとされるダンジョンの出現。

 魔素が世界に徐々に広がると共に人類は魔力の覚醒という形で力を手に入れていく事になり、ダンジョン出現から半年程経った初夏を迎える頃には、探索者の中でも【覚醒者】となる者も現れ始めた。

 そうした者たちは自分たちが常人の上のステージに立ったことに喜び、自信をつける事になったが、しかし増長した態度を見せたり、という者は全くといって良いほどに現れなかった。


 その理由は、何も彼らが現代という時代を生きるにあたって教育を受けてきたから、という訳ではない。その理屈が通るのであれば、そもそも教育を受けた人間は全てが素晴らしい存在でなくてはならないという話になってしまう。もちろんそんな事はないのだから当たり前の話だが。


 もっと、ずっと単純な理由。

 それは、【覚醒者】になるのはあくまでも始まり(・・・)に過ぎないと理解しているからだ。

 そんな事を理解する理由は幾つかあった。


 この世界で今なお最も有名な配信者と言える、『みゅーずとおにぃ』の配信動画。

 ようやく【覚醒者】に至った探索者たちとは全く次元の違う高度な戦闘を実践しており、いくら【覚醒者】になったからとは言っても、その程度の実力ではまだまだ足りていないのだと言わんばかりの光景を届けているのだ。

 兄であるおにぃこと鏡平が凄まじい速度で魔物を突き、払い、斬り裂いて前線を維持しつつ、後方にいるみゅーずこと美結が魔法を詠唱、構築して一掃する。ダンジョンによっては魔法少女と協力して強敵を倒している事もある。


 みゅーずは魔法少女になって魔力を扱えるようになったというタイプではなく、魔力を扱って魔法を放てるようになってからスマホの精霊を目覚めさせる事となった。

 契約によってその魔力を更に大きくしたおかげで広範囲に及ぶ魔法すら使えるようになっており、その実力は魔法少女の中でも上位の魔法少女たちと遜色ないとも言われているほどだ。


 そんなみゅーずの契約精霊はスマホと繋がっているためか、その精霊が空を飛びながら見ている空撮映像が配信されるようになり、以前よりも視点のバリエーションも豊富になったおかげか、もはやCG技術を駆使した映画でも見ているような気分になる視聴者も多い。


 そんな戦いを行えている鹿月兄妹を見て、【覚醒者】となったばかりの者は理解するのである。

 ――あぁ、自分たちはようやくスタートラインに立っただけなんだ、と。


 実際、【覚醒者】の多くはダンジョンに潜ってしまうため、その実力がどれぐらいのものかという情報はなかなか把握し難いものがある。

 『みゅーずとおにぃ』の動画の中で、ダンジョンの浅い階層で探索者を見かけた際に、【覚醒者】であると教えてもらい、魔物との戦闘を撮影しても良いかとみゅーずが提案し、その姿が見られる、という程度だ。

 そうして配信に映された者たちが動画を配信すると言っても、そういった動画は【覚醒者】同士の運動能力テストであったり、常人と比較してこんな事ができるようになった、という検証であったりという平和なものであったが、常人との比較動画はそれはそれで需要もあると言えた。


 一方で、【覚醒者】になり、そういった事実を理解はしていても増長しておかしな真似をする存在という者もごくごく少数ではあるが存在していた。

 有名な事件と言えば、とある【覚醒者】が自分で配信をしている最中にルイナーに殺されたというものだろう。


 一人の【覚醒者】が『みゅーずとおにぃ』のように配信をして人気を得ようと考え、動画を撮影できないダンジョンでは自分の実力をアピールできないと考えて、わざわざルイナーの出現が多い地区に出向き、配信を始めたのである。


 ルイナーというものを甘く見ていた男は、元々ルイナーに襲われた事のない平和な地区で生まれ育った男であった。

 【探索者】になればもしかしたら魔法少女と知り合ったり、アイドルグループ『魔法世界』の女の子たちともお近づきになり、自分も有名人になれるかもしれないと考えて、ルイナーを倒して一気に有名になろうと考えたのだ。


 配信のタイトルは『【覚醒者】の俺、ルイナー狩りを始める』という、どこか自分に酔った配信内容ではあるものの、【覚醒者】が動画を配信するというだけあってそれなりに視聴者は多かった。


 男の目論見は、ある意味正しく働いたとも言える。

 もしかしたら、彼は強運の持ち主であったのかもしれない。

 実際、偶然にも男が現場に到着して数十分程でルイナーが姿を現したのだから。


 男は神に感謝した。

 自分の栄光の未来がここから始まるとでも言いたげにルイナーを見つけて興奮し、これから【覚醒者】である自分がそのルイナーを倒してやると宣言した。


 結果、魔導具を持っただけの低位の【覚醒者】は、マンモスを思わせるような巨大なルイナーに意気揚々と斬りかかり、魔力障壁を貫けずに攻撃が弾かれ、唖然とした一瞬で踏み潰されて苦しみながら死ぬというショッキングな映像を届けるハメになったが。

 そして動画の情報を聞きつけてそこに向かっていた魔法少女によって、そんな絶望的な強さに思えたルイナーが呆気なく倒される光景も届けられる事になった。


「あはは、コメディ映画みたいだね。今の一般人レベルの【覚醒者】なんて、それこそ僕らがこの世界にやって来たばかりの頃の魔法少女にも手が届かない程度だっていうのに」


 後にその騒動をアレイアから聞かされたルオが告げた感想は、そんな感想であった。


 ルオがこの世界に姿を現した際、ロージアはビルから飛び降りて着地してみせている。

 そんな運動能力を得るにも至れていない【覚醒者】が、ルイナーの魔力障壁を突き破れるはずがないのだ。

 ルイナーという存在は、ダンジョンの魔物のように『今の人間程度(・・・・・・)で勝てる程度の魔物』をわざわざ手配し、調整している訳でもない。ゲームで言えばレベル十になったところでレベル五十の魔物には勝てないのと一緒だとルオは思う。


 ――所詮はスタートラインに立っただけ。

 そんな多くの【覚醒者】が持っている感想とは、実に的を射たものであったのだ。

 それを裏付ける形となった情けない配信はショッキングな映像であるために消されてしまったが、インターネット上では誰もが知っている事件として語り続けられる事になった。




 そうして、亜神や政府、神宣院によって運営されている探索者ギルドが想定していたよりも【覚醒者】が暴挙に出るような事件は非常に少なく、緩やかに人類は魔力に適応し、探索者も増え、【覚醒者】もまた増加するという流れは進む。




 そうして、ダンジョンの発生から二年が過ぎた――――。


お読みくださりありがとうございます。

明日から新章始めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ