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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
幕間 2年の軌跡
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幕間 特訓光景 ~みゅーずとおにぃ編~

「――おにぃ、下がって!」


 美結の声を合図に魔物の上体を崩すように強く槍を打ち付けながら距離を取れば、美結が腕につけた手首から肘近くまである不思議な腕輪、魔道具である【ジカルの光弓】とやらの上で光が伸び、小さな弓を横倒しにした形を象る。

 刹那、光弓の弦が鋭く矢を押し出して、真っ直ぐと見つめる鏃の先にいる俺が今しがた槍を打ち付けた魔物に向かって光の線が放つ。

 美結の腕から放たれたその光の線は一直線に魔物の首、腕、足の太ももあたりを貫き、がくんと魔物の体勢が崩れた。


 好機を逃すまいとすかさず槍に魔力を込めて、その丸太のように太い首へと突き刺せば、ようやく魔物が倒れた。

 身長にして三メートル程度はあろうかという筋骨隆々の魔物、緑大鬼(オーガ)

 正面からこんな化け物と打ち合って吹っ飛ばされないあたり、俺も魔力を扱えるようになったおかげか、なかなかに人間らしさを失ってきているらしい。


「……ふぅ……、ヤバかった……」


「やったね、おにぃ」


「あぁ、どうにかってトコだったけどな。美結もナイスフォロー」


「ふふーん、でしょでしょー? 今のは我ながらイケてたよね!」


「調子に乗るのも程々にな。でもまぁ、実際随分と精度も上がったと思うぞ」


 美結が腕につけている【ジカルの光弓】とやらは、俺の槍と同じくダンジョン産の魔道具だ。

 所有者の魔力を使って光属性魔法とやらの魔法攻撃を放つという代物らしいのだが、この命中精度をあげるためにコイツを譲られてから美結はずっと練習を続けていた。

 おかげで家の倉庫の壁に穴が空いたりもしたが。


 そんなダンジョン産魔道具を美結に譲った張本人は、今も俺たちの後ろで戦いを見ていたフルールだ。

 美結はスマホに宿っているという精霊を目覚めさせるまで、無駄に魔力を使ってしまうと精霊の餌とでも言うか、そっちに与えている魔力が減るので、結果的に見て力を得るのが遠のくというジレンマを抱えている。

 そんな美結のために、フルールが拾った魔道具のコレクション――実は集めているらしい――の一つである【ジカルの光弓】を譲ってくれたのだ。


 曰く、これをつけて戦いに参加していく事で、戦闘がどういうものかを肌で感じろ、とのことだそうだ。

 美結が喜んで抱きつこうとして、すっと避けられたのは噴いた。


 ちなみに、元々は彼女をさん付け(・・・・)して呼んでいたのだが、いちいちそんな所に気遣わなくていいと冷たく断言されて呼び捨てになったので、今は基本的にフルールと呼ばせてもらっている。


「フルールちゃん、どうだった!?」


「……及第点、というところですね。いちいちおにぃさんを下がらせずにフォローできるようにならないと、充分だとは言えません」


「ぬあー、そっかー……。おにぃを下げなくても撃つって、やっぱりちょっと怖いんだよねー……」


「あなたの魔力程度なら魔力障壁で防げると思います。万が一防げなくても魔法薬(ポーション)もありますし、練習と思って撃てばいいかと」


「だってさ、おにぃ! ちょっと耐えて!」


「おいおい待てコラ。なんでしれっと俺に当たる事が前提になってるんだよ、二人して」


 妹よ、兄ちゃんビックリだよ。

 お前いつから兄ちゃんの身体に風穴開ける事を許容するような妹になったんだ。

 美結は冗談のつもりだったと分かるような笑顔だけれど、フルールは淡々と冗談言うもんじゃねぇぞ。

 って思いながら顔見たら割と本気で首傾げてんじゃねぇか。

 正気か? シャレにならねぇからな?


 じとりと睨みつけるような形になった俺の視線を受けて、フルールは何か不思議そうに一度自分の後ろを振り返り、もう一度こちらを見た。


 いや、お前だよ。

 お前の後ろの誰かじゃねぇよ。

 意外と天然なのか、この子。


「……まあ冗談はともかく――」


 本当か?

 お前本当に冗談のつもりだったのか?

 どう見ても本気の提案だっただろ。


「――次の階層からこのダンジョンはかなり敵が強くなる傾向にあります。捌ききれない段階になった時点で私も介入しますので、そのつもりで」


「おぉー、そうなんだ。フルールちゃんはもっと深い階層まで潜った事もあるんだよね?」


「そうですね。ここはルオ様が経験を積むのにちょうど良い塩梅の難易度だと教えてくださったので。もっとも、さすがに私もまだ踏破できていませんが」


「まぁ、ここも葛之葉ダンジョンと同じぐらい大きいからな……」


 俺たちが今やって来ているダンジョンは、連邦国の南東にあるダンジョンだ。

 普通なら車でも数時間以上かかるような場所ではあるんだが、今日はフルールの転移魔法とやらで連れて来てもらっているので移動時間は考えなくて済んでいる。


 もっとも、フルールも長距離転移で他人を連れて来るような事は今までにやった事もなかったらしく、思った以上に魔力の消費量が跳ね上がったとかで、今倒した第五層の階層主を倒すまでは敵の弱さもあって魔力の回復に努めていたが。


「魔力はもう大丈夫なのか?」


「問題ありません。そもそもあなた達に比べて私の時間あたりの魔力回復量は文字通り桁が違いますから」


「え、そうなの?」


「はい。魔法少女の特性、とでも言うべきでしょうか。他の魔法少女もかなりの早さで回復するのでそれが一般的だと最初は思っていたのですが、魔法少女以外の方は魔力の回復に一晩は要するみたいですね」


「あー、そうだな。確かに魔力を回復するには一晩はぐっすり寝ないと回復しきらないかもしれないな」


 言われてみればその通りだな。

 実際、魔力を使い切った日は八時間睡眠ぐらいしてしまって、それまでに起きようとすると妙に身体がダルかったりするんだが、あれは魔力の影響なのだろう。


 そう考えると、美結はずっとあのダルさと付き合ってきたってことだよな。

 それなのに笑顔を浮かべてみたり、なんとか家事を手伝おうとしてきてみたりと、俺なんかよりもよっぽど魔力不足に対する耐性も高いし、根性もあるなと感心する。


「ただ、それはルオ様が言うにはそうした症状が出るのも魔素濃度が低いせい、との事です。魔素濃度が高ければ魔法少女でなくとも今の魔法少女の平時と同等程度の早さで回復するそうなので」


「……アイツ、なんでも知ってやがるな……」


「ルオくんだからねっ!」


「いや、なんでお前が得意げなんだよ、美結……」


 呆れ混じりに視線を送れば、美結は何故か得意げで、フルールはうんうんと深く納得するように頷いていた。

 フルールもルオが絡む事になると妙に機嫌が良くなるというか、反応が淡々としたものじゃなくて爛々としたものに変わるんだよな……。

 たまに怖いぐらいだったりする。


「ちなみにフルールちゃん」


「なんですか?」


「フルールちゃんは普段、一人でこのダンジョンに潜ったりしてるの?」


「えぇ、そうですね。他人と組んで動くという事が基本的にないので」


「おー、そうなんだね。一人でも今のボス倒せるってことだよね?」


「えぇ。ちなみに今の魔物、緑大鬼(オーガ)ですが、九階層では最低三体程度の群れで出てきますね」


「「えっ」」


 ……ちょっと待ってくれ。

 いや、まあ確かに「昔のボスがここらじゃ雑魚」みたいなノリは俺がやった事のあるゲームでもあったが……マジか?


「フルールちゃんって一人でいつも何階層まで潜ってるの?」


「四十三階層で足止めされていますね」


「「よんじゅうさん」」


「はい。竜種の魔物で地走棘竜(クオルダ)という名の魔物が数百単位の群れでいるのですが、異常に硬い魔力障壁に加えて分厚い皮膚を持った魔物なので、なかなか捌ききれないので」


「え、待って待って? 竜種って、あの竜?」


「竜、ドラゴンですね。とは言っても、どちらかというと超巨大な身体と額に棘の生えたサンショウウオといった方が私はしっくり来ますが」


「「とげのはえたサンショウウオ」」


 いや、竜ってアレか? ファンタジー定番の最強系のアレだよな?

 棘が生えたサンショウウオって……。

 いや、なんか妙に強そうなイメージが湧いてくるんだが。


「な、なんか凄そうだね……」


「一匹あたりがそれなりに裕福な家の一軒家程度サイズなので、成体ではないらしいですが」


 …………は? デカ過ぎじゃね?

 それが数百とかいるのかよ。


「成体になると十階建てのマンションを横倒しにしたようなサイズだそうです。ルオ様曰くですが」


「それ人間が戦えるヤツ?」


「ルオ様が言うには、「大きさの割に大したことないから勝てるでしょ」、と。なので勝てるようにならなくてはなりません」


 ふんすと無表情ながらに鼻息荒く決意を示すフルールの横で、俺と美結は遠い目をしていた。

 ルオがそう言うならいけるかー、とはならんのよ、普通。

 っていうかフルール、四十三階層ってどんだけ俺と実力に差があるんだよ……。

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