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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
魔法少女と夜魔の女王編
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#081 鏡平の選択 Ⅲ

 不法侵入だの、いつの間に家に来たのかだのと問い詰めたところで、コイツ(ルオ)がろくに答えるつもりはないだろう事は理解できた。


 美結は美結で突然の来客という事で慌てて起き上がり、ルオのためにお茶を淹れてくると言って台所まで小走りで去っていった。

 いや、不法侵入に驚けよ。


 ルオはルオで俺とは机を挟んで反対側に当たり前のように歩いて移動し、座布団の上に腰を下ろした。

 いや、不法侵入に悪びれろよ。


「……何しに来たんだ?」


「まあまあ。せっかく妹ちゃんがお茶を淹れてくれるって言うんだから、積もる話は後にしようじゃないか」


 悪びれるどころかお茶まで出してもらうのを待つとか、どんな神経してるんだ、コイツ。


「……はあ。分かったよ」


 何が目的かは判然としないが、コイツからは敵意とかそういうものが感じられない。

 むしろどちらかと言えば友好的とでも言うべきだろうか。

 なんとなくだが機嫌が良さそうな感じではあるが、一体何が目的なのか分からない以上、必然的に警戒せざるを得ないのだが……。


「お待たせー。はいどうぞ、ルオくん」


「ありがと。妹ちゃんもお兄ちゃんと一緒にそっちに座ってもらえるかな?」


「へ? あ、うん」


 美結も突然の申し出に困惑しているのか、ちらりとこちらを見てきたので頷いておく。

 少し戸惑いながらも俺の隣に座る形となった美結と俺がルオを真っ直ぐ見つめる形になるのだが、当の本人はそんな俺たちの視線など気にも留めていないようで、お茶を飲んで縁側の向こう側に続く庭を見つめていた。


「……いや、寛ぐなよ。話せよ」


「え? あぁ、ごめんごめん。こういう和風の家って落ち着くよね、うん」


「そういう話をしてほしい訳じゃねぇんだが……」


「あはは、冗談だよ」


 人を喰ったような態度で話すコイツの態度は、どうにも苦手だ。

 核心を見せない飄々とした態度で、以前も消す(・・)なんて発言までしてみせたというのに、そんな相手がこんな態度で接してくるのだから、苦手意識が芽生えるのも当然と言えば当然なんだが。


「ルオくん、久しぶりだねー」


「うん、そうだね。特に用事がなかったから会いに来る予定はなかったんだけど……、まさかキミたちがルーミアと会うなんて思ってはいなかったからね」


「……ッ!」


「とある筋から話は聞いたよ。おにぃが殺されかけた、ってね」


「……お前がおにぃって言うな」


 情報が漏れた……?

 いや、コイツは確か探索者ギルドの特別顧問だかなんだかって話だ。

 軍から検査結果を聞いたりとかもしているかもしれないし、知っていて当然か。


「ルオくん、あの女の人……ルーミアって人と敵対してるんだよね?」


「あぁ、そういえば動画を見たんだっけ? そうだね、立場上何度か交戦もしているし、それが敵対していると言うのなら、敵対関係にあると言ってもいいかもね」


 ……なんだか濁した表現だな。

 積極的に敵対している訳ではなく、事情があって敵対してるって感じか?

 敵であるという断定はしていない辺り、コイツにも何かしら事情があるのだろう。

 俺としてはあまり深入りするべきではないと思ったのだが、しかし美結はそうはいかなかったようだ。


「じゃあ、ルオくんがルーミアって人を倒してくれって言ったら、倒してくれる?」


「ん? なんで?」


「え……? だ、だって、あの人はおにぃを……!」


「あはは、面白い事を言うね、妹ちゃん。それがどうしたって言うんだい?」


「……ッ、どうって……!」


「美結、やめろ」


「で、でも……!」


「やめとけ。これ以上、コイツの機嫌を損ねるな」


 美結が喰い下がろうとした途端、強烈な重圧感がこの場を支配した。

 おそらく、ルオは美結の言葉に腹を立てているのだろう。

 相変わらず飄々とした態度、笑顔に見えるってのに、明らかにその下で機嫌が悪くなっていっている事が肌で感じ取れた。


 正直、俺は今すぐにでも逃げ出したい程だ。

 それぐらいの、息苦しいほどの重圧感に美結はどうやら気が付いていないらしい。


 ――これ以上何かを言い募ろうものなら、下手したら、今度こそ消される(・・・・)

 何故かは分からないが、俺にはそれが確信できた。


「……すまん。美結の目の前で俺が死にかけたせいで不安になってるんだ。許してほしい」


「おにぃ……?」


 深々と頭を下げて謝罪を口にする俺の横で、美結が不思議そうに声をあげる。

 一方でルオはそれで多少は溜飲を下げてくれたのか、目に見えない重圧感は徐々に和らいでいった。


「……うん、まあいいよ。頭をあげてよ。妹ちゃんにとってはショックだったっていうのはなんとなく分かったから」


「……恩に着る」


 ……やっぱりコイツは苦手だ。

 さっきもそうだが、コイツは俺が死にそうになった、殺されそうになったって事に対して、何も感じていない(・・・・・・・・)

 人が一人殺されそうになったってのに、そこに対して心配している様子もなければ、ただ純然と「それがどうした?」とでも言いたげな態度であったのは間違いない。


 正直、俺にとっては余程あのルーミアって女の方が親切な存在だと思えるぐらいだ。

 何せあの女は敵意を、殺意を持っている事を隠そうともせず、その上で攻撃を加えてくるという分かりやすさがあった。


 だが、ルオの場合は違う。


 ルオの中には明確な線引きがあって、それを超えてしまった瞬間に殺意すら持たず、来るとさえ感じさせず、一息の間に俺や美結を殺すだろう。

 そういう危うさみたいなものがコイツにはあるのだ。


 俺たちを消すべきか否かを見定めに来たあの日にも感じたが、相変わらずか。

 いつ爆発するかも判らない爆弾と時間を過ごしているような気がして、緊張のあまり身体が強張っているような気さえするほどだ。


「まあまあ、そう硬くならないでよ。今日はキミたちに嬉しい提案をしにやって来たんだから」


「提案……?」


「うんうん、提案だとも。ルーミアによって殺されかけたキミたちの心が折れないのであれば、戦う力をつけたいと願うのであれば、キミたちに力を得る術を与えようと思ってね」


 ……コイツ、さっきまでの俺と美結の話をしっかり聞いてやがったのか。

 いや、話は聞かせてもらったとか言いながら襖を開けたんだから聞いていたのは事実だろうが。

 もしも俺と美結の会話でダンジョンに行くのを怖がっていたり、躊躇っているようなら、俺たちに声もかけずに消えていたかもしれないな、これは。


「……お前、美結の風呂覗いたりしてねぇだろうな」


「え!?」


「あはは、いきなり変なこと言うね、キミ。まあやろうと思えばできなくはないけど、僕、そういう欲はないんだよね。ちなみに、どうせ見るなら見た目もちゃんと大人の人の方がいいかな」


「えぇっ!? って、へ、変なこと言わないでよ、バカおにぃ! おにぃのせいで私が魅力ないみたいに言われてるし理不尽!」


「いや、コイツ俺らに気付かれずに家の中に入れるんだぞ。普通に犯罪できちまうじゃねぇか。やろうと思えばできるって言ってるし」


「えー、だからって覗きみたいな発想をするあたり、キミの趣向を押し付けられても困るなぁ」


「はぁっ!? なっ、俺がそうしたいって思ってるワケねぇだろ!?」


「バカおにぃ! 発想が変態ってことじゃん!」


「痛っ!?」


 少しばかり重い空気になりそうだったからと叩いた軽口のせいで、見事にカウンターを喰らう事になった俺は美結から殴られ、俺がジト目を向けられる事になった。

 さすがに妹の身体を見たいなんて思わねぇよ。


 つかルオも大人の女が見たいとか、マジか。

 ませてんな、コイツ。


「ま、改めて話をしようか」


「おう。……いや、美結、お前も冗談にいつまでもむすっとしてんなよ」


「……サイテー」


「あはは。兄妹喧嘩をするのは結構だけど、僕もあまり時間に余裕がある訳じゃないからね。単刀直入に言わせてもらうよ。妹ちゃんのスマホに宿った付喪神の精霊化を進めて魔法少女みたいに魔法適性を得られるようにして、かつおにぃの方も魔力適性値を鍛えつつ、実践慣れできる方法があると言ったら、どうだい?」


 それは……かなり嬉しい提案ではある。

 けれど、どうにもルオにそんな提案をされるって事は、相応のリスクというか、危険な事をやらされそうな気がするんだが……。


「私やる!」


「は? おい、美結、お前……」


「私が魔法を使って戦えるようにもなれば、おにぃだってもっと安全になるもん」


「いや、そりゃそうだが……」


「だったら迷わないよ。私だって、もう後悔したくないもん」


「美結……」


「うんうん、そう言ってくれて良かったよ。――入っておいで」


 未だに美結の決断の早さに唖然とする俺を他所に、ルオが俺の後ろ、ルオが先程現れた襖を見て突然そんな声をかけると、ルオのように勢い良くとはいかないものの、再び襖が勝手に開かれて、その中にいる人物が姿を現した。


「……え、えええぇぇぇぇっ!? な、な、なんで……!?」


 その少女を見て、美結が叫ぶような声をあげる。

 烏の濡れ羽色という表現を思わせる黒髪に、キリッとした少し鋭い目つき。

 服装は黒いドレスでも着ているようで……いや、これは……魔法少女、か?


「……な、なんで、『絶対』の魔法少女、フルールさんが……?」


 美結が愕然とした様子で呟く声に、俺も思わず目を剥いた。


 魔法少女の中でも最強の呼び声が高い、『絶対』。

 確か以前、あの序列第一位『不動』のリリスと組むという話になった時に美結から聞かされた、美結が最推しだのなんだのと言っていた魔法少女、それが『絶対』のフルールだったはずだ。


 そんな彼女が、ルオに呼ばれるままにルオの隣へと行き、ルオがそんなフルールをじっと見つめて最初に言ったのは。


「……和室にドレスってミスマッチだね」


「っ!?」


 その一言を告げられる形になった『絶対』は、なんだか酷くショックを受けた様子でドレス――確か魔装とやらを解いて、黒地のパンツに黒いパーカーという普通の服へと変わり、そのまま少し落ち込んだような表情を浮かべてルオの隣に腰を下ろした。


 ……いや、その一言はねぇだろ。

 俺も和室にドレスって違和感ひでぇとは思ったが。

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