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その少女の名は『U03』


「ふぅ……」


 学校からの帰宅。まずは渇いた喉を潤そうと冷蔵庫へと向かう。そして戸棚からコップを取り出し麦茶を注ぎ、すぐさま飲み干す。

 一連の作業を終え、ほっと一息。コップを流し台に置き、自室へと向かった。

 今日一日を振り返り、やはり、あの校舎から飛び降り自殺をし、その後に消えた少女の事を想う。あの出来事は本当に現実だったのか。時間が経ち、少し、どこかあれは幻だったと思う自分もいる。答えは出ない。自室に着きドアノブに手を掛け部屋へと入る。


「ボリ・ボリ・ボリ・ボリ……」

「…………」

「ボリ・ボリ・ボリ・ボリ……」

「…………」


 自室のドアを開け最初に飛び込んで来た光景は、先ほど現実か幻かを考えていた……そう、校舎から飛び降り自殺をし、その後に消えた、あの少女が居た。

 あろうことかこの少女、僕の大好きなマンガ「トラえもん」を仰向けに寝ながら足を組みつつ読み、尚且つ同じく大好きで僕の机の上に置いてあったであろう「ボリンキー」を貪り食べていた。


「…………」

「ボリ・ボリ……あっ……」


 あまりの光景に言葉を失い立ち尽くす僕。それに気付いた少女。視線が重なりお互いに見つめ合う二人。


「おかえりなさい……ボリ・ボリ・ボリ」


(ただいま……とでも言うと思ったのだろうか?)


 視線が重なり最初の一言は、なんと出迎えの挨拶だった。その後、何事もなかったかの様にトラえもんへと視線を移しボリンキーを貪る少女。

 何が起こっているのか? 潤したはずの喉がいつの間にか渇き、口の中がパサパサの状態。ツバを飲み込み、やっとの想いで一言口にする事が出来た。


「ボリンキー美味いっしょ?」

「ん、まあまあね」

「…………」


 ファーストコンタクトの印象は、コイツ出来るなと思った……。

 だが、この状況、一体どうすればいいのか?

 オロオロと視線をさ迷わせる僕。最初の一言は完全に失敗だったと後悔。そんな時、救いは来た。


「やっぱりアナタには見えているのね」


 今までボリンキーを貪りつつ、トラえもんに夢中になっていた少女は本を閉じ此方へと向き声を掛けてくれた。恐らくボリンキーを食べ終わったからだろう。


(まずいな……追加のボリンキーを要求されても、ないと言おう。本当はもう一袋あるけれど僕も食べたい)


「…………」


(いけない、会話の途中だった。せっかく話し掛けてくれたこの好機。しかし、どう返せば……。この少女、何を言っているのか皆目見当がつかない。「やっぱりアナタには見えているのね」と、言われてもなんの事やら……。どうする? 会話の間があきすぎている。このままでは完全に……)


「知らない人が自分の部屋にいて警戒をしているの?」


(ふむ、全く警戒をしていなかったと言えば嘘になるが、それほど気にはしていなかった。むしろボリンキーの方が気になっている。こっちは警戒してると言っていい。……だが、これは結果オーライだな。利用させて貰おう)


「キ、キミは誰? どこから僕の家に入ったの?」

「私はU03、どこから入ったかはノーコメントよ」

「幽霊さん? ノーコメントって……」

「恐らく勘違いをしているわ、アルファベットのUに数字の03でU03。名前よ」

「か、変わった名前だね」

「アナタの名前は?」

「僕? 僕は稲荷。稲荷 廉太郎だよ」

「そう、宜しくね。廉太郎」

「え? あぁ、こちらこそ……」


 そう言いU03は立ち上がり、僕の机の方に向かって歩いていく。


「あっ」


 遠慮のない動作。引き出しを開け、ストックしておいたボリンキーを取り出し、極々自然に貪りはじめるU03。


(くっ、何故そこにボリンキーがあると気付いた!?)


「ボリ・ボリ・ボリ・ボリ……」


(やはりこの娘出来る……。しかも大人食い! 普通は勿体無いし味わうために一つずつ食べるのに、この娘は手の平一杯にボリンキーを掴み、そのまま口にinだ。……器が違う)


「それじゃあ、そろそろ行くわ。またね」

「えっ?」

「今日の所は挨拶だけ。また日を改めて話しましょう」


 そう言いU03は部屋から出て行こうとする。


(待て待て、今日の所は挨拶だけだって? それは違うよ。ボリンキーも食べていたいたじゃないか。それも二袋も。ボリンキーは挨拶に含まれるって事ですか? バナナはおやつに含まれますか? みたいなノリやめて下さい)


「まっ、待って」

「ん?」

「え、えーと、キミの事はなんて呼べばいい?」

「?」

「ほら、U03じゃなんか言いにくいというか、何というか……」

「そうかしら? ……じゃあユーと呼んで」

「U……うん、分かった。これからはそう呼ぶよ」

「ええ」

「ボリ・ボリ・ボリ・ボリ……」


 最後のボリンキーであろう欠片や粉を口に流し込み、袋をゴミ箱に捨てる、U。


「それじゃあ、今度こそ行くわ。またね、廉太郎」

「あ、うん。また」


 そうして、Uはドアから出て行くかと思えばその場で消えた。文字通り、一瞬で存在が消えたのだ。


「っ!? え?」


 状況が飲み込めず呆ける僕。突然消えた、U。


(いやいや、流石にこれは……)


「……もう、何が何だか」


 あれだけUの事を探していたのに、結局何も分からないままで帰してしまった。学校で起こった出来事も、この部屋で起こった出来事も、色々聞きたかったのだか……すべては謎のまま。

 分かったのは名前だけ、後はUの勢いに、ただ圧倒された。

 僕は、次にUに会った時には色々聞かせて貰おうと密かに心に誓った。


(ボリンキー……本当に、器が違う)


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