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4ページまで連投して、そこからはのんびり予定です。
宜しくお願いします。
「ヴィクトリア、常に力を求めなさい。」
貴女は最も武に優れた国に生まれたのだから、と母であり王妃である女は会う度に言う。
父である王は何も言わない。
目も合わせず、口も聞かず、合間見える機会は必要最低限に抑えられる。
第一子が女であることに不満なのだろうと侍女たちが囁いているのを聞いた。
それでも王家の血を継ぐ証を持った我が子を排除することはできず、幼少期より強さを求めればあるいは…と、3歳からこの国ならではの教育が始まった。
一日の殆どを城内で過ごすことは許されなかった。
王女らしく優雅なのは、起床して侍女に身支度を整えられるところまで。
朝食は与えられずに持ち運び用の軽食と、私用に特別に打たれた小さな剣だけを待たされ送り出される。
護衛一人だけを伴って、騎士団の訓練所へ向かう。
子供の足では中々辿り着けないことを護衛から報告されたのか次の日からは出発時間を早められた。
それでも目的地に着く頃には既に騎士団員たちは剣を打ち合わせている。
騎士団の人たちの反応は様々だった。
女を嫌がる者、王家の子供であることに難色を示す者、哀れむ者、嘆く者、無視する者…色々。
そんな状況で相手を買って出てくれるものが居るはずもなく、表情の硬い護衛が渋々、といった態度で相手をしてくれた。
何をどうするべきかも分からず、適当に剣を振る。
護衛もそれを適当に防ぐ。
遊びと言うには危険なそれだが、それ以外にできることもなく、つまらない。
それでも剣を振り続けなければ、護衛からまた報告されて状況が悪化する。
一日がとても長く感じた。
「剣の使い方を知らないんだな。」
誰かが言って、その次の瞬間に近くから手を打ち鳴らす音が聞こえた。
反射的に手を止めて振り返る。
「初めまして、王女様。俺はロダン、よろしくな。」
大きすぎて顔がよく見えないと困惑していたら膝をついて目を合わせてくれた。
真っ赤な短髪にこげ茶色の目はつり気味でちょっとこわい。
でも、他の大人たちとは違って私に笑いかけてくれた。
それはとても特別なことだった。
その日から毎日、ロダンが剣の稽古をつけてくれるようになる。
「まず、剣の持ち方がおかしい。利き手はどっちだ?右か、なら…」
見よう見まねで出来ているつもりだったのをロダンは一つ一つ教え直してくれた。
「無理に大人に合わせようとするから脇が開くんだろうがそれじゃ駄目だ。しめろ。」
「そうしたら刃が届かない。」
「何のために足がついてる?届かないなら届くところまでその足で近づけ。」
手だけじゃ駄目なのか、とそこでやっと気付いた。
そこからは足も使うようになる。
「よし…あー、駄目だ駄目だ。何処見てんだよ、対象は常に中心におけ、周囲は横目で見とけ。」
「むずかしい」
「そのうち慣れる。」
今度は目の使い方を教えられたが周囲の音に気をとられる度に叱られた。
「耳を使うことも大事だが、まだ早い。気が逸れるくらいなら塞いどけ。」
「なにこれ」
「俺秘蔵の耳栓。サボる時に欠かせない。仕方ねぇーからそれは王女様にやるよ。」
ロダンは変な大人だった。
恐らく王よりも年上だと思う。
なのに真面目だったり巫山戯たり、よく分からない大人。
でも、一番近しい大人だった。
おかしな王女には似合いだ、と侍女たちが笑ってた。
なんだかとても不愉快だった。
「ロダンは騎士なの?」
この国の騎士は尊ばれる。
王族の次に尊敬され、誰もが憧れる職なのだと。
騎士の訓練所にいたのならロダンは騎士のはずで、それなら何故、侍女たちは笑うのか不思議に思った。
「俺は王女様と同じようなものだな。」
「よく分からない。」
「分からなくていい…分からない方がいい。」
騎士ではないのに訓練所に来てるということだろうか?と思ったけど、そんなことが出来るってことはそれなりの立場にあるってことだと思う。
騎士でもなく城の騎士団へ入れるのはどんな立場の人だろう?
「ロダンも王族?」
「王女様は賢いなぁ」
そうだとも違うとも言われなかったけど、きっと王族に近しい立場ではあるんだろう。
だけど、それなら尚更侍女の立場で笑えるのだろうか?
気になったけど、それ以上は聞いてほしくなさそうだったから我慢した。
ロダン以外に私とこんなにたくさん話してくれる大人は居ないから、嫌がられることはしたくない。
「これからもっと同じになる、かもな。」
初めてロダンから憐れむように見られた。
その時はよく分からなかったから、見なかったことにした。