苦いコーヒー
異世界無双はいつ?冒険者ギルドは?魔法習得は?全くそんなものにはかすりもしない内容になっていますが、一応作者の中ではハイファンタジー異世界チートものなので、生暖かい目で読んで下されば幸いです。
「僕たちは今後の方針を決めなければいけない」
未知の星域に辿り着き40時間が経過した後、来賓用の応接室と会議室を兼ねる部屋で、カズキはエリスに対しそう切り出した。
「しかし司令本部との連絡が取れない以上、マシンメイデンである私には行動の決定権は無いのですが。」
「それはわかっている、でもこれは僕にとって必要なことなんだ。エリスと会話することによって、重大な見落としの回避や発想の転換、問題解決のヒントが得られるかもしれないと思うんだ」
「そういう事なら・・・」
エリスが納得したのを確認し、カズキは話を続けた。
「まずこの星系について解ったことから整理しよう」
「主星である恒星は、G型スペクトルを持つ安定的な主系列星です。そして連星というべき褐色矮星が第5惑星軌道をとっており、その間を岩石型惑星4つが主星をを周回する軌道をとっています。」
まず立体映像に恒星が表示され、一気にズームアウトしそれぞれの惑星の軌道図が表示されていく。
「この褐色矮星の影響で第3、第4惑星は比較的大きい離心率を持つ軌道をとっており、それぞれ0.084 0.1132となっています。また通常よりも小惑星帯に属する微惑星の総量が少なく、これも褐色矮星の影響と思われます。」
映像に無数の輝点が第4惑星と褐色矮星の間の軌道に散らばる。
「補修に必要なタンタルやオスミウム、ルテニウムなどの確保はできそうかい?」
オスミウム、ルテニウム、ハフニウムなどの希少金属はそれなりの大きさになった惑星表面では鉱脈がまれであり、それらを多く含む微惑星から採掘するのが普通であった。
「ええ、その分は問題ないと思います。ただ褐色矮星の衛星も含めて通常の星系よりも微惑星の総質量が少ない為、将来褐色矮星にモノポール生産プラントを設置するならば足り無いかと思われます。」
「そうなると戦力の増強は見込めないという事か・・・・」
「それから褐色矮星の外側の軌道に比較的小さなガス状惑星が2つあり、さらに外側ヘリオポーズ境界までに複数の微惑星の存在が感知されましたが、現在所有する機材ではその詳細は不明となっています」
映像がさらにズームアウトし恒星系全体を表示した。
「ここまでは銀河系ではごくありふれた恒星系なのですが・・・」
エリスがそう言うと立体映像に、再び第3惑星が拡大表示された。
「第3惑星上に知的生命体の存在が確認された事なんだよな・・・」
カズキは呟き、エリスの淹れたコーヒーを飲んだ。
「最初考えていたのは、第3惑星に本機を降下させて現地資源で機体の補修、戦力の回復を行い帰還の道を探る方向だった。しかし第3惑星上に知的生命体の存在が確認された為、うかつにそれは行えなくなってしまった。」
エリスが手元のコンソールを操作し、第3惑星の詳細な情報を表示する。
「ええ、この惑星の極地を除くほぼすべての大陸でその活動が確認できました。小規模の建造物が多数確認できましたが、衛星軌道から大気を通してでの光学観測だけなので、その存在がどのような形態を取っているのかも不明です。ただ人工的な電波の発生や一定以上のエネルギーの発生を確認できない為、その文明レベルは極めて低いと判断できます。」
表示されている陸地に赤い輝点が増えていく。
「その生命体が我々と同一の、地球由来の人類の可能性は?」
「わかりません、人類が宇宙に進出を開始して4万年以上経ちますが、未だ地球人類以外の知的生命体との遭遇事例はありませんでした。仮にこの惑星の知的生命体が地球由来の、我々と同じく何らかの理由でこの惑星に辿り着いた末裔であるならば、惑星にもっと人為的な改造を加えられている痕跡があるはずですし、地表近くの有用資源の存在率があまりにも高すぎる事からその可能性は低いと思います」
銀河連邦から離脱後、内戦等の要因により文明崩壊に至った惑星の数は少なくない。だがそこに至るまでに普通有用資源は掘りつくされ、ここまで手付かずのまま残されている事例は無かったのである。
「自然回帰主義者が少数で入植した可能性は?」
エリスが訊ねる。
「いや、それは無いだろう。彼等は銀河連邦の制度に反対する口実にそう言っているだけで、むしろ積極的に自然環境を破壊する奴らだよ。現にナバラ自治政府は、自然回帰主義者が政権を担っている政府だった。」
カズキは思い出し、顔をしかめた。
「何らかの知的生命体がいる。それを踏まえた上で、僕はこの惑星に降下しようと思う」
「第2惑星、もしくは第4惑星という選択肢は?機体が空間機動を行えるまで修復するには最低数百年はかかると予想されます。その間本機は移動する事ができず、知的生命体が接収の為に行動を起こすと非常に厄介なことになりませんか?」
エリスは星系の俯瞰図を呼び出し、表示する。第2惑星も遊離酸素が豊富に確認され、若干平均気温が高いものの人類の生存が可能である事が確認されていた。第4惑星は第2、第3惑星の3分の1ほどの大きさで大気も希薄でありこちらは生物の生存には適さないと判断されていた。
「それも考えた。だが第3惑星の知的生命体が地球人類に連なる者であれば、連邦軍人である僕には彼らをAIMSの脅威から守る義務が生じる。現有戦力が数十機のRAID UNITのみという状況下、戦力の分散は極力避けなければいけない。そしてもう一つ、第3惑星の知的生命体の中に特異知性所有者が居て接触する事により、帰還のヒントが得られるかもしれない。あくまでこちらは願望であって、希望では無いけれどもね」
「遠距離の通信すらままならない相手に、技術の開示を行うというのですか?それは連邦法に抵触するのですが・・・」
「ある程度の情報の提供は、友好関係を結ぶ上で仕方がないと思う。もちろんカテゴリーA以上の開示は行わないけどね」
「『愚かなアメリアの惨禍』には、なりませんか?」
約4万年前、人類がまだ宇宙に乗り出す以前、その当時唯一の超大国であったユーブラリカ ステート オブ アメリアの所有する熱核融合兵器の詳細な設計製造技術が、ハニートラップにより敵対国に流出、さらにそれは急速に発展しつつあった情報共有化システムにより世界中に流布したのであった。
情報流出時、当時のアメリア政府首脳は公聴会で『製造に必要な物資を調達することは非常に困難で、たとえ技術が拡散しても脅威にはならない』とうそぶき何の対処も責任も取らなかった。 しかしそれは”確実に動作する“という兵器の性質上、公差が甘く作られており一定以上の工業技術を持つ国であれば、逆に言うと”材料さえあれば“簡単に作れてしまう物だったという事を理解していない上での発言だったのである。
そして情報流出から十数年後、エイジアと呼ばれる地域の国家群が次々とその設計図を基に製造に成功。敵対関係にあった国家に対し紛争解決の手段として使用した結果、熱核融合兵器による報復攻撃の連鎖を引き起こし、当時の総人口の五分の一を死に至らしめるという惨劇となったのである。
この事は銀河連邦に生きる者にとって、情報流出の対処が失敗した例として必ず学ぶ歴史上の事実であった。
「それは大丈夫だと思う。情報の共有化、知の集合手段が無ければ、知識は維持する事すら困難だからね。もちろんそれを確認した上で行う」
「惑星に降下する事が決定事項として、どの地点に降下することを定めますか?人口と呼ぶのはふさわしいか解りませんが、密集地は避けたほうが原住知的生命体と敵対関係に陥った場合、対処がし易いと思います」
惑星の立体映像では、2つの大陸のぶつかる地点に人口が最も集中しているのが見て取れた。
「極地は省く。ある程度の人口密集地からそれほど遠くなくて、尚且つ修復に必要な地下資源が有望な島嶼部はあるかい?」
「そうなると該当する場所は、かなり限られます」
立体映像で緑に塗潰された部分が一気に減る。
「ではその場所を重点的に再調査、得られた情報から近日中に降下地点を決めよう。僕たちには無限に近い時間が与えられているけど、問題解決の為に使える時間は有限だからね。」
そう言って、カズキはぬるくなったコーヒーに再び口をつけた。
読んで下さってありがとうございます。遅筆なので投稿は不定期になるかと思いますが、今後ともよろしくお願いいたします。