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ラストガーディアン  作者: ターンタイプ
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遥かなる旅路

異世界無双ものを書いてみたくて物語を書き始めたら、作者の頭の悪さと趣味が悪魔合体を引き起こし、このような内容になってしまいました。

何分小説を書くのは初めてなので、生暖かい目で読んでいただければ幸いです。


 ダイニングエリアに続くエントランスは人で溢れかえっていた。

「ビュッフェの方で食べたかったのだけれども、これじゃあ無理ね」

「部屋に戻ってルームサービスになさいますか?こちらとしてもその方が助かるのですが」

 隣に立つビジネススーツをビシッと着こなした私の秘書がそう答える。

「冗談言わないで。仏頂面のおっさん達が見つめる中、同じく仏頂面で会話の無いあなたと食事なんてそれこそ拷問よ」

「仰ることはわかりますが、こちらとしてもそれが仕事ですので」

「あと会話が無いというのは不本意です。お嬢様には伺わなければいけないことが山ほどあるのですから」

「仕事の話は食事の会話と言わないわ、そろそろ自分たちの足で歩くことができないのかしら?」

「ご冗談を。我々がまだ立つことすらままならぬ幼子である事は、お嬢様が一番判ってらっしゃるはずです」

 頭を振りながら秘書は言う

 わかっている、わかっているのだがあまりにもたどり着くべき先が遠い為、何もかも投げ捨てて逃げ出したい衝動に駆られるのだ。

それが遠き日に自分自身で選んだ道だとしても・・・・・



「やっぱり正装じゃなくてもよかったのよ、着替えなければもっと早く来れたのに」

「そうは言ってもな、ガイドさんの説明にも乗船規約にも『ダイニングエリアではフォーマルで』ってだな」

 後から来たこういった場所に慣れてなさそうな老夫婦が、ビュッフェの入り口から続く人の列を見て会話するのが聞こえる。

ビュッフェの列にはTシャツ、ジーンズ履きの客も多く正装で来ている人はほとんどいない。逆に老夫婦の格好は浮いて見える。

「もしよろしければご一緒にあちらで食事なさいませんか?たぶんコース料理になってしまいますが」

 私は秘書と二人だけで食事をしない口実を見つけ、スイート客しか利用できないレストランの方を見て夫婦に話しかける。

「よろしいので?でも私たちは、あちらで食事するほど持ち合わせが・・・」

 見ず知らずの小娘の突然の提案に、夫婦はあきらかな警戒の色を泛べる。

「ご心配いりませんよ、私の方のチケットでは4名までならどの店を利用しても無料ですから。せっかく正装でお越しになったのですもの、こちらを利用しないと損ですわ」

 私は隣の秘書に目配せしながらロイヤルスイートのキーカードを夫婦に見せる。本来はそんなサービスは無いのだが、察した秘書は呆れた顔を見せカウンターに向かっていった。

「それに私の連れは二人だけだと、小言ばっかり言ってせっかくの食事が不味くなりますの」

 秘書に見えないように舌をだしながら、茶目っ気たっぷりに夫妻に笑いかけた。

「まぁっ!?あなたこのお嬢さんのお誘いを受けましょうよ」

 笑顔になった夫人が、誘いを受けるか逡巡していた良人に促す。

「お前がそう言うなら・・・」

 夫婦は私の提案を受け入れてくれて、ビュッフェの列から離れた。



「お二人は観光でティラーに?」

「ええ、息子夫婦が私どもの結婚30周年記念にプレゼントしてくれたのです」

 特等席に案内されて最初は落ち着かなかった夫婦も、アルコールが入り料理も3品ほど進むと緊張がほぐれたようだった。私の秘書は鬱憤を晴らすように色々と追加で注文をしている。全部食べ切れるのだろうか?

「不思議なものですなぁ。たった2カ月の旅行なのに戻ってきたら1年が過ぎているとは、なにか得した気分ですな」

「ウラシマ効果でしたっけ?不思議な名前ですよね、ウラシマって」

 幾度聞いたかわからないその感想を、老夫婦も口に出す。

「大昔の西洋のおとぎ話の主人公の名前からとられてるのですよ」

 秘書が驚いたようにこちら見つめる。彼女にもまだ直接この物語を話していなかったはずだ。

「ほう、そのおとぎ話はどんな内容なんです?」

 夫妻は名前の由来を私が知っている事に、意外な顔を見せ訊ねてきた。

 私は遠き昔に、あの人から教えてもらった物語を語り始める。

「ウラシマという人間の英雄が、神に請われて天上で邪神と戦うことになったのです。」

 食事の手を止めた3人を相手に私は話を続ける。

「1年の戦いの末、邪神を打ち滅ぼしたウラシマは故郷に帰りついたのですが、そこでは千年の時が過ぎていて、愛する妻も親しい友人もウラシマの輝かしい偉業を知るものもすべて消え去っていたというお話ですわ」

「たしかに今の私たちと似た状況ですね」

「相対論による時間の流れ方は一様では無いという事がこのおとぎ話にそっくりなため、ここから命名されたそうなんですよ」

 私は頷きながら説明した。

「美しいだけでなく博識だ、あなたにはぜひうちの孫の嫁になって頂きたいですなぁ。もちろんそちらのお嬢さんでも構いませんが」

 多分にお世辞も入っているのだろうが、老人がワインを傾け笑った。

「私としては由来よりもウラシマがその後、どうなったかが気になりますわ」

 老婦人が私に訊ねる。

 あの時、あの人にこの物語を聞かされた私と同じだと思いながら答えた。

「伝承によると愛しい人たちと再び会うために死者の国に旅立ったとも、絶望し命を絶とうとした所を神が天上に引き上げて星にしたともいわれています。」

「ウラシマは救われなかったのですか・・・」

「ええ、それはこの物語が、もう一つの重要な意味を示していると言えます。時間の特異性、この世界に存在する限り神ですら時間を遡ることはできないということを・・・」

「そう聞くと単なるおとぎ話と考えることはできませんね。私たちは1年の時間のずれで喜んでますが、これが100年 1000年となるととても恐ろしいことに思えますわ。同じ時間に生きれないということが・・・ 宇宙に生きる人たちはそんな思いを抱きながら今も旅を続けているのでしょうか?」

「だからでしょうね。未だ人類が銀河のほんの一部分にしかたどり着けていないのは、愛する者が時の彼方に消え去ってしまう恐怖が枷になってるからなのでしょう」

 話し終えた時、メイン料理が運ばれてくる。料理長の説明とパフォーマンスに、夫妻の興味はそちらに移ったようだった。



「とても重い枷。ヒトが人である限り決して外せない」

 私はそう呟きながら積層クリスタルに覆われた天井を仰ぎ、幾万の細い光の筋が流れる漆黒の闇を見つめる


 今ならあの人の思いがわかる。

 狂おしいまでの望郷の念と時の彼方へと過ぎ去った愛しい人たちへの思い。


 あの人は懐かしの故郷に帰りつけたのだろうか?

 それともこの暗く凍えた星の海を未だ彷徨っているのだろうか・・・・・

読んで下さってありがとうございます。遅筆なので更新が遅いと思いますが出来れば今後ともよろしくお願いいたします。

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