1話 slow
「はぁ…」
「…ため息をつくと幸せが逃げますよ」
「んなモン、妄信やろ… てかお前とはじめて会った時にも聞いた気がするわ」
警察署の捜査課の片隅に、煙草を吹かす男。さらにその隣にはセーラー服のようなシャツとスカートを着る少女の姿があった。
男が時計を見ると午後9時を回っている。
外を見ても古本屋の光、やたら数のあるレストランの看板の光が目立ち、それ以外には車が疎らに通るのみで歩道に人は見られなかった。
程なくして外から戻ってきたらしい眼鏡をかけた男がマクドナルドの袋を持って2人に近づき、袋からハンバーガーなどを取り出して渡した。
「おぅ影月、サンキュー」
「いえ、後で御代は取りますからね」
「へいへい」
「はい、ミューちゃんの分」
「あ、ありがとうございます」
「それより真崎さん、ちょっと気になることが…」
「ん」
ポテトを摘みつつ、真崎エイジは共に捜査をしていた影月の話にダルそうに耳を傾ける。
一方のミューこと美優はチーズバーガーを頬張りつつ呟くような小さな声で独り言を言っていた。
この事には慣れたエイジは影月の方を向き、だらしなく着崩している上着を調え、ネクタイをずらしつつつけていたサングラスを外して煙草を吹かす。
「んで、気になることって何や? 正直厄介ごとは御免やっちゅうのに」
「えぇ、実は…」
影月がマクドナルドから出てきた時、救急車が近くの消防署から発進するのを見た。
何かあったのかと何気なしに追うと交差点の路地に人だかりが出来ていたので見てみると交通事故がおきたらしく、フロントのへこんだ車などが目に付いた。
「あぁ、そういやなんか事故が起こったとかで世話なく動いとったな。そうか、この周辺で事故が起こっとったんか」
「それでその犠牲者なんですが… …どうやら小神君の様なんです」
「な…なんやて!? そりゃ本当なんか?」
「えぇ、周辺にあった黒いコートなどから間違いないかと…」
エイジは純粋に驚き、煙草を落としてしまう。
さらに驚いたのはエイジだけでなく美優も影月のほうを向き、目を白黒させた。
また、捜査課で世話なく動いていたエイジ達の同僚も数名向きを変えた。
その後、捜査課の同僚の一人がエイジに声をかける。
「小神ってあんたんとこのあの学生だろ? …やっちまったか」
「…むしろ若干の高校生を刑事相当にした署長のほうが問題やと思うんやけどなぁ…。俺は美優もそうやけどあいつを刑事にしようなんて気は微塵もなかったんやで?」
「あぁ、署長を通じてだったか。…見舞いに行ってやらないのか? 一応仕事仲間だろ?」
「うーん、確かに仕事仲間っちゃあ仲間やが…」
「いいじゃないですか、行きましょうよ」
「せ、せやけどなぁ…」
「どうせしばらくはこちらに仕事も回らないでしょうし」
「こ、コラ、余計な事言うな!」
「んじゃ、任せたよー♪」
「あ、オイ! …はぁ」
ため息をつくエイジ。
美優は上の空を演じ、影月は呆れの意味を込めた苦笑を浮かべていた。
「美優〜〜、余計なこと言いおって…」
「でも事実じゃないですか」
「仕事が回らないのならちょっといいかな」
「ん」
エイジの目の前には彼の同僚がいた。
エイジはまた厄介ごとかとため息をつき、サングラスをかけなおす。
「んでなんですの?」
「あぁ、実はな──」