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世の中なんて所詮実力が全てである  作者: 岩谷衣幸
序章 実力主義の世界
9/9

第9話 実力主義の真実

 数日後。

 今日は5月1日で、IGポイントが振り込まれる日とあって教室は浮ついた雰囲気に包まれていた。

 4月上旬に与えられたIGポイントが巨額だったため、殆どの生徒が与えられたポイントをゲーム機やパソコン、洋服などで散財したらしい。それによって生活費が無くなってバイトをしていた生徒もいるんだとか。

 また巨額のポイントを手にすることが出来るという事実に皆舞い上がっている。実力試験など過酷な事もあるが、豪遊出来るならばあの程度の試験など乗り越える事ぐらい造作も無いというのが生徒の心境のようだ。


「光、おはよう。」


 教室に入ってきた光に挨拶する錬。サッカー部の朝練終わりで軽く汗をかいており、活かしたスポーツマンという雰囲気がある。一応、錬は()()()()だけは良く、錬をよく知らない女子からは人気があるのだ。まあ、殆どの女子が性格で幻滅してしまうのだが。


「おはよう、錬。」


 低身長で中性的な顔立ちの光は笑顔で錬に挨拶を返す。女子からは庇護欲がそそられるとして人気だ。錬と違って性格も良いのだが、本人は納得していないらしい。


「なあなあ……光はIGポイントどのくらい残ってる?」


 錬が興味津々な様子で光に訊いた。


「えっと……大体80,000pくらいかな。」


 光はIGポイントが与えられる日でも特に変わった様子も無く、寧ろ興味無さげに答えた。


「おいおい、半分も使ってないじゃねぇか。勿体ないなぁ。折角大金手にしてるんだからぱぁーっと使っちゃえよ。毎月100,000近くのポイントが手に入るんだぜ?光も一緒に散財しようぜ!……な?……な?」


 錬が大仰に手振り身振りを入れながら、光に散財の魅力を力説する。


「別にポイントをどう使おうが俺の勝手でしょ。それに毎月100,000のポイントを何に使うんだよ……というか逆に訊くけど、錬はどれくらい残ってるの?」


 光は錬の力説を鬱陶しく感じて話の方向を変えようと試みる。


「え?……そんなのもう殆ど残ってないに決まってんじゃん。2,000pくらいだったか?

 んなことよりも光も散財した方が良いぜ。ストレス発散にもなるしよぉ……」


 だが、錬は光の思惑通りにはならずに力説を再開した。

 これに対して、光はうんざりした表情を浮かべる。散財する事に何故そんなにも力説するのか判らないと書かれているのが判る顔だ。


「錬は何でそんなにも散財させようとしたいんだ?」


 光は素朴な疑問を口にした。


「……ベ、別に、俺みたいに散財しまくったせいで生活すら危うい憐れな奴を増やそうとか思ってないし!

 唯散財の良さを知って欲しかっただけだし!!」


 一言多い錬。自分で言っておいて、自分で勝手に慌てている。

 そんな馬鹿というか憐れな錬を光は冷ややかな目で見た。


「2人とも、おはよう。」


 すると、勉が剣道部の朝練を終わらせて教室に入ってきた。錬と同様に汗をかいていて、如何にも爽やか系イケメンの雰囲気がある。

 本人達は知らないが、爽やか系の勉、可愛い系の光、ワイルド系の錬とイケメン3人組と学年ではそれなりに人気があるのだ。


「ん?……なんか皆何時もより騒がしくないか?」


 勉は何時もよりも騒がしい教室に疑問を抱いたようだ。


「はぁ……今日はIGポイントが振り込まれる日だぜ?勉もポイントには無頓着なのかよ……全く2人揃って……」


 錬は勉と光のポイントに対する無欲さに呆れて溜息を1つついた。


「俺は剣道が出来ればそれで良いんだよ。錬こそ、欲望に忠実過ぎるんじゃないか?」


 錬の言い様にむっとした勉が錬に言い返した。


「はっ……欲望に忠実で何が悪い?欲望の無い人生なんて、それ程詰まらないものは無いぜ。」


 錬はキメ顔をしながらそう断言した。


「うわぁ……錬、なんかギャンブル依存症の人みたいだよ……」


 光が錬の様子に引きながらそう呟いた。錬を可哀想な人を見る目で見る光と勉。


「2人とも非道くね!?」


 2人の目線に耐えられなくなって錬は叫んだ。


「金田くん、落ち着いて下さい。廊下にまで声が聞こえていましたよ。」


 すると、狭間先生が教室に入ってきた。

 狭間先生に言われてシュンと静かになる錬。


「皆さん、席に着いて下さい。HRを始めます。

 これから皆さんに1人1台スマートウォッチを配ります。」


 狭間先生は教卓に置いてある段ボールから箱を取り出して1人1箱ずつ配っていく。

 箱を開けてみると、中には最新型のスマートウォッチ本体と説明書があった。


「そのスマートウォッチには多種多様な機能が搭載されています。生徒同士のチャットや通話機能、小型カメラや録音機能、ネット検索機能と携帯端末に引けを取らない性能です。

 始めに、スマートウォッチを起動するにはディスプレイの右側中央のボタンを長押しして下さい。」


 狭間先生の言葉通りにボタンを押すと、スマートウォッチが起動して画面が光った。

 画面には中央にオレンジのシルエットが映されている。これはアメリカの『orange』という企業のシンボルだ。ディスプレイが割れやすいが、多機能で使いやすいと評判らしい。


「起動出来た人からディスプレイに学生証のQRコードを翳して下さい。そうすると、初期設定を一々設定しなくて済むようになります。」


 学生証の裏面にあるQRコードをスマートウォッチの画面に翳すとピッという電子音が鳴る。

 すると、画面に自分の顔写真と生年月日やクラス等の個人情報が表示された。

 しかし、徐々に教室内がざわざわと騒がしくなっていく。光が周りに耳を傾けてみれば……


「あれ?……IGポイント全然足りねぇじゃん。」

「ホントだ……50,000pしか振り込まれてない……」

「は?……俺なんて逆に減ってるぞっ!?どういうことだ!!」


 どうやら、IGポイントの残高に何かトラブルが発生したようだ。

光も個人情報と一緒に表示されているIGポイントの残高を確認してみる。そこには241,550pとあった。

 4月上旬に支給されたポイントは147,300pで、昨日までの残高は81,450p。更に先日の実力試験の報酬が2,500p。

 合計231,250pになるから光の残高も誤差は生じているようだ。

 クラスの殆どの生徒は誤差が生じているらしい。教室の彼方此方から「先生、学校側のトラブルなんですか?」とか、「説明して下さい」という声が上がっている。

 しかし、当の狭間先生は俯いているだけで反応が無い。よく見ると、表情は見えないが肩が小刻みに震えていた。


「フハハッ……フハハハッ……フハハハハッ……」


 突然、狭間先生が声を上げて笑い出した。

 これに対して、騒がしくなっていた教室が静まって困惑した雰囲気が漂う。冷静沈着を体現したかのような狭間先生が声を上げて笑うなど誰が予想出来たことか。


「はぁ……申し訳ありません。余りにも皆さんが滑稽なもので……つい声を上げて嗤ってしまいました。」


 狭間先生はずれた丸眼鏡を直しながら生徒に謝罪した。しかし、その顔には未だに笑みが残っている。

 抑も、何故狭間先生が声を上げて笑い出したのか誰も判らない。謝罪よりも笑い出した理由を答えて欲しいと思っているようだ。


「……皆さんは本当に面白いですね。たかがこの学校に入学した程度で自惚れるなんて……世の中そんなに甘い訳無いでしょう。」


 狭間先生が声のトーンを何時もより低くしてそう言い放った。狭間先生の目には生徒に対する侮蔑の色が混じっている。

 特に最後の言葉に力を入れて話したようで、巨大な威圧(プレッシャー)が教室にのし掛かった。

 先日の実力試験の際の威圧(プレッシャー)とは比べ物にならない程巨大だ。誰も喋れないし、動けもしない。


「入学したら無条件で毎月多額のIGポイントが支給されると本気で思っているんですか?皆さんにそんなに優遇する実力があると?自惚れるのは辞めて下さい。

 入学式の時に生徒会長が言っていたことを覚えていますか?」


 狭間先生は教室を見渡して答えられる生徒がいないか確認する。

 しかし、誰も答えようとしない。威圧(プレッシャー)のせいでもあるが、殆どの生徒は生徒会長の言葉など右耳から左耳へと聞き流しているからだ。


「『エリートであることを証明しろ』。彼はそう言ったんです。

 では、どうやって証明するのか……それはIGポイントです。」


 狭間先生の言葉に怪訝な表情を浮かべる生徒達。

 実力は定期試験や実力試験で証明するものだとばっかり思っていたのだろう。


「抑も、IGポイントの『IG』とは何を示していると思いますか?

 Individual Grade、つまり個人成績という意味です。

 IGポイントは定期試験や実力試験のみならず、普段の生活にすら反映されるポイントです。皆さんの授業態度等を考慮するので毎月振り込まれる額は変動します。つまり、IGポイントが高ければ高いほど実力があるということになります。

 逆に授業を真面目に受けていなかったりするとIGポイントを没収します。

 そして、IGポイントの残高が0になった場合、その生徒は退学となるので注意して下さい。

 更に今まで無料で利用出来ていた食堂も明日から有料となります。」


 『退学』という言葉に騒然となる教室。

 今現在で、IGポイントの残高が殆ど無い生徒が幾許かいる。その生徒は退学寸前ということだ。焦らない筈が無い。


「……先生、質問しても良いですか?」


 此処で手を挙げたのが水池だ。


「えぇ、どうぞ。」


 水池の手は前回同様に震えていた。しかし、クラスのために自分を奮い立たせたのだろう。本当に優しい子だ。


「IGポイントの消費は生活する上で欠かせません。月末になるにつれてIGポイントは減っていきます。それでは実力を示しているとは言い難いのではないですか?」


 水池の質問は尤もだ。これではIGポイントが0になっていないのに、生活費によって退学になってしまう。生活費を賄うだけのポイントを溜められなかった生徒が悪いと言われればそれまでだが、世間から見たら不当退学もいい所である。


「金銭感覚も実力の内の1つです。それに生活費を賄うだけのIGポイントが無いのならば、バイトをすれば良いだけの話です。この学校は年中人手不足が否めないので学校の敷地内でのバイトは許可されています。

 しかし、IGポイントが十分あるのにバイトをする事はお奨めしません。IGポイントから現金に変換する事は出来ますが、反対は出来ません。更に、バイトを解雇された場合、その生徒は10,000pを没収されてしまいます。時給は良いですが労働環境は良くないので生活が厳しい人以外はメリットが少ないと思います。

 そして、もう1つ。この学校に入学した皆さんはは殆どの人が『国際教育学園大学』に進学したいと考えているでしょう。アメリカの『ニューヨーク大学』かイギリスの『マンチェスター大学』か東京の『大阪大学』かは人それぞれでしょうが、そこに進学出来るのは一学年でIGポイントの所持量が多い40人のみとなります。他の生徒は『国際教育学園大学』に進学する事は出来ません。」


 更に騒がしくなっていく教室。重要な情報が多すぎて既にパンクしている生徒もいるようだ。


「どういう事ですかっ!?」

「何で1か月前に説明してくれなかったんですか?」


 教室中から生徒の抗議の声が次々と上がっていく。


「……皆さん、本気で言っていますか?」


 狭間先生が再度教室に威圧(プレッシャー)を放った。


「本当にそう思っているのなら、余りにも魯鈍な事です。

 高校生に200,000円に相当するポイントを無条件で支給されると本気で思っていたんですか?何故疑問に思わないんですか?何故疑問をそのままにしていたんですか?私達教師が一々説明しなければならないのですか?

 余りにも幼稚。

 此処はエリートが通う場所であり、そんな程度の事も判らないような皆さんは直ぐに退学になりますよ。

 私は皆さんに失望しました。」


 狭間先生は呆れたように溜息を1つついた。

 教室に重い空気がのし掛かる。狭間先生の言った事は正論であり、誰も反論出来ないからだ。


「ゴールデンウィーク明けに中間試験があるので1限目は自習にして下さい。話は以上です。

 ……あぁ、忘れてました。影谷くんは私に付いてきて下さい。」


 光は急に名指しされて困惑したが、狭間先生が光を見て催促していたから席を立って教室を出た。


「今年の生徒は自惚れている生徒が多くて困りましたね。」


 狭間先生は態とらしく肩を竦めながら歩き始めた。

 光は狭間先生の後を付いて行く。


「……自分も自惚れていた口ですので何とも言えませんね。」


 光は淡々とした様子で答えた。


「謙遜する必要は無いですよ。入学翌日に管理室に辿り着いた生徒は初めてですので。」


 狭間先生の言葉に光は足を止めて狭間先生を凝視した。

 狭間先生も足を止めて振り返ると狭間先生と光の視線が交差する。


「まあそんなに警戒しなくて良いですよ。詳しい話はまた後程という事で。」


 狭間先生はそれだけ言うと再び歩き始めた。光も黙って狭間先生に付いて行く。

 そして、暫く付いて行くと狭間先生がある扉の前で止まった。

 その扉には『校長室』とある。


「失礼します。狭間です。彼を連れてきました。」


 扉をノックして中に入り、綺麗な御辞儀をした狭間先生。

 光も狭間先生に倣って御辞儀をした。


「狭間くん、ご苦労だったよ。

 君が影谷光くんだね?」


 校長室の奥の椅子に座っている熟年の男性。紅藤色の髪とモーブの瞳には熟年とは思えない程の生気を感じる。


「初めまして、1年A組の影谷光と申します。」


 光はもう1度御辞儀をした。


「うん、私が此処の校長をしている箕作篤造(みつくりあつぞう)だ。よろしくね。」


 箕作校長は椅子を立って光の目の前まで歩いてきた。

 普通ならば握手を求めに来たと思うだろう。実際、光もそう思っていた。

 しかし、此処は普通ならざる場所。光はそれを失念していたのだ。


「……っ!?」


 箕作校長は熟年とは思えない程の素早い動きで懐から何かを取り出して光に向けようとする。

 光はそれを察知して、向けられる前にその何かを掴んで向けられるのを止めた。


「……自分は何か箕作校長に対して無礼を働いたのでしょうか?流石に拳銃を向けられようとは思いもしませんでした。」


 そう、箕作校長が懐から取り出した何かとは拳銃のだったのだ。

 光は箕作校長の余りにも非常識な行動に、思わず箕作校長を凝視した。


「凄いねぇ……此処まで反応速度だとは思いもしなかったよ。あの氷川くんが直々に生徒会に勧誘するのも納得だ。」


 箕作校長は光の視線を気にもせずに、光の反応に感心していた。


「……説明していただいてよろしいでしょうか?」


 光は掴んでいた拳銃を手放して箕作校長に説明を求めた。


「勿論だとも。すまないね、急にこんな事をして。

 でも、如何しても君の実力を直接確かめたかったからね。試させてもらったよ。」


 箕作校長はそう言うが、今も箕作校長は光を見定めるかのような眼差しを向けている。まだ試しているのだろう。


「それで、自分は箕作校長の眼鏡に適ったのでしょうか?」


 光は箕作校長の見定めるかのような眼差しを諸ともしていない。毅然とした態度だ。

 箕作校長もそんな様子の光を見て面白いと言わんばかりの表情をしている。


「ああ、君は私の思った以上の生徒のようだ。」


 箕作校長は満足げに光の質問を肯定した。


「こんな話を知っているかい?

 ほんの3ヶ月前の事なんだけどね。ある裏組織で反乱が起こったんだよ。反乱と言っても幹部の1人が上司を殺してその組織から脱走したって事らしいけど。その幹部は今も行方不明なんだって。どうしてその幹部は脱走なんてしたんだろうね?」


 箕作校長と光の視線が交差する。


「急にそんな話をされても……まるで漫画のような話ですねとしか言い様がありません。」


 光は感情を一切感じさせない表情で答えた。


「そうか……まあ急にそんな話をされても困るよね。すまないね。」


 少し残念そうな顔をした箕作校長。

 そして、箕作校長の眼差しが柔らかいものになる。まるで孫を見ているかのような目だ。


「これから話すことは他言無用で頼むよ。

 この学校が実力主義を掲げているのは知ってるよね?でも、抑も実力の定義って何だと思う?

 私はね、人を構成する要素の『数』と『質』が実力だと考えているんだよ。

 『数』はその人が出来ることの個数だ。『質』は出来ることの熟練度と言えば良いのかな。『数』を上げるには出来ることを増やす、つまり、見聞を広めるということだ。『質』を上げるには出来ることを練習する、つまり、鍛錬をするということだ。

 何が言いたいかって言うと、実力をあげるには見聞を広めるか、鍛錬をするしかないって事だよ。

 此れまで実力をつけるって聞くと、『質』の向上に目が向きがちなんだ。『数』の向上に目を向ける人は少ない。

 此処では『数』と『質』の両方の向上に努めるように指導している。

 そして、その結果が目に見えるようにした制度が『3S』だ。『SSシステム』とも言うね。此は『Student Surveillance System(学生監視システム)』という意味だ。

 校内に無数にある監視カメラを通して生徒の行動を記録する制度。その記録を基に支給されるIGポイントが決まる。それが『SSシステム』。この学校が実力主義を掲げている所以なんだよ。

 このSSシステムの存在を知っているのは生徒会長の氷川くん、生徒会副会長の聖さん、風紀委員長の流山くん、部統会統括の大木くんの4人だけだからね。しつこいようだけどこの4人以外には他言無用だよ。」


 確かに他言は出来ない内容だ。生徒の一挙一動を記録している学校と世間に知れ渡ったら一巻の終わりだし、生徒が知ったら混乱するだろう。


「えぇ、他言無用はお約束しましょう。

 しかし、何故自分にそんな機密情報を話したんですか?」


 光は話を聞いて疑問に思ったことをそのまま口にした。態々呼び出してこの話をした理由がさっぱり判らない。

 光が3S管理室の存在を知っていることは既に知られていると判りきっているが、それだけが理由だとは如何しても思えないらしい。


「強いて言うなら、私が君に興味があったからかな。入学翌日の能力(デュナミス)の技術は凄まじいものだったからね。一体どんな生徒なのか興味津々で夜も眠れなかったよ。

 それに君にはSSシステムの情報を開示するに相応しい実力があると判断したからね。」


 箕作校長は嬉しそうにそう語った。

 つまり、光を此処に呼び出したのは光を一目見たいと思ったかららしい。

 光は内心そんな呆れてしまった。校長室に呼び出されて、拳銃を向けられて一体如何したのかと。

 実際に光は内心では緊張はしていたのだ。それを見せないだけで。

 しかし、蓋を開けてみたら只自分と話したかっただけとは思いもしなかったようだ。


「君との時間は楽しかったよ。何か質問がなければもう下がって良いよ。」


 箕作校長は机の上にあるお茶を飲み干した。


「では1つだけよろしいでしょうか?」


 光は出されたお茶に一切手を着けていない。此はこれで失礼な気もするのだが、急に呼び出しておいて只話し相手にされた光にとっては箕作校長に対する腹癒せのようなものだ。


「……うん、良いよ。」


 箕作校長はまさか質問されるとは思っていなかったのか、少し反応が遅れていた。


「国際教育学園大学に進学する権利は何pで買えますか?」


 光の質問に硬直する箕作校長。

 更に校長室の隅に待機していた狭間先生も光の質問に驚愕の表情を見せる。


「……ガハハハハッ!」


 箕作校長は急に大声で笑い出した。年の割には元気な爺さんである。


「IGポイントの使い方を理解しているのか……益々気に入ったよ!

 そうだね……国際教育学園大学に進学する権利は……500,000,000pだな。国際教育学園大学は世界最高峰の大学だ。そう簡単には安く売れないぞ。」


 箕作校長は愉快そうに笑いながら光の質問に答える。

 確かに500,000,000pは破格の額だ。3年間地道に溜めても買えるかどうか判らない。しかし、世界最高峰の大学の確約が取れると考えると妥当な額であると言えるだろう。

 上位40人の内に入る方が簡単ではあると思うが、卒業まで何があるか判らない。特にこの学校のことだ。最後にIGポイントが大きく変動する試験でも用意している可能性は充分にある。


「そうですね……500,000,000p地道に溜めてみようと思います。質問に答えて下さりありがとうございました。」


 光はソファーから立って綺麗な御辞儀をした。


「うん……あぁ、そうだ。

 君に50,000p送ろう。話し相手になったくれたお礼として受け取ってくれ。

 君が500,000,000p溜められることを祈っているよ。」


 箕作校長が手を振って光を送り出す。

 光は扉の前で一礼してから校長室を狭間先生と共に出て行く。

 ガチャッと扉の閉まる音が校長室に響いた。校長室が不気味な静寂で支配される。


「……『Gula』の称号を持つ彼が此処に入学するとはな……今年は荒れるかもね……ガハハハハ……」


 箕作校長の呟きは誰かに聞かれること無く、虚空へと消えていくのだった。






          to be continued……

 読者の皆さん。初めまして、岩谷衣幸です!

 「世の中なんて所詮実力が全てである」の序章はこれで完結です。素人なもので執筆のしの字も知らないのですが、如何だったでしょうか?

 皆さんの感想待っていますが、悪意ある感想だけはお控え下さいますようお願い申し上げます。

 それではまたお会いしましょ~!ばいば~い。

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