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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レンタルおばあちゃん(完全版)~ママになった殉教者~

作者: たなか



ヴァルキリア帝国北方ネルマジア領領主、レイモンド伯爵は厳かに話し出した。

ええ、あの方とは親しくしていただいていますよ。


寝たきりで頭が弱く、表に出させてもらえなかったなんて……一時期は囁かれておりましたね。


あの方のお父上も突然お亡くなられて……、そのことで根拠のない恐ろしい噂を無責任に撒き散らす者も……。


けれどね……!そんなことを言ってた不埒な輩も、今ではすっかりあの方を称えているのです。


実を言うと……お恥ずかしい、……私もその中のひとりでした。

悪い噂を無邪気にも私はすっかり信じてしまっていたのです。


それに、事実母君の方の血がねぇ………。

何しろバルダザのねぇ……いや、ゴホン!

もちろんね、クラリウス家は由緒ある家柄ですよ?


何しろあの方のひいお祖母様はれっきとした王女様でいらっしゃいますしね。ただ……いや、申し訳ない、口が滑りましたよ!


まぁ、とにかくあの頃の私はあの方に対して良い印象は抱いていませんでした。

しかし、あの方――クラリウス公エリオット様と直接お目にかかってそんな思いは瞬く間に吹き飛びました。


そのご尊顔、花のかんばせ。

青白い肌の下から仄かに温かな血の血色が浮かぶ様子、鼻筋がスッと通った目鼻立ち、お体も華奢で青年というよりは少年らしく、ひょっとしたら……少女と言っても過言ではありませんでした。


いえ、いえ…!?私はあの方が軟弱だと言っているのではありません。確かに、巷で男色閣下などとあの方を言っている者もいるとは聞きますが……。


やたらと香水をつけ、指輪や腕輪などジャラジャラとつけているのはそう勘違いされてしまうのも仕方がありません……。

……私も公が少々、女性的であるのは認めます。


ですが……!公はれっきとしたヴァルキリア正教の教徒です。決して不道徳な情事に身を置くはずがありません!

それに、公の狩猟の腕前はもっぱらの評判ですしね!


話があっちこっちら言ってしまいましたね……。

貴方は公のお人柄について知りたいのでございましょう?


実は、先日クラリウス公にお会いした時に、最近新しい楽しみを見つけたとそれは愉快に話されていました。


私も公の御趣味の良さに感心するばかりです。もしかしたら、それを話せばクラリウス公のお人柄を貴方にも分かっていただけるかもしれません。


それは夜も更け、公も私もお互いに心地良い酔いが回ったころ、お硬い話から最近の楽しみについて話題を逸らしました。


私は軽く微笑んで、

お高くとまったスピア人の奴隷に獣に等しいバルダザの豚どもを群がらせるのは喝采だと、私が公に話した時、


公のお顔は青くなってまつ毛が震えているようでした。私は大切に周囲から慈しまれてお育ちになった公には刺激が強すぎたと反省するとともに、純情坊やのまだ青い蕾を未知なる世界へ綻ばせてやろうと、助平親父の意地悪な欲求に駆られてしまったのです。


しかし、その後に語られた公の趣味には私の楽しみなど幼稚な遊戯に等しいと実感せずにはいられませんでした。


これは、くれぐれも私と貴方だけの間での秘密にしてほしいのですが、………いえ、やっぱりこれはさすがにいけない。


えっ、いや怖じ気づいた訳ではありませんよ!?

ちゃんと話しますから!!

ただ、誤解なさらないでほしいのですが……

私が公の第一の友として決して親愛なる公を批難するような気持ちは微塵もないということを重々承知してほしいのです。 

それではね、言いますよ?


その時の公のお顔といったら、

まるでいたずらを仲間内で共有する子供のようで、それでいて得意そうに目尻を緩められてね。


それから少し俯き、杯の中の揺らめく酒を見つめながら、囁くように言いました。

「……実は、私はある青年からお金を払っておばあさんを借りているのです。」


そうおっしゃると公は、私の顔を見てクックックと笑い声を漏らされました。

(おばあさんとはいったい……?)


私は衝撃を受けました。

まだ年若い公が普通の女では飽き足らず、もうそのような異端な趣味に走っているのなど!


「ぜひ、そのおばあさんとやらの話を詳しく聞かせていただけませんか!?」

はしたなくも、私は公に向かって身を乗り出して思いっきり距離を詰めてしまいました。


公は苦笑して、

「……ははっ、貴方が期待しているような話ではありませんよ。」

そうして、窓の外を一瞬見やった時のなんとも憂いを含んだ表情と言ったら!


窓から差し込んだ月明かりが公の白いお顔を照らしているのですよ!

頬の細い産毛が銀色に輝いているのを私はじっと見入っていたのです。


「私はもともと大勢の中にいるのはあまり好きではないのです。

もちろん、気の置けない方たちと過ごす時間は幸福ではないのですが、

城の中で常に誰かが側にいるのは息が詰まる思いです。

本当はこんなことをするのはあまりよろしくはないのですが……不意にどうしても一人になってしまいたくなるのです。

城の大殿様ではなく、一人の人間になりたくなってしまうのかもしれませんね。」



「そんな時は、農夫のボロ切れを纏って馬に乗って颯爽と城外に駆け出すのです。大抵は途中で誰かしらに引き留められるのですが、上手く逃げ仰せた時は思わずしてやったりという気分なのですよ!」


その瞬間を思い出されたのか、いかにも楽しそうに目尻を緩ませながら時折こちらに向かってはにかむ様子に、私はいとも容易く魅入られてしまいました……。


「私が華麗なる大脱出劇を見事に演じせしめたある日、つい、いつもより遠くに来すぎてしまいました。その日の私はなんだかとってもむしゃくしゃしていたのです!」


「私の城から城下町を越えて、馬を半刻ほど走らせた先にある村にまで来てしまっていたのです。」


「日も、もう夕刻時でしょうか、あたりが少しずつ暗くなってきていました。さぞみんな心配しているだろう、と早く帰るべきでしたが、……森の入り口の方から老婆と若者がやってくるのが目に入りました。」


「息子と見られる若者は、いくら農民と言っても酷すぎるような、ほとんど裸に布切れを引っ掛けただけの格好をしているのですが、

母親と見られる老婆の方は清貧であっても小綺麗な身なりをしています。それだけで、この息子が母親を大切にしていることが伝わってきます。」


「若者は母親の手を引いて歩いていました。しかし、その歩き方には生気が感じられず、若者の方まで年老いてしまったかのようです。母親は息子のように何かしら感づいているのか、しきりに話しかけているのですが、息子の返答はどれも心ここにあらずといった様子です。」


「突然、若者は足をピタリと止めると、母親は驚いて若者の顔を見やりました。すると若者は、『かあちゃん、ごめんなぁ……やっぱ、おれには無理だよ……一緒に帰ろうなぁ……』そう言うと手で顔を覆ってしゃくり上げて地面に座り込んでしまったのです。」


「母親は若者に呆気に取られている様子でしたが、すぐに若者を胸に抱き寄せると、息子の頭を撫で擦り始めたのです。」


「私はそれを見て胸が詰まるような思いに駆られました。母親が息子に語りかける声、頭を愛撫する手の動きがあまりにも優しいのです。母親の胸で泣く息子は背の高い彼がまるで小さな男の子のように見えました……」


公は突然話を止めると俯いてしまわれました。

私が声をかけると、おそるおそる顔を上げられたのですが、私に顔を見られるのを必死に逸らそうとするばかりです。


私は公の目の下が濡れていることに気づき、気づけばハンカチを差し出してしまいました。

公はハンカチを受け取ると、弱々しく私に向かって微笑みかけました。


「……ごめんなさい、思い出しちゃって、恥ずかしいかぎりです。つい感極まってしまって。私の母は私のことが…きら……」


「……あまり好きではありませんでしたからね。ははっ……」


「……息子はしばらく母親の胸に突伏していましたが、ようやく顔を上げると、母親にもう大丈夫だと明るく伝え、そのまま母親を背負って家路へと急いで行きました。」


「口減らしだな。私はすぐに察しがつきました。大方、年老いた母親を森に捨てにいったのに結局捨てきれず帰ってきたというところでしょう。でも、この村は豊かな方なのにいったいどういうことだろう?と、疑問に思っていると、」


「私は不意に誰かから声をかけられました。あろうことか、その村を管理している代官の三男坊に見つかってしまったのです。

こんな時間にぶらぶらしているんじゃない!と叱りつけてやったら、それは貴方もそうでしょうと彼に言われてしまえば返す言葉もありません。」


「私は少々バツの悪い思いをしたのですが、それ以上にその親子のことが気になり、彼から詳しく話を聞いてみることにしました。」


「彼の話によって、あの二人は非常に不幸な境遇であることが判明しました。あの母親は早くからに夫を亡くし、三人の息子をなんとか立派に育て上げたのですが、 

上の二人の息子は流行り病により呆気なく亡くなってしまい、唯一遺ったのがあの若者だったのです。母親は息子二人の死に耐えかねて、もともとの苦労も祟ってすっかりものの分別をなくして白痴のようになってしまいました。

話すことと言ったら幼児そのもの。昼夜問わず徘徊するようになり、末の息子は土地を耕すにも母親がどこかに行かないようにロープで木に縛り付けるかして置かなければいけなくなったのです。

彼の畑を訪れると、牛のように木に縛り付けられた老婆が、ロープで動ける範囲をぐるぐると回っているのが日常になっていました。そんな境遇にも関わらずあの若者は教会の税のみならず地代まで欠かさず払っているというので、私はすっかり感心してしまいました。」


「私はこの代官の三男坊のクリスが文学に通じていることを思い出し、懐から金貨を数枚取り出して彼に手渡しました。それを匿名の援助として親子に届けさせること、

また彼自身にも一枚与える代わりに、週に一度あの親子の様子をできるかぎり感情豊かに書き記して私に贈るよう命じました。」


「クリスは嬉々として受け入れ、毎週素晴らしい報告を彼の文才でしたためてくれました。彼は本当によく働いてくれました。近隣の住民を買収して親子に食べ物を届けさせるついでに家の中の様子を探らせたり、

時にはクリス自身が農具置き場に潜んで彼らの様子を観察したりしていたそうです。想像してください……!

畑仕事から戻ってきた若者が疲れ果てて、

老婆の膝に頭を載せるのです。

言葉が通じないはずの老婆が幼子をあやすように、ハミングを歌いながら頭を撫でている様子を……!

聖母降臨祭の日に、若者が母親のために木彫りの像を愛情込めて作っている姿……!それを実際に老婆が受け取る時の母親の顔を…!

……私だったら母親に何を贈っただろうと真剣に悩んだりもしました。

その時、私は紛れもなくあの若者になっていたのです。」


「私は彼ら親子が仲睦まじく過ごしているのを、心を引き裂かれるような気持ちで眺めました。私はこんなに彼らのことを知っているのに、自分は絶対にあの中に入ることはできません。

あぁ、彼らを援助している者の正体を教えたい…!彼らが私に感謝するように仕向けたい……!

でも、そんなことは嫌らしい行為です。それに私が彼らの前に出た瞬間、私たちの関係は永久に決まってしまう……!

そんなの絶対に耐えられないじゃないですか……!

気づけば私は幼少期を思い出していました。姉が病床の母の傍らで手を握っているのを私は部屋の外から眺めているのです。私は部屋に入れてもらおうと画策するのですが、

同時に自分が中に入ることは絶対にできないと理解しているのです。

苦しくてたまらないのですが、報告書を読まずにはいられない……!それは甘美な時間でもありました。

私は疎外感を楽しんでいたのです。

それは例えると、歯茎の痛みのようでした。レイモンド君、歯痛は最初は痛くてただただ不快なのですが、次第にその刺激に悦びを感じてくるじゃないですか?」


感じませんよ?


「しかし、そんなある時、事件が起きてしまったのです。村の中で誠実で母親思いの若者を好いてくれるお嬢さんが現れたのです。今まで、村の中では同情はされても、

みな彼ら親子に積極的に関わることを避けていました。

母親以外の居場所を見つけた哀れな若者は、彼女が現れたことにより、彼女と二人だけの未来の生活を夢見てしまったのです。私からの援助があるからといって、老婆の世話は並大抵の労力ではありませんでした。

老婆を家に残して行く時は最新の注意を払い、身の回りの世話をし、絶えずわけのわからない戯言を聞かされるのに、彼は既に疲れ果てていたのでしょう。

次第に若者は母親を邪険に扱うようになりました。

愛してくれた老婆に対して罵声を浴びせたり、あまつさえ突き飛ばしてしまうようなことさえ起きたのです。」


「私は非常に心苦しかったのですが、遂に老婆を自分の城に連れてくる決心をしました。……だって、彼にはもうお母さんは必要ないのですからね……?

こうして私は若者にお金を払っておばあさんを借りるようになったのです。思い出すと可笑しくて、クリスによるとその時の彼の豆鉄砲食らったような顔ったら……!…ふふっ」


……私はその時の公の妖艶な微笑みに思わず寒気を感じてしまいました。我々凡人には公のような才気溢れる方の気持ちは理解できないとはいいますが……白状するとなんとも気色悪かった……いや、気持ち悪いの一言ですよっ…!キモい、キモい、キモいっ!


あっ!?これは失言を……!

つい、本音が漏れてしまいました……!!

お願いだから、公にだけは伝えないでください!!


私たちだけの秘密ですよ!ね?ね!

指切りしますよ!これで絶対ですからねっ!

公は最後にご家族についても語ってくださいました。


「妻は本当に素晴らしい女性です。

彼女の隣に居る権利が自分にあるということが誇らしいです。

私の前にいた二人の夫に負けないように、

彼女の前では最大限かっこつけていますよ。

普段は凛とした彼女が時折照れたような表情を見せてくれた時には嬉しくてたまりません……!

あぁ、子どもたちはもう可愛くてたまりませんよ!

あの子ったら、私を見つけたら首にまとわりついてくるんですよ!

まぁ……それでもまだお父様とは言ってくれませんがね。でも、あの天使が笑顔で『エリオットっ!!』って駆け寄ってくるたびに昇天しそうになりますよ。

息子の方はまだ距離を掴みかねていますが……血が繋がってない上に年も十も離れていませんからね……なかなか父親だとは思ってもらえなくて……でも先日は一緒に狩猟に行きましたよ。親子とはいかなくても、ひとまずは仲の良い友人くらいにはなれるよう目指すつもりです。」


全くの驚愕ですよ。

先ほどまであんなことを語っていらっしゃったのに、照れ臭そうにそれでいて嬉しそうに家族のことを語るのですからねぇ……

あの方の精神はいったいどうなっているのやら、見当も付きませんよ。


ところで、今、世間を賑わせている小説なのですが……私はどうもその主人公が——

レイモンド伯爵は唇をペロリと舐め、口元を歪ませた。


**

エリオット「マリアさん!今日は遅くなるんですって……?」


マリア「あら、ひょっとしてあなたは私が遅くなるのが嬉しいのですか?」


エリオット「……そんなことありませんよ。……そう見えました!?」


マリア「えぇ、何か最近隠していらっしゃるんじゃないの?」


エリオット「それは、私にも隠し事はありますよ……」


マリア「へぇ…、私にも言えないことなのですね?」


エリオット「どうしても人に言うのが憚られるような恥ずかしいことなんです…!」


マリア「はぁ……わかりました。では、今日のところはこれで勘弁しておいてあげましょう。」


エリオット(すまない、マリア……!許してくれ……!!)


北の小離宮の一室にて、

エリオットは緊張した面持ちで扉の前に立った。


扉の横に立つ騎士のタクトは、横目でエリオットを伺いながら内心の軽蔑を隠しきれずにいた。


タクト(なんだって、自分がこんなことを……!)


エリオットは扉を三回ノックした。


エリオット(あれ……?いつもなら、すぐに声が返ってくるのに……)


エリオット「おばあちゃん?」


沈黙。


エリオット「おばあちゃん!!」

広がる不吉な想像。


エリオットは扉を勢いよく開けて中に飛び込んだ。

ちょうどエリオットから背を向け、部屋の一番奥の窓際に、老婆が安楽椅子に腰掛けている後ろ姿が見えた。


エリオット「……良かった、心配させないでよ……」

エリオットはほっと息をつき、老婆に駆け寄ろうとした。


次の瞬間——

老婆はむっくりと立ち上がると、振り向いてエリオットの方に近づいてきた。


エリオット「なっ!?!?君はっ!?」


老婆——いや、クリスはにこやかに微笑んだ。


クリス「ごきげんよう、公爵——いや、エリオット様。ここにババアは来ませんよ?」


クリス「貴方って人は本当におめでたい人ですねぇ……!俺が書いたデタラメをぜーんぶ信じちゃうんだもん!」


クリスはエリオットの目につくように紙を取り出した。


クリス「『親愛なるクリス君へ、

いつもながら君の報告を読むと目頭が熱くなってしまいます。おばあさんが若者が帰ってくるのを座り込んでいたというのは——』」


エリオット「黙れっ!!」


クリス「わざわざ俺の報告書に毎週ご丁寧に感想のお手紙まで書いてよこしてきちゃって……?」


エリオット「っ……!」


クリス「毎日、妻の目を盗んで足蹴もなく通って……貴方は悪い人だ。」


エリオット「……!」


クリス「その点、大好きなおばあちゃまが最初から偽物だとは気づかないんだもんねぇ……」


エリオット「えっ……はぁっ!??」


クリス「そもそも、貴方はあの老婆を一度しか見ていないんだ。いったいどうして同一人物だと確信できるのですか?あの婆さんは俺が雇ったんですよ。

結構な役者だったでしょう。俺に面白い話をたくさん語ってくれましたよ。貴方は話によると喜んでババアの肩をもんだり、ババアに子守唄を歌ってもらうのを強請ったのですってね?」


エリオット「……アハハハ、」


クリス「ばらされちゃ困りますよねぇ…?」


クリス「俺のお願い、聞いてくれますね。」


エリオットに息がかかりそうな距離まで詰め寄る。

クリスはエリオットを見下ろした。

27歳のクリスからすれば、18歳のエリオットなど未熟な小僧に過ぎなかった。


エリオット「……」

額に汗が流れる。


エリオット「……君もなかなか軽薄だね。」

エリオットは紙のような顔で、呼吸が乱れるのを必死に抑えながら口角を上げようとした。


エリオット「……ここから生きて出られると思うなよ。」 


クリス「俺が貴方から頂いた手紙は三つの小箱に入れて保管されています。それぞれ信頼できる知人に預けています。彼らは中身を知りませんが、俺に何かあれば中を開けて公表することになっています。何しろ貴方はわざわざ公爵家の紋章まで手紙にしたためてくれたんですからねぇ……?」


エリオット「はぁ……あ……」


クリス「もう、わかったでしょう?主導権はこちらにあるんだ。あんたの助かる道は二つに一つ……俺に従え。」


エリオット「クソっ……!何が望みだ!!」


クリス「俺はただ、最高の作品が作りたいんですよ……」


施療院にて、


~回想~

エリオットは死んだ目をしていた。


エリオット「貴様正気か!!?私にこんな格好をさせようというのか!!?」


クリス「当然です。なんせ、貴方はこれからシスターになるんですからね。一週間はこうして過ごしてもらいますよ?」


修道女の服をヒラヒラ見せる。


エリオット(あ゛ああぁぁ…!!畜生!!悪魔め…!!)


エリオット(いくらなんでも無理があるだろ!?男だぞ……!)


~~

マリア「……一週間もどこかに行かれるのですか?」


エリオット「……」


マリア「どうしても行ってくださらないのですか……?」


エリオット「……ごめんなさい…」

消え入りそうな声。


マリア「……」 

エリオットを見つめる。


マリア「……わかりました。ただ、無事に帰ってきてくださいね……?」

エリオットを抱擁する。


エリオット「……」


エリオット(……自分にはこれを受ける権利があるのか……?)


~~

エリオット「実はカクカクこういうわけなんだ!!」


エリオット「すまない親友!後は頼んだ…!!」


エドモンド「……ふざけるなよ。」絶句


エリオット「どうか私の立場を哀れんでくれよ……!!」


~~回想終。


エリオット(……屈辱だ。)


一人の子どもがエリオットをめがけて突進してきた。


エリオット「うわっ……!?」


ロレ「ねぇ…シスター!!」


エリオット「なんだい、坊や…」


ロレ「違うもん!」


エリオット「……お嬢ちゃんだったの?キャ〜かわいいー。……近づかないでね、子ども嫌いなんだ。」


ロレ「えっ……?」


ロレ「……ひっぐ」


院長「ちょっと!子どもになんてこと言うの!!」


エリオット「……!?あぁ、はい!……すんません。」


院長「ちょっと、あんたちゃんと聞いてるの!!」


クリス「アッハハッ!!」


院長「クリスさん!いくら貴方の頼みでももう我慢なりませんよ!あんなに感じの悪い娘、見たことありません。その上まったくの木偶の坊なんですからねぇ…!洗濯、掃除、何をやらせてもぜんぜんダメ!さぞ大切に育てられたのでしょうねぇ…まぁ、それも末路がここに来るようじゃ素行が知れますね。」


エリオット「……っ!」拳を握り締める


クリス「ほら、ちゃんと頑張らなきゃじゃないか。」肩ぽん


エリオット「あ゛ぁ……?」睨み付ける


エリオット「……」ロレに目をやる


ロレ「……うぅ……」


エリオット「ご、ごめんねぇ……一緒に遊ぼうか……?」


ロレ「……?」

おそるおそる顔を上げる。


ロレ「い、いいの…?」


エリオット「も、もちろんだよ……」

引きつった笑顔。


ロレ「やったぁ!」パァァァ


クリス「……いやぁ、素晴らしいものを見せてくれた!感動しましたよ!」


エリオット「……」


後日、

エドモンド「見てよ、この小説……!!」


エリオット「うわぁ…!なんだこれは……!?」


『タイトル 揺り籠の公爵

地位も美貌も生まれつき全て手に入れた男が向かう先は一人の老婆の元であった。

毎夜、孤独な男は老婆の偽りの乳房に顔を埋める。』


マリア「あら、なんですの……?あぁ、私も知っていますよ!この話の主人公は本当におかしな人ですわよね……生理的な拒絶感と、でも同時にとても可哀想で……」

チラッとエリオットを見る。


エリオット「マリアさん……?」


完。

次回予告 「エリオットの不幸−−宮廷便器争奪戦!!」


どさくさに紛れてエリオットはマブダチに復讐を果たす。

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