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ペンギン喫茶 Penguin Cafe  作者: ジョアンド
2/2

鈴木さんの朝

「ペンギン喫茶」は一話完結ですが、なんとなく、アナザーサイドを書いてみました。

番外編 


鈴木亜衣はいつもと何一つ変わらない朝を起きた。5時にセットしたアラームが鳴るやすぐに消し、明るくなってきている窓の外を見た。寝る前にカーテンをちょっとあけておくと光が入ってきて、目覚めやすい。万一目覚ましに気付かなくても朝日が起こしてくれるから大失敗は防げる。こういう地味な工夫のおかげか彼女はほとんどといっていいほど寝坊はしなかった。パジャマを脱ぐとまだ夜の空気が部屋に漂っていて肌にひんやりとした。


月曜だけど日曜の振り替え休日だから今日一日外出する予定はない。いわゆる家着に着替え、彼女は掛布団を丁寧に畳んだ。これは母親に小さい頃から言われ、染みついた習慣の一つであった。まだ頭がぼーっとする中、彼女は調理台に向かった。さすがにまだ五時過ぎなので、活動を開始している家はまだないようだった。彼女がコーヒーを入れるために湯を注ぐ音は、壁を伝わって部屋に響いた。


「熱っ」


毎日わかってはいるものの、出来立てのコーヒーというのはすぐに口をつけたくなってしまうものである。彼女はマグカップを持って椅子に座った。カーテンから差し込む光だけで十分明るく、まだ電気をつけるにはもったいないような気がした。


コーヒーを飲み終えると、彼女はカーテンを完全に開いて、窓を開けてベランダにでた。外の空気は一段とひんやりしていてまたたくまに彼女の部屋に満ちた。後ろ手で窓を閉めると彼女はベランダの手すりに寄り掛かり趣味としてやっていた鉢のうち一つをかるく手で撫でた。鉢と言っても小さなアパートなのでかわいらしい水をほとんどあげなくていい観賞用の植物だった。


「今日も相変わらず元気ですか?」


とちいさな生命に彼女はつぶやいた。小さな葉はちらちらと朝日を揺らした。


「あら、いけない」


排水溝の近くにおいていた果肉植物が一つ倒れてしまっていた。


「風で飛ばされたのかしら?」


こぼれた土をすくい鉢にもどしながらつぶやいた。


「これでよしっと」


彼女はもと通りになった小さな自慢の庭園にうんうんとうなずき部屋に戻った。


前日の味噌汁に卵というシンプルな朝ごはんを済ませると、食器をぱっぱと洗って食器棚に戻した。こういう食べたあとのかたづけをいち早くしてしまうのも彼女の習慣の一つだ。


食事のあとは新聞に目を通す。別に興味深い見出しがあったからでもない。しばらくの間彼女はぱらぱらと紙面をめくっていた。ふと目が止まった記事を読んでは次へ。ある高校の合唱コンクール入賞をたたえる記事、プロ野球ルーキーの活躍、また世のなかに絶えないちいさな犯罪。ひったくりやら強盗、不法侵入。最後はお決まりのテレビ欄から夕食時に見る番組を探し出した。そんな時、外から聞きなれたピーピーという音が響いた。


「いけない。今日は燃えるゴミの日だった。」


ぱっと立ち上がり彼女は台所のゴミをまとめて急いで外に出た。幸い回収車はまだ彼女のアパートの一つ手前のゴミを車に投げいれていた。間に合ったと、駆け足だった足を緩め、ゴミを置き、ネットをかけた。


「あら鈴木さん。」


振り向くと同じアパートに住む山田さんが同じくゴミ出しに来ていた。


「私回収車の音に気付いて焦って出てきちゃったから恥ずかしいわこんな恰好で。」


山田さんはスウェットの上下にエプロンをかけていた。


「いえ私もまったく同じように出てきちゃって」


家着で出てきてしまったことに気づき、彼女は頬を赤らめた。


「いいのよ、若い子はどんな格好してたって若さでカバーできるんだから。それより聞いた?ここ最近不審者が目撃されているらしいわよ。」


「不審者ですか?ここの近くだと怖いですね」


「そうなのよ、このあたりで見慣れない顔が見かけられたらしいのよー。でもなにか起こったわけでもないから一応大丈夫だと思うけどね。近頃はなにかと物騒だから気をつけなさいよ、特にあなたのようなかわいい子はねらわれやすいんだから。」


「はい、気をつけます。」


ゴミ収集車が近づいてくると、山田さんは自分の恰好を思いだしたのか、素早く部屋に戻っていったため、会話は手短に終わった。


彼女は部屋に戻っても何もやることがなかった。怒涛の週末を難なく終え、会社関連の類はほとんど完成していた。しばらくの間は本を読んでみていたけど、いい天気だしなんとなく時間がもったいなく感じた。


彼女は少し考えてから、本を手さげにしまい、ぱっとお出かけ着に着替えて外へ出た。


他の作品も是非。。。

神話が好きです


アトラス

メデゥーサ

カリプソ

とか題材にしてます。


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