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前編

 突然ですが、私はとてつもなく美しいです。



 あっ、痛い奴って思った? 思っちゃいました?

 いやまぁ、普通は思いますよね。そっと目を逸らして見なかったフリをしつつ遠ざかる、お触り禁止物件って判断しちゃいますよね。

 でも、出来ればもう少しだけ話を聞いて頂けませんでしょうか。具体的には、私の外見描写を。


 まず髪は、腰まで伸ばしたふわっふわのハニーブロンド。ふわっふわ、かつ枝毛一本見当たらないツヤッツヤのキューティクル無双。天使の輪? 余裕で出来ますけど何か?

 その髪と同じく蜂蜜色な睫毛は、エクステも裸足で逃げ出すレベルの長さ。目を伏せれば頬に影が落ち、瞬きをすればファサッと軽く風が起こせそう。爪楊枝どころか割り箸も乗る気がします。この世界で爪楊枝も割り箸も見た事無いけど。

 そんな天然バシバシ睫毛が扇形に縁取るのは、零れ落ちそうなほど大きなサファイアブルーの瞳。奇蹟の青薔薇、なんて言われたりもしますね。石なの花なのどっちなの。

 そして更に、スッと通った、けれど威圧感を与える迄では無い絶妙な高さの鼻と、わざわざ口紅を付けなくても、咲きほころぶ花弁のように色付いた唇。

 それらのパーツが、シミ一つ無いどころか、もしかして毛穴も無いんじゃないです? と思わず真顔で聞きたくなる、まさしく白磁と呼ぶに相応しい透き通るような白い肌に、完璧なバランスで配置されてる訳でして。


 この、生きたビスクドールとでも言いたくなる清楚可憐系な美少女が、誰あろう私なのですよ!!

 ね? 美しいとか言っちゃうでしょう? 言うしかないでしょう? ここで変に謙遜する方が、かえって嫌味になっちゃうでしょう?


 とはいえ、私は「フフン美少女でござい」と鼻高々になるような性格をしていませんでした。むしろ自分の顔を鏡で見る度に「うわー、何この美少女」と他人事のように眺めてしまいます。

 何故なら――私にはかつて、全く別の顔をした人間として生きていた記憶がありましたので。



 『地球』という星の、小さな『日本』という島国で、私は王族などとは縁もゆかりもない、極々普通の一般家庭の三女として生まれました。いえ、祖父母・両親・兄と姉が二人ずつ・弟と妹が一人ずつという、合計十一人の大家族だったのは少々珍しいかもしれませんが。

 特に大きな病気や怪我をする事も無くスクスク育ち、勉強も運動もそこそこ平均点で一芸に秀でたりもせず、残念ながら彼氏は出来なかったけど仲の良い友達は何人か居て、多少の不満はあっても概ね満足しているような日々を平和に過ごしていました。


 しかし、そんなある日。

 そう、あれは風がとても強い日でした。台風が近付いていて、学校を出た時には空が段々と薄暗くなってきていました。

 雨が降り出す前に帰ろう、と小走りになっていた私の頭上で、不意にバヂィッと大きな音が鳴り、何事かと見上げてみれば強風に煽られて外れてしまったらしい電線が、瞬きをする暇すら無く近付いて――……


 そこで、記憶は途絶えています。

 だから多分、感電死しちゃったんじゃないかと思うんですよね。享年十六歳。花の女子高生になったばかりで、私の人生は呆気無く終了してしまいました。




 そして、まさかの異世界転生というミラクルを果たしました。




 あ、何で異世界だと言い切れたかと言いますと、月が二つあってドラゴンが空を飛んでたからです。これは流石に、地球とは別の世界だと判断をせざるを得ないでしょう。疑い様が無いにも程があるテンプレっぷり。

 でも残念ながら魔法はありませんでした。しょんぼり。



 『フィーリア=ヴァシル=ズィ=デュナスティ』


 これが、二度目の人生で私に与えられた名前です。

 経済力も軍事力も領土面積も大陸随一の、ほぼ向かうところ敵無しな強国デュナスティ王国。その王と王妃が私の両親であり、王太子の長兄、第一王女の長姉、第二王子の次兄、そして末っ子が私。

 ……世界でもトップクラスの大国の第二王女、という『特権だけは凄まじいのに、責任はそこまで重くなくて済む』絶妙なポジションですよ。美味しいとこ取りすぎにも程があるんじゃないですかね。


 ちなみに、オギャアと生まれてすぐに前世の記憶を思い出した訳ではありません。それは本当に良かったです。だって、十六歳の意識を持ちながらオシメ代えられたりするとか、想像するだけで色々なものがゴリゴリと削られますし、控えめに言って絶望だと思います。

 成長するに従って、少しずつ、少しずつ、折に触れて記憶が断片的に蘇り、やがて物心つく頃にはすっかりと思い出した次第です。お陰で人格形成も見事に引き摺られましたが。

 まぁ、精神的には高校生なのに、小っちゃい子みたいな我儘とか中々言えませんよね。ダダ捏ねたりするのも恥ずかしいというか。あと、周囲の状況とかも察しちゃいますし。

 

 とはいえ、前世でも割と暢気な性格をしていたせいでしょうか。周囲から不審がられたり不気味に思われるほど異質な振る舞いにはならなかったらしく、家族にも城の人達にも忌避される事なく育ちました。

 あと付け加えるなら、この金髪碧眼という組み合わせが、国教で崇めている最高神テオスラトレイア様と同じな上に物凄く珍しいらしくて、やたら好感度が上がりやすい一因となっているようです。

 疎まれたり蔑まれたりするよりは有難いんですが、聖女だの天使だのと持ち上げるのは、あまりにも恐れ多すぎるので勘弁して下さい。神殿のおじいちゃん達とか拝むのもやめて! 普通の人間だから! ご利益とか無いから!



 見目が良い上に血筋も良くて、環境も人間関係も申し分無し。



 ――いやいやいや、出来すぎですよね? どんだけ盛ってるのかって話ですよね? テンプレ異世界転生だからって、ここまで都合の良いパターンは普通有り得なくないです?

 だって、こんな宝クジに百回連続当選した並の幸運を与えられる理由が本気で分かりません。死んだ後に神様とかと「実はこちらのミスで~、お詫びにチート特典を~」的な会話をした覚えもありません。全くもって心当たりが無いんです。

 まぁ、確かに不運な事故ではありましたし、過失も無いのに若くして亡くなってしまったのは可哀想と同情されるかもしれないですが、だとしても、これは流石に過剰だと思うんですよ。私よりももっと酷い、悲しい、辛い死に方をした人は沢山いるでしょうし、私よりも善行を積んで来世を優遇されそうな人も沢山いる筈です。


 ……だからこそ、私は恐怖に震えました。とんでもない幸運の後に、とんでもない不幸が訪れて、運勢の帳尻合わせをするんじゃないか、と。

 悲観しすぎ? ネガティブ思考? ええい黙らっしゃい! こちとら元はただのしがない一般庶民なんですよ! 分不相応な扱いを受ければビビリたくもなるでしょうが! チキンだと笑いたいなら笑えば良い! 私は涙目ですけどね!!



 そんな風に、いずれ来るかもしれないカタストロフィに怯えていた私ですが、ふと天啓のように閃いたのです。


 あっ、これはもしかして、お約束の悪役令嬢転生なんじゃないかな? って。


 隙あらば甘やかし、何をしても特に咎めたりしない家族。権力バッチリな、大国の王女と言う身分。外見だけは文句無しの美少女。

 チヤホヤされる要素がフルコンボだドン! という状況を甘受して育てば、私はそれこそ鼻持ちならない、パンが無ければお菓子を食べれば良いじゃないオーッホッホッホ☆ 的なお花畑頭になっていたかもしれません。いや、あれ実際は違う意味らしいですけど、それはさておき。

 つまり、予想される私の未来は――……



 『ヒロイン()が現れて、悪役令嬢()にされて、破滅エンド』



 こういう流れが王道なんじゃないでしょうか。

 勿論、当事者となる身としては、そんな運命は嫌すぎますし、唯々諾々と受け入れるつもりも毛頭ありません。御免こうむります。ノーセンキューです。バッドエンド、ダメ、ゼッタイ!


 幸いにも、私は平々凡々な小市民だった頃の記憶を持ったまま生まれました。お陰で身の程というものはしっかりと弁えてます。

 すなわち、事前の準備さえ怠らなければ、悪役令嬢ルートからの回避可能! これ、進研ゼ……げふんげふん、じゃなくて、前世で趣味だったネット小説とかで良く見たやつ!!




 ――そんな訳で、自分の立ち位置を把握した私(当時五歳)は、己の救済ルートを目指して奮闘する事になったのでした。

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[気になる点] >>でも残念ながら魔法はありませんでした。しょんぼり。 (´・ω・`)
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