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恋姫無双ー曹魏刎頸伝ー  作者: yua
プロローグ
2/7

春終来夏

原作未プレイ、いきなりオリジナル主人公が出るのに抵抗がある方に推奨のプロローグです。

上記に当てはまらない方は第三話から読む事を推奨します。

曹の一文字翻(ひるがえ)れば悪人、善人、老若男女に畜生走る。過ぎた後には草木も残らぬ。


いつ頃からか、 兗州(えんしゅう)は陳留一帯で囁かれるようになった(うた)である。

刺史(しし)と呼ばれる赴任地方一帯の支配権と小規模の軍隊を併せ持つ事を帝より許された役人の一人が最近、陳留にて悪名高く、怖れられ、それでも敬われているのが曹孟徳その人である。

東から西に約4000km北から南に約1500km。

縦断するならともかく、国中を歩き回るのは気の遠くなるような広さを誇るのが漢帝国というものの巨大さで、それを13の洲に分割統治した内の一つが兗州で、その中の更に陳留郡/ 東郡/ 陽平郡/ 東平国/ 任城国/ 泰山郡/ 嬴 郡/ 済北国/ 山陽郡/ 済陰郡/ 離狐郡/に区分けされた一郡が陳留である。

刺史は上に州牧(しゅうぼく)と呼ばれる州全体を統治する存在が居るとはいえ、一郡の軍政権と行政権を併せ持ち、郡単体で見れば最高権力者として恐れ敬われる存在だ。

しかし、曹孟徳は宦官(かんがん)と呼ばれる……簡単に言えばごますり上手のオカマ野郎(暗喩にあらず)の孫であり、嫌われていた。


「オカマ野郎とは女性相手にも悪口雑言として使えるのだろうか、と」

と、あるあずまや(あずまや:中庭などに設置された小休憩所。簡易式な椅子や物を置ける台がある事が多い)で全体的に彫りが浅い顔形の中で、切れ長の目を優しげに垂れさせ、柔らかく曲線を描く唇が人当たりの良い印象を与える黒髪の青年が竹簡に詩文をしたためアンニュイな溜め息をつきながら、紐で止める。

「さて、華琳の書庫に紛れ込ませて後の世に『大発見!曹操孟徳の真実!!』とか特集されないかな、阿蘇阿蘇あたりに」

やったぜ、グッ!

と、いった勢いで腰を上げる青年。そこへ、

「へー……とっても醜聞(しゅうぶん:スキャンダル)、素晴らしく気になる『お話し』ね」

一人のはずのあずまやに射す人影。

立ち上がりかけた青年は浮かせた腰を再び、椅子にかけ直し竹簡を紐解く。

「『曹操様ってばチョー格好よくてチョイ悪の素敵な方でした』、と。ふっ、真実を語るのも楽ではないな」

疲労の隠せない眉間のシワと細めた目。口元を歪めた皮肉げな、しかしやり遂げた顔で青年は額の汗をふく。あさっての方向を向く青年にツインテールの金髪の先を螺旋にねじ曲げた少女が再び声をかける。

「で、それを何処に仕舞うのかしら?」

金髪碧眼の可憐な容貌と低い背丈に見合った澄んだ声。しかし、そこに女性特有の他人を包み込み、癒すような響きは無く、凛然とした強靭なまでの真っ直ぐさ。泰然とした雄大さ、何よりも相対する人物を高見から見下ろし容赦無く踏みつける苛烈なまでの、澄み切った魚も住めない清烈さが含まれていた。

「……本人の書庫に自分を褒めた特集記事の切り抜きとかあったら痛い人だよね」

完全に背中を向け、冷たい汗を流す青年に近寄り、少女はその腰を両手で抱き締める。

一見すれば恋人同士の逢瀬(おうせ:デート)にも見えるそれは、少女の言葉と共に芸術的な円を描いて青年が後頭部から地面に落ちる事で台無しになった。

「いっぺん、死んで来なさい!!」

直後、城全体を揺らす(暗喩にあらず)地響きがあずまやを中心に発生した。

明日へ掛ける人類橋。いわゆる、ジャーマンスープレックスは古代、周王朝建国に貢献した伝説的軍師太公望が得意とし、後漢末期において『治世の能臣、乱世の奸雄』と呼ばれた曹孟徳が正当な後継者として復興し、現代において『最も美しいプロレス技の一つ』として伝えられている。

魏明書房刊:『三国志~驚異の肉体言語~』より抜粋


「イー、アル、サン」

カンカンカン、という金属音と共にホールドを解き、右腕を高らかに上げて立つ曹操。その姿は無駄に雄々しい。

「お見事です、華琳様!!」

ぶつからんばかりの勢いで走りよるのは曹操猛徳より長身の黒髪をストレートに腰まで伸ばした妙齢の女性。前髪を全て後ろに流し、切れ長の目と引き締めた口から気の強さと(かたく)なな性格を感じさせるが、タオルを差し出すその表情とキラキラと輝かせる赤瞳、加えて天を突く様に跳ね上がる一本の黒いアホ毛が人懐っこい仔犬を思わせる。

「ありがとう、春蘭」

タオルを受け取り、いい汗かいたといった風体で顔をふく曹操。

「技のキレが一段と高まりましたね」

冷たい水を差し出すのは、水色の髪の毛を右目を隠す様に垂らし、後ろ髪を首当たりで短く揃えた同年齢とおぼしき美女。端正な顔は春蘭と呼ばれた女性とそっくりだが、落ち着いた挙措(きょそ)怜悧(れいり)な表情、深い知性を湛えた赤瞳が随分と違った印象を与える。

「毎日やってれば誰でも磨かれるものよ、秋蘭」

水をあおり、溜め息をつく曹操。

「しかし……」

秋蘭と呼ばれた美女が冷たい眼差しのままに見やる先には、頭から腰辺りまで地面に突き刺さった人間の成れの果て。

身長差があるとはいえ、ここまで見事に地面に突き刺さる人間は三国を見渡しても居ないだろう。

「流石に今回は死んだのでは?」

恐る恐る曹操に伺う秋蘭に曹操はフン、と鼻で笑い冷たい視線を地面に突き刺さった男に向ける。

「春蘭、引き抜きなさい」

目障りな雑草を引き抜いて捨てとけ、とでも言わんばかりの曹操の感情のこもらない言葉に

「仰せのままに!」

黒髪の女性、春蘭が脊髄反射のレベルで力一杯明朗(めいろう)に応え、地面から足だけを十字に交差させ突き出し『名前も出ない内からメインヒロインに埋められた男、ここに眠る』と言った感じの片足を無造作にグワシ、とつかむ。

「フンッ!」

軽い気合いと共に事も無げに片腕で引き抜く春蘭。その強力(ごうりき)刮目(かつもく)すべき勢いで男を空中に引き抜き、

「キャアアアァァー……バブシ!?」

聞いたら死にそうになる悲鳴を上げて引き抜かれた青年は、慣性の法則そのままに春蘭の腕を支点として再び円を描く。

具体的には引き抜かれて一秒もたたず、再び地面に叩きつけられ、体半分地面に埋まった。

何やら徒労に終わるとか、無駄骨を折るとかの単語がその場を支配するが

「……生きてはいました、華琳様!!」

晴れ晴れとした顔で春蘭は全てを過去にした。

「過去形!? 姉者が賢い!!」

「驚いたわね」

そのまま、街中に春蘭が賢さを上げたお祝いに繰り出した陳留刺史、曹孟威。親しい者、尊敬に価する者に預ける真名と呼ばれる隠し名を華琳と言う。

そして、その側近にして後の世に『魏武の大剣』と渾名される夏候淳(かこうとん)、真名を春蘭。同じく側近として長く曹操に仕える夏候淳の双子の妹、夏候淵(かこうえん)、真名を秋蘭。

後に覇業を歩み、覇王と呼ばれた英雄は仕事を放っぽり出して私的(してき)な祝い事をする位には遊蕩な時間の中にいた。


人の気配の無くなった中庭、重要な文書にしか使われない高価な紙の束を抱えた文官が、長い裾を引きずりながら現れる。

「曹操様ー……何処に行ったんだろ」

困ったように中庭に設置された長椅子に腰を降ろす。

「まだお仕事残っているのに席を立つなんて珍しい」

仕事に厳格で、誰よりも熱心にこなす曹操が部下に何も告げず姿を消す事はあまりない。

「やはり曹操は曹操、奸雄であったか。くっくっくっ、この事実を後の世に正確に伝えなければならんな」

文官が座る長椅子より声が漏れる。

「……ああ、李円様が居ましたか。曹操様の替わりにこの仕事を片付けちゃって下さい」

自分が腰を下ろしていた長椅子が地面に埋まった人間であった事実に驚く事もなく、淡々と紙の束を渡す文官。

ちなみに李円と呼ばれた人間長椅子に座ったままである。渡された李円も顔が半分埋まったままで書類を受け取り、ふんふんと頷く。

「ふふふ、任せておけ。好き勝手やってやるとも。ところで結構重いんで、どいてくれませんかね」

チラリ、といった感じで上目遣いをする李円。

「わたくし、仕事続きで疲れてまして。今日は日向ぼっこにいい天気ですね。太陽が傾き始めるまで外で詩作とかしたかったなー」

疲れ目をこすり、あずまやに散らばる見慣れた李円の文字で書かれた詩の殴り書きを見やる文官。

曹操、夏候淵の二人は日が昇る前から文官達と仕事を始め、執務室に軟禁状態。夏候淳は朝駆けから帰り、先程まで兵士の調練に励んでいた。

「そうだね、仕事って大変だよね」

体半分を地面に埋まりながら、しれっとした態度でバリバリと書類をさばいていく李円。

暑くなり始めた初夏の風に吹かれ、李円に腰掛けながらウトウトとし始める文官。

陳留のいつも通りの日常であった。


真夜中、中庭に涼みに来た夏候淵は月明かりの中、半分地面に埋まりながらシクシクと涙で小川を作る李円を発見していた。

「何をやっているんだ、お前は」

人体は三分の一が固定されると動けない。李円はバッチリ体半分が埋まっていた。

「誰も助けてくれない。お仕事頑張ったのに」

「前提として半日以上、怠けてたからじゃないか?」

しゃがみこみ、ツンツンと李円をつつく夏候淵。

「死に際には『曹操誅戮、李円忠臣、無念残念』と書いてやる」

「地面に埋まったままで?」

「布団で寝たいです」

夏候淵に引っ張り出して貰い、一晩寝たら忘れたとか何とか。


「今日もいい天気、太陽が俺を呼んでいる!」

翌日の朝議(朝にやる会議)終了直後、駆け出そうとした李円を曹操は愛用の武器、大鎌『絶』の先っちょで襟首をひっかける。

「仕事しなさい、馬鹿」

慣れ切った所作(しょさ)と所帯染みた感じすら与える台詞(せりふ)。そこへ、竹簡の束を抱えた文官達が

「曹操様も途中で消えないで下さいねー」

挨拶の様な気楽さで主人たる曹操へと痛烈な釘を刺していく。

「……次からは一言、声をかけるわ」

昨日の春蘭のお祝いから帰れば文官達が骨身を削り、李円に仕事を処理させていたのを思いだし、曹操は自戒するのであった。

和やかな空気の中、鎌に引っかけられた服の襟で勢いよく首を絞められ、一瞬で意識を失った李円を省みるものは……居ない。

『曹操誅戮、李円忠臣、太陽明朗、我外也遊』

(曹操に誅戮(ちゅうりく:殺す事)された李円は忠臣である、太陽は輝きお外は朗らかな陽気、外で遊びたい俺は外で遊びたいんだー!!)

こんな詩が後の世に残ったかどうかは定かではない。

時に後漢末期。

後に『三国志』と呼ばれる英雄英傑が乱舞する大混乱の乱世の前の静かな一時であった。。

阿蘇阿蘇:言うなればティーンズ雑誌。ファッションからお薦めデートスポット、話題のお店まで広く網羅した万能雑誌。はっきり言って載っていないジャンルは無いと思われる。間違った知識や新しい知識は『大体、阿蘇阿蘇のせい』。


李円:架空の人物。どっかの誰かが二時間くらい頭を捻りながら考えたが、一文字違いで別作品のオリ主と被った。気にしない、気にしない。


ジャーマンスープレックス:本文内参照。この技の描き出す曲線は芸術である。作者は何故か漫画の封○演義で主人公が使っていた記憶があり、面白かったので捏造した。


アホ毛:髪形と関係無く自己主張する反逆の髪の毛。チャームポイントにも武器にもなり得るが、これがあると高確率で知能が下がるか世間知らずのステータスが付属される。


『名前も出ない内から……』:えくすかりばー


紙:在るには在るが余り使われない高級品。量産されると便利だが、某毒舌軍師が竹簡を両手一杯に持っている絵面が可愛いので大量生産はされない。非常に残念な話である。


原作において、曹操孟徳は『曹孟徳』と呼称され操の字をつける事はありませんが、地の文においての分かりやすさを優先し、呼称その他を曹操に統一しています。

また、原作になるべく追従する予定ですが、作者はうっかりさんなので原作と違う設定は

「外史の設定の一つかな?」

とかの深読みはまず有り得ません。

曹孟徳の表記に関しては神代さんご指摘感謝です。


初めましての方は初めまして

お久しぶりの方はお久しぶりです。

懲りずに二次創作をまた書き始めました。

恋姫無双はなろうにて二次創作にハマるきっかけになった作品なので、ようやく書ける喜びに踊り出したい気分です。

勢い重視になりがちなので設定ミス等ありましたら、ご指摘頂けると有難いです。

基本、コメディになりますがシリアスな展開に使う文章回しで書くコメディというのを目指している変な作品になるかと思いますが、読む方の一時の憩いになるように書いていきたいと思っています。

長くなるか、短くなるか出来れば最後まで笑って読める時間を読む貴方と共有出来れば幸いです。

これから宜しくお願い致します。

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