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世の中なんて所詮実力が全てである  作者: 岩谷衣幸
序章 実力主義の世界
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第6話 未曾有の大災害

 巻幡を倒した後、草原エリアを抜けて森林エリアの鬱蒼とした木々に身を潜めていた。気配を消して物音1つ立てずに状況に応じて移動しながら。

 そして、何時の間にか火山エリアと森林エリアの境界線付近まで移動していて、火山エリアで戦闘をしている一団を見つけた。1人の女子生徒を10人前後の生徒で袋叩きにしている。戦闘というよりもいじめと言った方がしっくりくる程だ。

 普段なら、助けるなんて事はしないだろう。知らない誰かのために自分を危険に曝す必要なんて無い。寧ろ、暫く様子を見て、全員の注意が1人の生徒に向いている間に隙を窺った方が効率的だ。

 だが、光は無視出来なかった。それは、袋叩きにされている女子生徒が光と仲良くしている千風だったからだ。100m程離れていても光には判る。

 光は考えるよりも先に千風に向かって走り出した。100m程の荒野を疾走する光。

 まだ敵は誰1人として光に気が付いていない。全員が千風に目を向けていて、屈強な体の生徒がマシンガンの照準を千風に定めていてるのが見えた。千風はそれに気付いていて恐怖故か目を瞑っている。屈強な男が自分にマシンガンを向けていれば、誰だって少なからずは恐怖を感じるだろう。

 光は走るスピードを上げる。光が千風を横抱き――所謂お姫様抱っこをした瞬間、屈強な体の生徒のマシンガンが轟音と共に火を噴いた。

 華奢な千風の体が強張っているのが判る。それ程恐怖を感じていたのだろう。


(もっと早く来ていれば……)


 光はそんな後悔の念を抱きながら弾丸の嵐を華麗に躱していく。まるで舞でも舞っているかのように。途中、千風の顔を見て光が笑みを浮かべると、千風が光の名前を呟くのが聞こえた。

 そんな有り得ない事を目の当たりにした敵の生徒達は唖然としている。音速に匹敵する速度の弾丸が豪雨のように降り注いでいるにも関わらず光と千風に1発も当たっていない。驚くなという方が無理なことだ。

 光は何事も無かったように物陰に移動して千風をそこに降ろす。千風はと言うと、お姫様抱っこされたことに気付いたのか耳まで真っ赤に染めていた。そう言う光も耳がほんのりと赤くなっていたが、それに気付いた者はいなかったようだ。

 そして、弾丸が止むのを確認した光は物陰から1人出て行った。

 敵はマシンガンを撃っても弾が無駄になるだけだと理解した、いや、理解させられたようだ。他の生徒からの攻撃も一切無い。


「いやぁ、何でもありのサバイバルとは言え、此処まで人数差が激しい戦闘をするとか中々鬼畜な事をするねぇ。端から見たら集団いじめみたいだったよ?」


 光は見たまんまの感想を苦笑交じりに口にした。光は闇討ちだろうが卑怯な手段だろうが使えるものは何でも使う主義だ。勿論、このような一対複数の戦闘に対しても酷いとは思っていないから、光もその手段自体に非難している訳では無い。ただ、友達がそんな仕打ちをされているのに、それを黙って見てる程光も人でなしでは無いというだけだ。


「人数差も立派なadvantageだ。周りからどう思われようとも関係ない。我々は我々の手段を取るまでだ。」


 マシンガンを装備した屈強な男子生徒が光の発言に反応を示した。


「別に人数差の事を責めてる訳じゃないよ。ただ、俺の友達にこんなことをしてどう落とし前を付けてくれるのかなぁって思っただけ。」


 光は不敵な笑みを浮かべながら舞草刀を鞘から抜いた。


「youの回避能力は凄まじい。but、youとてこの人数を相手にするのはdifficultなのではないか?」


 男子生徒が他の生徒に銃を構えるように指示する。光に一斉に銃口が向けられた。

 千風がその様子を見て慌てるが、当の光は全く慌てる様子が無い。相変わらず不敵な笑みを浮かべているだけ。

 次の瞬間、光の足元に銃弾が着弾して地面を抉った。発砲したのは遠くで待機している狙撃手だ。

 光もその存在は既に認知している。


「はぁ……御粗末な狙撃だなぁ……」


 光は溜息を1つついた後、期待外れだとでも言いたげにそう呟いた。

 先程の狙撃は牽制では無く、光を倒そうとしたものだ。一般人よりかは精度は良いが、当たらなければ意味は無い。光にとっては御粗末としか言い様の無い腕前だった。


「go!!!!」


 男子生徒は光の呟きには反応せずに光に対する攻撃を指示した。一斉に光に向けられていた銃口が轟音と共に火を噴く。

 光は既に1番近い敵に近づいていて弾丸は当たっていない。全て避けている。そして、1番近くにいた敵の首を右手の舞草刀で一閃。まず1人。

 動きが止まった光に7つの銃口が向けられて、光に向かって弾丸が飛んでいく。

 しかし、光は舞草刀で弾丸を弾くという離れ業をやってのける。敵は余りの驚きに攻撃を一時中断してしまう。それは仕方の無いことなのかもしれないが、光がその一瞬を逃す筈が無い。

 光は一瞬で敵の1人に近付いて首を一閃する。更に、敵がポリゴンとなって散り散りになる前に敵の手榴弾をくすねてピンを抜き、他の敵に投げ付けた。敵の2人がその爆発に巻き込まれて死亡する。

 更に光は右腰のホルスターからM19を抜いて敵の額を狙ってトリガーを引く。弾丸は寸分違わずに額を撃ち抜いて、5人目の死亡者を出す。敵の残り人数は狙撃手合わせてあっという間に半分の5人となった。

 敵のリーダー格以外の3人の生徒が慌てて撃ってくるが、照準が全く定まっていない。そんなので光に当たる筈も無く、数秒で3人の生徒はポリゴンとなって散り散りになっていった。

 3人の生徒を殺った瞬間に狙撃手が光を狙って撃ってきたが、光はそれを舞草刀で弾く。


「素人が何人集まろうがどうってこと無い。動揺を誘えばこんな風にあっという間に崩れ去るものだよ。

 でも、君は違うみたいだね。」


 光はこの場にいる最後の1人、リーダー格の生徒に体を向けて不敵な笑みを浮かべながら舞草刀を構える。


「我はyouの力を見誤っていたようだ。我も全力で殺らねば勝てぬだろう。」


 男子生徒は装備しているマシンガンを光に向ける。このマシンガンは五十嵐が装備していた『M134 Minigan』。

 先に動いたのは光だ。男子生徒に向かって走り出した。男子生徒は光に照準を合わせてM134のトリガーを引く。秒発100弾の嵐が光に降りかかる。

 光は左右、前後だけで無く上下と縦横無尽に荒野を駆けて、時には舞草刀で弾きながら弾丸の嵐を凌いでいく。M134の弾は光が他の生徒と戦っている時に補充していたらしく、残弾は大量にある。時間稼ぎで弾切れにしようにも光の体力が先に尽きてしまう可能性も否定出来ないし、抑もあんまり体力を消費したくないというのが光の本音だ。それでも光の顔には笑みが溢れていた。

 光は逃げ回るのを辞めて、一直線に男子生徒に向かって走り出した。当然、マシンガンの嵐は光に降り注ぐ。

 光はそれを高速に舞草刀を振り回して弾丸の嵐を次々に弾いていく。最早、人間業では無い。どういう動きをしたらこんなことが出来るのかさっぱり判らない。いや、どういう動きか判っても真似するなど絶対に不可能だ。

 これには男子生徒も敵の狙撃手も千風も開いた口が塞がらない。それでも男子生徒に隙が生じなかったのは男子生徒も多少なりの実戦経験があるからなのだろう。

 光は遂に敵を間合い内にまで近付くことが出来た。そのまま、男子生徒の首にめがけて舞草刀を振るう。

 しかし、この男子生徒はそう簡単に倒されてはくれない。首を斬られる前にM134を上に向けて盾代わりとした。舞草刀はM134を斬るが、惜しくも男子生徒の首には届かない。

 光は舞草刀が届かなかったことに悔しい表情を見せながらも楽しいと言わんばかりの笑顔が表れている。光はもう一押しとばかりに更に男子生徒に向けて舞草刀を振るう。

 だが、男子生徒はその巨体にそぐわぬ俊敏な動きで舞草刀を躱し、光と距離を取る。マシンガンの総重量は約18kg。それを装備していた時ですら他の生徒よりも少しだけ鈍いくらいの動きだった。そんな奴がその装備を外せば、動きが俊敏なことくらい予想出来たようで光はそんなに驚いていない。

 男子生徒は何時の間にかサブマシンガン『H&K MP5-J』を持っていて、銃口が光に向けられていた。

 光がその場を飛び去ったと同時にMP5のトリガーが引かれる。このサブマシンガンは『サブマシンガンの命中率の低さ』という欠点を覆した物だ。特殊部隊とかにも使われる程の武器であり、敵にすると厄介極まりない。発射速度はM134よりも劣るが、敵の動きは格段に速くなっており、先程よりも回避しづらくなっている。

 光は先程よりも動き回るギアを上げていく。それでも光の顔に笑みは消えていない。明らかに光はこの戦闘を愉しんでいる。

 光は再度男子生徒に近付く。

 だが、男子生徒が後方に移動しながら撃っているため光の間合いには入らない。

 光がどうしようかと考えながら当たり前のように弾丸を弾いていると、光と男子生徒の間に大きな岩が現れて互いの姿が見えなくなる。

 光は左手で堀川国広を抜いて男子生徒が見えた瞬間にそれを投げた。投げた堀川国広は男子生徒の右肩に命中して、男子生徒のHP(ライフ)を1割程削る。

 怯んだ隙に光は男子生徒に急接近して舞草刀を振るう。首は斬れなかったものの、男子生徒に大きなダメージを与えることには成功した。

 だが、男子生徒は左手で背中に隠してあったハンドガン『グロック17』を抜いて光に向けて発砲する。光は舞草刀で弾くことは出来ないと瞬時に判断して、体の重心を傾けて弾丸を避けようとするが、間に合わず左肩を掠る。

 重心が傾いた状態では攻撃しても碌なダメージを与えることは出来ないから、光は男子生徒と距離を取った。

 HP(ライフ)は殆ど削られていないとは言え、ダメージを受けてしまったことを光は不覚に思う。だが、光はそれでも笑みを浮かべていた。

 2人の間を沈黙が支配する。暫く睨み合った後、2人同時に動き出そうとした瞬間、辺り一帯に轟音が響き渡って2人は強い揺れに揺さぶられるような感覚に陥った。

 いや、2人だけでは無い。敵の狙撃手も千風も同様だ。どうやら、他の人も揺さぶられるような感覚に陥っているらしい。確かに言えることは地震では無いということだ。何方かというと、空気が揺れている。そして、その揺れは東から来ているということぐらいしか判らない。

 光は揺さぶられる感覚を感じながら東の方を見る。


「……なっ……」


 光は絶句しながら目を見開いた。光は我に戻って男子生徒には目もくれず、千風に向かって走る。

 千風のいる場所に着いた光は千風を先程のようにお姫様抱っこをして疾走した。


「……えっ……ちょっと、光くん!?」


 千風は一瞬、何されたか判らなかったが、何されたか判ったら頬を紅潮させながら驚いている。お姫様抱っこされたことに対する恥ずかしさが3割、お姫様抱っこされたことに対する嬉しさが5割、光の走る速さに対する驚きが2割と言ったところだ。

 光は千風の様子など気にもせずに森林エリアへ目指す。

 すると、後ろの方で轟音が響いた。

 千風が音のした方に目を向けると、千風は目を見開いた。千風の目線の先では、火山が黒煙を上げていて何かが噴き出ている。

 そう、島の中心にある火山が噴火したのだ。

 光はそれに気付いて戦闘所では無いと判断した。光が噴火に気付いたのは、あの揺さぶられるような感覚に陥ったことだ。

 あれは『空振』と呼ばれる現象である。火山噴火などによって発生した空気の急激な圧力の変化が大気中の周囲に伝わることで、窓ガラスなどを振動によって破砕させたりする現象だ。振動が弱ければ耳鳴り程度で済むのだが、今回は揺さぶられるような感覚に陥る程強い振動だった。そして、噴火の強さと空振の強さは比例する。

 光はそれを知っていた。だから噴火が起こると予測出来たのだ。

 だが、行動に出るのが少し遅かった。頭上から火山噴出物が降り注いでくる。大小様々な大きさの岩石が空から降ってきて、直撃なんかすればHP(ライフ)が大幅に削られてしまう。そう言う意味でも森林エリアは良い避難地になる。頭上から降ってくる岩石が木々に遮られるから安全なのだ。

 光は空から降ってくる岩石を避けながら森林エリアに向かって疾走する。敵の男子生徒も此方には目を向けておらず、同じく森林エリアを目指しているようだが、光よりもだいぶ後方にいて森林エリアに逃げ込めるかどうか判らない。まぁ、敵だから間に合わなかった方が光として都合が良いから助けには行かないが。

 そして、後方で更に轟音が響いた。振り返ると、火口から溶岩が物凄い勢いで流れているのが見える。あんな物に巻き込まれでもしたら、一巻の終わりだ。まさに未曾有の大災害。

 そして、光は千風と共に森林エリアへと消えた。


………

……


 地面には大小様々な大きさの岩石が突き刺さって抉れており、辺り一面は火山灰で覆い尽くされている。空は黒煙や灰で塗り潰されて日の光が一切差し込んでこない。未だに活動を続けている火山の火口からは真っ赤に染まったドロドロとした溶岩が流れ出ており、周囲の地形を変えている。まさに悲惨の一言。火山の火口から10km離れた火山エリア付近の森林エリアも溶岩が流れてきており、木々が無くなっている。しかも熱さのせいでHP(ライフ)が少しずつ削られていた。


(そんな所まで忠実に再現しなくても……)


 光は心の中でそんな悪態を付きながら、この後どうするか考えていた。

 森林エリアは頭上からの岩石を防いでくれるが、この熱さは防いでくれない。この熱さによるダメージは少しだけだが蓄積する。時間が経てば熱さも無くなると思うが、それまでずっとダメージを受け続けるのは避けたい。


「千風、雪原エリアに行こう。」


 光は森林エリアを出て、雪原エリアに移動することを千風に提案した。雪原エリアならば熱さによるダメージも無いだろう。火山エリアを通って雪原エリアに行くのが手っ取り早いが、火山エリアは他のエリアに影響を及ぼす程悲惨な状況だ。面倒だが湿原エリアを通っていくしか無い。

 千風は光の言葉に頷いて、光と北の雪原エリアを目指した。


………

……


 光と千風は湿原エリアに来てきた。

 水分の多い地面は歩きづらくて足を取られる。そして、何より先程の噴火の影響で気温が上昇しており、多湿な気候もあって体に厚さが纏わり付いているように感じるのだ。まるで熱帯雨林気候地帯にいるみたい。VRにも拘わらず、体からは汗が流れている。服が肌に張り付いて動きにくい。


「ありがとう、光くん。」


 光は千風に急にそう言われて何のことか判らないような顔をする。


「火山が噴火する前、私がピンチだったのを助けてくれてありがとう。」

「あぁ……友達が危険な目に遭っているのに助けない訳無いでしょ。千風なら尚更だよ。」


 光は千風に笑いかける。

 千風が光の言葉を聴いて、光の笑顔を見て、顔を真っ赤に染めるのだが光はそれに気付かない。


「ねぇ、千風。『オース』を組まない?」


 光が真っ赤になっている千風を気にもせずに提案する。


「……私と『オース』を組んでも役に立たないと思うよ?逆に足を引っ張ったり光くんの貰えるIGポイントが少なくなっちゃう。」

「そんなこと無いよ。

 正直、生徒会役員としてこの試験で実績を残さないといけなくて……千風がいると心強いんだ。」


 無自覚で口説く。それが光だ。

 千風の顔がこれ以上無いくらい赤く染まる。耳先まで真っ赤だ。自分がピンチの時に颯爽と助けてくれて、物凄い強くて、自分がいてくれると心強いなんて言われたら誰でも惚れてしまうものだ。

 こういう所でラノベ主人公っぷりを発揮する。全く以て光は罪な男だ。


「……判ったよ。」


 心を落ち着かせて何度か深呼吸を繰り返した千風は光の提案に乗った。千風としても仲間がいれば安心する。先程の男子生徒も生きているかもしれないし。

 光と千風は更に歩みを進めて雪原エリアを目指した。


 試験開始から3時間20分経過、残り人数71人……











 時は遡り、光が千風を助けようとしている頃。

 海岸エリアでは、花宮のスナイパーライフルのスコープに2人の生徒が映し出されている。

 1人はチェリーレッドの髪に砥粉色の瞳をしている男子生徒で背中にはスナイパーライフルを装備していて、もう1人は勿忘草色の髪を腰まで伸ばし、オレンジバーミリオンの鮮やかな輝きを放つ瞳を持つ女子生徒でアサルトライフルを装備している。そう、錬と水池だ。

 だが、狙撃するには遠すぎる。スナイパーライフルの射程外だ。

 しかし、花宮にとってはそれは些細なことでしか無い。射程外といっても、弾道がぶれぶれになって威力が弱くなるだけ。頭を撃ち抜けばなんの問題も無い。

 いや、常人ならばそんな条件で頭を撃ち抜ける筈が無いのだが、花宮は常人ならざる者。不可能では無い。

 そして、花宮は水池の頭に狙いを定めてスナイパーライフルのトリガーを引いた。バァンと甲高い音が辺りに響いて水池に弾丸が飛び出す。しかし、弾丸は水池に当たらず水池の足元に着弾して地面を抉るだけ。

 2人が狙撃に気付いて辺りの物陰に隠れる。


「う~ん……射程外では1発目で仕留めるのは不可能か……」


 射程外で1発目で倒そうとする奴なんてきっと花宮だけだろう。だが、射程外にも拘わらず誤差1m程度で済んでいることから、花宮の狙撃の腕の高さが如何に規格外なのかが判る。

 抑も、何故花宮は射程外から狙撃しているのかというと、自分の限界を確かめるためである。自分の限界は射程外からの狙撃が出来るのか。ただそれだけ。

 だが、そんな花宮の行動が錬と水池を救っている。

 花宮が射程内から狙撃すれば2人同時に狙撃することすら出来たかもしれない。間違いなく1発目で1人は倒されていただろう。


「さて、次で1人は仕留めたい所だけどねぇ。」


 花宮はボルトを操作して2発目を装填する。薬莢が地面に落ちた音を聞きながらスコープを覗く。2人とも物陰から動いておらず、弾丸が直撃しても死にはしないだろう。

 花宮はスコープから顔を離して立ち上がる。周りをきょろきょろと見渡して、2人を狙い撃ち出来る場所を探し始めた。






(何処だ……何処からだ?!)


 錬は焦っていた。

 水池に当たらなかったから良かったものの、狙われていたことに気付かなかったのだ。花宮の狙撃の腕も相当高い。先程は運が良かったとしか言いようが無い程だ。次に気付かれずに狙撃されたら直撃はするだろう。早く花宮の居場所を見付けなければならない。

 錬は物陰から顔だけを出して、花宮のいる方向に双眼鏡越しに目を向ける。だが、人影は見当たらない。


(移動したのか……?)


 錬は双眼鏡の倍率を下げて視野を広げる。そして、此方に狙いを定めている人影を発見した。

 狙いは水池だ。


「霧葉ちゃん!目を瞑って!!」


 錬は水池に叫びながら懐から念のためにと思って補充しておいた閃光手榴弾を取り出して、水池の近くに投げる。水池が目を瞑った瞬間、辺りが眩しく光って視界を白く染め上げた。

 錬は手で閃光を遮りながら水池に近付いて水池の手を取り、その場を離れる。花宮の視界はまだ閃光に包まれている筈だ。自分達の姿が見えない内に別の場所に隠れた。これで花宮は自分達の居場所が判らない。

 錬は顔だけを出して双眼鏡で花宮を見る。距離にしておよそ2km。これ程離れた距離で良くこんなに精密な射撃が出来るなぁと思う錬。

 錬は予め敵から奪ったスナイパーライフルを構えて、花宮に狙いを定める。錬は狙撃が余り得意では無いが、他に攻撃手段が無いため仕方が無い。

 近付こうにも、花宮の所まで行くには海を越えなくてはならない。橋は無いから走って越えるしか無いが、海に下半身を浸けながら走ると動きが鈍くなってしまい、格好の獲物となって撃たれるだけだ。

 錬は水池は自分が守らなければならないという使命感4割、水池に自分の格好良い姿を見せたいという願望6割を持ちながら、スナイパーライフルのトリガーを引いた。

 錬の放った弾丸は花宮の5m程度離れた場所に着弾する。スナイパーライフルの射程外であることを考えると、錬も大分健闘していると言えるだろう。

 花宮も錬の居場所が判明して反撃を開始した。花宮の弾丸が錬の50cm横を通り過ぎる。

 錬は冷や汗をかきながら2発目、3発目を撃つ。

 花宮の狙撃の腕は想像以上だった。確実に花宮の狙撃が精密になっていく。

 錬の体は殆どが物陰に隠れているとは言え、HP(ライフ)はごく僅かだ。手とかに掠っただけで死ぬかもしれない。

 錬と花宮の撃ち合いは暫く続いて、錬のスナイパーライフルの弾が無くなってしまった。そして、2,3発花宮が撃ってきたところで、花宮の狙撃が止んだ。どうやら、花宮の方も弾切れになったらしい。


「霧葉ちゃん。敵が弾切れになった。今のうちに近付いて倒しちゃおう。」


 錬は水池にそう言って物陰から飛び出して行った。それに続いて水池もアサルトライフルを持って物陰から出て行く。

 花宮もスナイパーライフルを肩に掛けて2人に近付いて行った。


………

……


 錬と水池が花宮と対峙する。

 錬と水池は警戒心マックスで花宮の一挙一動見逃さずに観察している。

 対して花宮は気味の悪い笑みを浮かべているだけ。2人に対する警戒心は無く、自信に満ちている。


「いやぁ……君の判断は素晴らしいものだったよ。閃光弾による目眩ましに、物陰からの撃ち合いの闘い。実に見事だったねぇ。」


 花宮は態とらしくパチパチと錬に拍手を送る。当の錬はその仕草から褒められたとは思わず、逆に馬鹿にされていると感じた。花宮の目には明らかな侮蔑の感情が見て取れるからだ。


「あんたに褒められても1ミリたりとも嬉しくねぇーよ。」


 錬はぶっきらぼうにそう答えた。水池もうんうんと頷いている。


「そうかい?まぁ、君達がどう思おうが構わないさ。君達は此処で死ぬんだからねぇ。私と遭ったことが不幸だっとしか言い様がない。」


 花宮は気味の悪い笑みを浮かべ続けながら拳を構える。

 錬も拳を構えて、水池はアサルトライフルの銃口を花宮に向ける。

 先に動いたのは花宮だ。狙いは水池。

 錬は花宮と水池の間に入って、花宮の狙いを水池から自分に変える。

 花宮は標的を錬に変えて正拳突きを打ってきた。

 錬は攻撃が当たらないように躱すが、回避が精一杯で反撃出来ない。錬の顔に焦りの色が窺える。

 だが、此処で水池が援護をしてくれた。アサルトライフルで花宮を撃ったのだ。それに乗じて、錬は巻き込まれないように花宮から距離を取る。

 だが、花宮はアサルトライフルの弾丸を何でもないように躱して、錬との距離を詰めた。

 錬はアサルトライフルの弾丸を余裕で躱している花宮に驚き、バランスを崩す。

 花宮がその隙を逃す筈も無く、ニタニタと笑いながら拳を錬に振り翳した。

 花宮の拳が錬に当たるかとその場の誰もが思った直後、突然体を揺さぶられるような感覚に陥って、花宮の拳は空を切った。

 そう、空振だ。

 だが、錬と水池は空振を知らないため、何が起こったのかさっぱり判らない。

 対して花宮は空振を知っているのか中央部の火山エリアを一瞥して、錬と水池を見据える。

 どうやら、花宮は2人を倒してから避難しても問題は無いと判断したらしい。

 花宮が2人との距離を縮めようとしたその時、先に錬が動く。しかし、花宮に近づくのでは無く、水池に近付いて、そのまま錬は水池を強く押した。

 水池は押された勢いで1m程度後方に尻餅を付く。水池がどうしたのか錬に訊こうとした瞬間、錬のいる場所――元々水池がいた場所――に何かが降ってきて、錬を5m程吹き飛ばした。

 錬がいた場所を見ると、直径80cm位の岩が地面に突き刺さっていて、地面が抉れている。

 水池は初めて火山エリアの方に目をやって、火山が噴火していることに気付いた。

 錬は既にHP(ライフ)がゼロになり、散り散りとなっている。

 水池はアサルトライフルを持って立ち上がった。水池の目には決意が宿っているのが窺える。花宮を倒して生き残ると。錬の死は無駄じゃないと証明するために。

 花宮は人を馬鹿にするかのような笑みを浮かべているだけ。

 水池は花宮と一定の距離を保ちながらアサルトライフルのトリガーを引いた。花宮はスナイパーライフルしか装備していない。だが、弾切れのため使えず、攻撃手段は花宮自身のみ。距離を保てば自分に攻撃は当たらないと水池は考えた。

 だが、花宮はそんな簡単な奴じゃない。水池が距離を保とうとするが、花宮との距離が逆に縮まっている。アサルトライフルの弾丸も1発も当たらない。

 そして、花宮が水池を捕らえられる距離にまで縮まり、花宮は水池のアサルトライフルを左手で弾き飛ばして右手で水池の鳩尾に拳を入れた。

 水池は苦悶の表情を浮かべて呻吟しながら尻餅を付く。顔を上げると相変わらず人を馬鹿にしたような表情の花宮と目が合う。水池の瞳には先程までの覚悟は消えて、恐怖や絶望といった感情が窺える。


「……い……いやぁ……こ、来ない……で……辞め……て……」


 水池は全身をガクガクと震えながら首を横に振っている。目には涙が浮かんでいた。顔面蒼白になっていて、明らかにVRで倒されるときの顔では無い。まるで現実で死地に陥っているかのよう。

 花宮はそんな水池の様子を気にもせずに、水池が持っていたアサルトライフルを拾って水池の額に銃口を突き付ける。

 そして、花宮はアサルトライフルのトリガーを引いた。

 水池は撃たれた衝撃で後ろに倒れて散り散りになる。

 それを確認した花宮はアサルトライフルを手放してその場を去った。その場には遠くの火山の噴火の音だけが不気味に響いているのだった。






          to be continued……

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