11話 school festival
「おぉ…」
「お、やっとるやっとる」
奈須科高校。
文化祭の日と言うだけあり、周辺の住民がしきりに出入りしていた。それだけでなく他校の生徒──主にナンパが目的であろう男子生徒がしきりに動いていた。
ワイシャツにブレザーのような上着を羽織り、長めの冬用のスカートを着用している美優の目は輝いていた。
対照的に白いワイシャツ、黒い上着に黒いズボンといういつも通りの格好をするエイジは懐かしさを感じながら上の空となる。
「高校の文化祭か…。俺らの時とまったく違ぉてるな」
「そういえば真崎さんの学校の文化祭ってどんなんだったんですか?」
「ん? せやなぁ…確か」
「あー、リン! 来てくれたんだ!」
2人の近くには繁華街で見かけた風間光ら、少女達がいた。
「…風間さん」
「真崎さん、でしたっけ。この子、ちょっと借りてもいいですか?」
「ま、まぁ、美優さえよければ」
「…はい、真崎さん、どこかで合流しましょう」
「んー、せやな。合流場所はどこか無いか?」
「私のクラスで喫茶店やってるのでそこはどうでしょう?」
「喫茶店か…。適当なときに向かうわ」
「わかりました」
「じゃ美優…だっけ。行こう!」
「はい!」
エイジは少女達を見送った後、あることに気づく。
「あ、クラス聞くの忘れとった…。ま、なんとかなるかぁ…」
エイジはその場にとどまるのも迷惑なので歩き出す。
(最近の文化祭も変わったな…)
劇などは最近話題となっているライトノベルをモチーフにしたものだったり、喫茶店は喫茶店でもメイド喫茶などエイジの学生時代とは打って変わっていた。
「ジェネレーションギャップって奴か。10年近くでここまで変わるもんなんやな…」
「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
「ん」
その先にいたのは「実行委員長」の腕章をつけた少女だった。
「明らかに不審者のようないでたちなのですが…」
「いや、俺は刑事です」
エイジは警察手帳を提示する。
数秒その手帳を確認した後、その実行委員長と思わしき少女はエイジのほうを改めて見る。
「そういえば実行副委員長の小神君がそちらの署に勤務していると聞いたのですが」
「はぁ、そういえばそちらは行方を知りませんか?」
「いえ。その様子だとそちらのほうにも来ていないようですね。では、失礼しました。わが校の文化祭を楽しんでいってください」
実行委員長と思わしき少女は見回りの途中だったのか周囲を警戒しながら歩いて行った。
「やはり学校にも来ていない…。何処に行ってんねやろ」
時間が時間のため、エイジは教室を利用した喫茶店に入る。厨房はレジの近くの暖簾の奥なのかその暖簾の奥からいい匂いがしてくる。ウエイトレスをやっている生徒からお冷を受け取り、それを一気に飲み干すと警察手帳を広げてこれまでの情報を整理する。
「ふぅむ、美優の正体とあのマンションの少女。あれに関連性が見いだせれば…。そういえばあのマンションの少女の学校乗り込んでもよかったか」
「真崎さん」
「お」
考え込むこと数分。いつの間にかエイジの隣には美優が座っていた。
「あの子達の喫茶店、ここでよかったんか」
「そのようです」
「あの、ご注文お決まりでしょうか」
「え? えーと、焼きそば2つ」
「かしこまりました」
「あれ、一緒にいた女の子達はどうした?」
「途中で別れました」
「…そうか」
エイジがどっしりと腰を落とし、タバコに火をつけようとした時だった。
何処からか耳を劈くような悲鳴が聞こえる。
「何や!?」
「…また、嫌な感じ…。なんなんだろう…、このざらつきは…」
「そいつ、今何処にいるかわかるか?」
「…みんなが教えてくれてる…。こっちです!」
喫茶店を出るとそこにあったのは文化祭とはかけ離れたものだった。
通り魔の犯行のごとく見境なく人に斬りつけて行ったような傷跡を残しながら生徒や一般の人たちがうずくまっていた。
「これは…」
騒ぎを聞きつけた実行委員長の少女は冷静に対処するべきなのだろうが動揺の色を隠せない。
「委員長、すぐに警察に連絡を。それに放送で呼びかけて一般の人たちを避難させる事!」
「わ、わかりました。すぐに手を回します」
「美優、今その元凶は何処におるかわかるか?」
「…渡り廊下を抜けた体育館にいます」
「よし、急ぐで!」
「っ!?」
エイジと美優が走ろうとした先、美優は頭を抱えてうずくまる。
「おい、どうした!?」
──単刀直入に言ってしまう。
──なんてこと… でも
──一週間後、大きな事件が起こる。
「…そうだ、すべて思い出した…」
「美優?」
「…いえ、行きましょう!」