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一方現在の男爵家。
ここでは、とあるイベントが発生しようとしていた。
昨晩降り始めた雨は今日に入ってからも一度も止まず、時折雷が鳴っている。
イネスと、娘のサンドラは私室でくつろいでいた。
「そういえば、ルイーズは今頃何をしているのかしら」
「死んでいるわよ。あの土砂降りで、何も持たせず外に追い出したのだから」
イネスは鼻で笑った。
「生きているかも知れないわよ。だってあいつ、凄く生命力が強かったじゃない」
「そうね、まさにドブネズミ。でも生きていたとしても、奴隷になってるのが関の山でしょう」
「良くて娼館に拾われてるってところかしら」
「あんなのに欲情する男なんか、居やしないわよ」
二人は嘲りの声を上げた。
ルイーズが居なくなって、この屋敷にモンフェラン男爵家の血は途絶えた。けれど領地経営は文官に丸投げしても回っているし、ヨークが残した会社の資産もかなりある。
このまま一生、この家を食いつぶし続けられるはずだった。
部屋の入口から破裂音が響いた。
爆発したのかと思う程、強い力で扉が開かれたのだ。
驚いて固まっている二人の前に、武装した兵士たちが雪崩れ込んできた。サンドラが悲鳴を上げる。彼らの先頭には、眼鏡を掛け、緑色のローブをまとった人物が細い目で彼女たちを見つめている。
兵士の一人がサンドラの婚約者であるテームを拘束していた。彼は別室に居たはずだが、顔は痣だらけで、明らかに殴られた跡が出来ている。
「だ、誰なのあなたたち! ここはモンフェラン男爵家の屋敷よ!」
イネスが半狂乱になって叫んだ。
「存じ上げております。あなた方がイネス氏、サンドラ氏であることも」
掠れた高い声で、眼鏡の男は早口に続ける。一ミリも表情を動かさない。
「私は領主代理官のバート・ギレッドと申します。我々はジュリアン・ロシュヴィル公爵の名により、この男爵家を家宅捜索、並びにあなた方を捕縛しに参りました」
イネスたちは状況と言葉の意味を理解するより前に、拘束されてしまった。
「ど、どうして拘束なんか……」
「反逆罪、横領、租税不正、そして男爵家の娘ルイーズ嬢への虐待と暴行など複数の罪に問われています」
バートと名乗った代理官は食い気味に言った。一度も瞬きしなかった。
「おっと、この罪を忘れてはならない。イネス嬢、あなたにはヨーク氏を……」
「ちょっと待ってください! 私たちはこれからどうなるのですか!」
罪状の多さからいって、投獄は避けられないと思われた。イネスの額には大粒の汗が浮かんでいる。
「これから裁判にかけられることになります。弁護士を付ける権利はありますが、まあ罪が軽くなることは無いでしょう。刑罰は、私が推測したところ……」
バートは冷たい目で二人を見下ろす。
「ま、良くてギロチン。悪ければ火あぶりというところでしょうか」
二人の顔からサッと血の気が引いた。
「嫌っ! 離して!」
「助けて! 誰か! これは不当な拘束だわ!」
イネスとサンドラはどうにか逃れようともがくが、固い拘束を解くことは出来ない。
そして二人の喚く声が聞こえる中、全員が部屋から出て行き、扉が強引に閉められた。
後には、雨の降る、くぐもった音が響くのみ。
その時雷が空気をつんざくように響き渡り、誰も居ない部屋を白く浮き上がらせた。




