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現人神様の暗躍ライフ  作者: 白神 怜司
魔法少女と夜魔の女王編
102/220

#070 【魔女】 Ⅱ

「……なんだい、そんな顔して」


「あなたが弟子を取ったなんて言うからよ。そんな面白い話があるんだったら、私も起き続けていれば良かったわ」


「どうだかね。【蒼天】が弟子たちと一緒に表舞台からは完全に姿を消して、アンタも自らを封印しちまった。それから数百年は経っていたはずだよ。そんな時間を起き続けていられたのかい?」


「あぁ、じゃあ無理ね」


 あっさりと言い放ってみせるルーミアに苦笑しながらルキナは口元に紅茶を運びつつ、当時を思い返す。


 ルキナがルーミアと最後に顔を合わせたのは、ルーミアが自らを封印して眠りに就く三年ほど前。

 当時のルーミアは何に対しても希薄な反応しか示そうとはせず、永く続いている自らの生に辟易としながら、ただただ退屈な毎日を過ごしていたように思える。

 ローンベルクの王位を譲ってからは完全に表舞台から姿を消していたが、【蒼天】とは違い、知る人ぞ知るような山の奥に城を構えており、貴重な素材を手に入れにやってきたルキナが挨拶がてらに一晩世話になったのだ。


 魔女になって時の呪縛から解放される。

 それは祝福ではある一方で呪いとも言える。

 別離を味わい、友と共に同じ時間の中で生きる事もできず、家族を作れば子を、孫を見送る事になるのだから。

 もともと夜魔はエルフなどと同様に長寿で、平均的に二百年程度は生きる種族ではあるものではあったが、そうした長い生に飽いてしまう存在というものは出てくる。

 それこそ、全盛期を激動の中で過ごしたような者ほど、そうなってしまう傾向が強いと言えた。


 ルーミアの生涯はその最たるものだ。

 ローンベルクという国を興し、大陸最大、最強の国家を築き上げた初代女王。

 その人生が安穏としたものであったと言えるはずもない。


 ただの人間から魔女となったルキナは、当時はまだ百歳と少し。

 苦労も苦しみもまだまだ理解できず、ただただ「まるで生きる死人だ」等というような印象を覚えた事は記憶している。

 その印象と共に、いつかは自分もまたそうなるのだろうかと、そんな疑問が胸の内に芽生えた事も。


「……ま、昔話に花を咲かせてもしょうがないからね。そろそろ聞かせておくれよ」


「あら、私はあなたの過去に興味があるんだけど?」


「バカ言うんじゃないよ。あまり時間ばかりかかってたらあのガキンチョ共が心配するだろ。ここでゆっくりと語ってる時間もないのさ」


「そう、残念。まあいいわ」


 あの時見たルーミアとはまるで違う、生き生きとした姿に内心で驚きつつも、ルキナは話を区切ってルーミアの話を聞く事にした。


 ルーミアが語ったのは、ルオという神がこの世界にやって来ており、自分はルオの召喚に応じてこの世界にやって来たこと。

 そしてルオの最終目的は、この世界の存在がルイナーと呼ばれている邪神の眷属に勝てるよう舞台を整えると同時に、この世界に魔力を行き渡らせ、適応させていくこと。

 そして、その目的のために今、自分とルオは敵対しているような形で魔法少女たちの前に現れており、自分は完全に敵側に回り、一方でルオは味方のように振る舞っている事などを語っていく。


 一通りの説明を終え、リュリュが新たに注いだ紅茶を口にしたルーミアに向けられていた視線は、多分に呆れを含んでいるような、理解のできないものを見るような種類のものであった。


「……はあ。なんだい、そりゃあ……。じゃあアンタ、今はそのルオとかいう神様の眷属にでもなっちまったのかい?」


「眷属? いえ、あくまでも協力者というところよ」


「どうせなら眷属にでもなればいいだろうに。人の生に飽いているんだから、その神様の眷属になれば、色々な世界に行く事だってありそうじゃないか」


 神の中でも上級、それも複数の世界の管理を行うような神の眷属であり、世界の問題を解決させるために裏からサポートするような役割だ。ならば、それこそ前の世界と似たような世界、今いるこの世界に類似した世界など、様々な世界に行く事もあるだろう。

 再び眠る事になるぐらいなら正式に眷属としてルオに従い、様々な世界に行けるようになった方が、生に飽いていたルーミアにとっても悪くない話だろうに、とルキナは思う。


 そんな提案をされるとは思っていなかったルーミアはきょとんとした表情を浮かべた後で、綻ぶような笑みを浮かべてみせた。


「そうね、それがいいわ! 早速後でルオに言いに行かなきゃ!」


「なんだい、気付いてなかったのかい?」


 ローンベルクという大国をたった一人で、ゼロから築き上げた存在なのだ。

 それぐらいの事はすでに考えており、布石を用意して実践していてもおかしくはないだろうと考えていただけに、未だに実践どころか考えていた様子すら見えないルーミアの様子にルキナは呆れたような目を向けた。


 そんな視線を受けて、ルーミアが苦笑する。


「気付くも何も、むしろそんな先がまだまだ見えてなかったのよ。終わりが見えれば考えもしたでしょうけど、この世界の状況、ハッキリ言って最悪よ? そんな先の事まで考えている余裕はなかったもの」


「最悪、か。否定はしないさ。魔法少女なんていう、子供に戦いを押し付けるような真似をしちまった世界だからね。英霊なんて存在じゃなくてアンタみたいに前の肉体があったなら、アタシが殺して回ってやったってのに」


「ルオもそうした方が早いとは言っていたけれど、この世界の住人が自らの手でこの苦難を払い除けなきゃ意味がないんですって」


「……その対策に魔力の拡散、そしてダンジョンかい」


「えぇ、そうね。最初は魔法少女だけを鍛えるつもりだったみたいだけれど、そう悠長な事を言っていられなくなってきたのよね。それで、魔法少女だけじゃなく人類そのものの戦力強化に舵を切ったってことね」


 人類全体の強化。

 まだまだ時間はかかるかもしれないが、しかし魔法少女だけに負担がかかり続け、いつ終わるのかも分からない戦いに身を投じ続けなくてはならなかった今までより、圧倒的に明るい未来が切り拓かれようとしている事は、ルキナも感じていた。


 幼少の頃より家族に裏切られ、芸能界に足を踏み入れた相棒のクラリス。

 そのクラリスは芸能界という世界に足を踏み入れてさらに人の無遠慮さに傷つけられている。

 クラリスが芸能界に入った理由がかつての家政婦に自分は元気だと伝えるという目的であったが、その先でまで嫉妬で傷つけられるクラリスを見る度に、かつて自分が人間という存在の浅はかさ、愚かさに嫌気が差して距離を置いていた事を思い返し、そんな人間のためにクラリスが戦い続けなくてはならないという現実に苛立ちを覚えた事もある。


 未だに当時の家政婦は見つかっておらず、連絡を取れている訳ではないが、しかしダンジョンが生まれ、徐々に魔力が人類に近づいていけば、最前線で戦う事を強要される時代は終わり、場合によっては戦いからも離れられるかもしれない。

 そうなれば人探しにもっと注力する事もできるかもしれない。


 少なくとも、ただ魔法少女だからというだけで戦いに身を投じ、命を懸けて戦うなんて馬鹿馬鹿しいというのがルキナの本音でもあり、その状況から脱せられるのなら悪くはない。


「……分かったよ。アンタに協力する」


「あら、いいの? 最悪、口止めだけでも約束してくれれば良かったけど?」


「口止めも何も、アタシはアタシの事だって話しちゃいないし、アンタの事も話すつもりはないさ。ただ、魔法少女の強化でアタシも魔法を簡略化したものをクラリスを通して魔法少女に浸透させようとしているんだけどね。それだけじゃ、結局魔法少女だけが強いままになっちまう。この子たちだけに重荷を背負わせ続けるような状況はさっさと終わらせたいのさ」


「……あなた、ずいぶんと優しくなったのね?」


 唐突に的外れな感想を向けられる形となったルキナは、目を丸くしてルーミアを見てから、その顔に苦笑を浮かべた。


「……大切な存在に、どうしようもない役割を押し付けるのは、もう二度と味わいたくないのさ」


「……そう」


 それはきっと、先程話に出た弟子の事なのではないだろうかとルーミアは思う。


 先程もそうだったが、ルキナは変わった。

 かつては他者に一切の興味を見せようともせず、ただただ距離を置いて、必要以上に関わろうともしなかった。国に属する事も嫌い、人と関わり合う事も嫌っていて、いつも一人でいる事を望んでいた、それが【暝天の魔女】の特徴だった。

 そんな彼女が懐かしむような、それでいて泣き出してしまいそうな何かを抱えて誰かの事を話す姿なんて見た事もなかった。


「それで、アタシは何をすりゃいいんだい? 言っておくけどね、この身体の持ち主は巻き込むつもりはないよ」


「あぁ、それは心配しなくてもいいわよ。何も魔法少女を裏切るとか、そんな事をしてもらうつもりはないわ。ただ、魔法少女の情報なんかをたまに私にくれればいいわ」


「なんだい、それだけかい?」


「えぇ、それでいいわよ。正直、魔法少女訓練校の情報とかってなかなか手に入らないのよ。だから何処に何をしに行くとか、すぐに手に入る環境を整えておきたいのよね」


 ルーミアも大和連邦軍内の人間から情報を引き抜くという事を行ってはいたものの、今では軍内部の状況も安定しており、わざわざ内部に工作を仕掛ける必要性は感じられなかった。

 現状でルーミアが欲するのは魔法少女の動向を把握できる環境であり、わざわざその為だけに軍内部の人間を新たに洗脳して情報を得ようとするのは労力に見合わないと考えており、なかなか()を開く機会がなかったとも言える。


 今はルオもダンジョンの件を含めてやる事があるとの事で別行動をする機会が多く、ルーミアの裁量で自由に動いていいとの許可も得ているのだが、やはりルーミアにとって、劇は多くの観客が見るべきであり、劇的でなくてはならないと考えている。

 事前に情報を得ておかなくては舞台を整える事ができないため、大々的なイベントを用意するのは難しい。

 そういう意味で、マスコミ等で公表されていないようなイベントになりそうな情報を先んじて手に入れておければ、色々と仕込み(・・・)ができるという期待があった。


「なるほどね。それぐらいなら構わないよ」


「それは助かるわ。連絡方法は使い魔あたりでいいかしら?」


「あぁ、適当な烏でも捕まえてアタシの使い魔にしておくさ」


 お互いに話は終わりだと言わずとも理解して、椅子から腰をあげる。

 その姿を見たリュリュがテーブルや椅子、ティーカップなどを影の中へと収納させると、別れ際にルーミアは思い出したかのように訊ねた。


「ねぇ、ルキナ」


「なんだい?」


「あなたの弟子の話、今度聞かせてもらえる?」


 その一言に、ルキナの目が揺れる。

 何かを迷うような態度を見せたルキナに向かってルーミアは小さく笑うと、またねとだけ言い残して自らも影の中へと溶けていくかのように消え去り、姿を消したのであった。

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