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ラストガーディアン  作者: ターンタイプ
9/9

真夏の海風

「あれをどう見ますか?」


見晴らしの良い岬の先で強い海風が吹き付ける中、ゲックは並んで立つシャナに問いかける。


「大理石でできた山・・・・・竜というより壊れた船か城塞の様にも見えますね。何分私自身、竜というものを見た事が無いので何とも言えないですが、生き物では無いように思えます」


岬からかなりの距離にある竜と呼ばれるソレを見つめながらシャナは答える。


「生き物では無いというのは同感ですな。これだけ離れてあの大きさだと100パッススどころか300パッススはありそうです。高さも彼のアグヌスの大聖堂よりもはるかに高いでしょう。浜からあそこまで引き摺られた跡が在るのを見て取ると、海から這い上がってきたのは間違いなさそうですが、それ以外はあれが何なのか皆目見当もつきませんな」

 ちょっとした山ともいえる大きさのモノが海からやって来たらしい、砂浜から竜と呼ぶソレまで一直線に続く大きく抉れた地面を見てゲック達はこれが何なのかと頭を悩ましていた。


「あの大きさだと動かして除くという事は不可能ですね。せめて傍を通っても安全であるとわかればよいのですが・・・この道が使えなくなるとマウトン村へは馬車で通ることが不可能な北周りの細い道か船を使うしか無くなってしまいますから」


「足の速さに自信のある者を10名調べに遣っています。ここは我々に任せ、姫様は一旦イサカに戻られた方がよろしいのでは?」


 そうなのだ、竜と呼ぶアレが何であれ我々にとって重要な事は、この街道の安全かどうかを確かめるという事。この方は物事の本質がわかってらっしゃると感心しつつ、シャナの身に万が一の事があってはと思い、ゲックはシャナがこの場を離れる事を提案する。


「今から動いても日没までに帰り着くことは無理でしょう。どの道野宿になるなら、ここで顛末を見届けます」


「夏至が近いとはいえ夜は結構冷えますぞ。姫様の様に高貴な方には少々・・・・・失礼、従軍されてこの手の事には慣れてらっしゃるのでしたな。」

 ゲックはシャナの従軍経験を思い出し、説得する事をあきらめた。


「ええ、ですからご心配なく。それよりもあなた方への報酬の方をどうするか悩むところです。あれが竜で無いとすると得る物が無いでしょうし・・・」


「そこまで気遣わなくてもよろしいですぞ、姫様」

「振舞われたワインで我らは十分満足しております。これ以上、何かを欲するなどあまりにも業腹というもの。我ら黒騎士に落ちぶれたとはいえ、ティアスの民、姫様の僕である事には変わりありません。お気になさいますな」

 シャナが報酬の支払いを口にした事で、周囲の黒騎士達が驚きの声を上げる。


「いえ、やはりイサカに帰り着いたら別途報酬を用意します。私自身ラーグ家に寓居する身であまり自由にできるものは無いのですが、父に働き掛けてでも日当程度のものは用意させていただきます」

 そう言ってシャナは再び竜と呼ばれるモノに目をこらす。


 この少女はなぜそこまで下々の民に対して配慮をするのか?かつて出会ったアグヌスの・・・いやティアスの貴族ですら身分の低い者を無下に扱うものであった。シャナの振る舞い、それが王族の血、生まれながらに人の上に立つ者の質というものだと言ってしまえば終わってしまう事なのだが、まっすぐ立つシャナを見ながらゲックはなにか違和感を感じずにはいられなかった。




「あっつー! 外気温の事、完全に忘れてた」

 周囲に知らせる警報音が響く中、格納庫用ハッチが開放され熱気を孕んだ海風を浴びたカズキは思わず叫んでしまう。

「外気が302K(29℃)超えてるって言ったじゃないですか、マスター。汗でシミになったら抜くの面倒なんですよ、天然素材メインのこの制服は」

 服の袖をつまみながらエリスがカズキに文句を言う。

「いまさら引っ込んで略服に着替えるわけにもいかないし・・・なんとか向こうの代表を早い段階でこっちの応接室に引きずり込もう。打ち合わせ通り僕が誘導するから言語解析の方は頼むよ」


「ほっ・んっ・とーにっ!気を付けてくださいよ。いつもマスターは一言多くてやらかしてしまうんですから、今回は始末書で済まないし本部のフォローも無いんですからね!」

 エリスは腰に手をあててカズキに注意する。


「絶対詐欺だよなー銀河連邦宇宙軍の募集要項。AIMSとの戦闘するよりも管理宙域での対人交渉や報告書類作成とかの事務仕事の方が多いんだから」

「マシンメサイアのコンサートマスター資格取った時点で連邦行政書士と航宙事業弁務士資格が自動的に付いてくるんですから、その辺は察しないとだめじゃないですか。士官学校の進路説明、聞いてなかったんですか?」

「ごめん、あまり他人と顔を会わせずに宇宙を気ままに旅が出来ると聞いて、深く考えずにコンサートマスターを志望した。そもそも僕が銀河連邦宇宙軍士官学校に入学しようと思ったのは、テラー(地球)に行くにはそれが一番手っ取り早かったからなんだよ。資格の方は募集要項に再就職時に有利になる各種資格・免許がタダで取れるってあったから、てっきりそれだと思ってた」

「なんでこんな人がコンサートマスターになれたんだか・・・予定通りにTAU2機を先行させます。映像記録が残る正式な外務交渉になるんですから、ふらふら歩かずにシャキッとしてくださいよ」

 エリスはカズキがパートナーとなって標準時間で10年近くになるが、初めて聞くカズキの軍への志望動機に驚きつつも、こういった仕事でいつも問題を引き起こす為、もう一度釘を刺す。


「ハイハイ」

 カズキは気の無い返事をしながら手を振る。


「マスター、ハイは一度って何度も言ってるはずです。ホントに大丈夫かなぁ・・・」

 軽いストレッチをして肩を回すカズキを見ながらエリスは不安そうにつぶやく。


「それじゃ、行こうか」

 警報音が止まりハッチの完全開放を示すサインが表示されたのを確認したカズキはエリスに促す。

「TAU、起立させます」

 エリスが告げると軽い駆動音と共に全高5メートルを超える巨人が立ち上がり、その巨体に似合わない意外なほど静かな足音を立てながら、ハッチの外に展開されたランプを降りていく。それに続きカズキとエリスは凶暴なまでの眩しい陽光の中にその身を投じた。






※銀河連邦宇宙軍の募集要項

人類の未来を守る宇宙の戦士募集。除隊後に役立つ各種免許、資格も容易に取得可能とかだったとかなんとか


※コンサートマスター

マシンメサイアのパイロットのことを指す。エリスがカズキをマスターと呼ぶのはここに由来する。マシンメサイアの配備数は予備も含めたったの13機。銀河連邦宇宙軍のトップである統合作戦司令本部長に就任するにはコンサートマスター経験者である事が条件なので、これになれるということは超エリートと言える。

各マシンメサイアの名称は

Ascalon

Bardiche

Cutlass

Durandal

Excalibur(予備機)

Flamberge

Gladius(予備機)

Halbert

Izhmash(予備機)

Jamadhar

Katzbalger

Lavateinn

Morgenstern

この時代、火薬式自動小銃のAK47が他の伝説上の武器などと同じ扱いになっている為、イズマッシュがIの枠に充てられている。



※TAU Typhoonタイフーン

銀河連邦軍 汎用TAU

全高5.2~5.8メートル

歩行などの動作は基本すべてプログラミングされており、操縦者はスティックとフットコントローラーで操縦する。無人運用も可能。

マニュピレーター専用コントローラーも別にあるが、こちらはあくまで補助的な物であり戦闘時にはほとんど使われない。

PAUと違いホロニッククォーツのインプランティング無しでも問題なく操縦できる。

平地高速移動タイプと閉鎖空間対応タイプの2種類の歩行脚があり状況に応じて換装出来る。平地高速移動タイプは鳥の脚のように逆関節となっている。鳥脚であると高速歩行時に重心の移動が少ない為メリットが多い。人間タイプの関節は姿勢に自由度があるため閉鎖空間や段差がある地形ではこちらが有利になる。


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