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世の中なんて所詮実力が全てである  作者: 岩谷衣幸
序章 実力主義の世界
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第4話 実力試験の始まり

 狭間先生の言葉が教室に響く。何時もより低く重くのしかかるような声。その声が教室内に威圧感を放っている。誰も喋らないいや、喋れないのだ。

 狭間先生の笑みが不気味に見えてくる。


「あ、あの先生……質問が、あります。」


 それでも発言したのはクラス委員の水池だった。

 きっと相当な勇気を振り絞って発言したのだろう。声が若干震えていてた。クラスのリーダーとしての意地もあった筈だ。


「えぇ、良いですよ。」


 狭間先生の声がいつも通りに戻る。あの威圧感に対して生徒がどう動くのか試したと言うことか。

 水池も威圧感が霧散してほっとしている。


「『実力試験』とはなんですか?」

「そのままの意味ですよ。皆さんの実力を測る試験です。

 実力と言っても色々な種類の実力があります。筆記試験と実技試験だけの成績が皆さんの実力ではありません。

 例えば、『人とのコミュニケーション能力』や『状況対応能力』なども立派な実力ですが、其れ等を普通の試験で測ることは出来ません。

 実力試験はそう言った普通の試験では測ることが出来ない能力を測るための試験です。

 実力試験の内容や時期に決まりはありません。

 試験通達から試験開始までの期間も其れ其れです。今回のように直前に通達する事もあれば、1か月位前に通達する事もあります。

 実力試験についてはこれで良いでしょうか?」

「はい。ありがとうございます。」

「それでは、今回の実力試験について説明しようと思いますが、質問は私が全て説明した後にお願いします。

 今回の試験、簡単に言うとVRによるサバイバル試験となります。」


 2160年の今現在、VRの技術は飛躍的に向上して100年前は視覚と聴覚のみだったVRも五感全て没入出来るようになった。仮想現実世界のリアリティ度も増して、現実と仮想現実の差違も小さくなっている。


「会場は半径20kmの島で、北部に『雪原エリア』、北東部に『湿原エリア』、東部に『森林エリア』、南東部に『草原エリア』、南部に『廃墟エリア』、南西部に『砂漠エリア』、西部に『海岸エリア』、北西部に『岩場エリア』、中央部に『火山エリア』の9つのエリアに分かれています。

 試験開始と同時にその島に転送されますが、島の何処に転送されるかはランダムです。

 そして、この島で1年生全員の200人は最後の1人になるまで戦ってもらいます。制限時間はありません。

 生徒を倒して回るも良し、じっと隠れて最後の1人を倒すも良しです。

 武器は出来るだけ此方が用意しました。剣や刀、拳銃、ライフル、など何をどれだけ使おうと構いません。ですが、所持する武器が多くなるほど動きづらくなるので注意して下さい。

 逆に動きやすさ重視で素手で戦うという手もあります。

 また、VRですので能力(デュナミス)は使えません。

 皆さんのHP(ライフ)は1万で、攻撃を受けても血は流れないし、痛みも感じません。HP(ライフ)がゼロになったら退場です。

 また、部位欠損した場合はペナルティとして10分間部位欠損状態となります。例えば、剣で右腕を切り落とされたとすると、10分間は右腕が無い状態で戦わなければならなくなります。

 更に、剣や刀で首を斬られる又は銃で頭を撃たれるとHP(ライフ)の残りに関係なく『即死』となり、退場となります。

 残り人数が50人を切ると、20分に1回、試験前に配布される端末に生き残りの生徒全員の居場所が表示されます。

 そして、成績上位者には報酬としてIGポイントが貰えます。

 1位には50,000p、2位には30,000p、3位には10,000p、4位には7,000p、5位には5,000p、6位から10位には1,000pが与えられます。

 最後に『オース』について説明します。

 試験中、互いに合意すれば『オース』を作ることが出来ます。『オース』とは、所謂パーティーみたいものです。『オース』の関係がある生徒には攻撃してもダメージは入らなくなります。上位に食い込むことが出来やすくなりますが、報酬は分割となるので少なくなります。試験中に『オース』の解除は出来ません。

 上位に入るために協力者を作って報酬を少なくするか、1人で頑張って報酬を独占するかは個人の自由です。

 ここまで一通り説明しましたが、何か質問はありますか?」

「質問良いですか?」


 此処で手を挙げたのは意外にも錬だった。


「半径20kmの島が会場で、人数が200人ならば相当時間がかかると思います。戦闘が長引けば、終了が夜遅くになる可能性もあると思うのですが?」


 錬はこういうサバイバルゲームを良くやるのだろうか、やけに詳しい。


「その点は問題ありません。VRの中では時間が5倍に加速されています。VRの中で1日経ったとしても、現実では4時間強しか経っていません。

 金田くんの心配は大丈夫だと思います。

 他に質問はありますか?」


 質問が無いか確認するが、誰も手を挙げない。暫くの間、教室に沈黙が訪れる。


「其れではその箱を開けて下さい。中にはVRゴーグルが入っています。

 ゴーグルにコードを接続して机の脚にあるコンセントにさして下さい。その後、楽な姿勢をして、ゴーグルをつけて目を瞑って下さい。」


 箱に入っていたVRゴーグルとコードを取り出して、ヘッドギアのようなゴーグルにコードを接続して頭から被る。

 光は少なからずワクワクしていた。実はVRは初めてなのだ。未知の世界に踏み入る瞬間は誰だって興奮するだろう。


「其れでは、電源を点けます。」


 狭間先生の言葉を聞いた直後に真っ暗だった視界が白く塗り潰された。











 真っ暗だった視界が突然白く塗り潰されて、光は目を瞑った。

 暫くして目を開けるとさっきまで教室にいたのに真っ白い何も無い空間になっていた。


『生徒の皆さん、試験で使う武器を20分以内で選んで下さい。』


 突然狭間先生の声が頭に直接語りかけてくるように聞こえた。光の目の前には学校が用意した武器の一覧がディスプレイに表示されている。

 用意されている武器は刀剣、銃、など様々で種類別にまとめてあった。

 刀剣には西洋剣と日本刀があり、西洋剣には片手剣と両手剣と短剣、日本刀には太刀、打刀、脇差、短刀に分かれていた。

 銃はハンドガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、ショットガン、マシンガンにまとめられていた。

 光は西洋剣には詳しくないため使わない。日本刀か銃か悩んでいた。

 結局、光は『舞草刀(もくさとう)』という太刀と『堀川国広』という脇差、『S&W M19 コンバット・マグナム――通称M19――』というハンドガンを装備した。

 『舞草刀』は平安時代から鎌倉時代に岩手県で作られた刀だ。

 『堀川国広』は新撰組副隊長土方歳三の脇差とされている。

 『M19』はリボルバーの一種で、赤いスーツを着た3世代目の泥棒の相棒や偽の恋人を演じ続けている少女の付き人が使用しているハンドガンだ。持って行く銃弾の数は最大装弾量の24発。それ以上持って行くと重くて、邪魔になるから。

 手榴弾は装備していない。

 舞草刀と堀川国広を刃を下に向けて紐で吊して腰に装着する。何でもこの装着方法を佩用という付け方らしい。

 これで武器に関してはバッチリだ。

 光はディスプレイのOKボタンを押す。

 すると、マイク付き片耳イヤホンと携帯端末が出てきた。

 携帯端末は残り人数が50人になったときに相手の位置を見るための物だが、マイク付き片耳イヤホンは判らない。

 説明欄にはスイッチを押して、残り人数や経過時間を訊くと答えてくれるとある。

 『オース』を誰かに申請したりその返答をしたりする時にも使うようで、申請したい相手の名前を言って『オース』の申請をすると呟けば、相手に申請がいくそうだ。返答するときは、『はい』か『いいえ』かを呟けば良い。

 『オース』の関係にある生徒との通信も出来るそうだ。

 更に携帯端末は銃弾や手榴弾の補充も出来るらしい。

 試験開始になるまで光は準備運動をしたり武器の状態を確認したりして時間を潰す。


『時間になりました。

 これより1年次第1回実力試験を始めます。生徒の皆さん、健闘を祈ります。』


 狭間先生の声が聞こえた次の瞬間、光の視界は再度白く塗り潰された。











 明転した視界が少しずつ戻ってきて、ぼんやりとした輪廓しか見えなかったが、徐々にその形を取り戻していく。

 湿りっ気の無い乾いた風が光の肌を撫でる。風が吹く度に黄色い粉塵が舞い、地面は遙か彼方まで砂で覆われていた。

 そう、砂漠だ。照りつけるような日差しは痛いが、まだ日が昇って時間が経っていないから気温はそんなに高くない。湿度は日本じゃ有り得ないくらい低く、息をする度に体内の水分が持って行かれてる気はするが。

 服装も何時の間にか、制服から自衛隊が着ているような迷彩柄の軍服に緑色のヘルメットという格好になっていた。

 確か砂漠エリアは島の南西部だったはずだ。

 光が携帯端末を起動させると島の全体が映し出されて島の南西部の砂漠エリアに赤く点滅している点が1つ。恐らく光の位置を表している。

 光はとりあえず、砂漠エリアにいると暑さで気が狂いそうになるから他のエリアに移動することにした。

 今の位置からだと、東に5km程行くと廃墟エリアに辿り着くから其所を目指す。






 東に目指してからから2km位進んだ時、光は不意に足を止めてある方向に目を向けた。

 次の瞬間、光が目を向けた方向から何かが飛んできて、光から10m位離れた所に激突して地面を抉る。飛んできたのは間違いなく銃弾だろう。普通なら狙われた瞬間に慌てるだろうが、光は慌てない。

 狙撃するに当たって誤射10mは大きすぎる。相手が素人であることは直ぐに判った。素人相手なら対応は簡単だ。

 光は相手がいる方向に走った。相手は其れを見て慌てたのだろう。次々と撃ってくるが、避けるまでも無く全て外れている。弾を無駄に消費しただけ。

 あっという間に光と相手の距離が目視出来る距離にまで縮んだ。

 相手はスナイパーライフルによる狙撃を諦めて、ハンドガンによる銃撃に切り換えた。その判断からサバイバルゲームの経験者だと思われる。相手は撃ってきたが、其れも全て外れた。相手は銃撃による反動に驚いているのか、撃つ瞬間に目を瞑ってしまっている。

 そんなので当たる訳無いのになぁと光は思ったが、口にはせずに利き手では無い左手で『堀川国広』を抜いて相手の両腕を一閃した。

 相手は両腕を斬られて尻餅を付く。相手のHP(ライフ)は3割程度減っていた。


「ゲームと現実は違うんだよ。」


 光は呟くように言って相手の首を躊躇いなく一閃した。


 相手がサバイバルゲーム経験者でも弾が全く当たらなかった理由。其れはこのVRのリアリティ再現度が他のVRよりも高いからだ。

 試験開始まで光は準備運動で体を動かしていた。その時、全く違和感の無い事に違和感を覚えた。

 VRは現実の体と全く違う体をしているので、違和感を感じる人が多いと聞く。しかし、この体は馴染みすぎていた。

 理由は直ぐに判った。其れは筋肉量だ。

 この体は現実の体の筋肉量までも再現している。生徒の筋肉量のデータは身体測定の時に取得済みだ。この体のデータの基にする事は容易い。

 だが、他のVRで利用者の筋肉量を測って基にする事はまず無い。他のVRでは大抵ステータスを利用者が自由に振っているため、銃の反動に耐えるだけの力があるのだ。

 しかし、現実の力だけでは銃の反動に耐えられない。それ故に弾が大きく外れた。

 更に、照準補助機能が無いことも起因しているはずだ。

 サバイバルゲームでは、基本的に照準補助機能――例えば、大きさが変化する円のエリア内に銃弾が当たるなどのシステム――があるが、この試験にそんな機能は無い。銃身の延長線上にしか弾は当たらないので、手元が数cmずれただけで弾道が大きくずれたのだろう。

 この試験、一見サバイバルゲーム経験者が有利に思われたが、そんなことは無かった。実際に銃を使用したことがある生徒が有利だということになる。

 そう考えると、1番有利な生徒は自分だと光は思い、ニヤリと笑った。






 廃墟エリアに着いた光は高層ビルの1階に身を潜めていた。

 後半の体力も考えると、ある程度残り人数が少なくなるまで戦闘をするよりも何処かに身を隠した方が良い。

 光は経過時間と残り人数を確認するためにマイク付き片耳イヤホンのスイッチを押した。


「経過時間と残り人数は?」


『試験開始から、45分経過、残り人数は、174人、です。』


 まだ、戦闘に出るには早い。

 光は周囲の警戒は怠らずに、先日のことを思い出していた。


………

……


 数日前、生徒会室。


「影谷、鍛冶佐。ちょっと良いか?」


 生徒会の仕事中に氷川先輩から声が掛かった。

 2人は今やっている仕事の手を止めて氷川先輩に体を向ける。


「2人は生徒会役員なったが、気を付けろよ。

 毎年、生徒会役員になった生徒は妬みや嫉みを抱かれやすい。試験で成績が振るわなかったら、生徒会役員を辞めろと言われることもある。其れで過去に何人もの生徒が生徒会を去っていった。

 私はそのような理由で君達が生徒会を辞めて欲しくない。試験では周りの生徒に示しが付く成績を残すようにしてくれ。

 頼んだぞ。」


「「判りました。」」


 2人は氷川先輩の言葉に対して力強く頷いた。


………

……


 恐らく氷川先輩はこの試験の存在を知った上で言ったのだろう。つまり、この試験で生徒会役員になるだけの実力があると示せという事だ。

 生徒会役員ではなければ、途中で適当に負けたのになぁと光は憂鬱な気分になった。

 しかし、生徒会役員になってしまったものは仕様が無い。

 光は人数が50人になるまでそこでじっと待つことにした。

 その瞬間、光の近くの窓がパリンという音を立てながら割れて、生徒が吹っ飛んできた。

 吹っ飛んできた生徒は柱に叩き付けられてHP(ライフ)がゼロになったのかポリゴンとなって消えていく。

 光が臨戦態勢を取ると、割れた窓から1人の生徒が高層ビルに入ってきた。ルージュ色の髪をボブカットにして菫色の瞳を持つ光と同じくらいの背丈の女子生徒だ。刀剣や銃は持っておらず、装備しているのは、金属製の籠手と手榴弾2つのみ。

 女子生徒が光の方を向くと、2人の目が交差した。


「あんたは……確か生徒会役員の影谷光……よね?……やっと見つけた……」

「ああ、君は確か……体実会の巻幡さんだっけ?」

「ええ、そうよ。私は巻幡衣織(まきはたいおり)。此処で影谷くんを倒す者よっ!」


 巻幡はそのまま光に急接近して、正拳突きをしてきた。金属製の籠手を装備しているから真面に食らったら相当のダメージを受けるだろう。

 光はジャンプして跳び箱の要領で正拳突きを躱し、巻幡の背後に着地する。

 巻幡さんは背後に着地した光を回し蹴りで更に追撃するが、光は巻幡から距離を取って其れを躱す。


「おぉ~……いきなりだね。仮にも同じクラスメイトなんだから仲良くしようよ。」

「生憎、私はクラスメイトだからって手加減はしないの。

 強者と戦いたいだけ。

 だから、生徒会長に認められた実力を見せなさい!」


 巻幡が拳を構える。戦う気満々だ。


「う~ん……俺に今君と戦う気は無いんだけどなぁ。終盤に向けて体力温存しておきたんだよ。」

「言ったでしょ。私は強者と戦いたいだけで、成績なんてどうでも良いの。」

「そっかぁ、其れじゃあ、強者と戦えると良いね。ばいば~い。」


 光は巻幡が入ってきた窓から高層ビルを出て行った。


「ちょっ……待ちなさいよ!」


 巻幡が光を追って高層ビルを出る。光は既に50m位離れていた。


(早っ!!)


 巻幡はそう心の中で呟きながらも必死に追いかける。

 光は大通りから路地に入って追っ手を撒くことにした。暫く路地で逃げ回って、追っ手が来ないことを確認した光。

 とりあえず、廃墟エリアにずっといる訳にはいかないから此処より東にある草原エリアを抜けて森林エリアを目指す。

 廃墟エリアと草原エリアの間には大きな川が流れており、橋を渡る以外に渡る方法は無い。泳いで渡れなくも無いが、銃の火薬が湿気って使い物にならならなくなってしまう。

 中央部の火山エリアに行く手もあるが、砂漠エリアから草原エリアにかけて火山エリアとの境界線に大きな峡谷が伸びている。其所を横断しようとして巻幡に見つかったら即詰みだ。

 光は草原エリアと廃墟エリアを繋ぐ唯一の橋を目指した。











 千風は姿勢を低くして岩陰に潜んで周囲を警戒している。千風の右腕には銃弾が掠って出来た傷があった。HP(ライフ)は目に見えるほどの減少はしていない。

 此処は島の北西部にある岩場エリアだ。ゴツゴツとした火山岩が辺り一面を覆い尽くしている。

 千風の装備は『M4A1カービン』というアサルトライフルに短剣、手榴弾3つ。

 敵のいる方向は判るが、何処にいるかまでは判らない。判っていることは敵がスナイパーライフルを使っていることと、その腕が高いということのみ。

 千風は意を決して岩陰から飛び出して敵のいる方向に走った。真っ直ぐ走るのでは無く、敵が狙いを定められないように左右に蛇行しながら。

 しかし、蛇行しながら走ったにも関わらず、2発目は千風の左肩に直撃した。

 千風は銃弾が直撃した衝撃で転倒するが、その勢いを利用して近くの岩陰に身を潜める。千風のHP(ライフ)は1割程削れていた。

 不規則に動いたにも関わらず狙いを外さずに当てるのだから敵の腕の高さは伊達じゃ無い。

 千風は一気に近づくのでは無く、岩陰に隠れながら近づくようにした。岩陰を素早く出て、近くの岩陰に直ぐ隠れる。

 だが、この方法だと岩陰から出てくる瞬間を狙われてしまう。

 だから、千風はその辺に転がっていた石を投げる。すると、投げた石は寸分違わずに銃弾が直撃して粉々になった。

 千風はその隙にスコープに入らない反対側から岩陰を飛び出して他の岩陰に隠れる。

 更に、千風はさっきの狙撃で敵の位置を把握した。石が粉々にされる直前に一瞬だけ光った場所があったのだ。大体1km位離れている。

 どんなに弾速が速くても光速には遠く及ばない。敵の位置が判れば千風にとって銃弾を躱すことは不可能ではないのだ。

 千風は岩陰を飛び出して走り出す。勿論、敵のいる場所をじっと見ながら。

 暫くして、敵のいる場所が一瞬だけ光った。

 其れを確認した千風は直ぐに横に飛んで回避する。銃弾は()()()()()()()()()()()()()()に着弾して、粉塵を上げた。

 敵のいる場所が光った瞬間に横に飛んでまた走る。其れを繰り返して敵に近づいていく。

 敵を目視出来る距離にまで縮んだ頃、敵はスナイパーライフルを置いて近づいてきた。


「いやぁ……まさか私の狙撃を回避する者が現れるとは思わなかったよ。ブラボーと言わせてもらおう。」


 敵はパチパチと拍手を千風に送った。

 シトロンイエローの髪がきっちりと七三に分けられ、仕草の一つ一つに気品を感じ、メドーグリーンの色をした瞳は宝石のようにきらめいていた。

 面と向き合っているだけで狭間先生以上の威圧感を感じる。若干ナルシストが入っていて仕草にウザさを感じるのは否めないが。


(恐らく、私は負ける。)


 千風はそう直感した。どう戦っても勝てる気がしない。


「良ければ君の名前を教えてはくれないかね?」

「そう言うのは其方から名乗るものではないでしょうか?」


 千風は警戒心丸出しで答える。口調も強めだ。


「それは失礼した。

 私は1年E組の花宮麗也(はなみやれいや)と言う。覚えておくと良い。」

「……私はA組の天野千風です。」


 千風は渋々と言った感じで名乗る。


「そうか……

 そんなに警戒する必要は無い。私は君と戦う気はもう無いのだよ。」


 千風は花宮の言葉に対して意外感に囚われた。

 千風が花宮と一戦交えれば、間違いなく千風が負けるだろう。それは向こうも判っているはずだ。此処で戦わない理由が無い。


「どういうことですか?」

「今此処で君と戦えば、私が勝つことぐらい君も判っているのだろう?

 だったら悪い話では無いと思うんだがねぇ。」

「だったら尚更花宮くんが戦わないという選択をする理由が判らないですね。」

「私は君が気に入ったのだよ。戦わない理由なんてそれで充分さ。」


 花宮はスナイパーライフルを持ち、千風に背中を向けて去って行った。

 此処で花宮を撃っても返り討ちに遭うだけ。千風は花宮の背中を眺めることしか出来なかった。


(とりあえずこのエリアを移動しよう。)


 M4A1カービンは反動が小さいため射程が短い。

 この岩場エリアには隠れる場所が多く、スナイパーが好む場所でもある。M4A1カービンとは相性が悪い。

 さっきは偶々上手くいっただけだ。花宮が場所を移動しなかったから場所の特定が出来た。

 普通は移動したりするものだ。そうされたら、敵の場所を特定することは格段に難しくなる。

 雪原エリアと海岸エリアは足場が悪い。草原エリアや廃墟エリアのような場所が良い。

 千風は火山エリアを抜けてそっちに行くことにした。











 木々が鬱蒼と茂っている森林エリア。

 勉は目を瞑って『三日月宗近』という刀を右手に持っている。

 周辺にいる気配は3つ。恐らく『オース』を組んでいる。

 すると、3人は一斉に勉に向かって発砲した。三方向からの発砲。普通なら三方向から撃たれて反撃の余地無く負けるだろうが、勉は違う。

 勉はその場をジャンプして木の枝に飛び移ることで三方向からの発砲を回避した。そのまま木の上を移動して敵の1人に近づく。

 敵はまだ勉を捉えていない。

 勉は木の枝を思いっきり蹴って敵に急接近する。


「切野流剣術……壱ノ太刀“水牙一閃(すいがいっせん)()(いにしえ)”」


 すれ違い様に刀を水平に振るう切野流剣術の基本の技。一切の無駄を省いて、刀を振るう向きと刃の向きを寸分違わず一致させることでダイヤモンドすらも切断できる。

 勉の刃は敵の1人の首を斬り飛ばして1擊で倒した。

 残りの2人が1人が倒されたことを知ったのか勉に近づく。敵の1人が勉に向けて発砲した。

 勉は今度は避けるのでは無くて、敵に突っ込んだ。勉に銃弾が当たると思ったが、勉は有り得ないことに刀を振るって銃弾を弾いている。

 切野流剣術では相手が銃を使用している場合、銃身の方向からの弾道を予測するという離れ業がある。弾道は銃身の延長線上にしか無い。だから銃身の延長線上に注意を向けていれば銃弾を弾くことは理論上可能だ。

 だが、簡単なことでは無い。弾道が判っていても銃弾に当たるとは限らない。弾速は速い物だと音速以上の速度がある。

 それを可能にしているのは勉の剣術のセンスの高さ故だ。勉は日本三大剣術の1つである切野流剣術を僅か8歳で免許皆伝を貰っている。巷では『剣神の申し子』と呼ばれていたそうだ。

 そんな勉相手に銃程度で敵うはずも無く、残りの2人もあっさりと首を斬られた。


「君も中々やるね。」


 勉が一息ついた時、不意に後ろから声をかけられた。

 勉は振り向き様に刀を構えて警戒する。


(俺が近付かれたことに気付かなかった!?)


 勉は幼い頃から剣術に触れてきたから人の気配に人一倍敏感だ。勉自身も気配を察知することにそれなりの自負がある。此処まで近付かれても気が付かなかったのは初めてだ。

 声をかけてきたのは、ファウンテンブルーと桑の実色という左右で異なった髪の170cm位の青年だった。ゴールデンオーカーの瞳には自信で漲っている。

 そう、入学式で新入生総代を務めた緋山聖司だ。装備は西洋剣1本と盾のみ。

 だが、彼に一切の隙は無い。戦闘力は自分と同等かそれ以上であると窺える。

 勉は今は逃げるべきだと思ったが、逃げようと背中を見せた瞬間に殺られるため逃げることは出来ない。

 ならば、先制攻撃して戦闘の主導権を握るしか無い。 

 勉は緋山に急接近した。


「切野流剣術……肆ノ太刀“氷点突破(ひょうてんとっぱ)()(あたい)”」


 新撰組三番隊組長斉藤一の『牙突』を基にした突き技だ。突進しながら全身のバネを使って突くため『牙突』よりも鋭く速い突きが出来る。

 だが、緋山は盾を使って受け流した。


「流石はあの剣術大家切野家の者だ。

 非能力保持者にも関わらず能力(デュナミス)を含めた剣術の全国大会で優勝しただけはある。話をしないか?」


 緋山は勉に斬りかかった。

 勉は緋山の剣を刀で受け止めて鍔迫り合いとなる。


「君と話すことなど無い!!」


 勉は緋山の剣を弾く。


「切野流剣術……捌ノ太刀“星煌輝戟(せいこうきげき)()(なだ)”!」


 額、喉、胸、両腕、腹、両脚の8カ所に高速で連続して突きを入れる切野流剣術で最も致死率が高い技だ。

 しかし、緋山は盾を駒落としのように動かして全ての突きを防ぎきり、剣を勉に斬りつけた。

 勉は緋山から距離を取って躱すが、少し間に合わずに胸に切り傷が出来る。HP(ライフ)も1割程削れていた。

 勉は緋山から逃げるように距離を更に取る。既に勉の姿は見えない。


「逃げられたか……まぁ、良い。

 彼が私以外に負ける可能性は低い。また戦えることを楽しみにしているよ。」


 緋山の呟きは鬱蒼と茂る森の暗闇に消えていった。











 光は途中何人かの生徒を倒しながら巻幡がいないか慎重に周りを警戒しながら草原エリアに繋がる橋に足を進めた。

 そして、遂に橋が見えた。石造りのアーチ橋だが、アーチの部分が劣化している。車が通ったら崩壊しそうな雰囲気だ。

 そして、アーチの柱の陰から人が出てきた。光は眉を顰めた。

 ルージュ色の髪をボブカットにして、菫色の瞳を持つ光と同じくらいの背丈の生徒で、両手に金属の籠手を付けている。


「やっぱり。来ると思ってたわ、影谷光くん。」


 巻幡は不敵に笑いながらそう言った。






          to be continued……

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