10話 vacation
「──だから、急いでくれよ! もう一週間とないんだぞ!?」
「うぅ…最近のお前、ピリピリしすぎだろ」
「左舷、飾り薄いぞ!何やってんの!?」
奈須科高校。
来たる文化祭に向け、学校全体は張り詰めた空気となっていた。
本来は時間をかけてやるものだったが学校の校長の気まぐれによる抜き打ちテストのために大幅な遅れをとっていた。
その中で実行副委員長となっている小神は中々出し物が完成しないことに苛立ちを覚えていた。
「はい、もしもし… は? …どういうわけで俺に電話したかは知りませんがそういうのは警察に…はい、わかりました」
「どうした?」
「…ちょっと用事。作業を進めていてくれ。戻ってきて作業が進んでいなかった場合、今日は徹夜すると思った方がいいぞ」
生徒達のブーイングを物ともせず、小神は電話を受け、学校のはずれの奥の建物に向かう。
その建物は人通りがあまりない上に周りの木に覆われ、昼でも薄暗い。現在の時間は夕方だが季節が季節だけに日は短く、建物のドアを開けて中に入るころには日が沈んでしまっていた。
「こんにちは」
不気味だと思ったがそんなことも言ってられず、小神は声を張る。
「…こんな所に呼び出すとはどちら様? 知ってのとおり文化祭で忙しいので要件は手早く済ませて欲しいんだが…」
部屋のライトが点く。そこにいたのは一人の少女だった。
「……」
「黙っていても何も…」
小神は唖然とした。よく見ると制服は奈須科高校のものではなく別の高校の制服だった。また、ライトに照らされてさらされた素顔は講談高校で見た少女そのものだった。
「…アンタは一体何なんだ? あんな堂々と犯行をしたにも拘らず、捕まらないとは…」
「…へー、私の能力が通じない奴がいるなんて…」
その少女はどこからか出したナイフを構える。
「って、殺人未遂の現行犯で逮捕するぞ」
「出来るもんなら…やってみなぁ!」
少女はナイフを構え、小神に向かって突進する。
小神はそれをかわして足掛けを行おうとするが二度も通用しないといい、ジャンプでかわしてさらに突撃してくる
(ちっ、こっちには武器がねぇから不利…。どうする!? どうする小神悠一!?)
数秒の間、少女はナイフで切りつけようとするが小神は難なく回避を繰り返す。
「やめろ! こんなことをして、何になる!?」
「フフフ、あなたの魂を貰うのよ…」
「は? 何を言って、うッ!?」
少女の意味のわからない言動のその後、小神は激しい頭痛に襲われる。瞬間的なものだった上にかなり強烈なため、膝を突く。
「て、めぇ…一体何を…」
「だから言ってるじゃない、あなたの魂…いいえ、生気を貰うって」
「ぐ…やべ、眠…」
小神は倒れこむ。
「フフフ… あなたは行方不明に加え、身元不明という状態にしておいてあげるわ。美優のようにね…」
その部屋には少女の笑い声のみが響いていた。
「これで…やっと完全な体が手に入った… 今度こそあなたを殺すわ…リン」
「……」
「うわぁ…すごい…」
エイジと美優は都内の繁華街に来ていた。
この日は振り替えの休日のため、人通りは多く存在していた。
美優はいまどきの女子らしく服などを物色していたがエイジはその後ろに行き、ため息を吐くのみだった。
「真崎さん」
「んー?」
「…楽しくないんですか? このときだけは仕事を忘れようって言ってたじゃないですか」
「せやな… うん、せや! 今は仕事の話は無しや! 美優、何処行きた」
エイジが振り返った先には美優の顔が近くにあった。その距離は僅か数センチで近づけばキスが出来そうなほどの距離である。
「って、顔近…」
「…私のこと、嫌いですか?」
「…んな言葉何処で覚えんねん」
「昨日お話をした人に聞きました。」
「何吹きこんでんねや、ソイツは…」
「──あれ、リン?」
2人が振り向いた先には少女が数名立っていた。
服装はその繁華街には似つかぬどこかの学校の制服だった。
「リン! 半年以上も学校サボって何やってるの!?」
「あれは…奈須科高校のか。 …ん、奈須科高校?」
「…どちら様ですか?」
美優は少女らに対してその一言を言うのみだった。
「リン? 私だよ、風間光。覚えてない?」
「…ごめんなさい、何も…」
「あのー、ちょっとえぇかな?」
「そういえばあなたは?」
「あー、この近く所属の刑事の真崎と言うモンです。…それより、美優…いや、リンか。リンに関して詳しく聞きたいのやが…」
「……? はい」
そこにいる風見リン…いえ、今は美優でしたっけ。
リンは私達と同じく奈須科高校に通ってました。
リンにはお姉さんがいて、姉妹そろって中学までは好成績だったのですが…
「…そのお姉さんは親から虐待を受けていた?」
はい。結局お姉さんのほうはそのせいで障害を起こし、やや下の高校に変更せざるを得なくなってしまったのです。
しかしリンに対する態度はそのときとは打って変わり、成績がよかったために可愛がられていたそうなんです
「…んで、失踪した日に関しては?」
4月の中頃…だったでしょうか。「お姉さんを止める」と言ったまま、結局戻ってきませんでした。その時に知ったんですよ、この近くで起きていた連続殺人の犯人がリンのお姉さんだった人物だってことを…
「…なるほど、それならあのデータと辻褄が合う。…ありがと、いろいろと」
「いえ、何かの役に立てれば幸いです。」
「…そういえばそっちの方に小神っちゅー奴がおると思うが、知らんか?」
「あぁ、文化祭の実行副委員長の」
「最近学校来なくなったよね…。文化祭近いのに」
「何か行方不明だとか死んだとか色々説があるけど…」
「…死んだはないと思います」
美優が静かにつぶやく。
「…確かに死んだなら美優の近くにおるはずやからな… 行方不明が濃厚か…」
「え、リンとあいつって付き合ってたの!? 女興味なさげなのに!」
「マジで!? それなら学校来ない理由も納得できるじゃん!」
「でも死んだならってどういうこと?」
「悪霊!? それってヤバくね? 死んでも死に切れないって奴?」
少女達が勝手に騒ぎまくる中、エイジと美優はどう説明したらよいものか迷っていた。
そんな中、少女達の声を一括するかのように一人の携帯電話が鳴る。
「はい? あ、ごめん。ちょっと今リンに会ってさ。そうそう」
「…私って、かなり友達が多かったのでしょうか」
「俺が知るか」
「うん、うん、すぐ買って戻るよ、うん、じゃ。 いい加減戻って来いだってさ」
「んじゃ、私達は行くけど…。美優、だっけ? 文化祭、来てね!」
「…はい」
美優は手を振って笑っていた。
「お前、最近よう笑うな」
「そうでしょうか?」
「あぁ。…文化祭、行こうか」
「…はい!」