8話 the queen
4月某日の満月の夜。
桜の花も散り、若葉が生い茂ろうとしていた木立を抜け、一人の少女が走っていた。
少女が向かう先はとあるマンション。その2階の部屋に向かい、とある部屋のインターホンを激しく鳴らす。
その部屋から出てきたのは部屋の住民である風見 恋だった。
「リン、どうしたの? そんなに息を切らせて」
「……」
「ま、上がってよ。話を聞いてあげるから」
部屋は綺麗に整い、ソファなどがバランスよく配置されていた。
「座って」と言われた風見 凛はソファに座るも落ち着きのない様子だった。
「姉さん」
先ほどまで走っていた為の息切れのせいか落ち着かないリンは話を切り出す。
レンはファンタを入れたコップをテーブルに置き、リンの反対側に座る。
「もう…わかってるんだよ…? この町で起きてる連続殺人犯が姉さんだって事…」
「…そんな不謹慎な話はいいじゃないの」
「じゃあ…なんでお父さんとお母さんが今いないの…?」
「…今は仕事に行って」
「嘘だっ!」
リンは凄まじい声とともに立つ。
落ち着いてと催促するレンだがリンは聞かない。
「まぁ、落ち着いてジュースでも飲みなよ。せっかく注いだんだからもったいないよ?」
レンはファンタを一気に飲み干す。
だがリンは警戒をしていた。コップに注がれたファンタを鼻の近くに持っていくとアーモンドの匂いがする。
「姉さん… 青酸カリなんてどこで手に入れたの」
「……へー、驚いた。さすが頭だけはいいのねぇ、リン」
「…この町の連続殺人犯は姉さんでしょ…」
「…ははぁ、さては極秘裏に警察に情報流してたのアンタだったのね?」
レンはどこからか出した包丁をリンにつきつける。
リンは殺されまいと部屋の隅に避難していくが部屋が狭いため、角に追い込まれてしまう。
「やめて、姉さん… どうして…どうしてお父さんとお母さんを…?」
「…アンタはいいよねぇ…頭がいいから優秀な学校へ行けて…」
「…姉さんだって… 2年まではトップの成績だったはずでしょ?」
「2年までは、ね。けどあの馬鹿親、いわゆる受験ストレス?って奴で頭どうかしちゃったんだよね。私にばかり暴力ふるってそのせいで障害起こしちゃってさ。急に下降よ。」
「……」
「『成績落としてるんじゃない』とか言ってたけどアンタのせいだと言いたかった…。でも、そんな勇気がなくてね」
「だ、だからって… それにお父さんに言えば少しは…」
「…言ったけど取り合ってくれなかったよ」
「……」
「それに、前々から死ねばいいと思ってたんだよ… だから、殺した」
「だ、だからって関係のない人を巻き込むのは…」
「…アッハッハッハッハ! 親を殺ってから気分がよくなっちゃってね。無駄な抵抗なのに抵抗する馬鹿の顔を見るのもまた楽しかったわぁ」
リンはレンの言う一言一言に寒気を覚えた。
こんな怖いことを言うなんて本当の姉じゃないと思った。
それから数秒たったとき、パトカーのランプがマンションの外から見えた。
「ちっ、リン…」
「姉さん…、もう自首して… それで楽になろうよ…」
「五月蝿い…。 自首するぐらいなら…」
レンはリンのいる角の反対側の窓の近くに立つ。
リンは何をするか感づき、レンを止めようとする
「やめて、姉さん!」
「…うるさい!」
リンを突き飛ばしたその後、持っていた包丁を壁に対して平行に持つ。その後、包丁に向かい、頭を動かす。頭から血が出るが構わず包丁に向かい、頭を動かして抜いては刺してを繰り返し、数回刺した後、座り込む。
「ね…え、さん…。な、なんで…」
「…フフフ、自首する…くら、い、なら…こう、する…わ、よ…」
レンは力尽きる。
リンは膝で立って左手を前に出しつつ口をあけたまま唖然としていた。
「あ…う、あ……嫌あああああああああああああああああああああっ!」
「うっ…」
美優が目を覚ますとそこにあったのは病院のベッドであった。時間は深夜の12時で外は満月だった。
「またこの夢…」
数日前より美優は同じ悪夢を見るようになった。少女2人が対峙し、片方は自殺。片方は絶望の淵にいるという奇妙な状況。
何回もこの夢を見るうち、彼女の記憶は徐々に思い出しつつある傾向になっていた。その都度激しい頭痛と嘔吐を繰り返していたが診察してもらった結果は正常という判断だった。
「風見…リン… そうだ、私は…風見凛…」
「思い出したか?」
「え?」
気配を感じない間にいたのは白いコートを着た少年の姿だった。
美優は一瞬たじろぐ。
「海斗君?」
「大丈夫、初めて会った時に言ったはずだ。僕は君の味方だと。もう一度言う。すべてを思い出したか?」
「うん」
「…単刀直入に言ってしまう。最近この周辺で起きた連続殺人鬼の名は………だ」
「! な、なんてこと…。でも……」
「その魂は死なずにとある人間の中に介入してしまっている」
「……」
リンは海斗の言うことに耳を傾ける。海斗は話を進めているがその数秒後、病室のドアが開く。巡回していた看護士の懐中電灯がベッドを照らす。リンは寝たふりをしてやりすごそうとする。
「…異常無し。」
ドアが閉まったその後、海斗とリンは話を再開しようとする。だがリンは一つの疑問を持った。
「海斗君…。さっきまで一体どこに?」
「…それは言えない。」
「…そう、ですか。話の続きですが魂は一体?」
「…それは自分で考えるんだ」
「え…」
リンは海斗の言葉に唖然としていた。
「お前の能力は何のためにある?」
「……」
「これまでもその能力を生かし、さまざまな事件を解決してきたんだろう?」
「それは…そうだけど」
「言い切ってしまう。一週間後、この周辺で大きな事件が起こる」
「! もしかして…」
「絡んでくるかはわからない。それと共に、まだ記憶喪失の振りをしたほうが都合がいいと思われる」
「…できなくはないけど…。慣れないキャラを演じるのは…」
「…ならば一週間後のその時間に記憶が戻るように改変する。」
「え、どういうこと?」
「時間になるまで、まだお前は美優となる。」
「…わかりました、そうしてください。その前にひとついいですか?」
美優はただ1つ疑問に思ったことを口にする。
「…あなたは一体何者なんですか?」
「…………」
瞬間、病室がまばゆい光に包まれる。
リンは海斗の言う言葉に唖然すると共に強烈な眠気に誘われてしまう。
「ふぁ… ねむ うま…」
そのまま眠り込んでしまった。




