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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
幕間 2年の軌跡
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幕間 探索者たち Ⅲ

 第一階層と第二階層は日中の森のまま、という感じが続く。

 人が通る申し訳程度に踏み固められた道はあるものの、人が二人並べば手狭になるような道なので、パーティで入ったりした人は結構苦労しそうな印象。

 途中で道が分かれていたりもするらしく、方向感覚だけを頼りにしたら確実に迷子になるようなくねくねと曲がった道が続いているし、太陽もどきの位置も直上で何も参考にはならないし。


 ……このダンジョン、誰かの意思で創られたものだとしたら、これを考えた人は相当にタチが悪いと思う。

 植生が変わる訳でもないので目印もないし、進んだ先では先程と全く同じ形の三叉路があったりと、迷わせるつもりでいる事が透けて見える。


 でも、そういう引っ掛けは私には通じない。

 私の場合、地中を通して張り巡らせた魔力が行くべき道を示してくれているし、見た目が同じであっても答えが判っているのに迷う理由もない。

 そうやって少し魔力を扱うだけで「あぁ、進むべき道はこっちなんだ」って理解できるように濃い魔力の塊がある事に気が付けるようになってるあたり、もしかしたらここの階層は魔力を感知できている事が前提の階層なのかもしれない。


 大きな魔力は【覚醒者】の初期段階から「なんとなく違和感を覚える」という感覚が芽生えるようになる。

 でも、これに気が付くのはなかなかに困難だったりするんだよね。

 実際、私はアレイアさんに教えてもらうまでは気のせいだと思い込んでしまう事も多かったから。


 でも、魔力を扱えるようになって、肌で感じ取れるようになると一瞬の判断が早くなる。

 よく事故の際に周りの景色がスローモーションに感じた、なんて言ったりもするけれど、そういう感覚に近い感じなのかな。

 高速戦闘、魔力を使った戦闘時に人が常人じゃ考えられない早さで動き、思考できるのはこういう効果のおかげなのだそうだ。

 アレイアさん、ホントに物知りだ。


 そんな事を考えながら魔物が近くにいないせいかのほほんとした気分で第三階層に続くポータルに向かっていく。

 ポータルに続く最後の曲がり角を曲がったところで、ポータルの前で話し込んでいる男女四人組が私に気が付いてこちらを見てきた。


「……ソロ、か……?」


「いや、つかあの狼とか相手に一人でどうにかできる人間なんているのかよ……。魔法少女じゃね?」


「年齢としては有り得るけど、魔法少女って感じじゃないわね」


「魔法少女だったらもっとフリフリの服着てるもんねぇ」


 男性二名に続いて答えた女性二名。

 なんだかすっごい注目されて足を止めた私を見ながら、小声でやり取りをしてるんだけど、私が感知ついでに魔力を張り巡らせた先にいるおかげで何を喋っているのかしっかり聞こえてるんだよね……。


「ソロですし、魔法少女でもありません。あなた達と同じ探索者です」


「うぇっ!? き、聞こえてたのか……。いや、あー、すまんすまん。詮索するつもりはなかったんだが、つい、な」


「いえ、気にしてません」


「お、おう、悪かった。結構順調に進んできたんだが、他に探索者を見かけなかったもんでな」


「そうですね」


「おう……。あー……、――っと!?」


 私と話していたのは二十代後半程度、筋骨隆々とまではいかないものの、しっかりと身体を鍛えている印象のある男性。

 そんな男性でしたが、なんだか居心地の悪いような、会話の糸口を探っているような空気が流れたところで女性の一人に腕を引っ張られ、たたらを踏みながらも、腕を引っ張ってきた女の人がこちらに顔が見られないような方向に顔を逸らしてから小声で告げる声に耳を傾けていた。


「アンタさっきから下手なナンパみたいに見えてるわよっ!」


「え、えぇ? そうか?」


「明らかに慣れてない感があった」


「いや、ソロで来れるってことは、俺たちより強かったりすんのかなってさ。ちょっと話を聞いてみたかったんだが……」


「……いや、相手さんが話す気ないんじゃね? ずっと無表情だし、受け答えも淡々と一言で切られてるし。もしかしたら人が嫌いな孤高のタイプだったりするんじゃ?」


 ……あのー、聞こえてますよー?

 というか相手の前でする話なのかな……。


 ちなみに、実際のところ私は人見知りと呼ばれるタイプだし、棄民街で生きてきたのにどちらかと言うとのほほんとしているとよく言われる。

 そんな私が探索者っていう仕事をする上で、いつも通りにコミュニケーションを取ろうとする上で、そんな私のままだとダメだとアレイアさんに苦言を呈された。


 アレイアさん曰く、「リーン。あなたのその性格はナメられる(・・・・・)ので、メイド術の交渉編をお教えしましょう」と。


 アレイアさんが言うには、探索者は腕っぷしに自信のある粗暴な男性が多い傾向にあって、女性らしい対応をしてしまうと「おう姉ちゃん、こっちで酌の一つでもしてくれや」と汗臭い男の人に乱暴に腕を取られたりする事もあったり、場合によっては「俺らが守ってやるよ。なぁに、お礼は身体で払ってくれや」とかも言われるらしい。


 ……それって、本当に探索者の話なのかなと思わなくもないけど。

 なんかこう、ちょっと違うような……と思ってはいたのだけれど、そんな私でもアレイア流メイド術の表情術、対人術を駆使して素を出さないようにしているのだ。


 これを駆使するコツは、相手の目を見ずに瞼を見ること。

 そして、話を言葉として内容を考えて受け取らず、基本的にはさらりと聞き流しつつ一言で会話を終わらせること。

 これを実践してコニーくんに「にあわないねー?」って言われて傷つき心が折れそうになったりもしたけど、でも実践できてるってジルさんも言ってくれたしね。

 何故かバーのお客さんで歳が結構上のおじさんに「反抗期になった」とか言われたりもしたけど。


 ふふ、きっと今の私はアレイアさんみたいに「何があっても動じない、デキる大人の女性」っぽく見えているに違いないっ!


「おい、どうすんだよ……。あの嬢ちゃん、こっち警戒してるんじゃね?」


「え、なんで?」


「あの距離から近づこうとしねぇじゃん。あれ、万が一の時には戦えるようにっていう意味じゃね?」


 私に声をかけてきた男性とは別の男性がこちらを見ながらそんな事を口にすれば、他の女性二人も静かに頷いた。


 ……えっ、そんなつもりなかったんですけど……?

 第三階層のポータル前をあなた達が陣取っているので、先に進むの待ってるだけなんですが……。


「ご、ごめんね? 私たちその、決してあなたに敵対しようとか、そういうつもりは――」


「――動かないでください」


 女の人が声をかけてこちらに向かって歩み寄ってこようとしたところで、私はソレ(・・)に気が付いて、太ももに巻いていたナイフシースからナイフを抜き取り、前に出てきた女性の顔のすぐ傍を通る形で魔力を込めてナイフを投げた。

 ナイフが真っ直ぐ進んだその先、奥にいたもう一人の女性の斜め後ろにある木の幹から大きく口を開けて噛み付こうと蛇の魔物が襲いかかっていたのだけれど、誰もそれに気が付いていなかったのだ。


「……え? きゃ――!?」


「――水野!?」


 私の投げたナイフが蛇の魔物の大きな口を貫き、勢いをそのままに巻き付いている木の幹へと押し返すように進み続け、ガツンと激しい音を立てて文字通りに蛇型の魔物の動きを縫い止めた。


 何やら慌てて声をかけていた男性には悪いけど、今はまだ戦闘中。

 説明するよりも敵の排除が最優先事項にあたる。


 ナイフが縫い止めたと言っても、さすがは爬虫類というか。

 どうもまだ生きているらしい。


 上体を倒すように体制を整えてから、身体強化を施しながらもう一本のナイフをナイフシースから抜き取り、蛇に向かって突っ込む。

 突き立てられたナイフによっておかしな形で頭の付け根が浮いている蛇型の魔物を、これまた魔力を込めて斬り飛ばすと、次の瞬間には蛇型の魔物は霧になって溶けるように消え去り、小さな魔石が落ちた。


「い、いつの間に……?」


「幹が不自然に揺れたので、警戒してましたから」


「……お、おう……。その、助けてくれた、んだよな?」


「はい。さすがに目の前で見殺しにするのはどうかと思ったので」


「そ、そうか! ありがとう!」


「いえ、お気になさらず」


 ……助けたのに助けたかどうかが疑問形だったのは何故なんだろう……?

 あの人達がこちらを見た時にはまだ魔物の首を飛ばす前だったから、そこに魔物がいたって事ぐらい判ったと思うんだけど。


「しっかし、すげぇな、嬢ちゃん……。今のスピードも普通じゃなかったが、その小さいナイフで斬り飛ばすなんて。もしかして、【覚醒者】ってヤツか?」


「そうですね」


「えぇっ、すご!? っていうかホントにいたんだ!?」


 え? ……あー……、そっか。

 実際、【覚醒者】はまだまだ少ないし、【覚醒者】であっても魔法を魔法として使える人は『暁星(スティラ)』の外にはいないってアレイアさんも言ってたもんね。

 実際、蛇の魔物は直径二十センチぐらいはある太さだし、私の手に持ってるナイフは刃渡り十五センチしかない小ぶりなもの。魔力を使わなかったら切断するような事はできないし、身体強化だってできないんだった。


 うぅ、アレイアさんに鍛えてもらってるせいか、私の中では「これぐらいできて当然」っていう感覚になってるんだけど……。


「ね、ねえ、お嬢さん」


「はい?」


「その、助けてくれてありがとう。でね、ついでと言っちゃなんだけど、あなたって何者なの?」


「マキ、それはちょっと失礼じゃ……?」


「え!? あ、違うのよ!? 問い詰めたりしたい訳じゃなくて、ただあまりにも戦い慣れているように見えたから気になって……」


 さっき声をかけてきた水野と呼ばれていた女性は、下の名前がマキさんというらしい。

 そんな彼女が唐突に投げかけてきた質問に、もう一人の女の人が声をかけると、慌てて水野さんが謝ってきた。


「いえ、分かっています」


「そ、そう……? なら良かったけど……」


「戦い慣れている理由が知りたい、と?」


「え、えぇ。嫌だったら答えてくれなくてもいいけど、何者なんだろうなって思って」


「何者か、ですか……」


 えっと、何者かと聞かれたらどう答えればいいんだっけ……?

 あ、でも確かアレイアさんが――


「あぁ、簡単な話です。私、メイドですので」


「……は?」


 ――うん、なんでそんな事ができるのかと訊ねられたら「メイドですので」って答えればいいって言ってたもんね。

 だって、メイドはなんでもできて当然の存在だからね。

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