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中編

文字数が前編の倍近くなってしまいました…差が激しくて申し訳ありません

 さて、自分が悪役転生をしたのではないかと仮定した私は、早速


 『わたしのかんがえた さいきょうの あくやくかいひ だいさくせん』


 を実行する事にしました。

 作戦の指針は、大きく分けて三つです。



 一、性格矯正。我儘放題な暴君王女様にならない事。


 二、家族仲の改善。出来るだけ仲良しになっておく事。


 三、余計なフラグは立てない・近付かない・へし折る事。



 自分と同じキャラが登場するような乙女ゲームも少女漫画も小説も全く記憶に無いため、大体ここら辺をカバーしておけば大丈夫だろう、という王道パターンにしておきました。

 元ネタに心当たりが無いなら悪役転生じゃないのでは? と期待したくなりますが、私が知らないだけでかつての世界には存在していたのかもしれません。油断は禁物です。




 まずは性格矯正。

 傲慢、我儘、傍若無人な振る舞いはもっての外。アレもコレも欲しがる欲張りさんな、世界で一番お姫様☆ と勘違いした痛い子になってはいけません。

 謙虚に! 大人しく! 控えめに!


 ……と意気込んだのは良いんですが、そもそも一般庶民だった前世の記憶が根強くて、普通にしてるだけで特に問題ありませんでした。

 何せ、専属の侍女が十人近く居る時点でもう腰が引けてます。朝起きただけで、背中をクッションで支えてくれる人、顔を洗うお湯を持ってきてくれる人、顔を拭くタオルを渡してくれる人が傍に居て、同時に部屋中のカーテンを開けて回る人や、着替えを用意する人、目覚めのお茶を準備する人も控えてるんですよ。

 着替えもお風呂も数人掛かりで、縦の物を横にもさせて貰えないのが当たり前の生活に、むしろ慣れるまでが大変でした。表面上は頑張って平気なフリをしてましたけど、年上の人達に傅かれるのは落ち着かないというか、居た堪れないというか。うぅぅ。


 まぁ、仮にも王女相手にぞんざいな態度を取れ、なんて言う方が無茶振りですからね。せめて手を煩わせすぎないようにする事と、いつも感謝を伝える事は忘れないようにしました。

 使用人に対してあまり御礼ばかり言うと注意されたりもするので、お布団がふかふかで気持ち良いとか、紅茶が熱すぎなくて美味しいとか、選んでくれたリボンが可愛くて嬉しいとか、その位の事ですけど。

 皆ニコニコしてくれるから、きっとセーフの筈!



 あと、下手な発言は洒落にならない事態を引き起こしかねないので、我儘なんて言う方が恐ろしいです。

 例えば、王族の英才教育として始まった語学や音楽の勉強が難しい、とちょっぴり愚痴というか弱音を零しただけで、お父様が「成程。では今の教育係を解雇して、別の者を手配しようか」などとシレッと言い出したので、思わず椅子から飛び上がりそうになった事もありました。

 目をまん丸にしながら、マナーも忘れてブンブンブンブンと首を振ります。勢いよく振りすぎたせいで軽く眩暈がしましたが、顔が青褪めてしまったのはそれだけが原因ではありません。

 だって、そんなちょっとした事でクビですよ? 仮にも王女付きの教師だったのにすぐクビになったりしたら、今後の仕事や生活に影響が出るのは明らかじゃないですか。

 他人の人生を狂わせるなんて重い十字架を軽率に背負わせないでくれません!? 涙と胃液が込み上げちゃう! 五歳児の胃壁に圧を掛けないで!!

 先生達に理不尽な真似をされた訳でも無いですし、楽しいだけの勉強なんて有り得ないと分かっているので、そりゃもう必死になって誤解を解きました。ヘトヘトです。


 その他にも、お茶の時に用意されたお菓子が気に入ったと言えば皿から零れ落ちんばかりに山ほど用意され、何となく好きな色を口にすればその日の内に採寸が始まってドレスから靴から宝飾品まで勢揃いします。ええ、してしまうんです。

 こんな風に、好きな物や欲しい物があれば何でも用意してあげるよ的に甘やかされても、あまりに規模が大きすぎて正直震えるしかありません。本当そこまでしなくて結構です。遠慮じゃないです。私のへなちょこメンタルにはガチで負担です。

 物事には限度ってものがあるんですよ! 国民の血税はもっと有効に使って!




 ともあれ、とりあえず性格は大丈夫そうなので、次は家族仲の改善です。悪役転生あるあるのやつです。

 ――といっても、仲が物凄く悪い訳ではないんですよね。しかし、じゃあ仲が良いのかと聞かれると、微妙に首を傾げてしまうと言いますか。

 うーん、ドライというのが一番しっくりくるかもしれません。お互いに無関心で私的な関わりが薄い雰囲気を、幼い私でも十分に感じ取れました。

 幸い、こんな大国にしては珍しく国王のお父様は側室を持っていないので、異母兄弟姉妹として継承権を争う、みたいな確執とかは無縁なのが救いですけど。


 ちなみに何故側室が居ないのかというと、どうやら先代の国王であるお爺様は側室や愛妾を両手の指でも足りないほど抱えていたらしく、しかも色々とやらかしがちでもあったため、お父様が王位につく時は血で血を洗うようなドロッドロの修羅場だったそうです。

 で、そんな事態は二度とごめんだと正妃のみにしたとの事。残った他の王族は、既に他国へ嫁いでいた王女達を除けば、同母から生まれた実の弟しか居ないという現状からも、闇の深さが嫌と言うほど伝わってきますね。王族こあいガタブル。


 まぁ、そんな薄暗いというかドス黒い王家の過去はさておき、考えるべきは現在、そしてバッドエンドという最悪の未来を阻止する事です!

 勿論、全力で回避する努力は怠らないつもりですが、それでも世界の強制力やらヒロインチートによる冤罪やらでバッドエンドを免れなかったとします。

 けれど、私は直系の王族です。下手に追放なんてして、他国に血と情報が流れかねない事態は避けるでしょう。着の身着のままで放り出されて野垂れ死ぬ……よりも前に、この存在を利用したい者の手によって掻っ攫われる可能性は、十分過ぎるほどあるんですから。

 という訳で、もしも私が断罪ルートに入った場合の末路は、良くて神殿入りか、自国の貴族に降嫁して一生監視生活。悪ければ――ぶっちゃけ、毒杯コロリか首チョンパですね☆


 いやいや星を飛ばしてる場合じゃありません。社会的な死も嫌だけど、物理的な死はもっと嫌ー! いのちだいじに!!


 ですが、そこで私は考えました。

 立場上その沙汰を言い渡す事になるであろう家族と仲良くしておけば。それが無理だとしても、せめて私がザマァされてしまうような悪事をする人間ではないと理解して貰えれば。最低限の温情くらいはワンチャン期待出来る率が上がるんじゃないでしょうか。

 少なくとも、何かあった時にこちらの話も聞かず一方的に断罪、なんて事にはならない……と、思いたいです。

 なので、まずは人畜無害っぷりをアピールし、ゆくゆくは打ち解けて気を許し合えるようになるのを目標に、頑張る所存であります!



 ――しかし、ここでふと改めて我が身を振り返ってみれば、作戦を立てる前から既に、私は両親や兄姉達にちょこちょこ付き纏っていました。


 物心つく前から途切れ途切れに蘇る、かつての懐かしい記憶。

 王城とは比べる気にもなれない4LDKの家に、十一人をギュウギュウに詰め込んで暮らしていた、騒がしくも楽しい日々。


 仲良し大家族の思い出が、和気藹々とした団欒の中で触れ合う温もりの残滓が、今の全員揃って顔を合わせない日が続く事さえ珍しくない家族の図を、とても寒々しいものだと無意識に気付かせていたのでしょう。

 つまり、寂しかったんです。しかも前世の家族は、割とスキンシップ過多だったので尚の事。

 そうして、幼児は本能の赴くままに突撃しました。ねぇねぇ構ってー!!



 「おとうしゃま、だっこ!」


 「おかあしゃま、おててつないで~」


 「アレクにいしゃま、ごほんをよんでくだしゃい」


 「ヴェラねえしゃま、いっしょにおちゃしましょ?」


 「ディーにいしゃま、おうましゃんにのりたいでしゅ!」



 勿論、お仕事や習い事の邪魔はしないようタイミングは弁えましたが、隙あらば構って攻撃を繰り返しました。

 そんな私に、最初は誰もが戸惑いの表情を浮かべていたものの、やがて害は無いと判断されたのか。それとも、ちんまいのが全力で懐きまくってきた事に絆されてくれたのか。

 いつしか、頭を撫でる手や、抱きしめ返してくれる腕、こちらに向ける笑顔に、段々とぎこちなさが消えていきました。とりあえず物を与えておけば良い的な甘やかしではなく、ちゃんと私自身を見て可愛がってくれてると、決して自惚れでは無く伝わってきます。

 となれば当然、私は大喜びで更に懐いて引っ付きました。

 

 あ、ここで家族についても少し詳しく説明しておきましょうか。



 アレク兄様こと、アレクシス王太子殿下。

 お父様譲りの金髪とエメラルドのような瞳の十五歳で、容姿端麗、文武両道のパーフェクトプリンスです。

 まだ成人したばかりだというのに、もう既に次期王としての資質を十分に見せつけていると評判。その視野はもはや国内に留まらず、諸外国との外交のために七ヶ国語を流暢に操ります。

 いや本当、語学の先生と一緒に未知の言葉を喋っていた時はポカーンでしたからね。実は転生時に言語チート補正されてて、その効果が切れたのかとさえ思いましたからね。

 頑張りすぎて疲れちゃうんじゃないかと、妹はこっそり心配です。


 ヴェラ姉様こと、イザヴェラ第一王女殿下。

 お母様譲りの銀髪とアメジストのような瞳の十二歳で、勉強の出来はアレク兄様に一歩及ばないものの、芸術方面の才能に溢れています。

 数多の楽器を難無く弾きこなし、歌声はあらゆる人を涙させ、絵画にも造詣が深く、また自分で描いても玄人はだしの腕前です。淑女教育の一環である刺繍やレース編みですら、どこの職人さんですか? みたいな作品を生み出します。

 うん、でも、私の顔を写真並の再現度で刺繍したハンカチは、貰ってもちょっとどうしたら良いか分からないです姉様。


 ディー兄様こと、ディオン第二王子殿下。

 隔世遺伝の黒髪とガーネットのような瞳の十歳で、とにかく運動神経がズバ抜けており、騎士団長である叔父様にこの年で剣を師事しています。ゆくゆくは団長の座を継ぐ事になるのでは、なんて話も出てるそうです。

 ただ、この黒髪赤目という組み合わせが、例のやらかしちゃったお爺様と同じらしく、ある程度上の年代には冷たい目を向ける者もいるそうで。

 前世で日本人だった記憶のある私としては、馴染み深くて懐かしい黒髪は好印象なんですけどね。つい触りたがっていたせいか、よく抱っこされるようになりました。

 全く、こんなに優しい兄様を色だけで判断して冷遇するなんて! 激おこですよプンスコ!


 お母様こと、セレーネ王妃殿下。

 我が国に次ぐ大国クセノスから嫁いできた正妃です。バリバリの政略結婚だったそうですが、私を含めて四人も子供を産んでるんですから、夫婦仲は険悪という訳では無い筈。

 ヴェラ姉様と同じく、最高級の絹糸のように真っ直ぐ艶やかな銀髪と、切れ長の涼しげな紫の瞳が印象的な、クールビューティ系の美魔女です。あの、冗談抜きで年齢不詳の美しさなんですけど。十五歳の息子がいるとは思えないんですけど。

 あまり多くない口数や、キリッとした表情を滅多に崩さない事もあって、冷たい性格だと誤解されがちですが、突撃を繰り返したところ意外と押しに弱い事が判明しました。ギャップが可愛くて、娘なのにキュンキュンです。


 お父様こと、ルーカス国王陛下。

 緩く波打つ金髪と、やや垂れ目気味な緑の瞳の美丈夫で、王としての貫録はありつつも、けしからん色気を漂わせているイケオジです。お母様と結婚された時は、国内外で多くの女性が涙した、どころか軽く発狂したという噂も頷けます。

 しかし、優しそうな見た目に騙されてはいけない、という典型的なタイプです。国のためなら躊躇いなく、そして容赦なく冷酷な判断を下すと畏怖されています。まぁ、それは国を治める身である以上、仕方ない面だと思うんですけどね。

 殺伐とした過去のせいか、多分スキンシップに一番慣れてなかったのはお父様だったと思います。足にひしっとしがみ付く度に、一瞬硬直してましたから。

 それが今では、流れるようにお膝抱っこをしてくれるようになりましたよ! 逆にこっちがビックリして真顔になりました。



 ――そんなこんなで、最近では私だけでなく、家族それぞれでも会話をする時間が増えてきました。

 お父様とアレク兄様が国政について意見を交わし合ったり。ヴェラ姉様がディー兄様に身嗜みを注意しつつも襟元や髪を整えてあげたり。私とお母様が話している所にお父様が混ざってきたり。アレク兄様とディー兄様が一緒に剣の稽古をしていたり。

 うんうん、良きかな良きかな。ただ、皆が全員揃うと『私を誰のお膝に乗せるか争い』が勃発するのはどうかと思います。

 今はもう高校生だった頃の記憶まで戻っちゃったので、さすがに気恥ずかしいんですってば! 叔父様も笑いながら参戦しなくて良いですから!




 そして、最後に残ったフラグ対策です、が。

 気付けばすっかり過保護と化していた家族により、フラグ? 何それ美味しいの? 状態になっております。

 まだ私が幼い事もあって、城の外に出る機会も殆どありませんし、社交には早すぎると、会う人も制限されている有様です。お茶会も夜会も参加した事が無いので、こうなると最早フラグの立ちようがありません。


 近付かないどころかフラグが無い。へし折ろうにもフラグが無い。

 しいて言うなら、文字通りの鉄壁になりそうなくらい大事にされすぎて、籠の鳥的な軟禁フラグはありそうな気がします。何か私が考えてたのと盛大に違う。



 …………あれ、わざわざ計画立てた意味ってあった?



 ま、まぁ、悪い状況になってないんですから、万事オッケーです。結果オーライです。未来設計は順調だって再確認できたので良しとしましょう。

 このまま現状維持をしていけば、バッドエンド回避もきっと夢ではありません。仲良し家族に囲まれてハッピーエンドを迎えられる筈です。




 そう、私の戦いは、まだまだこれからだ!

 フィーリア=ヴァシル=ズィ=デュナスティの活躍にご期待下さい!!

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