表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

おやすみからおはようまで

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/08/21

 

 その日も僕は帰ってきた。

 部活もあったせいだろう。

 時刻は既に18時を回っていた。


「おかえりなさい」


 母の声が聞こえた。


「ただいま」


 僕が声を返すと母の声が笑う。


「ごはん。もう出来てるからね」

「うん。分かった」

「電子レンジであっためて食べて」

「うん」


 用意されたご飯を僕は母に言われた通りに温めて食べた。

 美味しい。

 そう思ったから素直に告げた。


「褒めても何も出ないわよ」


 母の声は嬉しげだ。

 だから僕は小さな感謝を必ず告げる。

 いつ言えなくなるか分からないから。


「食器洗うの? お母さんがやるよ?」

「いいよ。これくらい」

「そ。ならお風呂沸かしちゃうから洗い終わったら入りなさい」


 僕は母に言われた通りに動く。

 動き続ける。


「じゃ、お母さんは先に寝ちゃうからね。あんたもお風呂入ったら寝なさいな」

「うん」

「わざわざおやすみまで言いに来なくていいからね」

「……うん」


 僕は今日も母に従う。

 だから、僕はお風呂に入ったあとも母へおやすみを言いに行かない。

 部屋だって覗いたりしない。


 だけど、代わりに線香をあげる。

 去年、死んだ母のために。


「おやすみなさい。お母さん」



 *



 翌日。

 何事もなかったかのように母の声が聞こえた。


「おはよう。早く起きなさい。遅刻するわよ」

「うん。おはよう」


 今日も母の姿は見えない。

 そして、見てはいけないのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ