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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
幕間 2年の軌跡
124/220

幕間 裏社会事情

 鹿月兄妹と唯希がダンジョンの内部を進む。

 このダンジョンの管理室にて管理者として動いてくれているリュリュが映し出してくれている映像を見ながら、僕は彼女が用意してくれた紅茶を口に運んだ。


「どうですか?」


「うん、かなりバランスいいね。階層を進むには実力の課題をクリアしなきゃいけないってところかな?」


「ありがとうございます! 仰る通り、しっかり実力に合わせて階層を進めて成長できるように調整しました!」


 嬉しそうに告げてくれるリュリュが中空に浮かんだ立体映像のようなダンジョンの解説画面を見せてくれた。


 第一階層から第十階層は基礎訓練用、十一階層から二十階層までは魔力の応用を求められる特殊な魔物が多く、二十一階層から三十階層までは環境変化と特性が噛み合った魔物、四十一階層から五十階層は継戦能力と判断力を要求している、というところみたいだ。

 ここのダンジョンを踏破できるほどの実力があれば、前の世界であっても強者であると言っても過言ではないだろう。


 実際、唯希はもう第四十三階層まで踏破できている訳だし、向こうの世界での冒険者ランクで言えばBランク上位相当程度――つまりは一人前の中でも上位に食い込んでくる程度には実力も伸びてきているし、魔法も第七階梯まで使えるようになった。

 それだけ聞けば順調に育っていて簡単に強くなっているようにも聞こえるけれど、これ以上はあの子がどういった方向に力を伸ばすのか工夫していく段階になってきているし、地力だけでは到達できない境地に足を踏み入れる事になる。


 ここから先に進んで強くなってくれれば、戦力として考えられるようになる。

 とは言っても唯希は僕ら側だから表側の主人公とかヒーローにはなれない。かと言って僕から離れて表側に行くように勧める訳にもいかないんだよね。

 あの子はもともと魔法少女のライバル側として育てるつもりだったんだけれど、唯希はどうも魔法少女とはあまり積極的に関わり合いたくないらしいしね。


 僕はあくまでも利害関係の一致という考えで協力しているだけだから、魔法少女側と関わり続ける事は僕と違う勢力に属するという考え方のようだ。


 ……うん、まあ間違ってはいないけどね。

 仲間であるとは言い難いし。


「そういえば、我が主様?」


「うん?」


「邪神の方がどのような動きになっているのか、ルーミア様に進捗を聞いておいて欲しいと言われているのですが……」


「あぁ、そっちはしばらく大きな動きはないと思っておいてくれて構わないよ」


「そうなのですか?」


「うん。さすがに準備が必要だし、調査したい事もあるから時間をかけるつもり。最短でも一年ぐらいは積極的な動きもないと思うから、動く事になったら改めて言うよ」


 邪神討滅のために準備する事は意外と多い。

 というのも、現状で邪神がこの世界からは探知できない程度には離れた場所に本体というか核があるらしく、それを探知できる程度にこの世界に近づけさせる必要がある。

 離れた状態で僕が出て行ってしまうと僕に気が付いて逃げられる可能性もあるからね。


 実際、この世界で邪神そのものをおびき寄せ、世界の外側で邪神を討滅するという僕の狙いについてイシュトアに報告した際には、随分と驚かれ、ついでに呆れられたりもした。


 邪神っていうのは確かに厄介な存在ではあるけれど、僕がシオンやルメリアといった仲間たちと魔王を封じたように、その世界の者が戦うというのが一般的だ。

 神々が守るのはあくまでも世界であって、人間ではない。しかし世界を守るための戦いならば手を貸す、というのがイシュトアの姿勢であり、神々の選択でもあった。


 僕が取る方法とはつまり、世界の管理をしていないが為にルールに捕らわれず、自由に動けるイレギュラーであり、かつそんな立ち位置であっても上級神並の力を持っている僕という存在がいるからこそできる、いわば抜け道というか、裏技みたいな代物だ。

 邪神を生かしておいて損はあっても得がない以上、どうにかできるならどうにかしたいというのがイシュトアの本心でもあったし、だったらやってしまおう、と賛同を得たのである。


 そんな邪神をおびき寄せるためには、まず前提としてこの世界にあまり影響がない程度に世界と世界の境界を緩め、邪神に入り込みやすいと錯覚させるのが良いのではないかとイシュトアと相談し、方針を固めている。


 これを実現するためには、世界の境界を緩ませるという外側からの干渉をイシュトアとその下にいる神々が行い、内側であるこちらの世界からは亜神たちが干渉を行う必要がある。

 そして同様に、この世界の境界が緩んだ事によってルイナーも今に比べれば大量に出てくる事になるだろうし、この世界の人間たちが最低限戦えるようにならないと、被害も大きくなってしまう。

 これら二つのバランスが取れるよう調整できるまで、最短で一年、最長で五年程はかかるだろうというのが僕とイシュトアの見解であった。


「リュリュ、人間たちの状況はどうだい?」


「はい。棄民街はすでに『暁星(スティラ)』が制圧を開始し、掌握できた箇所が多数。大和連邦国だけではなく、国外でも『暁星(スティラ)』のメンバーを複数名送って動かしつつ、新たなメンバーの増加と勢力を拡大中です」


「へえ、海外にも手を出す事にしたんだ」


 元々は大和連邦国だけを主軸にするつもりだったんだけど、いつの間にそんな話になったんだろうか。

 そんな疑問を抱きつつ僕が感心していると、リュリュが小首を傾げた。


「えっと、我が主様の指示では?」


「ん? 何が?」


「世界の裏側、裏社会を支配していく、と仰っていましたが」


「あぁ、拠点ができた時に確かにそう言ったね」


「ですよね。なので、きっちりと海外の裏社会も支配するために動いております」


 なんだかホッとした様子で胸を撫で下ろすリュリュの姿に違和感がある。


 ――世界の裏側、裏社会を支配していく。

 うん……うん?

 あれ、僕ってどっちかと言うとこの大和連邦国の事だけを見て言っていたつもりなんだけど……もしかして世界の裏側って言ったものだから、海外も含めてっていう認識だったりするってこと、だったり……?


 リュリュもなんかそういう解釈でいたりするってこと、かな?

 いや、リュリュがそう感じてるってことは、アレイアやジルもそう感じていたりするのかもしれない。


 …………なんかこれ、今更「大和連邦国だけで良かったのに」なんて言えなくない?


「ねぇ、リュリュ。海外はどんな感じだい?」


「順調です。むしろ裏社会に関しては海外の方が労力が少ないという印象ですね」


「え、そうなの?」


 どちらかと言うと海外だとマフィアとかそういうのがいたりするイメージなんだけど、もしかして平和だったりするのかな?


「海外でも棄民街のような地区は生まれていますが、この国のように野放しにはなっていない場所が多いようです。なので、それらを取り仕切る裏社会の者を潰して頭をすげ替えてしまうだけで済みますので」


 …………あぁ、うん。

 ゼロベースから組織化して統制していくよりも、頭を替えてしまった方が組織としての機能は残るし手間は少ない、という意味なら確かにそうかもしれないね、うん。


「という事は、海外の方が掌握は早いのかな?」


「既存の勢力を潰して回るので時間はかかっていますが、この国のように組織化から時間がかからない分、そう時間はかからないかと思われます。おそらく、あと半年から一年もすれば残党狩りにシフトする程度には落ち着くかと」


「……あー……、そっかー……」


「いかがなされました?」


「いや、うん。なんでもない。ずいぶんと優秀だなぁって思って」


「たまにルーミア様も動いてくださっているので、当然です!」


 …………ルーミアも動いちゃってるのかぁ、そっかぁ……。


「……それは、うん。いいんじゃない、かな?」


 今更止めても余計にメチャクチャな事になりそうな気配がして、僕にはそんな言葉を告げる以外に選べる選択肢はなかった。

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