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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
幕間 2年の軌跡
122/220

幕間 特訓光景 ~ロージア編~

「――ほらほら、さっさと魔法展開しなさいな。ダラダラやってると死ぬわよ?」


「ひぃぃぃっ!?」


「ロージア!」


「あなたもよ、夕蘭。あの子の事ばかり気にしない」


「ぬ――ぅにゃあああぁぁっ!?」


 魔法少女として夕蘭様と契約して、もうすぐ六年。

 魔法少女ロージアとして今まで何度もルイナーと戦って、葛之葉では『都市喰い』を倒し、クラリスさんから魔法を教わって、私――火野 明日架――、結構強くなったんじゃ?


 ――なんて、そう思っていた時期もありました。

 はは……はぁ。


「く――……【氷剣陣界(シア・ノリュク)】!」


 大量に襲いかかってくるルイナーから僅かに距離を取って、魔力を制御して魔法を放つ。

 私が上空に向かって翳した手の先、中空に幾つも生み出した氷の剣が生み出されていく氷属性の第三階梯魔法で最近覚えたばかりの魔法。


 翳した手を振り下ろすと同時に迫ってきたルイナーの大群に殺到する。

 一方、夕蘭様も障壁を大きく展開しているのか、氷剣に貫かれたルイナー諸共大挙してやってきていたそれらが私の前で見えない壁にぶつかったかのように衝突し、その動きを止めた。


 刹那、横から白に近い色をした炎がそれらのルイナーを飲み込み、通り過ぎていった。


「あれだけの数を相手に点を攻撃する魔法を選択するなんて論外。それに第三階梯魔法程度を発動するのに時間がかかり過ぎよ。その程度、一息でこなしなさい。夕蘭も障壁が甘いわ。無駄に面で止めようとするぐらいなら足場を優先してロージアの退路を誘導なさい」


「はぁっ、はぁ……っ。は、はいっ!」


「く……っ、う、む。次からは、気をつける」


「安心なさい。おかわり(・・・・)はいっぱいいるわ、練習がたくさんできて良かったわね?」


 にっこりと微笑むルーミアさんが指差す先を見れば、今しがたルーミアさんが焼き払った大量のルイナーもまだまだ序の口に過ぎなかったのだと突き付けられる程度には大量のルイナーがこちらに向かって押し寄せてきていた。

 思わず口まで開いてしまって、私がルーミアさんに「あれをやるんですか?」と顔を向けて目で訴えると、ルーミアさんは何の躊躇いもなく頷いた。


「あの程度、私がその気になったら魔法の多重展開で秒殺よ?」


「ア、ハイ」


 ――この人に戦い方を教えてほしいなんて、言うんじゃなかった、かも。

 気が遠くなるような気分を味わいながら、私は涙目になりながら魔法を放つために魔力を練り上げた。




 私がルーミアさんに戦い方を教えてほしいと伝えて、すでに一ヶ月。

 年の瀬が近い事もあって冬本番らしい寒さが本格化して、最近ではついつい布団から出るまでに時間がかかるようになってきた。

 でも、私自身は冬は空気が澄んでいて嫌いじゃないんだけど――って、まぁそれはいいとして。


 ルーミアさんは意外にも私たちに戦い方を教えるという提案に対し、二つ返事で承諾してくれた。

 覚えている魔法がどういうものなのかと訊ねられたけれども、あとは実戦の中で、なんて言われて最初の日はルーミアさんとの模擬戦。私たちは本気だったけれど、ルーミアさんは観察しながら簡単にあしらうばかりで、かすり傷一つすらつけられず、ましてや「それ、本気?」と訝しげに問われたのは記憶に新しい。

 本気だし強くなった気がしていたけれど、ルーミアさんは決して私たちが本気でやっていたとは思いもしなかったようで、「まだまだ準備運動か何か」という感想であったと言われた。


 もうね、そこまで言われるといっそ開き直るというか。

 この人と本気で敵対しなくて良かったなって、本気で思ったよね。

 夕蘭様でさえ子ども扱い……いや、いっそ赤ん坊扱いみたいな感じなんだもん……。


 ルーミアさんとの直接模擬戦をする程の実力に届いていないと判断された私と夕蘭様は、結局ルイナーのような人間とは違う大型の敵と戦う経験を積みつつ、対処法を学び、基礎から鍛える方針に切り替わった。


 てっきりどこかのダンジョンとかで戦うのかと思っていたんだけど……私たちが連れて来られたのは、よく分からないどこかの島。


 影に飲み込まれるように目の前が真っ暗になったと思ったら、それが消えた途端に島にやってきて。

 ルーミアさんにここは何処かと訊ねても、ルーミアさんはにっこりと微笑んで指を鳴らしただけ。

 けれどその指の音はどうやら魔力を乗せたものだったようで……一気に大挙してルイナーがやってきて。


「――とりあえず、死ぬ寸前ぐらいで助けるから戦ってる所を見せてもらえる?」


 微笑んで告げられたその一言から、今に至っている。





「……疲れた……」


「…………」


 呼び出されたのは朝で、今こちらはすっかり影も長くなった夕方――おそらく十六時ぐらい、というところだと思う。

 私と夕蘭様は文字通り死ぬ寸前まで手を出されず、時々一旦流れを切るためにルーミアさんがルイナーを焼き払い、その時に一言二言程度の助言をもらっては、おかわり(・・・・)をたいらげなくてはならないという無限ループにも似た状況に陥ってから、ようやく解放された。


 地べたに寝そべる私と、その横で倒れている夕蘭様。

 夕蘭様に至ってはもう言葉を口にするのも億劫なようで、こちらに背を向けて身動ぎすらしない。


「……はあ。あなた達、弱すぎない?」


 嘲るとか侮蔑するとかじゃなくて、心底困ったような声でそういう言葉を口にされる方がダメージって大きいんだなぁ、なんて思う。

 実際私はもちろん、夕蘭様もびくっと肩が震えていたし。


「せっかく魔法を覚えているのに戦局に合わせて使い分けもできていないし、無駄の多い運用が目立ち過ぎだわ。……ホント、よく生きてたわね、今まで」


 やめてくださいその言葉で死にそうです、心が。


「ま、勉強になったでしょう? 魔力を用いた戦闘で勝つには、一撃で葬るだけの力を持った魔法を放てる訳じゃないのであれば、継戦能力を優先して必要以外は無駄に魔力を消費しないよう調整するしかないわね」


「……ど、やって……?」


「魔力制御が甘いこと、魔法構築に無駄が生じていること、というのが息切れ(・・・)の原因ね。練習しなさい。あとは、単純に戦闘経験がなさ過ぎて、敵が大きければどう対応するのかといったセオリーなんかも足りていないという所も問題だけれど、これについては戦い続けて行けば勝手に慣れるし、心配いらないわ」


 息も絶え絶えに声をかける私に、ルーミアさんがさも「安心して」とでも言いたげなトーンで「戦いの経験値をしっかりと稼げ」と言う。それって詰まるところ、今日みたいな戦いを今後もやっていくから経験を積め、という意味……?


「あぁ、安心しなさいな。ルイナーがいっぱいいる場所は把握してあるわ」


「……え」


「良かったわね。経験不足を補うチャンスよ」


「…………え」


「良かったわね」


「ア、ハイ」


 ……ねえ夕蘭様、さっきから聞こえないフリしてこっちに背中向けてるけど、肩がびくっと動いてるの気付いてるからね?

 ちょっとは止めてくれたりしてもいいんだよ?

 …………ねえ?

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