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魔法使いエマルフ、大罪につき  作者: エマルフ
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エマルフは魔法使い

 翌日


 エマルフは公園のトイレを借りて一日を過ごした。

 もちろん誰も来なかったが臭かったし虫もいっぱいいたが魔法のスプレーを創造し殺し、トイレに近づけない魔法も掛けて一夜を明けた。


「さて、行きますかね」


 トイレの扉を明けるとそこには昨日の警察が一人立っていた。


「うお! トイレから出てきた、お前まさかトイレに住んでるとかじゃねえよな!?」


 自遊坂という警察はエマルフの思いもよらぬところからの登場に驚く。


「一日くらい気にする事じゃねえよ。お前は、ところで今日は警察の服じゃないんだな?」


「ああ、俺は昨日のテメエのせいで今日は休めって言われてるんだ。流石に制服ではこれないからな」


「にしてもお前無地のシャツ一枚に、ジーンズの短パンって11月の格好には見えねえし、ファッションセンス皆無だな」


「変なとんがり帽子被ってでっけえ外套羽織ってるだけのお前に言われたくねえよ!! ……それでお前が言っていた通り、ここに俺が……俺たちが追ってる”すずきまさふみ”が来るんだな?」


「ん? まあ、少し待ってくれ。まだボクも起きたばっかりで準備が出来てないんだ。そう焦らないでくれよ」


「お前、すずきと口約束しただけで本当に来るのを待ってるだけとかじゃないよな?」


「まさか。昨日ボクは言ったはずだ。お前らが追っているすずきっていう奴は殺したんだから」


「な!? でもお前、まさか死体を連れて来たんじゃないだろうな?」


「わざわざ、死体なんて取っておかないよ。不吉だなあ」


「それじゃ話にならねえな。お前が何をするつもりだったのか知らねえが、お前をこのまま残していたらこれからも邪魔されちまいそうだ。ここで仕留めてやる」


「おいおい、物騒な事を。警察の言う事かな?」


「うるせえ、俺はこれでも、世界政府の機密組織――っと自分から口を滑らせるところだったぜ。まあ、とっとと――死ね」


 自遊坂の手にはハンドガンが構えられ、煙を吐き出していた。


「いやあ、危ないって。民間人に見られたらどうするのさ、君は今私服なんだよ」


「!? 銃弾を指と指で止めただと……」


 自遊坂が今しがた撃ったはずの銃弾は、狙った相手を射抜くことはなく、その対象の指と指に挟まれていた。


「ボクを殺そうとするなんて来世に魔法使いにでもならないと君には出来ないよ」


「魔法使い……。お前は本当に人間じゃないみたいだな」


「まるで予想がついていたみたいな反応だね。それともそういうのが分かる警察組織って事なのかな?」


「まあ、そういうところだ。バケモノ」


「バケモノって……。別に荒らしに来たわけじゃないんだからそんな言葉使わないでよ」


「人間以外バケモノだ――!」


 自遊坂がエマルフに向け何発か発砲した。

 しかし、そのどれもエマルフの指に容易く捉えられ、一切命中することはなかった。


「無駄なことはしないでよ。それ後一発しか入ってないでしょ。この魔法使いのボクにはお見通しだよ!!」


「変なポーズキメるな」


 横に曲げた腰に手を当て指をさしてくる変態に自遊坂は発砲する。


「危ないな! 死ぬところだったじゃないか!!」


「普通に取ってるじゃねえか」


「熱いんだぞ! 発砲したての銃弾は!!」


「じゃあ、取らずに撃たれて死ねよ」


「理不尽だ! そもそもなんでボクが殺される必要があるんだ!! それに、君もう弾入ってない筈だよ。いつまでそんなオモチャ構えてるんだい?」


「いや、もう十分時間は稼いだ。もうそろそろ良いんじゃないかな? ――カイリ」


「?」


 エマルフが自遊坂の言葉にはてなを浮かべていると、自遊坂の後ろの草むらから音が聞こえ、一人の少女の姿が現れた。


「久しぶり、エマルフ・ヴァン・ウルフギャング」


「いや、君は誰だね??」


「人間界に落とされて魔力も落ちたんじゃないかしら? 私の美しさに気付けないなんてとんだ腑抜けだわ」


「あー、その口の悪さは”鏡張りのカイリ”さんか。すまない、君と会うことはないと名前も姿すらも忘れ去っていたよ。とても会いたくなかったよ、早く帰り給え。それとも悪さでもして君も落とされたか? いや、それ以外考えられないな。何悪さしたんだ?」


「違うわよ!! 私は司祭様に指示を受けてあなたを仕留めに来たの。あ、間違えた。あなたが司祭様から奪った魔法石を司祭様の元に返すため取り返しに来たの」


「ああ、これか」


 エマルフは外套の内側から赤く輝く石を取り出す。


「大人しくそれを私に渡しなさい。司祭様の魔力と命、お城の存在を継続させるために必要不可欠の魔法石なの。貴方のようなならず者が持っていて良いモノじゃないのよ」


「いいじゃねえか、あのクソじじぃとっとと死んじまえよ。アイツのせいで魔法界の治安が悪くなってんだぜ? 子供のお前には分からねえだろうけど、じじぃの白々しいルールが若者の生き心地を苦しめてるんだよ」


「司祭様を……司祭様をそんな呼び方するな!! キサマはさっきの銃弾に魔力を吸われて何もできないはずだ! くらえ、ウォーターマジック――カァトゥロ・ァグア!!!」


 カイリという魔法少女がそう言い放つと地面から水の柱が現れエマルフを中心に囲う様に円を描き接近していく。

 その水の柱は1つは電気がハシりバチバチと音を立てて光を放ち、1つは炎と交差するように回転し、1つは意志を持っているようにドラゴンの顔を持ち突進するように近づき、1つは水というより殆ど凍っていて当たれば一瞬にして凍ってしまいそうなほどの冷気を放っている。

 エマルフはその中心で黙って立ち尽くしている。

 そして次の瞬間、その四つの水柱はエマルフを捉え、バチバチと音を立て、業火の炎がその場で立ち上がると水の柱は一本の氷の柱へと変わり、残されたドラゴンの顔を持った水柱も凍りその周りをらせん状に回転しながら上へと上昇したのち、勢いよくその氷の柱を柱の先から勢いよく食らいつくように牙を向け柱の生える地上までかみ砕いた。

 氷は崩れその氷の山の中に赤く輝く魔法石が残されていた。


「この魔法石は何をしても決して割れることはない不滅の石なんだ」


 カイリはその司祭が持ち主の魔法石に手を伸ばす。


 ピキィ


「――!?」


 魔法石に僅かな日々が入る。そして、次の瞬間、今しがたの氷のように崩れるように割れた。


「な!? 魔法石が、どうして!?」


「あぁあ、カイリ、魔法石割れちゃったな。そんなんじじぃになんて報告するつもりだ?」


 声のした方へカイリは振り返る。公園を囲う木々の一本の上に、そこにはエマルフが立っていた。


「いつの間に!? 魔力はほぼ全て吸い取ったはずなのに!?」


「ボクの魔法を忘れたのかな、カイリ?」


「まさか……!?」


「そう、たった今君が壊したボクと石は、ボクの――」


 エマルフは肩の位置で手の平を下に向ける。

 するとエマルフの手から黒い煙のような渦が現れ足元の木の上に到達し、そこから人の形が現れる。

 それはうずくまるような姿勢からゆるりと立ち上がり、舞う黒煙が消え明確な姿はまるで、いや、全くその隣にいる男とうり二つの姿をしていた。


「創造。それがボクの魔法。それが君が壊したものの正体だよ。それと、ボクの魔法はたった1パーセントしか残っていない魔力でも発動する事が出来る。ま、そもそもデカ自遊坂くんの弾はボク自身には当たってなかったという話なんだけど、ね」


 木の上から2人となったエマルフは地面に降りる。


「ボクを殺したら自遊坂くんが困るんじゃないかな? カイリが介入するとしてももっと後にした方が良い気がするんだけどな」


「テメエは邪魔しかしてねえじゃねえか! だったらとっとと殺した方が良いに決まってるだろ」


 先とは別の銃を構えている自遊坂が叫ぶ。


「気付かなかったけど、もしかして魔法陣張ってる? カイリ」


「ああ、流石に人間界の者に見られるわけにはいかないからな。見られたら殺さなきゃならない」


「じゃあ、自遊坂くんも同じじゃないか」


「お前を捕まえるために協力して貰ってるんだ。少なくともあとで私の事だけは記憶から消しておくつもりだ。そんなのはこちらで話は済んでいる」


「そっか、カイリ心理魔法使えるようになったんだね。凄いじゃん!」


「うるさい、さっさと死にやがれ! 私にはお前の弱点は分かってるんだぞ!!」


「へえ。じゃあやられないように頑張ろっと――」


 パシッ


 エマルフは手を叩き、その腕を左右に広げる。


「幻想賛歌――火玉」


 左右に広げた手の平から放たれるように黒煙が広がり、さっき木の上で起こったように地面へと煙が垂れるとそこからエマルフの姿が現れる。


「魔法界の個人的な恨みもある、お前から魔力を奪ってから魔法界に帰ってやる!!」


 そう宣言すると空気は一瞬にして乾燥し公園にある全ての物は氷に覆われていく。


「私は氷の魔法使い。特急魔法使いになるのが将来の夢だ。お前なんか一瞬にして凍り潰してやる! ――氷魔――スロークラッシュ!!」


 カイリの目の前にはエマルフの創造したエマルフがエマルフしておよそエマルフの顔が10体。それらはカイリへ向かって来ている。

 しかし、そのエマルフの目の前に長身で深紫色のカーディガンを羽織った女が現れる。髪が長く顔も見えない。

 更にエマルフを挟むようにエマルフの後ろに貴族が座ってそうな高貴な椅子が現れる。そのどちらも冷気を放ち、エマルフに触れると一瞬にして凍らせていく。

 標的の姿をつま先から全身凍らせると、


「Hush!!」


 その言葉と共に氷と化した肉体の数々は静かに粉々に粉砕し地面に粉雪と化し舞う。


「手間を取らせるな、追放された魔法使いが」


 カイリは小さく出来た粉雪の積もった幾つもの雪山を探り魔法石を探す。


 パチンッ


 何かが弾かれるような音がした。

 カイリはそれが背後からしたことに気付き見ると、エマルフが指をはじいた音だったのだと理解した。そして、それを理解した時にはすでに遅かった。

 カイリは身体中を2人のエマルフにつかまり、身動きが取れないように手錠を付けられてしまった。


「魔法石なんてそもそもボクはもう持っていない。ここに落とされた時どこかに落としちゃったんだ。まあ、それでボクは良いと思ってるんだ。探したかったら探せばいいんだけど、君のようなひよっこ魔法使いに人間のセカイで探せるかな。どうだろうか」


 もう一度――パチンッ――という音が響いた。


「魔法界に帰るつもりはない。人間界でボクは生きていく事に決めた。まあ、諦めたと言った方が聞こえが良いかもしれないが。じゃあね、カイリ、それで魔法界に帰れるよ」


 カイリの背後に黒い渦のように空気が歪んだような空間が現れる。その空間に複製エマルフが引きづっていく。カイリはもがいているが、何も抵抗は出来なかった。

 カイリがその場から消えたところで氷で囲われていた公園は一瞬にして原型を取り戻し、エマルフと自遊坂の2人だけが残った。


「自遊坂くん、ボクには創造の力がある。その力で君の求めている存在を取り戻してあげよう――」


「それじゃあ、ここに今命を再現するから――」


 エマルフはそう言い手の平を地面に向け黒い煙が地面に到達すると自遊坂が探している、警察が探しているその姿が現れた。


 ――しかし、エマルフの話している事、動作の全てを理解していないほどに、現実離れしたすべてに混乱した自遊坂は犯罪集団のプロフェッショナルには不似合いな形相でエマルフに向け銃声を響かせた――。


「――――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 その悲鳴はエマルフの物ではなかった。

 その悲鳴は自遊坂の探していた男――

 それを理解した自遊坂はさらに混乱し、膝から崩れ、恐怖し、嗚咽し、手を震わせ――




 ――あれ? ここはどこだ?


「ああ、目が覚めたみたいだね、警察さん」


「ん? てめえ――魔法使い……!?」


 自遊坂は横に座るエマルフに気付き、反射的に立ち上がり腰に手を伸ばしたが、拳銃は見つからない。


「ボクはこのまま別の国に出掛けるつもりだけど、君の仕事の為に一応、すずきっていう男は蘇らせておいたけど、どうする?」


「すずき……。よみがえらせた……?」


 自遊坂は頭部に頭痛を覚え一瞬顔が引きつる。


「まあ、ボクから君には何もしないから安静にしなよ。ボクは魔法使い。これは間違いがない。魔法使いには幾つか掟が合って、その掟を破ると罰を受けたりする。ボクが人間界にいるのはそれが理由。で、魔法使いは、人間には手だししてはいけない。殺したり、危害を与えるようなこと。魔法界でボクは、魔法界でしてはいけない事をした」


「……あの魔法使いの女が言っていた魔法石を盗んだ事か?」


「ん~。まあ、それもそうかもしれないけど、魔法界からの追放まではされない。魔法使いで最も使ってはいけない……そもそも、その魔法自体を覚えるのも不可能に等しいが僕には出来てしまった。それは――人を生き返らせる事なんだ」


「人を生き返らせる……。それをじゃあ、お前はすずきに……?」


「まあ、そういう事だ。ボクは罪によって人間界へ追放され、そこで追放の原因である罪を人間界でやった。本来は、創造で済ませようと思っていたんだけど、ボク自体がいなかったことにしたかったし、創造を使えば魔力がスズキの身体に――まあ、複製意志に過ぎないが――魔力が残ってしまう。そうなると、魔力を狙った獣に追われるリスクが生まれる。そんな事態は起きないはずだが万が一がある。……まあ、それはこっちの話か」


「ほんとにそれだけか?」


「? どういうことだ?」


「女から聞いたぞ、それよりも生死の問われる大罪があるって。……詳細には聴かなかったが、お前は何をしたんだ?」


「確かに、あれは罪深い……。ボクの世界では一番の犯罪。ただの死刑じゃ済まされない。蘇生魔法は魔法使いの手で抑えようと思えばできる。まあ、本来ならそれが出来るようになってしまうと死刑か終身刑で済まされるんだけど、しかし、それよりもっと向こう側の――まあ、人間の君には関係のない事だよ。しいて言うなら――悪魔に命を――魂を売った――と言っておこうかな。彼女は知らずにボクを殺そうとまでしていたけど――」


「――悪魔……?」


「ま、生命の謎に手を下したっていう意味と捉えてくれ。これから、恐らく任務を果たせず帰ってきたカイリの代わりにまた魔法使いが人間界に降りてくるだろうな。今度は1人だけじゃないかもしれない。それじゃ被害が広がる。ボクはこの街からは離れるよ。君の邪魔はもうしない。ただ偶然この国に降りて、あの男とバーで出くわして、たまたまそれが、君の追っている男だったってだけなんだ。別に何か意図が合って、殺したんじゃない。彼がボクを襲ってきたから、殺したんだけど、もう恨みもどうでも良い、記憶はそのまま持っているだろう。君がしたいように処理すればいい。手錠を掛けておいた」


「ところで、ここはどこなんだ? そのすずき本人もどこにいる?」


「ああ、ボクの空間魔法の創造した世界だよ。まあ、さっきまでいた公園にボクたちだけの空間を作っただけだけど。あまり、君と話しているところを人に見られるわけにはいかないからね。すずきは公園のトイレにいるよ。鍵も閉めてあるし彼は意識を失っているから、キミがドアに触れれば開くようにしてある」


「なんでそんな事ができる……?」


「魔法使いだからだよ。何度も説明する必要あるかい? 別に君についてボクは興味はない、その程度でボクに対しての興味もあまり持たないでくれ。ボクからあらぬ形でだけど訪問したのは認めるけど、あまり人間が人間の世界以外の事まで首を突っ込まない方が良い……。それじゃ、ボクは、出ていくよ」


「ちょ、ちょっと待っ――」


 エマルフはその場から煙と化し消え、同時に自遊坂を取り囲んでいた異様な空間が消滅し元の公園のベンチに座っていた。魔法が遠のいた事なのだろうか。自遊坂はそんな事を考えたが、どっと疲労を感じたまま、エマルフに言われたすずきのいるトイレを明けるとそこには確かに、男が蓋の閉じた便器に座る姿勢で眠っていた。


 数日後、すずきまさひさを確保したモノの何日か殺人が連続していた。しかし、それは3日間だけだった。その3日以降、その国で1年は他殺が起こる事はなかった。

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