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ラストガーディアン  作者: ターンタイプ
3/9

漂流

やっと異世界転移したけど無双とは程遠いです。話の進みが遅いですが、生暖かい目で読んでいただければ幸いです。


「助かった・・・のか?」


 機体の異常を示す警報と警告でカズキは意識を取り戻した。そしてその警告が、機体の重大な機能喪失を示している事を理解する。

「エリス、無事か!」

「なんとか生きてまーす」

 タンデム配列、コマンダーシート後方のナビシートにぐったり沈み込みながらエリスが手をあげる。 機体を管理する彼女が機能喪失に至らなかったことに、カズキはほっと胸をなで下ろした。

「ダメージを負っているところを悪いが、機体の破損状況と周囲の可能な限りの情報を頼む・・・いや・・・まず最初にどれだけ時間が経過したか教えてくれないか?」

「・・・・・連邦基準時で142年経過しています・・・」

 しばらく間を置き、エリスは重い声でそう答えた。

「そうか・・・」

 カズキは目を閉じシートに沈み込んだ。


「マスター、機体破損状況を報告します。コントロールブロック、外装に一部軽微な破損。」

 機体の模式図が画面に表示され、破損と機能喪失を示す箇所が黄色と赤色に塗潰されていく。

「補助兵装ブロック、左舷側破損、兵装の使用不可。空間機動ブロック、3番のナブコフドライブ機能喪失。そしてファントムユニット消失・・・」

 マシンメサイアはブラックホールを高次空間に折り畳み、その莫大な回転運動量をエネルギーとして取り出すファントムユニットの搭載を特徴としている。RAID UNIT等に使用されるモノポール利用型対消滅反応炉、通称ナブコフドライブと比べると文字どうり桁違いの出力を誇り、主兵装である空間破砕砲の使用や数十万パーセクにも及ぶ空間跳躍を可能にしている。損害状況を示す画面には、機体をまっすぐ貫いて構成されるそれが、ごっそり無くなっている事を表示していた。

「周囲の状況ですが、現在当機は未知の恒星系、第3惑星の上空2400キロメートルを周回中。惑星には豊富な遊離酸素が確認され、生物の存在が強く示されていますが、こちらからの呼びかけには一切反応無し。またAIMSも観測できる範囲内では確認されていません。」

「未知の惑星というのはどういうことだい?目の前の惑星はナバラではないのか?」

 外部モニターに大きく表示される青い惑星を見ながら、カズキは問いかける。

「違います、現在我々のいる星系の空間曲率を観測した結果、当星系はアルカサル星系と全く異なる構成をとっており、周回している惑星は第3惑星軌道をとっている為ナバラでは無いと判断できます。また、未知と答えたのは測位基準準星すべてとパルサーが観測されない為、我々がどこにいるのかも全くわからない状況だからです。」

 恒星間での自分の位置の特定には、クエーサーと中性子パルサー星を利用する。個々のクエーサーは特有の赤方偏移をパルサーは電波信号を持ち、それらを観測することにより銀河のどの座標にいるかを確認できる。だが宇宙最初期に誕生した光源であるクエーサーが確認できないという事は、ありえない話であった。

「また、司令部との接続が全て絶たれた状況であり、定点ビーコンの存在すら確認できません。もちろん救援信号は発信し続けています。」

「一体なにが起きたんだ・・・」

 カズキは困惑しながら呟いた。

「それと第6惑星と第7惑星の中間軌道に ARSS-GB0342 及び 0351が補給中であったRAID UNIT それぞれ22機、18機と共に健在を確認。他にこの近傍宙域に不稼働損傷も含め38機を確認しました。」

 画面に恒星系の俯瞰図が表示され、友軍を示す青い輝点が散らばる。

「RAID UNITもこの星域に存在するという事は、オーバル状態でAIMSがいる可能性も考慮したほうがいいかもしれない。本機の交戦能力が喪失している現在、これだけの戦力では心許ないけれども最悪の事態には備えよう。」

「では航行能力を喪失している機体を回収後0342を第3惑星と衛星のL1に配置、0351をL2に配置し星系の観測も行います」

 散らばる青い輝点から矢印が伸び、それが集まりながら第3惑星とその衛星を結ぶ直線上に向かっていった。


「現状打てる手はこんなものしかないけれども、エリスはこの状況どう考えるかい?」

 やっと警報音が収まったコクピットで、カズキはエリスに訊ねた。

「どう?と言われても・・・私はマシンメイデンであり特異知性所有者で無い為、思考の飛躍が出来ません。現時点で得られた情報から判断すると可能性が高い順に、基準となるクエーサが観測されない事から、ありえない話ですが我々は銀河外宇宙、それも宇宙の地平線の向こう側まで飛ばされてしまった可能性が高いと思われます。次に全く別の宇宙に飛ばされたという可能性ですが、これは次元物理学で明確に否定されており、素粒子の振る舞い、その他、現時点で観測されている物理法則が我々が知るものと同一な為、その可能性は薄いと思われます。そして通信機器、その他情報を判断するものが全て故障しているという可能性ですが、これもRAID UNITとの接続が正常に回復しておりRAID UNIT経由でも司令部との連絡が取れない為、可能性は非常に薄いと思われます。他にも精神攻撃を受けて幻覚を見せられているとか、死後の世界に来てしまっているなどが考えられますが、ここまで来るとオカルトとかそういった類の話になりますので除外していいと思います。」

「やはり銀河外、それも途轍もなく離れた場所に飛ばされたと考えるのが妥当か・・・」

 彼らの使う超光速通信は、銀河系内程度であればほとんど遅延なく情報の伝達が可能である。しかしその距離が離れれば指数関数的に遅延が発生し、数億光年も離れれば交信は不可能になると考えられていた。

「それで、僕たちが本部に帰還できる可能性は?」

「ゼロです」

 エリスは即答した。

「仮に我々がどこにいるのかを特定できても、本部と連絡の取れないほどの距離に我々がいるとするならば、帰還にRAID UNITの超光速機関の使用しか選択肢がない以上、最低でも基準時間で数万年かかると予想されます。また我々が宇宙の地平線の向こう側に飛ばされたとするならば、RAID UNITの移動速度を上回る速度で、今いる空間が我々の銀河から遠ざかっている可能性があり、もしそうであれば永遠にたどり着くことはできないと考えられます」

「そうか・・・・・」

 カズキが呟くと同時に、エリスはナビシートから飛び出しカズキを抱きついた。

「ごめんなさい!ごめんなさい!私の所為でカズキがこんな事になってしまって!私がもっと早く異常に気が付いていれば・・・もっと早く退避すれば無事だったかもしれないのに・・・カズキがもうあの優しいご両親に会えなくなったかと思うと、よろしく頼むと言われたのに・・・いろいろな思考が溢れて機能が停止してしまいそうです!」

 人の姿を持ってしまうと神のような存在でも感情というモノを持ってしまうのかと思い、しがみついて泣きじゃくるエリスの頭を、カズキは撫でる事しかできなかった。




※ARSS(Auxiliary Repairs Supply Ship) 補給工作艦


読んで下さってありがとうございます。なるべく早い更新を心がけたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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