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1.勇者は召喚される。

随分と長く眠っていたような、それでいて、ほんの数秒目を閉じていただけのような。

そんな不思議な感覚から、俺は目を覚ました。


あれ? ここ、どこだ……?

さっきまで、あいつとバーベキューしてたはずなのに。しかも寝てたのに、何で座ってるんだ?


「召喚に成功いたしました、グロリア教皇」

冷たい声が辺りに響く。俺はその声の出どころを探すように視線を上げた。

たぶん、声の主だろう人は、真っ白なローブで全身を包んでいた。目元はよく見えないけど、どうやら俺のほうを見ているっぽい。


「よくやりました」

今度は別の声が聞こえた。周囲を見回すと、同じローブを身に着けた人たちが、大勢で俺を取り囲んでいる。


……え、なんで俺、囲まれてるんだ?

なんだか頭がふわふわする。うまく思考がまとまらない。寝起きだからかな。周りへの反応も遅れてる気がする。


「はじめまして、勇者様」

大勢いる中で、唯一フードを被っていない、威厳のある男性が俺に声をかけてきた。

明るい金髪に金色の瞳。寝ぼけた俺の目にも分かる、彫りの深い端正な顔立ち。

ふえぇ、めちゃくちゃイケてるおじさまだ……!

自然と視線が、そのおじさまの目に吸い込まれていく。この世にこんな美形がいるなんて、知らなかった。


……ん? 今、この人、「勇者様」って言った?


「勇者……?」

「ええ。君は私たちによって、こちらの世界へ喚び出されたのです」

「よ、喚び出された……?」

にこりと笑うおじさまは、いったい何を言ってるんだろう。言葉の意味が、まったく頭に入ってこない。


「ふむ……少し混乱しているようですね」

それからおじさまは、まるで物語を読み聞かせるように、穏やかに俺に語りかけてくれた。



꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖



今、俺がいるここは「エーヴィヒカイト王国」という国らしい。この国では、このイケてるおじさま……グロリアさんが教皇を務める「シュテリッヒ教」が国教として信仰されている。

シュテリッヒ教は、この世界を創った創造神を崇める宗教。『善行を積む者、救われる』という言葉を掲げ、日々の慈善活動に力を入れているらしい。

そのお陰でこの国は他国と比べて治安が良く、比較的平和な暮らしが保たれているそうだ。

エーヴィヒカイト王国以外にも、シュテリッヒ教を信仰する国は多いという。



そして、俺がこの世界に喚ばれた理由は、数千年前の出来事にまで遡るらしい。


今から数千年前、まだ「人間」という種族が生まれ始めて少しした頃。

世界に満ちる〝穢れ〟から、「魔物」と呼ばれる存在が生まれ始めていた。

人間たちはその魔物に手を焼いていたが、ある時、魔物とは比べものにならないほどの力を持った存在――「魔王」が現れた。

魔王は世界を破滅へと導く存在であり、その登場によって人類は滅亡寸前まで追い詰められた。


だが、そこで「天の使い」とされる存在――「勇者」が現れる。

勇者は〝聖なる力〟を持ち、魔王を打ち倒すと、世界中を巡って穢れを浄化していった。

その偉業は語り継がれ、今では伝説として扱われている。


勇者の活躍により、魔物の出現は激減し、「魔王」の存在も昔話として扱われるほどに、世界は平穏を取り戻した。


……200年前、再び「魔王」が現れるまでは。


かつて勇者が浄化したはずの穢れも、時が経てば再び積み重なっていく。

それまでは聖職者たちの手によって処理されていた穢れだったが、ある時期を境にその量は急激に増大し、人間の力では対処しきれなくなった。

そしてついに、再び「魔王」が誕生してしまった。


新たな魔王の誕生が確認された当初、人々は「再び勇者が天から遣わされる」と信じていた。

しかし、いくら待っても勇者は現れなかった。


やむなく、人々は各国から信念ある実力者たちを募り、魔王討伐に挑ませた。

だが、魔王を滅ぼすには〝聖なる力〟が必要だった。

その力は、「勇者」だけが持つ特別な力だった。


結果として、当時の人類に出来たのは、魔王を封印することまでだった。

一時的に平穏は戻ったが、世界に広がる穢れが消えたわけではない。

魔物の数はかえって増し、人々はかつてよりも不安と恐怖に包まれた暮らしを強いられるようになった。


そして近年、その魔王の封印が、再び揺らぎ始めているという。


このままではいずれ、魔王は完全に復活する。

それを危惧した各国は、大国であるエーヴィヒカイト王国が主導として「勇者召喚の魔法」の研究に取り組んできた。

その魔法が、つい一週間前に完成。そして本日、秘密裏に実行された。


そうして、俺がこの世界へと喚ばれたというわけだ。


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