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「婚約者?」


弟が生まれて早二年。

弟のフォルテはすくすくと育っている、らしい。

二年も経っているが実は一度も顔を見ていない。

しかし、王や王妃は頻繁にフォルテに構っているようだ。

自分との違いを気にしたらキリがない。

何よりまだまだやることは多いのだから、そんな事にかまけていられない。


王女らしく振る舞いながら日々の鍛錬は欠かさず、それなりに見れるようになった頃。

それを見計らったように他国から婚約の打診があると王妃付きの侍女を通して伝えられた。

政略結婚である。

なるほど、後継者ができた今となっては私は王や王妃にとって邪魔なのだろう。

一体どこの下卑た男をあてがわれるのかと警戒してしまう私に王妃付きの侍女はさも光栄であることだと鼻高々に相手について語るのだ。


王妃付きの侍女が自慢げなのは謎だが、肩書きを聞くにそれは他国の王子らしい。

肩書きだけは立派だが、それ故に物凄く問題を抱えた王子なのではないかと更に警戒心が高まる中、これは既に確定事項であることを付け加えて去っていく。


「ヴィクトリア様…」


かつて、私の所業に目を逸らしてくれた侍女カノンは痛ましげに私の名を呼んだ。

カノンは現在、私が最も信頼を寄せているといっても過言ではない。


私が剣を持てなくなったあの日、ロダンの言葉の通りに味方をつけようと思った時に最初に思い浮かんだのが彼女だった。

王妃に逆らえないながらも、目を逸らして私の行動を見過ごしてくれた彼女ならと。

私は部屋に戻るなり、外の喧騒を良いことにカノンを席につかせ私の現状をとつとつと語った。

その上で前向きにこれからを過ごそうとする姿勢に感銘を受けてくれたようで可能な限り協力は惜しまないと言ってくれた。

侍女でしかない自身にできることは少ないかもしれないとも言われたが、寄り添ってくれる大人がロダンしかいなかった私からすれば十分だった。


「どんな方なのかしら、見極めないといけないわ。」


私の言葉にカノンは静かに頷いてみせた。

これでカノンは他の侍女仲間たちから情報を仕入れてくれるだろう。

簡単に噂程度でも知れれば良い。

会う前から知り過ぎれば相手を見る目が変わってしまうかもしれないから。


そうして分かったのは相手の国名と、第二王子であること、年齢は11歳であること、そして密かに広まっているらしい呼び名だ。


「妖精王子?…男の方はあまり嬉しくないのではないかしら」


しかも年齢的にも複雑なのではと思うのだけど、周囲からすれば関係ないのだろう。


「とても美しい容姿をされているとか…ただ、やはり他国のことですし交流もあまりない国のためどこまでが真実かは…」


大した情報を入手できず居心地悪そうに体を竦めるカノンに気にしなくて良いと微笑みかける。


「まあ、そうよね。だからこその政略結婚だわ。ありがとう、カノン。会う前の情報としては十分だわ。後は自分の目で確かめます。」

「…それは…」


カノンの言おうとしていることが分かり一つ頷く。


「明日、こちらに到着するそうよ。」


事実上は既に婚約が確定しているが、本人同士の顔合わせをしてから話を詰めるとのことだ。


「とりあえず相手の国が分かったのは大収穫だわ。明日に備えて失礼な仕草をしないよう調べ物をするべきね。」

「はい。本日は明日の準備のため他に予定はないとのことでしたので、必要な書物を見繕えましたらこちらにお持ちします。」


カノンはお茶の準備を終えると側を離れる間に何かあれば他の侍女が対応するとだけ言って退室していった。

資料集めならば時間が掛かるだろうとのんびり出されたお茶菓子を口に含む。

細かな砂糖を様々な形に固めたようなお菓子。

色鮮やかで目を引き、見ているだけで楽しめる。

お客様用としても良さそう。


口に含めば、あっという間に消えてしまう。

とても甘そうな見た目なのに実際は甘さ控えめで美味しい。

私が甘過ぎるものが苦手なのを考慮してカノンが用意してくれたのだろう。

彼女は控えめな性格で個としては埋もれがちだが、私にとってはとても優秀な侍女だ。

可能なら嫁ぐ際にはカノンにも付いてきてほしい…できればロダンも。

ロダンについては家庭環境が複雑そうだから難しいかもしれない。


どちらにしろ無理強いできることではない、嫁ぐまでにはまだまだ時間はあるはずだから、折を見て軽く聞いてみよう。


その後は明日について特に気負うことなく、カノンが用意してくれた書物に目を通していつも通りの一日を過ごした。

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