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 ルイーズは男爵家当主ヨーク・モンフェランと、元聖女だった母ハンナの間に生まれた一人娘だった。モンフェラン家は元々商家だったが、国王陛下への多額の献金が認められて爵位を得た歴史がある。ルイーズの曾祖父の代の出来事だったそうだ。

 貴族になってからのモンフェラン家は堅実な商売と領地経営で、少しづつ実力を付けて行った。


 ルイーズは幼少期を非常に幸せに過ごした。両親とも善人で、ルイーズも彼らを見習い、人助けをするよう努めた。特に「人を信じて助けなさい」という教えは、彼女の判断の指針になっていた。しかし後にこれが彼女を苦しめることになる。


 とにかくルイーズにとって、両親と過ごした全てが、夕焼けの中に溶けていくような美しい思い出だった。


 しかし彼女が8歳の時、母親が死に、少しづつ歯車が狂い始める。

 ハンナを心の底から愛していたヨークは喪失感から立ち直ることが出来ず、酒におぼれる日々が続いた。立ち直るまでに要した時間は一年を超えた。


 いや、正確には立ち直り切れていなかった。酒は断ったが寂しさはどうしても埋めることが出来なかった。

 寂しさに耐え切れず、ヨークは新しい妻を迎えた。それがルイーズの義母に当たる、イネスという人物だった。この時、ヨークはこの選択が、娘の苛烈な運命を決定づけるとは思いもしなかった。


 ヨークは結婚前にイネスとルイーズを会わせていたし、その時はルイーズもイネスを優しい人物だと感じた。何より、弱っている父親の助けになってくれるのなら、結婚して欲しいと思った。


 こうして結婚が成立し、男爵家にイネスと、彼女の娘であるサンドラがやって来た。しかし彼女たちはすぐに豹変し、使用人やヨークに対しても目に余る態度を取るようになった。


 特に酷かったのはルイーズへの対応だ。嫌味や小言を言ったり、怒鳴り散らし、説教をすることも日常だった。サンドラに関してはルイーズの持ち物を平然と奪った。


 ヨークは再三にわたり彼女たちに忠告を与えたが、改善する気配が無い。このままだと娘が危ない。自らの愚かさを呪い、限界だと感じたヨークは離婚を決意する。

 彼は娘に「待っていてくれ、もう少しの辛抱だから」と肩に手を置いて言った。


 ヨークのその言葉は、永久に果たされることは無くなる。

 急死したのだ。

 死因は働きすぎによる心筋梗塞とされた。


 ヨークが死ぬと、イネスたちはさらにルイーズを虐げ始めた。昔から居る使用人も全員解雇され、屋敷の中に彼女の味方は一人も居なくなってしまった。


 ルイーズは屋敷に住むことさえ許されず、敷地の隅にある小屋に隔離された。そこで一日一食、腐りかけの食べ物を与えられ、何とか永らえていた。


 ルイーズへの悪意はそれだけにとどまらなかった。二人は彼女に掃除や洗濯など、明らかに使用人がやる仕事を押し付けた。そして少しでもミスをあると「ごく潰し」「無能」と人格を否定する言葉で罵倒した。


 新しく来た使用人たちもルイーズをあざ笑った。


 それでもルイーズは泣きごとの一つも言わなかった。

 そうされてまで、ルイーズが義母たちに従っていたのには理由がある。「人を信じて助けなさい」という言葉を愚直に信じていたのだ。それまで善人としか接してこなかった彼女には、その言葉の当てはまらない状況があるということを、考えつくことが出来なかった。


 こうしてルイーズの善意は、彼女が体力の限界を迎えるまで利用され続けることとなる。ルイーズ宛てに縁談の話が来たのは、父ヨークが死んで一年が過ぎた頃だった。


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