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 冷たい雨が降り続いていた。地方都市フリアでは3月でも真冬並みに冷え込むことがある。

 町の片隅を、ルイーズはぼろぼろの服で歩いていた。


 雨に打たれ、色あせたドレス重い。かつて自慢だった長い銀の髪も、今は頬に張り付き、視界を覆って歩く邪魔になっている。

 その髪を拭おうともしない。いや、拭う体力も無いのだった。


 袖口はほつれ、そこから痛々しい痣がのぞいていた。


 雨水をいっぱいにため込んだ靴は父親から最後に買ってもらったコートシューズ。かかとが擦り切れ、歩くたびに地面を擦る音が鳴る。


 僅かな段差に躓き、ルイーズはうつぶせに倒れた。元気な状態であれば躓きさえしないような箇所。しかしそれが今の少女には致命的だ。



 彼女に気を留める者は誰も居ない。浮浪者などこの町には溢れている。自分より弱い存在に情けをかけられるほど、この町に余裕のある者は殆ど居ない。


 つい今しがた、ルイーズは貴族令嬢としての身分も失い、荷物もろくに持たされれず、身一つで屋敷を追い出されてきたところだ。


 けれど彼女はそのことを恨んだりしなかった。


 もう貴族令嬢として生きて、結婚して、幸せな家庭を築きたいなんて思わない。けれど、どこかのお屋敷で下働きさせてもらうことが出来るなら……。


 それは命尽き果てる寸前の、彼女のささやかな、そして消えてしまいそうな願いだった。


 視界が暗くなっていく。雨のせいではなく、視界に黒い丸が幾つも浮いている。

 立とうとしても力が入らない。身体が動かせない。

 終わりか、と思う。


 けれど、ここで死ぬのも悪くないかも知れない。体中に感じていた痛みが、徐々に鈍くなっていっている。これで痛みから解放される。


 ここで終わるのならば、受け入れよう。

 目を閉じれば両親の顔が浮かぶ。懐かしい。会いたい。思いきり抱き着いてみたい。

 お父様、お母さま、今、あなたたちの元に行きます。

 せめて死ぬ前に、こんな私でも役に立てるのなら……吸血鬼さんがもし居るとしたら、私の血を吸っても良いですよ。

 そんなことを思いながら、ルイーズは目を閉じた。



 誰かの靴音が近付いてくるのを、意識の片隅で感じた。

 小走りだったのが、途中から全力疾走になる。

 それはルイーズの直ぐ傍で止まった。

 叫び声。

 何と言っているかは分からない。


「見つけた。血だ」


 それが、意識を失う前にルイーズの聞いた最後の言葉だった。




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