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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
魔法少女と夜魔の女王編
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#071 ルオと謎の廃墟 Ⅰ

 突然のルーミアの登場。

 ルーミアの存在は僕と同様にネット上では様々な憶測を生み出していたけれど、公式の場――というより一般人が見える状況に姿を現したのは、春の僕との戦い以来となる。

 そのため、ネット上の反応は凄まじいものがあった。


 僕は残念ながら予定していた時間が来てしまったので、ルーミア登場のシーンは葛之葉のところで見る事ができなかったのだけれど、不安定な付喪神がついた程度の妹ちゃんこと鹿月美結のスマホでは、ルーミアの殺気に耐えられなかったようで、配信も切れてしまった。


 もっとも、ルーミアの事だから今の状況で誰かを殺すつもりはないだろう。

 勢い余って誰かを殺しかねないかもしれないとは思うけれど、ダンジョンに人間を呼び込むという僕の目的もある。

 そこにいきなり絶対的な強者が現れて人間を殺してしまっては、ダンジョンに足を踏み入れるという事に抵抗を生み出しかねないしね。


 まぁ多少は傷つけたりはするだろうけど。

 そのぐらいは戦いに身を置いている以上、覚悟はしているだろうし、僕の知った事ではない。


 魔法少女に接触する機会が欲しいと常々言ってはいたので、何かしらの作戦でも考えて動いているだろうし放っておくつもりだ。

 僕は今は魔法少女たちとそこまで深く関わり合いになるつもりはないし、一応設定というか、以前の葛之葉でのルーミアとの戦いの中で呪いを受けたという設定もあるしね。


「――見えた」


 僕が今いる場所は、大和連邦国から南東に離れた海上。

 ポツンと佇む孤島というやつで、この島はどうやらどこの国の領土という訳でもないらしい。


 領土として謳うにも陸から離れ過ぎているし、広さもせいぜいが縦に五キロほど、横に二キロほどと非常に狭く、当然ながら船をつけるような港もなければ空からヘリで降りられるようなスペースもないしで旨味はなさそうだ。

 もっとも、国ならば領海がどうのという理由から自国の領土宣言をするなどして手を出してもおかしくない話ではないけど、位置の都合上ハッキリとしなかったのだろうか。


 まぁ、人の領土でなくて良かったね、とは思うよ。

 何せ空を飛んでいる僕の眼の先に見えているのは、そんな島の姿と――陸地には大量のルイナーの蠢く姿が遠巻きに見えていて、上空には外敵である僕に気が付き、大きな羽を羽ばたいて飛び上がったルイナーがいる。


 アレが普通の人間がいる場所で暴れ回ろうものなら、大惨事を招きかねないし。


「『黄昏』、大物狩りの時間だよ」


 一度手を慣らすような形で近づけた手。

 左手のひらに魔法陣を浮かび上がらせれば、『黄昏』の柄が姿を見せた。


 さすがに『黄昏』が大きすぎるので持ち運びに難儀していた『黄昏』を収納できるよう、イシュトアに相談して生み出した魔法、『亜空間庫(インベントリ)』。

 もともとこんな便利魔法は前世の世界にはなかったけれど、これがあるだけで旅が楽になったんだろうなと遠い目をしたよ。


 ともあれ、柄を掴んで引き抜けば、刀身から宿っていた魔力がぶわりと広がった。

 さすがにあれだけの大物となると、やる気に満ち溢れたりしているのかもしれない。


「まさか、ルイナーの竜種(・・)なんてものまで生まれているなんて予想外だよ」


 前方の上空でこちらを睨みつけるのは、竜種の姿をしたルイナーだ。

 ルイナー特有の黒い身体は竜種の中でも強大な力を持っている黒竜種を思わせる。

 竜種に相応しい魔力を有しているようではあるし、前世の僕だったら油断すれば即殺されているような相手だという事が見て取れる。


 ――なのに、僕は危機感を覚える事はなかった。


 確かにあの竜種は強いだろう。

 前世の僕でも、勇者であったシオン、聖女であったルメリアがいてもなお、命が奪われるかもしれないと感じる程度には強く、この世界であれば誰も手が届かないような存在だ。

 魔法少女であってもただの人間となんら変わらない時間で殺されるだろう。


 けれど、残念ながら今の僕は人の枠というものから完全に外れた存在だ。

 それに加えて、ここは陸地も人間の棲息圏を離れたところ。


 ――手加減する必要はない。

 ――相手を殺す。


 そんな風に意識を切り替えた途端、僕の心がひどく凪いでいくような、そんな気がした。


「『黄昏』、お前の力を見せてもらうよ」


 遠慮などなく魔力を解放して、魔力を刀身に注ぐ。

 耐えれて一割弱といった所感であるけれど、それでも『黄昏』は僕から注がれる事になった魔力に刀身をカタカタと揺らしながら、どうにか抑え込もうと抵抗しているように思えた。


 ――まあまあ使える(・・・・・・・)

 淡々とした感想を抱きつつ、空を飛びながらその予備動作すらなく竜種の上空に転移する。

 両手で持った『黄昏』を構えて真っ直ぐ竜種の背中、翼の付け根へと向かって飛び込み、『黄昏』を振るう。


 刃に乗せた魔力を剣閃をなぞらせるように拡げれば、まるで刀身が伸びたかのように不可視の魔力の刃が竜種のルイナーの片翼を斬り飛ばす。もともと刃が届いていても体躯が大きすぎて刀身だけでは斬りきれないしね。

 ガクンと体勢を崩した竜種のルイナーが今更こちらに気が付いたかのように振り返る姿は、なんとなく驚愕を見せているようで。


 その姿に、僕はついつい口角をあげた。


「お前に感情なんてないだろ? 芸を覚えるにしても拙い」


 『黄昏』を今度は刺突のように突き出して、勢いよく突っ込む。

 対する竜種のルイナーは、竜種を模倣しているらしく黒炎とも言えるようなブレスをこちらに向かって放ってきた。

 けれど、その程度の攻撃ならいちいち躱す必要はなかった。

 すでに『黄昏』に込めている魔力の一割にも満たない魔法攻撃が、『黄昏』とぶつかり合って僕に届くなんて事はないのだから。


 風にたなびくカーテンを突き進んでいくかのような抵抗のなさで、黒炎のブレスを貫き、その勢いのまま竜種のルイナーの前足を斬り裂いて、再びの転移。

 顔面の直上へと転移して『黄昏』を鼻先へと突き立ててやる。

 同時に【神眼】を発動すれば、周囲の虚空から突如現れた鎖が竜種のルイナーの身体を中空に縫い留めるように縛り付ける。


 雁字搦めになって動きを完全に封じられた竜種のルイナーの鼻の上、鼻先に突き立てた『黄昏』の柄に足をかけたまま瞳を覗き込んだ。


「……ふぅん。やっぱり感情なんてなさそうだ。なのに驚愕するような素振りをしたのは、模倣した故の行動か?」


 真っ黒な眼は無機質で、眼というよりも眼の部分を表しているだけ、といった印象が強い。

 純粋な竜種は喜怒哀楽がハッキリと存在しているものだけれど、コレ(・・)にそんなものはなさそうだ。


 感情があるのであれば知恵がつくかもしれない。

 知恵がつけばこの世界から手を引かせるようにと促すなり、罠を仕掛けておびき寄せるなり対策の取りようもあったのだけれど、そういう存在ではないから面倒だ。

 天災に備える事はできても、コントロールする事はできない。

 コレ(・・)はそういうものだからね。


「用済みだ」


 短く告げて『黄昏』を引き抜き、トンと後ろに飛び降りながら魔力を込めて振るう。

 僅かな抵抗感すら感じさせずに首を飛ばしてみせたところ、竜種のルイナーはあっさりと空気中に溶けるように消えていった。

 その姿を見送ってから、改めて島へと目を向ければ、力量差が歴然であったにもかかわらず、何も感じる事もなく、ただただ飛び込んできた()を待つかのように顔をあげているというのだから、滑稽だ。


 ――なんて不愉快なんだろう。

 怒りが沸々と煮えたぎる熱湯やマグマのように僕の中で怒りの音を立てる度に、僕の心に被せている人間らしさ(・・・・・)が剥がれていく気がしてくる。


 ――人として在れ。人間らしく悩み、喜び、怒り、哀しみ、楽しめ。

 師匠が僕を拾って最初に僕に徹底させた、人間らしい反応というものは、僕が毒親の下で薄れさせていったもの、貧民街で生きる上で完全に切り捨てたものを改めて培い、被せろというものだった。

 それで心の芯が変わる事はないかもしれないけれど、人間として生きていく上では必要なものだと淡々と言い切ってみせるものだから、妙に説得力があったし、綺麗事じゃないから素直に受け入れられた。


 ただ、それはあくまでも日常生活であったり、誰かと一緒にいる時に気をつけていたものだから、ついつい一人で、それも戦いの前となると高揚感からかそういうものが全て剥がれていくような気がする。


 まぁ、たまにはいいかな。

 ここにはルーミアもいないし、契約にも抵触しないし。


「――皆殺しだ、『黄昏』」


 魔力を解放したまま、ずいぶんと久しぶりに。

 周りの被害なんて気にしない、無遠慮な力の扱い方。

 横暴に、容赦なく蹴散らしてやろう。


 シオンやルメリアとの旅を始めた以降ずっと控えていたやり方だけれど、せっかく一人きりなのだからたまにはいいだろう。

 そんな風に考えて、口角を吊り上げながら島の中へと飛び込んでいき、行き掛けの駄賃とばかりにルイナーを斬り裂き、着地と同時に魔法を展開させ、爆発させた。


 目指すはこの島の地下。

 この世界にルイナーを呼び込んでいる世界と世界の境界を繋いでいる一つの綻びから、ルイナーに干渉できるかを試す為に、戦いへと身を投じる。

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