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杖を無くした魔法使い1

 目蓋を開ける。そこにはいつも目が覚めた時には無い天井があった。


(あ?なんで天井があるんだ?………………そうか、昨日は宿で寝たのか)


 「あっ、起きた?」


 そんなことを考えていると、ミナの声が聞こえてくる。その声は昨日とは違って弱々しいものではなく、気持ちを切り替えたのか元気な声だった。


 「起きてるよ、今から出発すんのか?」

 「まだ早いよ、まずは朝ご飯を食べよう」


 そう言ってパンを差し出してくる。そのパンを受け取ると、焼き立てだったでいでとても熱く思わず手を放してしまった。

 パンが床に落ちてしまう前に何とかミナが受け止めることができ、まだ食べることができる状態であったが、ミナが睨んできていて申し訳なくなり目を逸らす。


「わざわざ買ってきてあげたんだけどなー、それを落とすなんて酷いよねー」

「悪かったって。そんなに熱いパンをさわったことがねぇんだよ」

「言い訳禁止ー、罰としてこのパンはわたしが食べるからね」

「待て!それは俺のだ。勝手に奪ってんじゃねぇ!」

「このパンはわたしのお金で買ったんだからわたしの物でしょ」

「そんなこと関係ねぇ!」

「…………身勝手すぎでしょ」


 また喧嘩をする。その喧嘩が楽しくて、アリスが消えてしまったことに対する悲しみが薄れていってくれた。もしかしたらミナは元気づけるためにこんなことをしてくれたのかもしれない。

 その証拠に、喧嘩を少し続けた後にミナはしっかりとパンを返してくれて、朝ご飯を食べることができた。

 そうして二人は朝ご飯を食べ終わることができ、今日こそは旅に出ようとする。


「それにしても、旅の目的は何なんだ?」

「旅」

「は?」

「旅」

「???」


 二人で道を歩いている時にふと疑問に思ったことをミナに質問してみると、意味の分からない言葉が返ってきた。旅の目的が旅、聞き間違いだと思いたいが、そういうわけでもなさそうだ。

 アレクが混乱している様子を見て、ミナはふっと笑って解説していく。


「この旅の目的は、いろんな人と出会うために旅を続けていくことなんだ。いろんな出会いと別れのおかげで成長できると思うし……………………それにわたしのことを覚えてくれる人も増えるからね」


 出会いと別れのおかげで成長できる。これはまだ理解することができたが、覚えてくれる人が増えるということがどんな利益を与えてくれるのかさっぱりわからない。むしろ、覚えている人が少ない方が盗みをしやすくなるのだからそっちの方がいいに決まっている。

 そんなアレクの考えを見抜いたのか、ミナが軽蔑の眼差しを向けてきて、背筋に冷汗がにじみ出てくる。


「な、なんだ…………別に物を盗むことなんて考えてないぞ……」

「それが答えなんだよね…………呆れた。怒る気が無くなったよ」


 怒られなくてよかったと思うべきか、それとも怒る気が無くなるほど失望されたことに対して悲しむべきか。どちらが正解なのか分からない。しかし、心が傷ついたような気がした。


「………………」

「………………」


何も言うことができずただ無言の時が続いていた。そんな状態で二人は歩き続け、気づけば街の門までたどり着いていた。今までアレクは街の外に出たことが無かったので、街の外がどんな風景なのか気になり、心が弾んでいくような気がした。


「よし、街の外に出るよ。心残りは無い?」

「ああ、そんなもんはねぇよ」


 最後にそんなことを話して、門をくぐっていく。そこには今まで見たことない風景が待っていた。

 *

 そこには草原が広がっていた。街の中とは違って視界を遮る物など存在せず、その広さに圧倒される。こんな風景を見てしまうと、今まで自分が生きていた世界がどれほで小さいものかを思い知らされる。


「驚いた?世界ってこんなに広いんだよ」


 ミナが話しかけてくるが、景色に圧倒されているため返事をすることができない。しかし、ミナはそれを気にする様子も無く、アレクが元に戻るのをじっと待っていた。


「悪い、ぼーっとしてた」

「いいよ、こうなることは予想してたし」


 十分くらい立つと、やっと意識を取り戻して今まで立ち止まっていたことをミナに謝罪する。しかし、ミナはこうなることを予想していたようで、怒っている気配が無かった。

 ミナの予想が当たったことは面白くなかったが、それでもこうなるのは仕方ないと思い直して、アレクも何も言わなかった。

 そうして二人はまた歩いていく。アレクは街の整備されていた道とは違い、土で出来ている地面に少し手間取っていたが、それでもすぐに慣れて遅れることは無かった。

 そうして二人が歩いてると木がたくさん生えているとことにたどり着いた。


「木がたくさん生えている」


 アレクが小さな声で呟いていると、ミナがその言葉をしっかり聞き取って尋ねてきた。


「これは森って言うんだけど、見たことない?」

「ああ」


 ミナはアレクが街の外に出たことが無く、しかも教育を受けたことが無いことを思い出して、森のことを知らないことに納得していた。


「まあ、森ってのは木がたくさんあるところだよ。…………うん、それ以上の説明はできないな」

 ミナは自分の解説が雑なことを気にしている様子だったが、アレクはその解説でも充分納得している様子だった。

 そんなことを話していると、木の上の方に人影があることに気がついた。


「あれも森の特徴なのか?」

「………………いや、違うよ」


 すると、木の上の方にあった人影は二人に気がついた様子で勢いよく落下してくる。


「「は?」」


 その人影が地面にぶつかると思った瞬間、ふわっと浮び上がり、地面にぶつかることは無かった。

 しかし、急な展開に理解が追いつかない。何故木の上に人がいたのか、何故落下してきたのか。二人が茫然としていると、木から落ちてきた青年が口を開いた。


「やあ、頼みがあるんだが聞いてくれるよね?」

「「は?」」

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