4話 ペンダントには何が?
魔王戦前日はこれで終わりです。
「失礼します」
シャーロットが俺のいるテントに向かって声をかけ、中に入る。
もしかしてさっきも言ってたのかな?気付かなかった。
「ごめん。椅子は用意できなかったから、てきとうに座って」
「いえ、大丈夫です。お願いしたのは私ですから」
そう言ってシャーロットは俺の近くに腰を下ろす。
少し落ち着かないが、構わないと言ったは俺だしこのまま始めよう。
アレンは左手でペンダントを持ち、右手の人差し指と中指をペンダントの上にかぶせてゆっくり丁寧に魔力を注ぐ。
感覚的には5分くらい経っただろうか、シャーロットが質問して来た。
「あの、そのペンダントには微量にですけど、アレンの生命力まで混ざっている気がするのですが…どうしてですか?」
その言葉に俺はあっ!となる。
そうだ、シャーロットは聖女だった。
彼女は人に宿る魂を可視化できる(実際に可視化するには、シャーロットが自分の目を魔力で強化する必要があるが…)。
ちなみに、死んだ人の魂を知覚するとなると大聖女クラスの力が必要だ。
彼女は聖女としてこのペンダントに違和感を感じ、目を強化したのだろう。
実際に、アレンは微量ではあるが魔力と一緒に生命力をペンダントへ注いでいた。
どう答えようか…
「えーっとだな…このペンダントに込めた簡易障壁の魔法は俺のオリジナル魔法で俺にしか発動することができないんだ。
だから、あらかじめ俺の生命力をペンダントに宿すことによって、誰でも任意のタイミングで障壁を展開できるようにしたんだ。
いわばここで言う俺の生命力は、この魔法を発動させるための鍵みたいなものだな」
シャーロットにペンダントを見せながら言葉を選んで説明する。
「それは大丈夫なのでしょうか?…あ、その魔法がきちんと発動するか。ではなくアレンの体が大丈夫かという意味です」
心配そうにシャーロットは俺を見る。
「問題ない。シャーロットも見たならわかるだろ?ペンダントに流れた生命力は少ない。物で例えてもせいぜい鶏の卵くらいの大きさだろう」
嘘も含まれているが、まぁ許容範囲だろう。
一度言葉を区切ってシャーロットの反応を待つ。
「…そうですか。分かりました。筋は通っていますし、アレンが問題ないのであれば大丈夫なのでしょう」
少将懐疑的ではあるが、シャーロットは納得してくれた。
俺はホッとし作業に戻ろうとする。
シャーロットは机の上に置かれたペンダントをじっと見つめていた。
その後、2人は一言も会話することなく、黙々と作業が進んだ。
~~ 1時間後 ~~
「よし、終わった…」
最後のペンダントに魔力を注ぎ終え、作業を終了する。
そういえばシャーロットが居たはずだが…と思いテント内を見渡したが、彼女は居なかった。
どこ行ったんだ?
とりあえず4つのペンダントを鞄にいれ、外に出る。
暗いな…
空はすでに暗く夜になっていた。
まぁ、始めたのは夕方ごろだしな。
ちなみにテントは暗くなるにつれて、自動的に光が点灯するようにしている。
体の伸びをして周りを見渡すと、ランタンを持ったラインとタンクが近づいてくるのが見えた。
「やっと準備は終わったのか?
やっぱり今日は、俺たちと一緒に晩飯食べれなかったな」
笑いながらラインが話しかけてくる。
「シャーロットからシチューを貰ったしし良いかなって」
「ひどい。仲間たちと食べるのも大切じゃないかーー」
バシバシ俺の背中をたたきながら愚痴るライン。
痛い痛い!!お前、勇者ってこと忘れてないよな?洒落にならない強さなんだが。ラインが背中をたたくたびに身体強化をして耐える。
「あまり姫様のお手を煩わせるなよ?お前の皿だって姫様が持ってきたんだからな?」
タンクが真面目な声で俺に注意する。
「あ、確かに皿が無かったな。そっか……さすがに度が過ぎたな。すまん、次から気を付ける」
俺が謝罪するとタンクは苦笑した。
「謝る相手が違うぞ?俺じゃなくて姫様に謝ってこい」
そう言いながらシャーロットのいる場所を指す。
その方向を見ると明かるく照らされた場所の近くでシャーロットが食器を片付けていた。
後片付けのために出て行ったのか…
しっかりしてるなと感心するが、同時に申し訳なさが込み上げ、手伝おうと決断する。
「そうだな。ちょっと行ってくる。
ラインも悪かったな、次から気を付けるよ」
ラインは「良いってことよ」と言いながら、親指をグッとだしていた。
ーーーーーー
ラインとタンクから離れた俺は、1人で食器を片付けるシャーロットの元に近づく。
ソフィアはどうやら焚き火とかの後片付けをしているようだ。
「シャーロット、俺も手伝うよ」
「あ、作業終わったんですね。お疲れ様です。
では水を汲んできていただけますか?残りが少なくて…」
「わかった。さっきはごめんな。
シチュー持ってきてもらった挙句、皿まで回収してもらって…」
誠心誠意謝る。
シャーロットは一瞬固まっていたが、意図を理解したのか微笑みながら話しかける。
「構いませんよ。アレンの一連の作業は私たちのためのものでしょう?お互い様ですよ」
俺はシャーロットに深く感謝し、気づいたことも指摘してみる。
「ありがとうシャーロット。鼻に泡がついてるけど。」
「……なっッ!!?」
顔を赤くしながらこしこしと拭うシャーロットを見て、空を見上げる。
魔大陸に上陸して2週間
少しはこれぐらいリラックスした時間を過ごしてもいいのかな?と言い聞かせ、水辺に向かって歩いて行った。