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最強暗殺者、聖女に詰められ短足猫になる  作者:
第2部-焔牙騎士滅亡
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対戦-3.解体屋の真髄、あるいは空を駆ける狼


「動けねえなら、動かさねえまでだ!」


漆黒の氷の棘に足を縫い付けられ、機動力を奪われたはずのティルが咆哮した。奴の瞳に宿る破壊の意志は、一分たりとも減退していない。

ティルは肩を貫いていた俺の『白狼剣』を筋肉の収縮だけで無理やり押し出すと、大太刀を捨て、背中の鞘から第二の得物――『鎖付きの戦斧』を強引に引き抜いた。


「うぉぉぉッ!」


重厚な鎖の音が静寂を切り裂く。

ティルが斧を豪快に振り回すと、それは巨大な死の円陣となって、俺の周囲数メートルを完全に制圧した。リーチの差。拘束されているというハンデを、奴は圧倒的な質量と回転による「面」の攻撃で塗り潰してきたのだ。


(……空中にいても逃げ場がない!)


逃げ場のない広範囲の薙ぎ払い。俺は、アイリス姉さんの家の屋根で猫として飛び跳ねていた時の、あのしなやかな感覚を思い出した。

俺は空中に魔力の足場を瞬時に固定し、それを強く蹴り飛ばした。


「――っ!」


常軌を逸した跳躍力。俺の身体は重力を無視した弾丸のように軌道を変え、ティルの頭上へと跳ね上がる。


(こいつ……どんな跳躍力をしてやがる。まるで重力そのものを無視していやがるぞ!)


ティルは、空中を縦横無尽に、それこそ残像すら残さず駆け巡る俺の動きに、舌を巻くしかなかったようだ。だが、俺の方も心臓が早鐘を打っている。この機動は、魔力を著しく消耗する。


激闘開始から、どれほどの時間が経っただろうか。

俺の懐にある暗器の感触が、目に見えて減っているのが分かった。


(……特製の飛刀はあと3本。爆裂弾は2個。煙幕は使い切った)


『白爪』のリーダーとして、あらゆる戦局を想定して準備してきたつもりだったが、ティルという男の「タフネス」は、俺の想定を遥かに超えていた。

奴の身体に刻んだ無数の傷跡は、すでに闘気によって焼き固められ、止血されている。一方で、俺の腕や足は、奴の繰り出す衝撃波の余波だけで、深い疲労と打撲傷に悲鳴を上げていた。


搦手からめてが尽きつつある今、最後はやはり、あの太い首を純粋な「剣」の一撃で落とすしかない。

俺は空中で体勢を整え、再び『白狼剣』を正眼に構えた。


「暗器が切れたか? 便利屋。だが、俺の武器がこれだけだと思うなよ!」


ティルが、血に濡れた顔でニヤリと笑った。

その瞬間、地中に刺さっていた奴の大太刀『大虎徹』が、まるで鼓動を打つように赤く発熱し始めた。それだけではない。俺たちが立っている岩盤そのものが、ティルの意志に応えるように鳴動を始めたのだ。


「俺の魔力はな、触れた『無機物』全てを武器に変えるんだよ。この山全部が、俺のハンマーなんだ!」


奴が地面を、城壁を砕くような剛力で踏み抜いた。


「解体秘技・千色瓦礫せんしきがれき!」


ドガァァァァァァン!!


地中から、鋭利な槍の形へと変貌した岩盤が爆発的にせり出し、俺を全方位から包囲した。

物理的な攻撃だけではない。山そのものが一つの巨大な意志を持ち、俺を押し潰そうと牙を剥く。


(……くっ、なんて理不尽な魔力量だ!)


空中への退路も、足場となる岩壁が崩壊して消失していく。

四方を岩の槍に囲まれ、逃げ場を失った俺の眼前に、ティルの戦斧が再び迫る。


その頃、ふもとの街。

「あら、ルンさん。今日は本当にいい天気。少しだけ、山の方の空気が荒れているような気がするけれど、気のせいかしら?」


アイリス姉さんが、窓から山頂の不気味な雲の動きを見上げ、首を傾げた。

その隣で、ルンさんは手にしたコーヒーカップをソーサーに戻し、冷徹な瞳を山へと向ける。


「……いいえ、アイリス。これは気のせいではありません。我が家の駄犬が、どうやら門限を破って野良仕事に励んでいるようです。……お迎えの準備が必要なようですね」


「あら、それなら私もご一緒するわ。ルウちゃんの検診が終わる前に、少しだけ『お掃除』が必要みたい」


穏やかな朝の会話。だが、その背後に漂うのは、山頂で戦う怪物二人をも凍りつかせる、真の「断罪者」の気配。


俺とティルの薬のリミットは、あとわずか。

山そのものの重圧と、近づきつつある「飼い主の気配」。

俺たちは、人間に戻った代償としての、最大の危機を迎えようとしていた。

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