12話 cat fight
「押さないでください!」
奈須科高校校門。
一連の騒動により、校門の前には警官が待機し、その周辺には野次馬達がたむろしていた。校内放送により、その後の被害はなく、数名が病院に運ばれるだけで済んでいた。
その野次馬も校門前は歩道を埋め尽くすほどでテレビのリポーターらしい人物も数名混ざっていた。
「先ほど文化祭に参加していた周辺の住民の話によりますと、犯人であろう少女は隣町の富士見高等学校の生徒だと言うことです。」
リポーター数名が実況中継をする中、一台のパトカーが校門前に止まった。
「ちょっと通してもらえますか」
パトカーから降りた少年は人ごみを掻き分け、校門に向かう。警官は例によって少年を入らせまいとする
「君、一般人は立ち入り…」
少年は懐から黒い手帳を取り出す。
「…私情で申し訳ないのですが犯人に用事があるんです」
「え、犯人の事知ってるの?」
「…そいつと何の因縁があるかは知らないが…。よし、許可する」
「あぁそうだ、拳銃貸してもらえませんか?」
「えぇぇ!?」
「…わかった」
少年は警官から拳銃を受け取り、付き添いの刑事に「行きますよ」と言うと門を乗り越えて体育館へと向かっていった。
体育館。
ステージの前にあった椅子は散乱していた。
ステージ上にはドラムやマイクなどが置いてあり、ライブが行われていたそこにあったのは2つの影。
美優と同じ顔の少女と首元にナイフを突きつけられている少年だった。
その少女の着ていた制服はエイジにとってまだ記憶に新しい。
「お前、あん時の! 一体何やっとんねん!?」
「フフフ、一歩でも動くとこの子の命はないわよ?」
少年は一言も喋らず、恐怖に震えていた。
「ちっ、通り魔おこなってこんなことを…。ここは秋葉原ちゃうんやぞ」
エイジは一歩を踏むことができず、唇をかみ締めるのみだった。
一方の美優は同じ顔を持つ少女をじっと見ていた。
「んー、何かしら、その顔は。散々その手の事件を解決しておきながら今になってビビってるの? …美優」
「…違う!」
「へー、じゃあ何なの?」
「これ以上の凶行はやめて! …姉さん!」
エイジは美優のいきなりの発言に驚きを隠せずにいた。
「な、ね、姉さんやて!? じゃあお前の本当の名前って…」
美優はエイジのほうに向き直り、深々と頭を下げる。
「…改めてはじめまして、真崎さん。私は風見凛といいます。」
「お、思い出したんやな…美優、いや、風見凛か」
「フン、取り込み中悪いけどこっちのほうも忘れないでほしいわね」
「せや…こっちをどうにかせんとか。姉さんってことはあいつが?」
「…はい。風見恋。約半年前の連続殺人の元凶…。」
「…半年前、そして今回の連続殺人。両方ともあいつの仕業か。」
リンとエイジはステージ上の殺人犯を見る。
レンは余裕といった感じで2人を見下ろし、少年を開放しようとはしない。
「とりあえずその少年を開放せぇ!」
「…いいわ、その代わりに条件があるわ …リン、来なさい」
「な、リンを人質にするんか…!」
「…わかりました」
「な、おい!」
リンはレンの方に歩み寄る。
エイジは呆然としながらリンを見る。そしてレンは約束どおりに少年を解放し、リンを人質にする。
「さ、逃げてください」
「は、はい」
人質となっていた少年はその後、エイジに先導され、外に待機する
「姉さん、一つ聞いていいですか?」
「何かしら?」
「あの時にナイフを頭に刺して自殺したはずなのに…。どうしてここに?」
これはエイジも気になる点だった。
データベースに風見姉妹が当てはまるのならば記憶を失った少女はリンとなり、死亡した殺人犯はレンとなる。
そして彼にとって気になるのはレンが存在しているだけでなく、どのように目撃されずに殺人を行ったのかという点だった。
「フフフ、それは秘密。」
「…お前の目的は何や、風見レン」
「おっと、近づくとこの子を刺すわよ?」
エイジは一歩も動けない。助けたいのに助けられないために歯痒さを覚えていた。
「そうね…。誰でもいいから殺したかった、それだけね。最終的にリンを刺した後私も死のうかと思ってた…けどリンの通報によって計画は狂ってしまった」
「な、なんちゅう奴… 俺からも一つ聞いてええか?」
「何かしら? この子の開放ならお断りだけど」
「…どうやって目撃されずに犯行を行った?」
「…それは私が説明します」
私達はどういうわけか人ではすることの出来ない能力を持っていた…。一種の超能力といえるものです。
私達が生まれたときはそんなものは気づいていなかったのですが…。確か10歳くらいのときです。姉さんは自分の持つ能力に気づいた。それは…相手の記憶を操作する能力でした
「記憶の操作… ということは…」
レンは笑っていた。
「フフフ。そう、目撃者の記憶を操作し、警察をかく乱していたって訳」
「そうか…だから…」
「リン、あなたにはそんな能力はないままなのね」
「いいえ、あります」
「…へー、見せてみ」
リンは目を瞑り、彼女の周りにいる霊を集める。それを具現化し、レンだけでなくエイジも見れるようになった時、その光景に唖然とした。
恐らく20人以上はいるであろう霊がレンの足元にすがり付いていた。
「何、これ…」
レンは驚きを隠せず、震えるのみ。だがナイフを握る手は離さないままだった。
「姉さんが殺した被害者の霊です。私の能力は…死した者と会話し、具現化する」
その瞬間、乾いたような音が体育館に響く。
エイジは何事かと思い、ステージのほうをよく見るとレンがナイフを持つ右手の甲を抑えていた。その隙を見てリンはエイジのほうに戻ってくる。
「だ、誰!?」
「…俺、ようやく参上!」
体育館の入り口にいたのは小神と影月だった。
「小神!?」
「嘘…」
「やぁ、真崎さん、お久しぶりです」
「…なんで、あんたがここにいるの…」
レンは唖然とした様子で小神を見る。
一方の小神はレンを見下すように鼻で笑う。
「さぁねぇ。 …おっと」
生返事をした後、レンは持つナイフを飛ばす。ステージから入り口まで20メートル以上はあるのだが易々と投げる様子に小神の近くにいた影月は唖然とした。
「っ、もう頭きた! あんた達のせいで計画がめちゃくちゃ… こうなりゃここであんた達を皆殺しにする!」
一瞬の光とともにレンはリンに接近する。
「っ、これも奴の能力か…」
「フフフ… リン、ここで死ぬか! 消えるか! 土下座してでも生き延びるのかぁ!?」
ナイフをかざすがリンはそれをコンマの差で回避する。
「姉さん… いいえ、風見恋… 血縁は…自分の手で断ち切る!」
「リン…」
「なら風見、いいモノ貸すぞ」
小神はポケットから取り出したものをリンに投げる。
渡されたものは警官の持つ形の拳銃でリンは一瞬唖然とする。
「俺が引きたいところだが引き鉄はお前が引け、風見。既に撃てる状態になっているぞ」
「っ… 姉さん…」
リンは銃を構える。エイジと影月はどうなるか冷や汗をかく中小神だけは落ち着いていた。
「撃たないの…? 撃たないのなら…」
「…っ!」
体育館内に銃声が響く。だがステージの一部に小さな穴が開くだけでレンには命中していなかった。
「…どうし、て…?」
「影月さん、今のうちに!」
「お、おう!」
唖然とするレンを尻目に小神と影月はレンを逮捕する事に成功する。
レンは半ば目がうつろな状態であった。
「あー、こちら大い…じゃなかった、小神です。犯人確保いたしましたので応援お願いします」
影月と小神は犯人逮捕に関して警官と話をしていた。リンは銃を撃ったその後は力が抜け、銃を構えたままその場に崩れ落ちていた。エイジはそんなリンをなだめる。
それを見越した一人の警官はエイジにも作業を手伝ってほしいというが小神はそれを制した。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。しばらく放っておきましょう」
「…小神君、なんか楽しんでないか?」
「いえ、そんなことはありませんよ」