表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ

 それは一瞬の出来事だった。

 さっきまで見慣れた景色は一変し、俺は全く見覚えのない場所にいた。

 別に何か特別なことをした覚えはない。

 歩き慣れた道を歩いていたら前触れもなく、突然、風景が変わったのだ。

 走っていた車は全て消え、アスファルトの道路も土の地面になっている。

 周りの建物は木造や石造りの物ばかりだ。

 何が起きたのかわからずにその場で立ち尽くしていると、一人の少女が俺の方に走ってくるのが見えた。

 年齢は俺と同じ18歳か少し下だろう。

 セミロングのきれいな銀髪と青い目が特徴的で服装は白を基調とした物だ。

 その美しい少女は俺の目の前で立ち止まると同時に頭を下げた。


 「ごめんなさい!」


 「え?」


 見たこともない少女にいきなり謝られて、俺は困惑した。この少女にあったのは初めてのはずだし、謝られるような心当たりは何も無い。


 「えっと、とりあえず顔上げて」


 俺がそう言うと、少女はゆっくりと顔を上げて話し始めた。


 「信じてもらえるかわからないけど、ここは異世界なの」


 「異世界?」


 確か異世界というのはあのアニメシリーズのデジタルな世界みたいな、俺たちが住んでいる世界とは別の世界のことだったはず。

 どうして俺がその異世界に来てるんだ?


 「うん。実は私のミスであなたはこの世界に来てしまったの······」


 「どういうこと?」


 「基本的には世界同士がつながることはないんだけど、ごく(まれ)に世界同士の境界に綻びが生じることがあるの。そして、あなたはそこを通ってしまった······」


 なるほど。俺がこの世界に来てしまった理由は何となくわかった。

 だが、この少女のミスとはいったいどういうことだろうか。

 どこか神聖な雰囲気を纏っている気がするが、まさか神様ではないだろう。

 神様は男で髭の生えた年寄りだったはずだ。──いや、よく考えたらそれは仙人だった気がしないでもないが、ともかく、目の前の少女は違うだろう。だとすると、世界の綻びを管理しているのだろうか。


「本当にごめんなさい! 世界の綻びを直して、別の世界に迷い込んだりする人がいないようにするのは女神(・・)である私の役目なのに······」


 女神様だった!

 神様は男だけじゃなくて、女神様もいるんだ。

 見た目は人間にしか見えないけど。

 見た目と勝手な思い込みだけで決めつけるのはよくないな。

 ──っていうか俺、普通に話してたけど大丈夫かな?

 今からでも敬語を使った方がいいかもしれない。


 「すみません。女神様だとは知らずに普通に話してしまって······」


 「別に敬語を使わないでもいいわ」


 なんだ、敬語じゃなくていいのか。


 「そっか。じゃあ、俺がこの世界に迷い込んだことだけど、気にしないでいいよ。間違いは誰にでもあるしね」


 俺も女神様に敬語を使ってなかったし。

 まぁ結局、使わないでいいとは言われたけど。


 「ありがとう。すぐに元の世界、元の時間に帰してあげる」


 そう言って女神様は両腕を伸ばして手のひらを俺に向ける。すると、俺の体が光に包まれた。

 光は徐々に強くなっていき、あまりの眩しさに思わず目を閉じる。さらに光は輝きを増していき、


 「うわー!」


 「きゃー!」


 ──ドンという何かが壊れる音と悲鳴がいくつも聞こえた。それと同時に光も消え、俺は目を開けてその光景に愕然とした。


 「なんだよ、これ······」


 いくつもの建物が崩れ落ちて瓦礫となっている。また、少し離れた場所では黒い煙を上げながら、建物がごうごうと燃えていた。そして、その近くには異形の化け物が数匹いる。

 化け物達は逃げる人を追いかけていて、何人か怪我をしているように見える。


 「······何が、起きたの?」


 目の前にいる女神様に問いかけた。

 今の状況を見て考えられるのは化け物がこの事態を起こしたということだ。

 そう、頭ではわかっていた。それ以外の理由はない、と。だけど、それを受け入れたくなくて、気づくと目の前の



 「結界が破られてモンスターたちが町に責めて来た」


 頭ではわかっていた。それ以外の理由はない、と。だけど、それを受け入れたくなくて、気づくと目の前の女神様に質問していた。でも、返ってきたのは予想通りの答え。

 正直に言うと、現実離れしたことが起きすぎていて、理解が追いつかない。

 それでも、今の事態を受け入れるしかない。全て現実なのだから。


 「何とかできないの?」


 残念ながら、俺には現状をどうにかする力はない。それが出来るとすれば目の前の女神ぐらいだろう。


 「今から前より強力な結界を張るところ」


 そう言うと右手を前の突き出して目を閉じた。すると、俺たちを守るようにドーム状のバリアのようなものが現れた。これが結界だろう。

 そして、結界は徐々に拡がっていき、モンスターたちを弾きながらかなりの大きさになり、透明になった。


 「これで大丈夫」


 「モンスターが街を襲うのって、この世界ではよくあることなの?」


 ふと気になったことを聞いてみた。


 「ううん、モンスター自体は昔から野生に生息してたけど、少し前まではこんなことはほとんどなかったの。今みたいにモンスターが街を襲うことがよく起こるようになったのは最近になってから。魔王軍を名乗る者たちが現われてからよ」


 「魔王軍?」


 聞いた事のない単語に首を傾げる。


 「自らを魔王って名乗る人間が率いている軍勢のこと。モンスターを手懐(てなづ)けて街を襲わせているの」


 魔王、か。アニメで見た肌が緑色の大魔王が思い浮かんだけどそれとは全く違うものだろう。アレは人間じゃないし。


 「じゃあ、さっきみたいなことがよくあるってこと?」


 「うん。一応、冒険者たちが街の近くのモンスターたちは倒してくれてるんだけどね······。魔王軍のモンスターは急に現れるから対処が遅れるみたい」


 なるほど。冒険者って人達がモンスターを倒しているのか。じゃあ、冒険者になればモンスターと戦えるってことか。


 「その冒険者って誰でもなれるの?」


 「うん、誰でも冒険者になれるよ」


 冒険者には誰でもなれるのか······。


 「そっか。色々と教えてくれてありがとう」


 「もういいの?······じゃあ、さっきは結界を張るために途中でやめちゃったけど、今度こそ元の世界に帰してあげる」


 そう言って女神様は再び両腕を俺に向けて伸ばそうとした。


 「──待って」


 今回は女神様が結界を張ったおかげでこれ以上の被害は出ないだろう。

 しかし、すでに被害は出ているのだ。

 家を壊された人がいる。

 怪我をした人もいる。

 そして、その場を目撃してしまった。


 「······どうしたの?」


 もし、また結界が破られれば同じように、もしくはこれ以上に被害が出るだろう。

 だから──


 「今じゃなくても元の世界、元の時間に俺を帰すことは出来る?」


 この質問にそれほど意味は無い。

 答えがどっちだろうと俺の意思は変わらない。


 「出来るよ」


 よかった。もしも無理だったら帰った後の言い訳を考えておかないといけなかった。


 「じゃあ、今度でいいよ」


 「······この世界に残るの?」


 「少しの間だけ」


 「······魔王を倒す気?」


 「······魔王を倒せるかはわからないけど、やれることはやりたい。実際に困っているのを見たのに、それを見て見ぬふりは出来ない」


 「······わかったわ。私も協力する」


 「え、いいの!?」


 女神様からの思わぬ協力の申し出に驚きつつも喜ぶ。

 女神様の力が借りられるのなら魔王も倒せるかもしれない。


 「あなたがこの世界に来たのは私の責任だから、あなたを元の世界に帰すまでは一緒にいるわ」


 「ありがとう。俺は伊崎(いさき)(そう)。よろしく」


 「私はルシア。よろしく」


 そう言ってお互いに握手をした。


 「まずは冒険者になりたいんだけど、どうすればいいの?」


 「付いて来て」


 そう言って女神様──ルシアは歩き出し、俺はその背中を追いかけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ