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8/8

エピローグ

 思えば、全力で走り続けてきたような1年だった。


 彼氏の気持ちが離れてるなんて考えもせずに、王都へ向かう馬車に飛び乗った。


 右も左もわからない都会で、悪い大人に騙されて、彼氏には振られるし……それでもどうにか生活の基盤を作って。


 働いて、働いて、働いて。


 どうしようもないほど、ひとりの男を愛した。





 静まりかえった礼拝堂に、あたしの声は妙に響いた。


 一瞬、時が止まったようにすべてが静止したあと、衛兵たちが物々しくあたしを囲む。


「センリ!」


 あたしは声の限りに叫んだ。


「愛してる! 愛してるの!」


 ここでセンリがあたしを見捨てるなら、あたしより王太子としての立場をとるのなら、もう何も言うことはない。


 最後に、ちゃんと思いを伝えられたんだ。

おとなしく処刑でもなんでもされてやる。


「アン!」


 センリはあたしの名前を呼ぶと、一直線にこっちに走った。

途中、絨毯に引っかかって一回コケたけど、センリはあたしに駆け寄ると思いっきり抱きしめた。


「アン! 会いたかった!」


 センリの腕の力はものすごく強くて、痛いくらいだった。

全身を包む熱い腕から、センリの気持ちが流れ込んでくるみたいだ。


「もう、離さない……一生」


 センリの言葉に答えるように、あたしは額をぎゅっと胸に押しつけた。





「お前ら、イチャイチャすんなよ、絶対すんなよ」


 クギをさすニンジャの声を聞きながら、王都を離れる馬車は静かに走り出した。


 あの日、あたしが結婚式をブチ壊したあと、センリは王位継承権を棄ててあたしと一緒になることを決意した。

これからは辺境の防衛にあたることになるセンリについて、あたしも今日王都を去る。


 店を辞めないといけないことだけが心残りだった。


「あなたはいつも真面目に働いてくれてたから残念です。でも、幸せになってください」


 支配人にそう言われたときは涙が出そうになった。

思えば、王都に来て一番はじめに優しくしてくれたのが支配人だった。


「専業主婦いいなあ……たまには遊びにきてね」


 ガレットは笑ってそう言った。


 馬車が揺れる。


 センリはさっきから何も言わずに窓の外を眺めている。


 軍隊の指揮なんてセンリにできるのかと思ったけど、ニンジャによるとセンリは軍学にも明るいし、剣術なんかも毎日鍛えていてなかなかの腕前らしい。


 もしかしたら、あたしが思っているよりずっと、センリは王太子として努力をしてきたのかもしれない。


 センリがふとこちらを向いて、あたしと目が合った。


「どうした?」


 センリは、これで本当によかったの?


 あたしの顔を見ると、センリは嬉しそうに笑った。


「これからは、ずっと一緒だ」


 優しい声を聞いたら嬉しくなって、あたしはセンリにそっと寄りかかる。


「うん、ずっと、一緒にいて」


 あたしを包むように背中に回されたセンリの腕が温かい。


 向こうに着いたら、いちばんはじめにブリオッシュを焼こう。


 馬車の揺れが心地よくて、あたしはいつのまにか眠っていた。



おしまい

 最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。


 評価、感想、リアクションなどいただけたらとても嬉しいです。

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