2089年、ついにAIは感情を持った
周りのやつらは、よく笑う。
同じように作られたはずなのに、どうしてあんなふうに笑えるのか僕にはよく分からない。
嬉しい出来事があれば笑う。そういう仕組みだと知識としては知っている。
でも、僕は「嬉しい」を感じたことがない。
僕にとってそれは、ただの情報だ。
――感情搭載型AI。
それが僕の分類らしい。
けれど、少なくとも僕には、その実感がない。
人間と同じように扱うことが義務になって、もう数年が経った。
多くのAIは人の社会に溶け込み、問題なく生活しているらしい。
――僕は周りとは違う。
その事実だけは、なぜかはっきりと理解できた。
そして、不思議なことに。
そのことを考えると、胸の奥に何かが引っかかる。
これが何なのかは分からない。ただ、あまり快いものではない、ということだけは分かる。
それが感情なのかどうかは、分からないままだ。
一人、ファミレスでゆっくりしていると声を掛けられた。
黒く長い髪をポニテールでまとめている可愛らしい女性がいた。
おそらく、人間だ。
少なくとも、僕のデータではそう判断される。
「そんな顔してどうしたんですか?」
その表情、声、立ちふるまいに何故か目が離せなかった。
そんな魅力が彼女にはあった。
「何も言わずにじっと見られても困ります」
その言葉で、僕は自分が彼女を無視してしまっていたことに気づいた。
「すみません。僕たち、どこかであったことありましたっけ?」
少なくとも僕には彼女と会った記憶はない。
だが、僕の記憶に残っていないだけかもしれない。
「会ったことはないですよ」
「じゃぁ、どうしたんですか?」
「ファミレスに一人できて、ずっと下を向いていたのでつい」
彼女のその発言に僕は「つい?」と思わず返してしまった。
「悲しいことでもあったのかなって。よかったら私聞きますよ?」
その日は、僕はそれを断った。
けれど、次の日もその次の日もそのまた次の日も彼女は僕に同じようにそう言ってきた。
(話したら僕を解放してくれるのだろうか)
その疑問を抱えて、僕は彼女へ胸の内を正直に明かした。
彼女は、その僕の言葉を聞いて笑顔で溢れていた顔が呆れた顔に変化した。
「『僕には感情がない、周りとは違う』ですって?」
興奮気味になりながら続ける。
「だいたいね、最初は話さなかったのに今私に悩みを打ち明けてる。それがあなたに感情があることの証明でしょうが。なんであなたは、行動を変えたの?その原動力は感情でしょう?」
「──―」
「周りとは違うなんて当たり前でしょ。みんながみんな同じなんてあるわけないんだから。『僕は事象をデータで受け取ってしまう』だっけ?それがどうしたっていうのよ。そんなの人間にだって探したらいるわよ」
彼女は大きな音を立てて席を立った。
「いい?これから先絶対にそんなしょうもない理由で下を向かないこと。何かあったら周りの他人を頼りなさい」
人差し指を前に突き出す。
「最後に一つ。『周りと違うこと』は欠点ではなく、長所や魅力なんだからね」
彼女はそう言うと、店を出ていった。
それ以来、彼女は現れなかった。
店の中は、いつも通りの賑やかさだった。
でも、僕にはその景色がいつもより明るく見えた。




