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ラストガーディアン  作者: ターンタイプ
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伝令の星

本筋から大幅離脱してしまっているので申し訳ありませんが、筆者の悪い癖が出てしまったという事で生暖かい目で読んでいただければ幸いです。


「先生!今日も伝令の星が天を横切っていきます!」


 南大陸最大の港湾都市ナクラにあるバザルム大学に設置された天文台は、異様な興奮に沸き返っていた。ここ数日、日の出前もしくは日没後間もない時間に、たった半刻ほどで天を横切る、明るい星が突如現れたからである。

 伝令の星と名付けられたそれは、同じく日の出前、日没直後に強い輝きを放つ金剛星よりも明るく輝くだけでなく、北西や南西といった日によってまったく異なる位置から昇り始め、西から東へ移動するという他の星々の運行と真逆の動きを見せていた。


「おっほぉー、今日もこの年老いたワシの目でも、はっきり見えるわい」

 先生と呼ばれた白い髭を長く伸ばした老天文学者が、象限儀を覗きながら呟く。

「先生はこの星が意味するところ、どうお考えになられてますか?」

「ふむ、まこと不思議な星じゃのう。ワシが君の歳ぐらいにこの天文台に見習いでやって来て以来、初めて見る動きをしとる。昨日現れた時には北北西から昇ったのに今日は南西から昇ってきおった、果たしてこれは昨日現れた星と同じ物なのか悩むところじゃ。」

「いえ、そうではなく金剛星や玉座の星よりも強く輝く星が突然現れこのような動きをする、神が何か重大な事を伝えようとしているのではないのでしょうか?そして先生はそれが何であるか御分かりになってるのでしょう?」

「神は星の動きによって御心を伝えるというアレかね?それは導師や政治を司る偉い方々が決める事であって、この歳まで星を視る事しかしなかったワシには神の御心なんぞわからんよ」

「しかし先生はこれまでに素晴らしい業績を上げてこられ、数々の発見もなされています。この発見を神学部の奴らに教えず、陛下に直接ご報告すれば先生のこの大学での立場は強くなり、ひいては我が天文部の発言力が高まるのではないでしょうか?」

 まだ成人になって間もないと思われる学生が、不満げに老天文学者に言う。

「ラマハン、君は此の事を王にどう伝えるのかね?神の教えでは『天に強く輝く新たな星が現れた時、新たなる王が生まれ世に平安をもたらす』と言っておる。それをそのまま伝えれば、不興を買うことは必至じゃ。行きつく先は麻袋に詰められて海の底じゃぞ」

 彼らの信じる宗教では、学者の血は最も貴い為流すなかれと教えている。よって学者に対する死刑は生きたまま袋に詰められ、海に沈められる事となっていたのである。

「だからじゃ、王への報告は神学部の奴らに任せておけばいいんじゃ。奴らなら聖典の言葉からうまく取り繕って、王が喜ぶようにこの事を報告してくれるじゃろう。それが奴らの仕事じゃからな。ワシらは星の観測と記録に専念しとけばいいんじゃ」

 そう言いながら老天文学者は、この突然現れた星について独自の考察を進めていた。

《この星が西から昇って東に沈むのは、地球から極めて近い位置を地球の自転より速く、それも1時間で1周するほどの速さで回っている為じゃろう。日の出前、日没直後にしか見えないのは、月や金剛星と同じく太陽の光を反射しているからであり、夜中に見えないのは地球の影に入っているからじゃな・・・それはこの星がとても小さい事を意味しとる。日によって現れる位置が異なるのは、地軸に対して傾いた角度で回っているからなんじゃろう、それでこの星の不可思議な動きの説明はつくのじゃが・・・・・》

 そこまで考え、老天文学者は決して口外できない禁忌に触れている事に思い至る。『大地は不動であり、すべての星々は大地を中心に回っている』と聖典には書かれている。この事に異を唱え『地球や金剛星などの他の惑星と言われる存在は、太陽を中心とした楕円運動を行っている』と主張した彼の師は神学者達の激しい弾劾を受け、その結果ナクラの近くにあるアバカン岬の先から生きたまま海に沈められたのであった。


「未だ学問は神の呪縛から解かれておりませんぞ・・・」


 五十年前、彼に語った師の最後の言葉を思い出し、老天文学者は東の空に沈んで行くひときわ輝く星を見つめるのであった。



「マスターまずいです!イナーシャキャパシタすべてフロー!速度を殺しきれません!」

「随伴のRAID UNIT 2機に補助させるのは無理か?」

「無理です!竜骨の破損状況がはっきりしていない以上、下手に支えると空中分解の恐れがあります!」


地表への降下を開始したカズキ達であったが、彼らの乗る機体は想像以上に深刻なダメージを負っていたらしく、大気圏突入を開始した直後から次々とトラブルが発生していた。

「仕方ない、慣性制御を機体の構造強化にほぼ振り分けろ。減速は空気抵抗で行い自由落下で地表に向かう」

「そうなると予定よりも落着位置が、かなり変わりますがよろしいんですか?」

「かまわない、減速に成功しても自壊しては元も子もない」

着地予定点が消え、表示される飛行経路が一気に伸びる。それと同時にコクピットに激しい振動が発生し強い減速Gが彼らを襲った。

「マスター!こんなに激しいと私壊れる!壊れちゃう!熱いのが、熱いのがいっぱい入ってきて!」

「だぁーっ!変な声あげるな!こんな時に」

 カズキは後ろを振り向き、場違いな艶っぽい声をあげるエリスに対しその頭にチョップを入れる。

「だって私、機体の状況を感覚として入力されるんですよ!こうなっちゃうのは仕方ないじゃないですか!」

「だからといって、どう報告するんだよこの状況。音声ログ提出したら絶対変な目でみられるに違いないからやめてくれー!」

 そう言ってからカズキは自分自身の司令部への帰還が成功する事に、何ら疑念を抱いていない事に気付いた。帰還できる確率は限りなく零に近い、だがエリスと一緒ならばいつかは帰りつけると確信に近いものを感じるのであった。

「あーマスター、今変な事考えてたでしょ!愛し合ってる者同士でも女の子をそんな目で見ちゃだめなんですよー」

「誰が愛し合っているだ!降下地点の選定はこちらでやる、エリスは機体の制御に専念してくれ」

 そう言ってカズキは、再びエリスにチョップを入れ笑う。マシンメサイアのコンダクターとなって以来抱いていた疑問、なぜ兵器であるマシンメイデンがヒトの似姿をとっているのか?なぜヒトの心を持ったように振舞うのか?天を切り裂く赤い流星となった機体の中で、その答えが今解った気がしたカズキであった。







ザッサーラ

イル=ジャーバス=ザッサーラ(731年?-808年)は、バクタム朝時代にナクラで活躍した天文学者、数学者。アスード教圏で当時禁じられていた考えである太陽中心説を唱え、天体観測記録から独自にケプラーの法則の発見に至る。また三角法および微分積分法の基本定理を確立する。代表的な著書として天文書『天文考察』、『惑星の移動について』、数学書『バーザルの書』などがあり、エドアル教圏の天文学者、数学者に引用されザルデニウスの名で言及される。

生涯

ゴルアス地方の都市ジャムスで生まれる。幼少の頃より数学に関して特異な才能をみせる。その才を郡察官に見出され14歳からバザルム大学に入学、ガル=バーザル=ザンザフルを師とし彼から天文学並びに数学を学ぶ。師であるザンザフルが地動説を唱え749年に処刑されると天体観測に専念し、その成果は晩年になるまでほとんど発表しなかった。

業績

彼の著書はすべて師であるザンザフルが彼に語ったという形をとっている為、その成果は当初ザンザフルのものと考えられていた時期があった。しかし残された文献、観測記録からそのほとんどが彼の手によるものとわかっている。数学の分野で微分積分法の確立、自然対数の底の発見、複素解析の研究等多大な功績を残すが、前述のとうりその著書のほとんどが晩年になってから発表された為、生前にその業績が評価されることはなかった。

天文分野では師が唱えた地動説証明の為に年周視差の発見に生涯を捧げるが、観測手段が肉眼のみという時代で成功するはずもなく、これが彼の著作の発表を遅らせた一つの要因と考えられる。その長年の観測の結果1太陽年を363.2098日と算出したことでも有名でバルケロス暦の成立にも影響を与えた。



※イナーシャキャパシタ 慣性制御エネルギーコンデンサー、運動エネルギーを一時的に保存、放出する装置。

遅筆なので更新が滞り気味になるかと思いますが、今後ともよろしくお願いします。

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