2話 slow and past
翌日。
エイジ、美優、影月は普通科の病院にいた。
「……」
「やぁ、真崎さん。それに影月さんとミューも。どうしたんですか?」
「どうしたやあらへんわ!」
エイジは憤慨していた。
小神は事故にあったとはいえそれほどの怪我を負っていたというわけではなく右足と左腕の骨折だけという奇跡的な生還を成し遂げた。
「ったく、俺は行く気はなかったのに同僚の見舞いにいってやれって他のやつらのバッシングを受けて大変やったっちゅーのにお前という奴はこんな所で暢気に…」
とエイジは眉間に怒りのマークを寄せながら拳を震わせていた。一方の影月は冷や汗をかく。
「先輩、抑えて抑えて」
「そうですよ、真崎さん。神経に高ぶりがあるようです。どうか落ち着いて…(関ボイス」
「うるせぇーい!」
「ひでぶぅ!」
瞬間、エイジの幻の左が小神にヒット。
小神はそのまま倒れこみ、気絶した。
「ふぅ」とエイジは呆れをこめたため息をつき、タバコを吹かす
「…ここ禁煙じゃ…」
「細かいこと気にしたら負けや、美優。」
「……」
「…あれ、次調べる事件って何やったっけ?」
「先輩、覚えてないんですか? 次は… …あれ? なんだっけ?」
「連続殺人犯を追う、ですよ」
「え? あぁ、せやったせやった。…うーん、まだ物忘れする歳でもないんやけどなぁ…」
「…加齢臭が」
「うるさい! 俺はまだ27や! えぇ加減にせんとスキマに放り込むで!」
「…スキマ?」
時を戻し、エイジが美優と会う数ヶ月前のこと。
とある町で主に高校生を刺殺する連続殺人事件が起こっていた。
この手の事件ならば目撃者などが証言して事件を解決するというのがドラマなどではよくある話。
だがこの殺人事件は妙だった。
事件は起こっていてその近くに目撃者がいても犯人の容姿などを覚えている人が一人もいないのである。
とある高校では放課後の部活真っ只中での犯行で犯人は高校周辺を通ったにもかかわらず生徒は容姿は覚えていないと答えるのみだった。警察側が何度問い詰めても周辺の目撃者は「覚えてない」の異口同音状態。
ならその目撃者等が犯人なのでは…という説もあがったものの、事件が重なるごとに目撃はしたものの覚えていないという目撃者が何人もいたためにこの説は無しとされ、留置されていた人達約30名は身柄を開放された。
だがその間にも殺人による犠牲者は増え続け、ついに10件に達した時だった。
とある日、「犯人の容姿は少女で角川商業高校の制服を着ていた」という匿名の情報が捜査課に流れ込んだ。
これを皮切りにさらに目撃情報は捜査課に流れ込み、ついに犯人の居場所を突き止めた。
警察が犯人の家に行った時、そのときその場にいた警察官は唖然とした。
部屋にいたのは2人の少女。
片方は壁にもたれかかり、手に包丁を持ちながら頭からは血を流し、その血は肩を伝って流れ落ちている。
さらに片方は遺体の目の前にひざで座り、口を魚のようにパクパクさせながら呆然としていた。
「にしてもあの事件も妙やったよな…。目撃者がおらんなんて」
「ミューと同じく変な能力の持ち主だったりして」
「あ、起きてる」
「変な能力、やて?」
「えぇ。目撃者がいないということは誰の記憶にも残っていない。ということはつまり、犯人は人の記憶を」
「やめて! …これ以上…言わないで…」
瞬間、美優は小神の意見を遮る。
振り向いた先、エイジは唖然としていた。
美優は肩から震え、頭痛に悩まされているのか、頭を抱えていた。
本来の美優らしからぬ行動にエイジは驚きを隠せずにいた。
その数秒後、小神の病室前には数名の話し声が聞こえ始めた
「あれ、俺の友人達が来たのかなぁ。大した事ないのに…」
「影月、車の用意しとけ。美優は診断する必要があるかもしれん」
「わ、わかりました…」
「…真崎さん、大丈夫ですよ、私は」
「念のためや」
「…ミュー、なんかわからんが申し訳ないな」
「小神、お前の友人が来たっつーわけで俺らは引き揚げるわ。怪我は大した事ないしすぐに戻れるやろ?」
「えぇ、医者は後一週間程と言ってました」
「そか。事件が積もってるんや。退院したら手伝ってくれな」
「えぇ。」
エイジ、美優は病室から出て行く。
2人の後姿を見た小神の口は何故か笑っていたがそれを見たものは誰もいなかった。