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ロダンに会ってから三年経ったある日、突然の知らせが舞い込んできた。


王妃が王子を出産した、と。

妊娠したではなく出産だ。

妊娠した時点である程度周知されていたであろう情報が王女に伝わらなかったのは意図してのことだろう。

城内の者たちは王子の誕生に喜びの声をあげている。

それは王妃も、王も含めて。

弟こそが本物の後継者だと皆が言うのだ。


本物ってなに?

それなら、私は何だろう?

偽物なのだろうか?

剣の使い方にも慣れてきて、漸く騎士団でロダン以外にも声をかけられたり、実戦さながら剣を交えることが出来るようになってきたところだった。

それでも生まれたばかりの弟の方が優れているらしい。

四つん這いすらできない弟の方が優れているらしい。

ただ、女であるから。

女は力が弱いから、弟が今の私と同じ歳になる頃にはさぞや優秀になるだろうと、分かりもしない未来を語る。

私の方が強いかもしれないのに。


まだ何もしないうちから私はすでに負けなのだ。

ただの女だから。


そうして、弟が生まれた日。

私の今までの存在価値は奪われてしまった。

今までのように訓練所へ行こうとしたら母付きの侍女に叱られた。


「王女たる者お淑やかにあらねばなりません。剣など野蛮なものは捨てなさい。明日から淑女としての家庭教師を迎えるよう王妃様より承っております。」


私は咄嗟に剣を奪われまいと懐に抱え込むと、呆れたと言いながら面倒くさそうに王妃からの言葉を伝えていなくなった。


「訓練所に行く。」


私付きの侍女が困ったように目を逸らす。

いつも来るはずの護衛を呼ぶ気はないみたい。

侍女は王妃に逆らえない。


「貴女が少し目を逸らしている隙に勝手に行く。」


それでもこの侍女は咎められてしまうかもしれない。

分かってはいたけれど、せめてロダンに明日から行けないと伝えたかった。

侍女はただ目を逸らし続けた。


「ありがとう。」


城内は跡継ぎのことで頭がいっぱい。

慌ただしく動き回る使用人たちは王女が何処へ行こうと構ってる余裕はないみたい。

目があってもそれどころではないと嫌そうに目線を逸らして駆けて行く。

道中は特に隠れたりもしなかったけれど、引き止められることなく訓練所まで来ることが出来た。


訓練所に私が入ると少しだけざわめいた。

少しずつ話しかけてくれていた人も目を逸らす。

まるで初めてここに来た時のような拒絶感。

胸が痛んだけれど、気にしないふりでロダンを探す。

ロダンはすぐに私のところに来てくれた。


「今日は遅かったな。」


いつもと変わらない。

そうあろうとしてくれている。

だから、私も気負わず話すことにした。


「弟ができたの。」

「ああ」


周囲が異常なほど静けさを増す。

皆が聞き耳を立てている。


「剣を捨てろと言われた。」


野蛮だからとは流石にここで言う勇気はなかった。

何より私は剣が野蛮だとは思わない。

そもそも、この国ならそうであるはずだ。

王妃付きの侍女は同じように他国から来た人なのかもしれない。

だから簡単に剣を捨てろなんて言えるのだろう。


「ずっと力を求められていたのに、明日からは剣を捨てなければならないの。」

「正当な跡継ぎが生まれたからな。」


男児が生まれたならそうなるだろうと思っていたとロダンは言う。


「そう。」


私は明日から違う生活をしなければならない。

生まれ変わらなければならない。

今までの全てがきっと通用しない。


「明日からは来れない。このまま剣を持っていたなら捨てられる。」


この剣は私だ。

今までの私。

全部無駄なのだと言われたからといって簡単に捨てられるようなものじゃない。

だから。


「ロダンに預ける…特別に、()()()よ。」


いつか必ず返してもらう。

そう気持ちを込めて睨めつけるようにロダンを見つめて剣を掲げる。


剣を捨てるなんて出来ない。

今までの私を私自身が否定することなんて出来ない。

これは一時だけ、ただ一時預けるだけだ。

いつの日か、また剣を手にできる日がきっと来る。

この国は武を重んじているのだから。

力があれば女だとしても相応の扱いを受けれる。

だからこそ、王子なき頃に剣を渡されたのだ。

また剣を持てるなら、嫌なことは先に片付けてしまおう。


「完璧な淑女になるわ。勉強することがなくなる程に。」

「………室内でもできる体作りの方法を教えてやる」


剣を持たずに長く過ごせばどうしても腕が鈍るから、毎日欠かさないこと。

王妃に気付かれないよう最低でも一人、身近な者を味方につけること。

それでもどうしようもなくなったなら…


「その時は俺と何処か遠くへ旅に出るか。」


ロダンは茶化すように言うけれど、きっと望めばそれは叶えてくれる気がした。


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