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世の中なんて所詮実力が全てである  作者: 岩谷衣幸
序章 実力主義の世界
2/9

第2話 能力の戦い

 狭間先生が教室を出たと同時に光は席を立って帰宅の準備をする。


「あれ、光。もう帰るか?まだこんな時間だし一緒にショッピングモールの方へ行ってみようぜ。」

「……そうだね。じゃあ、一緒に行こうか。勉も来る?」

「ああ、一緒に行かせてもらう。」


 光は少し思案した後、勉も誘って行くことにした。この後の予定も特になかったし。

 3人はぱぱっと荷物をまとめて教室を出た。

 ショッピングモールに行く前に私服や日用品といった荷物を寮に置いてから行くことにしたから昇降口を出て東に進む。寮までの道は一本道で大体1km弱位先にある寮も見える。

 10分程歩くと寮に着いて1年男子と書かれた入口に入ると広々としたロビーがあった。

 受付の窓口で学生証を示すと受付嬢から鍵と寮生活の掟と書かれた紙を受け取る。光は104号室、錬は105号室、勉は106号室だった。掟は後で読めということなのだろう。

 自分の部屋に入って荷物を置き、ショッピングモールがある北へ向かった。

 ショッピングモールは『ユリカモメモール』と言うらしく、ユリカモメの周りにソメイヨシノを描いたシンボルマークが入口に大々的に飾られている。因みに、ソメイヨシノは東京都の花、ユリカモメは東京都の鳥だそうだ。

 ユリカモメモールは思いの外広かった。学校の施設だから娯楽施設まであると言ってもそれ程充実しているとは考えてなかったのだが、田舎のショッピングモールよりも充実している。いや、東京のショッピングモールにも負けず劣らずの規模だ。

 中に入ると当たり前なのだが、学校の生徒しかいない。その割には軒を連ねる店は豪華だ。海外のブランドファッション店や国内の高級レストランとかもある。


「何処行く?」

「う~ん……腹減ったからとりあえずレストラン行かね?」

「そうだな。もう12時過ぎてるしな。」


 3人はレストランエリアへと足を向けたのだが、時間帯が時間帯だけに凄い混んでいる。何が食べたいよりも何処に空いた席があるかを優先した。

 結局、3人が座れたのはラーメン屋だった。

 光は豚骨ラーメンと餃子、錬は醤油ラーメンと炒飯、勉は塩ラーメンと唐揚げを頼んで一息ついた。


「そう言えば、此処ではポイントで支払うんだよな?入試の総合点数の100倍のポイントが支給されるって言ってたけど実際どれ位なんだ?」

「QRコードを読み取れば確認出来るって言ったね。」


 3人がスマホを取り出してQRコードを読み込ませた。


「うおっ!!すげぇ額だぞ。一、十、百、千、万、十万……」

「高校生に渡す額では無いな。」

「なんかこの生徒証が特別な物に見えてきたよ。」


 光のスマホには147,300p、錬のスマホには112,900p、勉のスマホには160,400pの文字が表示されていた。

 3人で暫くポイントの事で盛り上がっていると、注文した品が運ばれてきたから中断してラーメンを食べ始めた。ラーメンだから伸びると美味しくないからね。

 ラーメンを食べ終えた後、支払いをしてユリカモメモールを適当に回ることになった。

 適当にぶらぶらして興味が湧いた店に行くということにした3人はレストランエリアを出る。


「光、さっきからキョロキョロ周りを見渡してばっかだけど、どうかしたのか?」

「え?……あ、いやぁ……俺、こういう所あんまり行かないし、初めての場所には興味がわく物ばかりあるからさ。」

「じゃあ、さっきからスマホで何してるの?」

「俺は方向音痴だから迷ったときに目印になる物の場所に丸を付けてるんだよ。」


 光の回答は少ししどろもどろであったが、2人は気にした様子も無く、話を変えた。


………

……


 3人は黄昏時までユリカモメモールを回り、食堂で夕食を済ませて寮に戻ることになった。食堂はちらほらと生徒がいる位で混んではいない。

 食堂のメニューは豊富で味も良かった。無料とは思えないほどだ。

 今日3人が使用したポイントは光が1,000p弱、錬が5,000p強、勉が2,000p位だった。光はラーメン代と本を何冊か、錬はゲーム機など爆買い、勉はスポーツシューズやスポーツタオルを購入。

 今日で3人の趣味趣向がある程度分かった。

 光は用事があるらしく寮の入口で別れ、錬と勉は自分の部屋に戻る。光の姿は既に寮入り口から消えていて何処に行ったかは判らなかった。











 翌日。7:45。

 光は寮を出て学校に向かった。8:45に登校なのに何故この時間かというと食堂で朝食を取るためだ。

 それと一応学校まで迷ったときに遅刻しないようにするため。寮から学校まで一本道だから迷う可能性は無いって?

 それでも光は迷うのだ。

 それは光が只の方向音痴ではないから。光は()()()()()()方向音痴なのだ。

 そして、光はやらかす。

 道の両側は木々で生い茂っていて森のようになっているのだが、光は1カ所草木が倒されている獣道らしきものを見つけた。

 そして光は思った。学校の敷地内には野生の動物がいるかと。好奇心旺盛な光はこの獣道を無視して学校に向かうはずが無く、森に足を踏み入れた。光のアホ毛が歩く度にぴょこんぴょこんと嬉しそうに跳ねている。

 そうして光は森の奥へと消えていった。






 8:40。

 錬と勉は既に登校しており、光が教室にいないことに不思議に感じていた。

 光が朝早くに登校しているのは寮のロビーにあるポストを確認しに行った勉が見ている。食堂にも寄ったが、光の姿は何処にも無かったのだ。

 時間まで残り2分を切った頃、廊下からダッダッダッと走る音が聞こえてきた。ガラガラと勢い良く教室の扉を開けて入ってきた制服が汚れだらけで所々に葉を付けている光は少し肩で息をしていて汗をかいている。

 クラス全員から注目を集めている光はその目線を気にすること無く、()()()()()()()()()()()()()()()()()自分の席に着いた。


「光、どうしたんだよ。そんな泥だらけで。」

「い、いやぁ……此処までの道沿いに森があるでしょ?其所に獣道を見つけて若しかしたら野生の動物を見つけられるかもって思って、森の中を……」

「散策してた、と……光、申し訳ないけど、君ってなんて言うか……その……」

「馬鹿だな。」


 光の話を聞いて勉は思った事を口にしていいか迷っていたら、錬が何の躊躇いも無く勉が思った事を口にした。

 当の光は心外だとでも言うような顔をしている。


「そんなこと無いよ~。男をナンパする錬には負けるな。」


 お返しとばかりに光が悪い笑みを溢す。錬は顔を紅くするだけで何も言い返さない。いや、返せない。錬自信もその事については馬鹿なことをしたという認識があるからだ。


「で、何か見つけられたのか?」

「……それが残念、何も見つけられなかったんだよ。

 しかも、道が幾つも分岐してて何処から来たのか判らなくなって森を彷徨う羽目になってさ。

 いやぁ、早くに寮を出といて良かったよ。朝食は食べれなかったけど。」


 此処で始業のチャイムが教室に鳴り響き、教室の扉が開いて狭間先生が入ってきた。


「皆さん、おはようございます……って影谷くん、その姿どうしたんですか?」


 光の汚れた制服を見て目を丸くする狭間先生。光の今の狭間先生の印象は冷静沈着で何事にも物怖じしない性格だと思っていたから、今の狭間先生の様子を見て意外感に囚われた。


「あ、いえ、気にしないで下さい。」

「……分かりました。ですが、そのような格好は減点の対象となるので注意して下さい。」


 光は眉をひそめながらも狭間先生の言葉に頷いた。


「それではHRを始めます。」


 この学校に朝の集会のようなものは無い。始業のチャイムと同時に1限目の授業が始まる。放課後も同様で終業のチャイムと同時に放課後となる。


「まず初めに自己紹介から始めたいと思います。氏名と出身県は必ず行って下さい。後は何でも良いです。

 それでは、出席番号1番の天野さんから。」


 狭間先生が最初に指名したのは、光の右隣の生徒。菖蒲色のセミロングの髪にホリーグリーンの瞳が輝く先程まで読書をしていた女子。

 狭間先生に呼ばれて読んでいた本を閉じてその場を立ち、後ろを向いた。


「初めまして。天野千風(あまのちかぜ)です。埼玉県出身で趣味は読書、好きな食べ物はアップルパイです。

 よろしくお願いします。」


 天野は一礼して席に着いた。

 そうして順番に自己紹介をしていき、光の番となった。


「初めまして。影谷光です。イギリスのロンドン出身で趣味は読書で、好きな物は甘々のコーヒーとそれに合う物全般です。

 よろしくお願いします。」


 光の次は錬の番だ。


「初めまして。俺は金田錬。千葉県出身で趣味はサッカーだ。サッカー部に入部使用と思うからサッカー部に入る奴は頑張ろうな。

 3年間、よろしく。」


 錬が席に着いて今度は勉が席を立つ。


「初めまして。僕は切野勉です。石川県出身で剣道をしています。部活も剣道部に入る予定です。

 よろしくお願いします。」


 勉が席に着いてその後ろの生徒の自己紹介が始まる。

 そして、40人全員の自己紹介が終わると狭間先生が椅子から離れて教卓の前に立つ。


「皆さん、ありがとうございました。全員素晴らしい自己紹介でしたよ。

 それでは、昨日言ったように各種委員会を決めたいと思います。」


 狭間先生は黒板に委員会を書いていった。昨日とは違い、生徒会、部統会、風紀委員会、クラス委員会は書かれていない。

 全て書き終えたら、昨日同様狭間先生は同じ椅子に座って読書し始めた。

 それを確認して動き出したのはクラス委員の2人。錬が黒板に決まった人を書き、水池が進行するようだ。

 基本的に立候補制で決めていくことにしたらしい。特に委員会決めでもめること無く順調に決まっていった。

 因みに、光は図書委員会、勉は体実委員に所属する。

 光が図書委員会に所属したのは本好きというのもあるが、此処の図書室が異常であることが起因していた。

 高校の図書室の蔵書量の平均は約25,000冊である。しかし、此処の図書室の蔵書量は20,000,000冊を超えている。日本の国立図書館でも蔵書量が10,000,000冊を超えることは無い。それだけの量になったのは、偏に海外の本が多いことが理由だ。国際教育機関であるから国立図書館よりも海外の本が手に入れやすい。

 それだけ大量の本を管理するのは並大抵の事では無いため、書庫を作って其所に入れる人を限定することで管理しやすくしている。

 そして、其所に入れる人が図書委員会と言う訳だ。本好きには溜まらなく興奮するだろう。50,000,000冊以上の本を見れる事なんてまず無い。光もその1人だ。興奮しない訳が無い。

 もう1人の図書委員は最初に自己紹介をしていた天野だ。

 因みに、勉が所属する体実委員のもう1人は巻幡という生徒だった。

 全委員会が決まったところで狭間先生が教卓の前に立った。


「クラス委員の2人はありがとうございました。

 今日は後は学校の敷地内を自由に見に行って構いません。午前中の授業が12:35に終了して50分間の昼休憩の後に13:25から午後の授業が始まりますので、13:20までに教室に戻ってきて下さい。他学年の授業を妨害する様な言動は控えるように。

 学校は広いですから、迷うと時間までに戻って来られない可能性があるので2人以上で行動しておくのがお勧めです。

 午後は委員会の顔合わせがあるので委員会に所属した生徒は早めに教室に戻ってきておいて下さいね。」


 狭間先生はそう言うと、教室を出て行った。もう自由に行動して良いということなのだろう。

 廊下からは他クラスの生徒の話し声が聞こえる。


「2人は何処行くんだ?」

「俺まだ決めてないよ。」

「僕は剣道場とか闘技場に行ってみたいかな。」

「おっ、ならそっちに行ってみようぜ。」


 錬の発言で3人は武道館や闘技場がある部活動エリアに足を進めた。

 光はスマホで撮っておいた校内マップの所々に丸を付けている。

 武道館には柔道場や剣道場、相撲場などがあった。

 今は2年C組の生徒が体育の授業で柔道をしている。見学しているが、とても汗臭い。何時の時代も道場が汗臭いのは変わらないようだ。

 錬がサッカー部に所属する予定だから近くの運動場も見学することになった。

 サッカースタジアムや陸上競技場、ラグビー場、野球スタジアムと何でもあるし、設備も充実している。全てドームになっていて客席もあり、その周りには売店も軒を連ねていた。部室はドームの1階全て。

 そして、射撃場もあった。

 第三次世界大戦後、資格があれば銃の所持や使用を許可れるようになった。まぁ、『銃火器取扱い免許』は国家試験を受ける必要があるため所持者は意外と少ないのだが。

 其れでも射撃場の設備も整っている。

 こんな大金が何処から出ているのか不思議で仕方ない。

 ある程度部活動エリアを見学した後は、3人は闘技場へと向かったが、闘技場には不穏な空気が漂っているのを感じた。

 闘技場のフィールドには入れなかったから客席へと回る。客席からはフィールドの様子が良く見えた。

 フィールドにいるのは2人の生徒。

 1人は光が入学式で見つけた体育着姿のD組の波上で、もう1人は樺色の髪をぼさぼさにしてジョーンシトロンの鋭い目で波上さんを睨みつけている制服の男子生徒。体が大きく制服越しでも分かるほど筋肉が発達していて、周りにプレッシャーを掛けている。


「おい、てぇめぇ。さっき言ったことを此処で土下座して謝れ。

 そうしたら、てぇめぇをたこ殴りにするだけで済ましてやるよぉ。」


 男子生徒が床を指差している。


「あら、何故私が貴方なんかに土下座して謝らなければならないのかしら?

 逆に貴方が私に謝って欲しいのだけど。こんな所まで付き合わせてこっちが良い迷惑だわ。」


 波上は男子生徒の言葉に耳を貸す気は無いようだ。反対に波上が男子生徒を煽っているようにも聞こえる。


「ああぁん!?……てぇめぇ、もう許さねぇ。てぇめぇをぼっこぼこのギッタギタにしてやるぜぇ。

 腕が鳴るねぇ!」


 男子生徒は手をポキポキと鳴らしながら挑戦的な笑みを浮かべている。

 対して波上は溜息1つ。米神を押さえながら頭を振るっている。


「はぁ……貴方、もっと上品な言葉を使えないのかしら?野生のゴリラのようよ。幼稚過ぎて話にならないわね。

 大体、貴方の攻撃が私に当たるはず無いでしょう。馬鹿なのかしら?

 いえ、御免なさい。貴方は野生のゴリラだから馬鹿未満だったわ。貴方と同列に扱った馬鹿な人達に申し訳ないわね。

 あ、でも、貴方を野生のゴリラと表現するとゴリラが可哀想ね。

 じゃあ、貴方は……ゴミ、かしら?」


 息をするかのように毒を吐く波上。世間の評価だと自分に驕ること無く、直向きな性格らしいが目の前にいるのはそんな評価を受けた人では無い。凄い変わり様だ。


「言ってくれるなぁ。そんな自信あんのか。だったら決着付けようじゃねぇか。

 そのために態々教師の許可取って此処にいるんだ。早速始めようぜ。」


 男子生徒の言葉を聞いた立会人の教師はフィールドの中心線に立ち、右手を挙げる。


「この試合のルールを説明する。

 武器などの持ち込みは禁止で能力(デュナミス)の使用は可能。骨折以上の怪我を負わせるのも禁止とする。

 どちらかが負けを認める若しくは気を失った方が負けとなる。試合中の怪我は自己責任とする。

 これらに違反した場合、反則負けとなるので注意しておくこと。

 それでは……始め!!」


 挙げていた右手を下ろしたと同時に男子生徒が波上に向かって体に電気を纏いながら突進していった。恐らく男子生徒の能力(デュナミス)であろう。

 男子生徒が右腕を大きく振り上げて、波上に振り下ろす。波上さんは男子生徒の攻撃が判っていたように攻撃が当たる直前でひらりと動いて攻撃を躱す。

 男子生徒は舌打ちを1つして何の技術も無い力任せな攻撃を次々と繰り出すが、何れも紙一重で躱される。それに対して、男子生徒の顔に怒りと焦躁が表れ始めた。


「はぁ……相変わらずだな、五十嵐は。」

「五十嵐?錬はあの男子生徒を知ってるの?」

「ああ、彼奴は五十嵐雷牙(いがらしらいが)。俺の中学の隣の中学にいて地元じゃ其れなりに有名な奴だ。

 能力(デュナミス)第七能力(セヴンスデュナミス)神の雷(フルグル)』。電子を操作して電気を纏ったり放出したりするんだ。本来なら、相当厄介な能力(デュナミス)なんだが、あの脳筋は力任せしか出来ないからな。」

「確かに、電子を操作するということは磁場も自由に形成出来るという事だしな。磁場は人体の血液の流れを偏向させることが出来る。其れをすれば直ぐに決着が付くだろうに。

 殴る蹴るに関しても五十嵐くんの攻撃は愚直すぎる。フェイントも一切無いとか相手に避けて下さいって言ってるようなものだよ?あんなに自信たっぷりだったけど期待外れだね。」

「磁場の話は俺もよく分からんが、五十嵐の攻撃が愚直すぎる事について同意だぜ。攻撃の軌道が丸見えだ。彼奴は自信だけは人一倍あったからな。波上なんてまだ能力(デュナミス)使ってないんじゃねぇか?」

「というか、波上さんの能力(デュナミス)って何なの?」

「……さぁ?俺は知らない。」

「勉は知ってる?」

「ああ、波上さんの能力(デュナミス)第六能力(シックスデュナミス)心の波動(ヴァルナー)』って言うらしい。

 周囲の状態を超音波で探知したり心の声を聞いたり出来るそうで、衝撃波も相手を気絶させる程度まで増幅することも出来るそうだ。

 攻撃よりも他人の補助や隠密に重きを置いた能力(デュナミス)だな。」

「心の声が聞こえるのは便利だけど、五十嵐相手なら使わなくても変わらないね。」


 五十嵐は攻撃が全く当たらないことに遂に堪忍袋の緒が切れて、全方位に電撃を放とうとした。

 しかし、波上は其れを瞬時に察知し、五十嵐に急接近すると、死角から鳩尾に掌底打ちをして怯んだ隙に鋭い回し蹴りを顔にくらわせた。どちらの攻撃も衝撃波を増幅させているあたり、波上の能力(デュナミス)の使用技術が相当高い事が窺える。

 五十嵐は大きな音を立てながら軽く10m程吹っ飛んだ。暫くして五十嵐は立ち上がるが、唇は切れており口周りが紅く染まっている。蹴られた右頬は赤く腫れていた。


「チッ……やってくれるじゃあねぇか、このクソ女ぁ!!」


 五十嵐は右腕に電気を集中させて構えた。そのまま右拳を前に勢い良く突き出すと、電撃が五十嵐から波上へと一直線に迫る。

 波上は電撃の軌道から逃れるとそのまま五十嵐に接近。

 五十嵐が軌道修正してもう1度電撃を放とうとするが、波上が右足で地面を勢い良く踏んで発生した衝撃波を増幅させて五十嵐を怯ませる。そのまま隙だけの五十嵐の顎にアッパーを繰り出す。

 五十嵐は後方上方に吹き飛ばされた。それでも暫くすると立ち上がる。先程のアッパーもご丁寧に衝撃波を増幅していたので常人ならば既に気を失っていても可笑しくない。

 五十嵐の戦闘技術はお世辞にもにも高いとは言えず、何故地元で有名なのか疑問に思っていた光だが、この粘り強さが起因しているのかもしれないと思った。


「あら、まだ立つのかしら?随分としぶといわね。まるでGみたいだわ。

 鬱陶しいから早く終わらせてくれないかしら?Gならば早く駆除しないといけないの。」

「俺はずっとこの方法で勝ってきたんだぜ。どんなに殴られても顔を地に擦りつけられても、相手の体力を消耗させて隙を突いてのし上がってきたんだ。

 幾らでも粘ってやるぜ。てぇめぇが力尽きるまでなぁ!」


 五十嵐は先程と同じ様に電撃を放っている。

 そして、其れを波上は回避して確実に攻撃を入れて五十嵐を吹き飛ばす。

 その攻防を何度かした後、波上が溜息を1つついた。


「はぁ……能力(デュナミス)を使用した戦闘は能力(デュナミス)の使用技術向上の参考になるから貴方とも試合を行ってみたけど、貴方から得られる技術は何も無さそうね。

 全く以て詰まらないわ。もう終わらせましょう。」


 五十嵐は接近してきた波上を拳で攻撃するが、跳び箱の要領で躱されて背後を取られる。

 五十嵐が後方に振り向いた瞬間、目の前で大きな音が鳴り、五十嵐は何をされたか理解する余裕も無く視界が歪んで暗転した。


………

……


「勝者、波上心音。」


 立会人の教師が試合終了の合図を告げたと同時に客席にいた幾人かの生徒は立ち去っていった。

 3人も丁度午前中の授業の終業のチャイムが鳴ったのを聞いて、食堂に向かう。闘技場から食堂まで意外と距離があったため、食堂に着いた頃には既に腹を空かせた生徒で溢れかえっていた。

 食堂のカウンターでメニューを注文して受け取った後、何とかして席を確保できた3人はさっきの試合のことで盛り上がっている。


「凄かったな、さっきの試合。波上の圧勝だったぜ?」

能力(デュナミス)の使用技術が高度だったね。最後も相当の技量が必要なはずだよ。」

「俺、最後の攻撃、波上が何をしたか判らなかったぜ。何をしたんだ?光と勉は判ったのか?」

「あれは猫だましだな。」

「猫だまし?」

「うん、相手の顔前で手を叩いて怯ませる技だよ。只の猫だましなら怯ませる程度だけど、波上さんは衝撃波を増幅させて五十嵐くんの三半規管を狂わせたんだ。」

「でも、其れって波上自信にもダメージを受けるんじゃねぇか?」

「只叩くだけが猫だましの技術じゃない。猫だましには叩き方にコツがあって、コツを掴むと音を一定方向のみに広げることが出来るようになるんだ。

 僕も猫だましを使うことはあるけどあんなに鮮やかにに決めることは出来ないな。」


 錬の疑問に対して光と勉が交互に答える。

 錬は波上の技術と其れ解説できる2人に感心していた。


「そう言えば、2人はどんな能力(デュナミス)なんだ?僕は非能力保持者なんだけど、2人は持ってるの?あ、勿論答えたくないならそれで良いよ。」


 他人の能力(デュナミス)を訊く。それは人に個人情報を訊いている事と同義であり、人によっては失礼だと感じさせてしまう。互いに気を許しあっている仲ならば兎も角、初対面の人に訊く内容では無い。

 3人は知り合ってからまだ日は浅いから、勉は遠慮の選択肢も提示したのだ。


「俺の能力(デュナミス)第六能力(シックスデュナミス)鋼の鎧(メタルアーマー)』ってやつだ。

 簡単に言うと、体を金属に変質させる力だな。」

「俺の能力(デュナミス)第七能力(セヴンスデュナミス)絶対閃光(ラディウスメギストス)』。

 要は光を操作する力で、光線を放ったり光学迷彩を施したり出来るんだよ。」


 暫くの間食べながら話した後は、まだ行っていない場所を適当に回って13:15位には教室に戻る。

 時間になると狭間先生が教室に入ってきた。


「皆さん、揃っていますか?それではHRを始めます。

 これから今後の授業に使う教科書を配布します。教室に置いても良いし、寮に持ち帰っても構いません。

 此処で学ぶ教科は入試の14教科(現代文、古典、数学、物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎、日本史、世界史、地理、現代社会、英語、ポルトガル語、スコットランド語)に加えて、体育、音楽、更に技術と家庭科と書道と美術から1教科選択した全17教科。今年1年間の時間割も配っておきます。」


 狭間先生は全員に必須教科の教科を配り、選択教科の教科書を前に並べて生徒に取りに来させた。

 光と錬は技術、勉は書道を選択したらしい。


「この後は各委員会の顔合わせがあります。委員会に所属している生徒は各委員会の集合場所を黒板に張っておきますので、確認して下さい。

 委員会に所属していない生徒は帰宅するなり部活見学をするなり好きに行動してもらって構いません。

 今日はもう教室に戻る必要も無いので。

 それではまた明日。」


 狭間先生はそう言って教室を出て行った。

 必要事項以外何も言わない先生だなぁと光は思う。別にそれが悪い訳では無い。只、もう少し話しやすい雰囲気ならば相談や質問し易いのにと思っただけ。だけれども、わざとそうして相談や質問をされないようにしていると光は感じた。

 光は考えすぎだと思考を切り換えるために頭を振るい、大量にある教科書の中から主要5教科の教科書を鞄に入れる。そして、黒板に張ってある委員会の集合場所を確認した。

 図書委員は当たり前だが図書室だ。

 因みに、錬が所属しているクラス委員は3年A組の教室、勉が所属している体実会は2年E組の教室だった。

 同じ図書委員の天野さんは既に教室にはいない。

 光は早いなぁと思いつつ、2人と別れ教室を出て図書室へと向かった。






          to be continued……

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